表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/97

第66話 彼等が望んだもの+It was a true love

 

 未だ小さく火花が散るアフェイクを抱え、ジャスディマは廃ビルの屋上へと身を潜めていた。

 空からこちらを睨む衛星ノアの目を掻い潜る様に、貯水タンクを背にしてアフェイクの治癒に注力している。

「ぁ、ぁ……!!」

「損傷が治らない……! アフェイク、耐えてくれ!」

 自らのヘブンズローダーから体を構築するデータを分けているが、彼女に刻み込まれた灰色の火傷は一向に治癒しない。致命傷を直す事ができるのは治療に特化したアフェイクのみだが、自身の回復は出来ない。

 そして何より、この場へ辿り着く前にジャスディマを治癒した事も響いているのだろう。

「どうすれば……」


「お困り…………ですか?」


 背後からの声にジャスディマは振り向いた。声の主は聞いた時から既に分かっていた。

「今更何をしに来た、テランス!!」

 灰色の学生服を着たテランスが歩み寄る。ジャスディマが槍を向けると、しおらしく胸の前で手を合わせてみせた。

「だって……困ってます、よね? アフェイク、今にも壊れてしまいそうですよ?」

「貴様に何が出来る!? いや、それ以前に……ローダーは、どうした……」

 しかし彼女はジャスディマの問いには答えず、手を差し伸べた。

「ジャスディマ、アフェイク、私は貴方達を救いたい。だって共に戦った、仲間じゃないですか」

「テランス……」

「ね。アフェイクも助けてあげますから……だから……」


 テランスの目が見開かれ、長い舌が唇と頬を舐めた。


「2人のヘブンズローダー、くーださい」

 体から発せられる灰色の熱波。ジャスディマはアフェイクを抱き上げて回避。背後の貯水タンクが焼き壊され、水がテランスへ降り注いだ。

「テランス、貴様も……」

「あっはははははは! バレちゃった、バレちゃったぁ!」

 狂った様に笑うテランス。しかしすぐに我に帰ると、再びジャスディマ達へ向き直る。

「ごめんなさい。ちょっとまだ、感情の制御が難しくって。ノア様に折角調整して貰ったのに」

「ウィズードは何処だ。隠れている筈だろう!」

「ウィズード? あぁ、ウィズードは……」

 おもむろに学生服をめくり上げる。白い腹部には計5つのヘブンズローダー、ヘルズローダーが埋め込まれていた。テランス、ウィズード、リーディ、グラニー、ロースグのローダーは脈打つように配管が蠢いている。

「ここにいますよ。複製品なんかじゃない、全部本物に取り替えて貰いました。やーん、あんまりジロジロ見ないでくださいよー、まったく」

「テランス……!!」

「そんな事より早く、私にローダーをくださいよ。大丈夫、ノア様の力があればローダーを外しても生きていられますから。ね、ね、ね? ください、くださいってば」

 甘える様に粘着質な声色で強請る彼女に対し、ジャスディマは無言のままヘブンズローダーを起動した。

「…………天臨!」

 アースリティア態へ姿を変える。それを見たテランスの顔から笑顔が消え、唾を地面へ吐きつけた。


「素直に寄越せってのが、聞こえなかったのかこの腐れ天使がぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 眼鏡がひび割れ、姿が変容。以前の軽鎧には無数の苦悶に満ちた顔が浮かび、肩にはカラスの頭を模した装甲が形成。腹部には顎を大きく開いた獣が刻まれ、腰には大量の頁で象られたローブを纏う。


「いいぜ……まずはお前をバラして食ってから、アフェイクのローダーを……あっ、あぁ。また私、やっちゃった。ごめんなさい、ノア様」

 空へ向かって話すテランスへ、ジャスディマは無言のまま槍を突き出した。しかしテランスの体は一瞬で頁へと変わり、槍をすり抜ける。

「何っ!?」

「てめぇ不意打ちなんてふざけた真似……しないで、ください?」

 覚束ない口調のまま再び姿を現し、赤黒い刺突剣で斬りつける。ジャスディマもすぐに対応して防御するが、剣身に灰色の炎が宿る。

 危険を感じたジャスディマは槍を刺突剣から離し、距離を離してから再び槍を突き出した。

「無駄ですよ。この炎はノア様からの裁きであり、祝福。これを貴方とアフェイクに刻みつければ……」

 刺突剣と槍の切っ先がぶつかり合う。だがその衝撃で散った火花がジャスディマに取り憑く。

 直後、ジャスディマの身体から灰色の炎が上がった。

「ぐぅ、うぉあああ!!?」

「ほら、早く授かり物を受け入れて。そうすれば幸せな運命が貴方を……」

 しかしジャスディマは、炎に包まれた身体を奮い立たせて槍を振り下ろす。テランスはなんなくそれを受け止めるが、口から魂が抜け落ちる様な溜息を漏らした。

「あ〜……面倒臭い。足掻いても無駄なのに何でそんな……」

「俺は……負けられない! 友の、ブレイブの願いを背負っている限り……!」

「ブレイブゥ? あーいましたねそんな奴。裏切り者として貴方に粛清された可哀想なアースリティア」

 握り締めたジャスディマの手の中。彼の危機を察した様に現れた1枚のコネクトチップが現れた。

 ヘブンズローダーのボタンを押すと、槍が眩い白光を放つ。


《Justice Recovery Strike》


 放たれた光の槍。しかしテランスは一切避ける素振りを見せない。

「でももうダメです。逃れる事なんて出来ない」

 腹部に空いた巨大な穴、否、巨大な顎は槍を噛み砕き、呑み込む。そして間髪入れず、槍に炎を纏わせて吐き出した。

「うぉぉぉぉぉぉ……!!」

 灰色の槍に貫かれ、ジャスディマは倒れる。燃え上がりながら変身が解除されるのを見ると、テランスの目はアフェイクへと移る。


「さぁ次はアフェイク、貴女の番」

「く、うぅ……」

 ジャスディマへ駆け寄ろうとするが、立ち上がる事が出来ない。その間にも灰色の切っ先は迫り来る。

「ア、フェイク……!!」


 ジャスディマの目の前で、過去の記憶が再生される。



 降りしきる豪雨の中、横たわる2人の幼い子供を庇う様に立つ青年。それに相対するジャスディマ。

 槍を喉元に突き付けたまま、ジャスディマは泣く様な声で叫ぶ。


 ── ブレイブ、考え直してくれ!! お前が何故……!? ──


 ── 僕はただ……2人を救いたいだけなんだ……誰の為でもない、僕自身の我儘……僕は、不良品だ…… ──


 ── 頼む、俺にお前を壊させないでくれ……お前を、壊したく、殺したく、ない……!! ──


 ── 君は……優しいな、ジャスディマ ──



 彼は、ブレイブという名のアースリティアは、仲間を裏切る事になっても、自分が救いたいものの為に動いた。

 結果、最も信じていた人物に破壊されるという結末を迎える。だが彼が守り抜いた者達は今、世界を救う為に脅威と戦っている。


 その光景が消えたと同時に、ジャスディマは駆け出していた。



 突き出された刺突剣は、彼の体を紙のように刺し貫く。



「あ……」

「は、え? ち、ちょっと、何してるの、はっ?」

「アフェイク……結局俺もブレイブと同じ、不良品だったらしい……」

 僅かに笑みを浮かべたジャスディマは、握り締めたコネクトチップをアフェイクへ投げ渡した。

「だが、奴もこんな気持ちだったと思うと……成る程、誰かを守る……気分は、悪くない、な……」


 その言葉を最後に、ジャスディマの身体は爆発。吹き飛ばされたアフェイクの身体にヘブンズローダーが落ちる。


「ジャスディマァァァ!!!」


 アフェイクの悲鳴が空へ響き渡る。彼が遺したヘブンズローダーを必死に手繰り寄せるが、その手が踏みつけられる。

「あーあ、壊れちゃいました。……馬鹿な奴だよなぁ。お前が死んだところで何の意味もねぇよ。……まぁいいよね! まだアフェイクがいるもん!」

 刺突剣で手を刺す。アフェイクの腕に炎が纏わり付き、身体と記憶、魂を汚していく。

「私達とまた、一緒に世界を救いましょう」

「…………世界なんて、どうでもいい」

 初めてアフェイクの本音が漏れる。

「私が、救いたいのは……私が本当に、愛していたのは……」

 人類でも、神でもない。真っ直ぐに自分の正義を貫く道を歩み続けた、1体のアースリティア。

「うぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「っ!?」

 最後の力を振り絞り、翼でテランスを弾き飛ばす。身体を炎で焼かれたダメージからアースリティア態にはなりきれず、人間態のまま背中から翼を広げた姿となる。


「どうしようもなく愚直で、どうしようもなく頑固で……どうしようもなく、仲間想いな、人間らしい貴方が……どうしようもなく、愛おしかった」


 アフェイクはヘブンズローダーのボタンを押す。たった一度だけ許された、奇跡を起こす為に。

 無惨に焼け落ちていく身体とは対照的に、翼は気高く柔らかな光を放っていた。

「何をする気ですか、アフェイク!?」

「ごめんなさいテランス。私達はもう、貴女やディザイアスについていくつもりなんてない。気づいちゃったから。私達自身の、我儘に」

「馬鹿な!! 何故、何故理解しないのです!!? 私達が皆で見た夢が今、実現しようとしているのに!!」

「テランス……貴女もきっといつか分かる。目を背けないで、ちゃんと向き合えば、いつか」

 翼は淡い光の粒を溢す。雪のように舞い散り、ジャスディマのヘブンズローダーへと積もっていく。

「後は全部、貴方に任せるわ……ブレイブと私の力を……」


《Affection Recovery Strike》


 やがてアフェイク自身も光となり、辺りを照らす。光が消え、中から姿を現したのは。


「…………託されてばかりだな。俺は」

 アフェイクのヘブンズローダーとコネクトチップを手にした、ジャスディマだった。

「ジャス、ディマ……!!」

「アフェイク……お前の想い、受け取った!」

 身体の中に2枚のコネクトチップが入り込んだ。極光を放ち、ジャスディマの身体もまた進化を遂げる。


 6枚の翼を広げ、2つの角笛の意匠が刻まれた鎧を纏う。3つのコネクトチップとジャスディマのヘブンズローダーが接続された巨大槍にも同様に翼が現れる。兜のバイザーが開き、中から赤く輝く複眼が露わに。


 新たな姿 ── 《ジャスディマトライブ》となった。


「どうして貴方達は……私の思いを裏切るのです!?」

「テランス! 俺達が人間を管理しようとしていたのは、人間の未来を守る為だ! 他でもない俺達のエゴではあったが、それでも人間を救いたいという気持ちは本物だった筈だ! ……今のお前はどうだ、テランス?」

「私は、私の思いは……エゴなどという悍しいもので汚れてなんかいない!!」

 怒り狂う感情に煽られ、刺突剣から炎が猛る。


「堕天使が……!! 私の前から消えろ!!!」

「アフェイク、ブレイブ……テランスを救うぞ!!」


 白き槍と灰色の剣が交わる。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ