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第64話 蓮は返り咲く+ Roar, eruption of fury

 

 未だ目覚めない桜の額に濡れたタオルを乗せると、蒼葉は山神の右肩の包帯を取り替える。

「あっ、おい優しく取れよ転校生!」

「うるさい」

「いってぇ!!」

 転げ回る彼を放置し、蒼葉は比較的傷が浅い彼岸の元を訪れる。疲れ果て、眠ってしまった紅葉の様子を見ている様頼んでいたのだった。

「ごめん。あとは私が見ているからいいよ」

「構わない。俺は眠る必要がないからな」

「そう? ならお願いしようかしら。私も少し寝たいから」

「んな呑気で良いのかよ。ノアとかいうのが出たんだろ? 対策はないのか?」

 彼岸の証言と地上から見える距離にまで近づいた衛星ノア、そして倒れていた桜とエヴィがそれを物語っていた。

 蒼葉は山神の言葉に首を横に振った。

「ノアを何とかする手段は今のところない」

「マジかよ……」

「だから出現させない様未然に防ぎたかったんだけど……」

「……俺の所為だってか?」

 僅かに刺のある言葉が山神から飛び出す。蒼葉が言い返そうとしたが、彼岸が口を挟んだ。

「いや、俺の予測が甘かった。あの時お前を無理やりにでも連れ出してディザイアスを対処すべきだった。もしくは2人でフェイザーを……」

「馬鹿言うな! 彼奴は俺が ──」

「だがお前は勝てなかった。ノアが現れた以上、次はお前の個人的な復讐には付き合えない」

「お前がそれを言うのかよ!!」

 山神は椅子を蹴り飛ばす。彼岸に一切の悪気がない事を蒼葉は理解しているが、冷静ではない山神に対してはただの煽り文句と捉えられてしまう。

「俺だから言える。山神真里、復讐心に囚われるな。怒りはいずれ自分を死に追いやるぞ」

「お前が、俺の、何を知ってるんだよ!!」

 振るわれる拳。それは山神の前に現れた人影によって制止された。

「日向桜……」

「……何で止めた、桜?」

「彼岸は……仲間だ……いがみ合ってる場合じゃないのは、山神だって分かってるだろ」

「仲間……か。じゃあ彼奴も仲間か?」

 山神が指差したのは、同じ様に包帯を巻かれて寝かされているエヴィ。

「忘れたのかよ桜! 彼奴は黒川の彼氏をジェノサイドにした奴なんだろ!? 誰でも仲間だなんだって引き入れやがって!!」

「確かにあの子は許されない事をしたけど! エリカを助けたいって気持ちも、人間として生きたいって気持ちも、俺は本当だと思った! だから信じた!」

「…………つまり、何の根拠もなく、仲間に入れたんだな」

 呆れた様に笑い、山神は桜の手を振り解いた。

「これじゃいつか、睡蓮殺した彼奴にまで同情して仲間にするだなんて言い出しそうだな」

「……山神」

 外へ出て行った山神を止めようとする桜。しかしそれは彼岸と蒼葉に制された。

「日向桜、山神真里は俺が止める」

「彼岸……」

「私も彼が持っていたローダーについてまだ聞けてない。桜は2人を見ていてくれる?」

「……分かった。山神の事、お願い」

 出て行った2人を見送る。がしかし、すぐに入れ替わる様に写見が入って来た。

「ちわっす……あ、桜さん起きたっすね」

「おはよう」

「もう昼っすよ?」



「山神真里、俺の話を聞け」

 彼岸が何度目か分からない言葉をかけるが、山神は2人を振り切るかのように歩いていく。彼が手にした小さなローダーは、拍動するかのように赤く点滅していた。

「お前が怒りに燃えているのは、睡蓮の事だろう」

 その名が出ると、山神の足が止まった。

「睡蓮のプラグローダーは今、ノアの手の中にある。いや正確には奴のローダーとなってしまった。もう取り戻せはしない。なのに何故お前は怒り続ける? お前がいくら怒りに燃えようと、睡蓮は戻らない事くらい分かっている筈だ」

「……お前に分かるわけない」

「俺はお前とも、共に戦わねばこの先勝てないと考えている。だから教えてくれ。お前が睡蓮に拘る理由を」

 彼岸の言葉に熱はない。しかし理由を知りたいという意思は込められていた。

 山神は小さな声で語り始める。

「助けて貰ったから……いや、それもあるが、それだけじゃない。俺は……睡蓮が好きだった……と思う……」

「好き……愛していた、という事か?」

「態々繰り返して言うな。……正直、俺もよく分からない。分からないけど、あの日の事を思い出すと……っ!!」

 握り締められたローダーが、更に赤く輝き始める。

「どうしようもないくらい……怒りが湧いてくるんだよ……あの野郎だけじゃねぇ……全てに……!!」

「……そうか。ようやく分かった、お前の怒りの根源が」

「は?」

 訳の分からない事を言って納得したような様子を見せた彼岸を見て、山神は呆気に取られる。彼岸の目は僅かに伏せられていた。

「お前が本当に許せなかったのは……」


「あぁ、こんなところにいた」


 彼岸の言葉を遮る声と複数の足音。張り付いたような笑顔を浮かべたノアと、既にスレイジェル態となっているフェイザーだった。

「探したよ、忌魅木蒼葉、No.1、と……ん〜、君は誰だろ?」

 その手に備えられた灰色のローダーを見た蒼葉の表情が厳しくなる。

「あなたが、ノア……!!」

「初めまして。君の両親が望んだ存在、それが私だよ。嫌そうな顔しないで欲しいな」

「……えぇ、確かにそうかもしれない。美しすぎるわ……反吐が出るくらいに」

 ノアは微笑むだけだが、背後にいたフェイザーが前に出た。

「貴様……神の御前だぞ」

「神の御前とか言ってる場合かよ」

 フェイザーの視線を遮るように山神が前に出る。一瞬気圧された事に気づき、フェイザーは肩を震わせた。

「虫けらがまた歯向かうか……!」

「言ってろ。お前を潰す以外に興味はねぇ!」

 山神はリワインドローダーを巻き、パキケファロソナーを装填。フェイザーを真っ直ぐ睨みながら叫ぶ。

「変身!」


 ホウセンカへ姿を変えると、フェイザーと衝突する。以前の様に次々と転移して攻撃を繰り出すフェイザーだったが、今のホウセンカはそれを全て見切り、拳で受け止めていた。

「ふん、その程度で」

「無駄話してる場合か!」

 剣を掴み、思い切り頭を引いた後に打ち出したヘッドバット。フェイザーの胴体に直撃したが、効いている様子はない。

「今の私には、神の御加護がある」

「何が神の加護だ!」


「楽しそうだなぁ。ねぇ、私達もやるかい?」

 ディザイアスと彼岸達を交互に見ながら尋ねるノア。しかし彼岸はゆっくり首を振る。

「お前を倒すのは現時点で不可能だ。戦う意味がない」

「えぇ〜、じゃあ何をする気なのかな?」

「どうやって世界を救う気だ、ノア。その方法が分からない以上、俺達はお前と戦うべきなのか、別の手段を取るべきか判断出来ない」

 その言葉を聞いたノアの顔に、心底嬉しそうな笑みが浮かんだ。まるでそれを聞いて欲しかったかの様に。


「簡単な事だよ。人間の肉体から意識と記憶を切り離して、衛星ノアの中で管理するのさ」


 彼岸と蒼葉は、ただただ絶句した。しかしそんな2人をよそに、ノアは狂気的な計画を語り続ける。

「人間が争うのは、欲求に対して命の続く期間が短いからだ。だったらそんな肉体を無くして、意思と記憶だけを持つ存在にして衛星ノアのシュミレーター内で管理すれば良い」

「馬鹿なこと言わないで! そんな事いくら衛星ノアでも出来るわけがない!」

「それは……あぁ、ちょっと待ってね」


 ノアの視線の先では、殴り飛ばされて地面を転がるフェイザーの姿があった。身体の各部から煙が出始めている。対するホウセンカも装甲に傷がいくつも刻まれていた。

 しかしノアが軽く手を振ると、白い粒子が彼のローダーから発生。フェイザーの傷を瞬く間に修復する。

「何だと……!?」

「おぉ……神よ、慈悲の施しに感謝いたします」

「うんうん、頑張ってね……さて、話を戻そう」

 仕切り直す様に振り返り、話を続けた。

「出来るんだよ忌魅木蒼葉。私なら、人間の意思と記憶を管理出来る。その証拠を今から見せてあげる」


 ノアの持つローダーが輝きを放った。先ほどとは比べ物にならない量の粒子が溢れ出し、やがてそれは人の形へと変化していく。

 その姿が明らかとなった時、彼岸と蒼葉は言葉を失った。そしてホウセンカに至っては、戦闘中にも関わらずその動きが完全に止まってしまった。

「嘘、でしょう……!?」

「まさか……」



「睡蓮……!!?」



 水色の髪が風に揺れる。光の点っていない目が開かれ、虚空を見つめる彼女の顔に、以前の様な笑顔はない。

「おい、何で……睡蓮、ぐぁっ!!」

 気を取られている間にフェイザーが振るう斬撃をまともに喰らい吹き飛ばされる。睡蓮の足元に転がったホウセンカはふらつきながらも立ち上がり、彼女の肩を掴んだ。

「睡蓮……どうしてお前が……おい……!」

「…………」

「何か言ってくれ……俺、お前がいなくなって……ゔっ!?」

 突如睡蓮はホウセンカの胸に拳を叩きつけた。肺の中の空気全てが吐き出され、その場に蹲ると同時に変身が解除された。山神の口から血が少量吐き出される。

 更に睡蓮は山神を足で蹴り倒し、踏みつけた。見上げた山神の目と交差した睡蓮の目は、冷たく、鈍く、光を失っていた。

「確かにその子は君達が睡蓮と呼んでいた子だ。でも今の彼女に君達についての記憶なんかない。だって必要ないしね」

「ぁぁぁ……やめろ、睡蓮……どうしちまったんだよ……!?」

 踏みつけられる睡蓮の足を掴む。酷く冷たかった。

「黙れ薄汚い人間。私の名を呼んでいいのはノア様だけだ」

 顔を蹴り上げられ、地面に投げ出される山神。睡蓮はノアの元へ赴き、膝をついた。

「ノア様。次なる指令を」

「なら、私の側にいて守ってくれ。逆上した彼に襲われない様に、ねぇ」

 山神を指差し、嘲笑うノア。人間を慈しんでいた先程までの振る舞いが嘘の様に、人間を見下した態度を取っていた。

「何が神よ、何が救世主よ……この外道!!」

「同感だ。これがお前の言う救済なら、俺達に受け入れると言う選択肢は無い。戦う以外の選択肢は無くなったな」

「あっはは、そんなに怒らないでほしいな。あくまで私の力の一部を教えただけじゃないか。でも考えて。こうやってデータが残ってさえいれば、死なんて概念は消える。君達が恐れて必死に避けようとしていた″終わり″が無くなるんだ。喜ぶべきだよ、君達は──」


「それ以上……喋んな……」


 ノアの演説を遮る声。それに聞き入っていたフェイザーが我に帰ったかと思うと、剣先を山神へ向けた。

「神からの宣告の邪魔を……」

「やっと分かった……俺が、本当に許せなかったのは!!」

 フェイザーの言葉を無視し、山神は叫ぶ。


「ジェノサイドでも、スレイジェルでも、此奴でもない! あの時、見てるだけで何も出来なかった俺だった!! ……ずっと、見ないふりして、他の奴等に怒りの矛先振りかざして……!! 今だってそうだ……俺の声は睡蓮に届かない……力ばっかり手に入っても、本当にしてやりたいことが出来ねぇ……あの時と同じだ!」


 山神が手にしたローダーの輝きは徐々に増していく。

「でもなぁ……それでも、どんな奴よりも、自分よりも、許せねえ存在がたった今出来た!!」

 ローダーは赤く、そして亀裂が走っていく。隙間から漏れ出ているのは炎。


「記憶を弄って、魂をもてあそんで……俺が好きだった、睡蓮の笑顔を奪った、ノア!!! お前だけは……絶対許さねぇ!!!!」


 遂にローダーが砕け散った。中から溢れたのは炎ではなく、マグマ。地を震わせる雄叫びと共に、真の姿を現した。


 天へ向かって滾る怒りを叫ぶ太古の暴君、ティラノサウルスの頭を模したローダーだった。

 パキケファロソナーが吼え、ローダー、《ヴォルケーノレックスローダー》と接続する


《Let′s Burn!!!》


 2機を接続した状態で、中央バックルへ。


《燃えろ!! 激怒バースト!!!》


 打ち鳴らす地鳴りと、煮え滾るマグマの音が混じった待機音。山神は中央バックルから取り外すと、接続していたパキケファロソナーとヴォルケーノレックスローダーを外した。


「……変身!!!」


 左へパキケファロソナー、右へヴォルケーノレックスローダーを装填した。


 マグマを纏った様な姿をしたトリケラトプス、パキケファロサウルスが現れ、嘶く。そして山神の背後に、火山を背負っている様に燃え滾るティラノサウルスが現れ、咆哮。

 3体はそれぞれ装甲へと姿を変え、インナースーツを身に纏う山神へ衝突する様に装着されていく。


 トリケラトプスは胴体と足を、パキケファロサウルスは腕を、ティラノサウルスは頭と肩を覆う。次の瞬間、隙間から覗くインナースーツから滾るマグマが噴き出した。


《Ground Quake! Blaze Fist! Blast Rush! Memory Revive!! Wake up Extinction!!》


 紅蓮の鎧を纏う憤怒の闘士、ホウセンカ《ラースバースト》。

 拳同士を打ちつけると、踏み締めたアスファルトの地面が溶解、陥没し、間欠泉のようにマグマが噴き上がった。


「全身全霊で……ノア! お前をぶっ潰す!!!」



続く

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