第57話 高鳴れ聖魔剣＋The name is destroyer
「貴様のその武器……身をもって学習した！」
ウィズードはバリアの中から、ヴァイティングバスターによく似た大剣を生成。リンドウと全く同じ構えを取ると、振るわれる太刀筋に合わせて大剣を振り回す。
リンドウもすぐに対応するが、それを上回る速度で真似をし、追いつかない。やがて、
「隙を見せたなっ！」
「くっ！？」
大振りの一撃、その隙を突いてウィズードが大剣を突き、更に空いた手を鞭へ変えて打ちのめした。火花が飛び散り、リンドウは後退する。
「動きが分かってしまえば容易いものだな」
「学習してるのは、お前だけじゃない」
「戯言を！」
ウィズードは再び鞭を振る。しかしリンドウは一切回避することなく突っ込んだ。先程とは違い、怯む事なく向かってくる。
「自棄を起こしたか！！」
ウィズードは大剣を構え、接近して来たリンドウ目掛けて突き出した。腹部に直撃し、リンドウの動きが止まった。
のは、一瞬だった。
すぐさまウィズードの大剣を掴むと強引に叩き折ったのだ。
「何っ！？ グムッ！？」
顔面に叩きつけられるリンドウの拳。更にそこへヴァイティングバスターの一閃が胸を斬り裂き、吹き飛ばした。
「簡単に真似出来るほど単純じゃないぞ」
リンドウは倒れたウィズードから、ホウセンカと戦闘中のクロッサムへ視線を移す。
巨大な左腕を振り回すクロッサムに、ホウセンカは中々攻め込めずにいる。
「ほぉら、どうしたの？ どうしたの？ あっはは」
「危ねっ！！ 近寄れねぇ……おい、バイク呼べねえのかバイク」
サイドバックルに装填されたパキケファロソナーが飛び出し、トリケライナーとサイドパキケファイナーを呼出。《マッシブアクセル》へフォームチェンジする。しかしサイドパキケファイナーの一撃ですら、クロッサムの左腕を突破出来ない。
「山神、一瞬離れて！」
リンドウはヴァイティングバスターの柄を引く。すると、
《バスターキャノン》
大剣のような形状から、大砲のような形状へ。刀身の中心が展開し、剣先に当たる部分が銃口のように開く。
コネクトチップ接続部へ、蒼葉が新たに開発したチップを挿入する。
《Ｉｎｐｕｔ Ｔｉｐ Ｓｔｉｎｇ》
《キロ ヴァイト！》
銃口に収束したエネルギーが、引き金を引くと同時に解き放たれる。
《キロ プレディション ショット！！》
僅かに仰反るほどの勢いで発射された、螺旋を描く弾丸。
「うぁっ！？」
クロッサムの左腕に直撃、身体が大きく揺れた。その隙を逃さず、ホウセンカの足のタイヤがフル回転。サイドパキケファイナーで殴りつけた。
「ぐぇっ！！ ……こいつ！」
クロッサムは地面に倒れるが、またすぐにホウセンカへ襲い掛かろうとする。だがリンドウはヴァイティングバスターで援護射撃。反撃の糸口を与えない。
「これ以上好きにさせる訳には！！」
ウィズードが立ち上がり、ヴァイティングバスターの模造品を再び造ろうとする。それに感づいたリンドウは、プラグローダーを一度スライド。
《Ｃｏｍｅ Ｏｎ Ａｎｏｔｈｅｒ Ｏｎｅ》
リンドウの背後から、《アウェイクニングブレイダー》フォームのリンドウによく似た影が現れた。
「後ろは任せた！」
スラスターブレイドを投げ渡されたもう一体のリンドウは走り出し、ウィズードを斬りつけた。
「何ぃ！？」
「なるほどね……完全に使いこなしてるって訳……」
「隙ありっ、そらぁっ！」
「きゃっ！？」
ロケットの様に射出されたサイドパキケファイナーが直撃。クロッサムが吹き飛ばされ宙に浮かんだところを、リンドウがヴァイティングバスターで狙撃。小さな爆煙を上げ、クロッサムの変身が解除される。
「いったぁ……！！」
「変身が解けた！ こいつのローダーも剥ぎ取るか！」
ホウセンカはバイクを身体からパージ。《グランドフィスト》へ戻ると、倒れたクロッサムの元へ駆けつけようとする。
が、
「あっははは！ ふふ、ははは！！」
「あ……？ 何笑ってんだ彼奴……？」
仰向けに倒れたまま笑い出したクロッサムを不気味に思い、足が止まる。
「もーそろそろかなー？ 君達さ、社長さんをフリーにしてていいの？」
「何だと？」
「気になるなら見てくればいいよ。このままじゃ社長さんは死んじゃうよ？ それも、無駄死に」
「てめぇ、プラグローダー剥ぎ取られたくねぇからって適当な事……」
だが次の瞬間、クロッサムが言ったことが現実味を帯びる。ノアカンパニービルから次々と爆発が起こり始めた。
「まさか、俺達が戦っている間に……！？」
「紅葉……っ！」
リンドウは最上階を見上げる。そこ目掛けて、モサビットが突入していくのが見えた。
「蒼葉！」
更に、リンドウの横を黒い影が駆け抜ける。
「……ヒガンバナ」
遅かれ早かれ、感づかれるだろうと予想はしていた。だからこそ、桜が暴走を克服したのを見せつけられたあの日、全ての社員をビルから避難させておいたのだ。
今、このビル内にいるのは紅葉１人。だがここで死ぬ訳にはいかない。
「私を殺せるのは、彼岸だけだもの」
「さて、それはどうでしょう？」
声がすると共にドアが破壊される。土煙の奥から、テランスが姿を現した。
「戦う手段も無い貴女に、この場を切り抜ける算段があるのですか？」
「無駄よ。貴女じゃ私は殺せない」
「なら、実際にやってみましょうか！」
テランスはすぐさま変身。腕の先に大きく裂けた黒い顎型のエネルギーを形成し、紅葉を喰らう。僅かに身を逸らしたが、紅葉の右腕が切断され、おびただしい血が噴き上がる。
「がっ、ぐっ！！？」
「下手に避けたらダメですよ、余計に痛いじゃないですか……ん？ あぁ、そういう事ですか」
テランスは紅葉に起きる変化を目の当たりにする。先程喰いちぎられ、消失した右腕が再生され始めていた。骨を作り出し、筋肉、そして皮膚。ものの数秒で元通りに復元されてしまった。
「プログラムされた相手以外による損傷を即時修復する……確かに厄介なチップらしいです」
「はぁ、はぁ、だから言ったでしょう……！」
「だから私じゃなきゃならなかったんですねぇ」
倒れた紅葉へ、容赦なく追い討ちを掛ける。今度も身体を捻り回避するが、避けきれずに左腕から左足にかけてを刮げ取られた。
「うぁぁぁ！！！」
床を転がる。社長室は既に紅葉の血で彩られている。自分から溢れ出た血が頬を濡らした。
だが傷はすぐに塞がる。そう思っていた時だった。
「あ、く……お、おかしい……傷が、さっきより……！？」
「どんなに特別だろうと、所詮はコネクトチップ。私の能力にかかれば機能を鈍らせ、一時的に停止させる事さえ出来る」
テランスは紅葉の髪を掴み、狙いを心臓へと定める。
「そして貴女の息の根も……」
「止めさせない！！」
背後から繰り出された飛び蹴り。テランスは吹き飛ばされ、社長室の棚に叩きつけられた。
「紅葉、早くここを出て！」
「蒼葉……！？」
紅葉の前に現れた蒼葉は既にユキワリヘ変身している。そのまま立ち上がろうとするテランスへとまた挑み掛かった。
「今更、何しに来たの……」
「見れば分かるでしょ、助けに来た事くらい！！」
「助けに、来た……？」
ユキワリは空気を貫く勢いで蹴りを繰り出す。しかしテランスは冷静にユキワリの攻撃を躱し、隙を見せない様に最小の動きで反撃する。
「美しい姉妹愛ですねぇ！ そんなの必要ないんですよ！」
「必要ないのは貴女達の方！」
足のブレードを展開、回し蹴りを放つ。だが、テランスは虚空から出現させた黒い顎でそれを受け止めた。
「いただきまぁす！」
「がっ！？」
顎は勢いよく閉じ、ユキワリの右足を噛み砕いた。装甲と骨が砕ける異音が響く。更に態勢を崩したユキワリを、テランスは手刀で身体を斬りつけた。
変身が解け、ゆっくり倒れ伏す。見れば蒼葉の右膝から下は逆方向に折れ曲がり、泉の様に血が流れ出ている。
「脆い脆い、貴女達の絆の硬さを物語っているみたいですねぇ。さぁ社長さん、次は貴女です。チップの効力が無い今、貴女は無力な人間に過ぎません。大丈夫、楽に死ねる様に努力しますから」
再び紅葉の方へ狙いを変えるテランス。彼女の言う通りチップが機能停止している今、傷は治らず、抵抗する術はない。
紅葉が覚悟を決めようとした時だった。
「やら、せない……！！」
「んー？」
蒼葉はテランスの足にしがみつく。しかし簡単に振り払われてしまった。床を血で汚しながら転がり、今度は紅葉を庇う様に覆い被さる。
「やめてよ蒼葉！ 今の私なんか助ける価値なんて無い！！」
「関係ない……！」
「私は、蒼葉と違って才能なんかない……たった今、唯一の価値さえ無くなった……もう、出来ることなんかない！ だったら貴女だけでもここから……！」
「関係ない！！」
「何で分かってくれないの！！？」
「私の妹だからに決まってるでしょ！！！」
蒼葉の言葉は、紅葉の心を大きく揺るがせた。
「はぁ。茶番を見せつけるのはやめてもらえますか？ さっさと……」
と、テランスの腕を何かが撃ち抜く。扉の場所には、ヒガンバナがブレイクソードを構えていた。
「忌魅木に復讐するのは俺だ……！」
「吠えますね。所詮道具でしかない哀れなスレイジェル！！」
「紅葉……。貴女がどれだけ私の事が嫌いだったのか、想像くらい出来る。だって私も、貴女が羨ましくて、妬ましくて、堪らなかった。どれだけ努力しても、２人は最後まで私を愛してくれなかったから」
「だったら……！！」
「でも！！ どれだけ否定されても……私は、紅葉を妹だって、たった１人の家族だって、思ってる」
ヒガンバナが振るったブレイクソードは黒い顎に受け止められ、手足に噛みつかれる。噛みちぎられる前に振り払うが、その隙にテランスが振るう灰色の刺突剣の連撃が襲う。
「蒼葉……？」
「だって、私達は同じだった……何も知らない、まだ言葉も話せないくらい小さかった時から、私達はヒーローに助けて欲しかった……あの紙に書いた様に」
「でも……でも！！ 蒼葉でも、出来ないよ！！ 私は蒼葉と違って何も出来ない、だから受け入れるしか……！！」
「私にだって出来ない！ でもどんな事をしても、貴女を助けたい、だから……！！」
ヒガンバナは吹き飛ばされ、机を背に膝を突く。だがその手に握られたブレイクソードは決して離さない。
「貴女が待っていた、貴女だけのヒーローが、助けるから！！」
蒼葉は手にしたＶＵローダーとピュアチップを、ヒガンバナへと投げ渡した。受け取ったヒガンバナは、何故か吸い込まれる様に、プラグローダーへその２つを挿す。
── 私をここから出して。いつか、きっと ──
燃え尽きた記憶が、蘇っていく。
ヒガンバナのプラグローダーが淡く輝く。その光を、彼岸は一度見た事がある。リンドウが、《イノセントシールダー》を創り出した時と同じ光だ。
光は頭の中で燻っていた怨嗟と復讐の炎を消す。黒い灰が積もった山の中から、彼岸はあるものを必死に探す。
自分は何故戦い続けてきたのか。何故忌魅木に固執していたのか。
何故、記憶を失っていく中で、自分の名前だけは忘れなかったのか。
その全ての答えを、灰の中から拾い上げた。
生まれたのは、ノアカンパニーの利益を生み出す道具として。
だが戦う理由は、呪縛という籠に囚われた１人の少女を救う為。
その為ならば、忌魅木が生み出した全てを破壊する。
ヒガンバナは立ち上がる。ＶＵローダーを地面に落とし、ブレイクソードの柄へ２つのチップを挿す。
１つはスカーアヴェンジャーチップ、そしてもう１つはピュアチップ。
《Ｉｎｐｕｔ Ｔｉｐ Ｐｕｒｅ》
《 Ｓｃａｒ Ａｖｅｎｇｅｒ Ｓｔａｎｄｂｙ》
「紅葉！！ 貴女のヒーローを信じて！！！」
「…………！！」
紅葉は机を支えに立ち上がり、ヒガンバナへその身を差し出す。
「私を……………………助けて、彼岸」
振り上げられたブレイクソードは、淡く白い輝きを刀身に纏っている。ヒビ割れたマスクの下から聞こえた声は、かつて幼い頃に聞いたものと同じだった。
「お前を、救い出してみせる……紅葉！！」
《Ｕｐｄａｔｅ Ｃｏｍｐｌｅｔｅ Ｐｕｒｅ Ｓｃａｒ Ｂｒｅａｋ》
振り下ろされたブレイクソードが、紅葉の右肩から心臓、そして脇腹を通過した。
だが血飛沫は上がらない。身体が両断されることもない。
ブレイクソードの軌跡から溢れる光。それは紅葉の胸の中心に集まっていく。やがて１枚のチップの形を取った。
「成功…………した…………！！」
蒼葉は見届けた。
妹の心臓に巣食っていた、最期の手段。それを摘出することが出来たのだ。
あらゆる物を切り離すヒガンバナの力と、あらゆる可能性を秘めたリンドウの力。その２つが紅葉を救ったのだ。
だが、奇跡はまだ終わらない。
「っ！？ ピュアチップとＶＵローダーが……！？」
床に落ちたＶＵローダー、そしてブレイクソードから排出されたピュアチップが、紅葉の心臓から出たコネクトチップへ重なる。
一層眩い光を放つと、その姿を新たなものへと変化させた。
黒く輝く刀身を持った、魔剣に似たコネクトチップ。
「一体……何が起きてるというのですか！？」
ヒガンバナは新たなコネクトチップを手にすると、狼狽するテランスへ向き直った。
ブレイクソードからプラグローダーを外し、右手に装着。スカーアヴェンジャーチップを挿入すると、更にプラグローダー上部へコネクトチップを挿入した。
《Ｃｏａｄ Ｂｒｅａｋ！！》
プラグローダーの天面に被さる様に、黒い剣の様なコネクトチップが存在感を放つ。
彼岸は、静かに告げた。
「変身」
プラグローダーをスライド。同時にコネクトチップが展開。黒い魔剣の内部から、白い聖剣が姿を現した。
《Ｉ ｄｅｓｔｒｏｙ ｅｖｅｒｙｔｈｉｎｇ，Ｉ ｓｅｖｅｒ ａｌｌ ｃｏｎｎｅｃｔｉｏｎｓ！！ 運命、呪縛、因果！！ 破壊者よ、全てを打ち壊せ！！！》
ヒガンバナの真の姿。薄灰色の素体に、黒い翼を彷彿とさせる装甲、灰色のローブを纏う。悪魔の翼を上下２対合わせた様な赤い複眼が輝くと、一部の装甲が弾け飛び、白く輝くエネルギーラインが浮かび上がる。同時に羽根の様な装飾が一斉に逆立った。
「俺が全てを……破壊する」
ヒガンバナの新たな姿、《コードデストロイヤー》。
それは復讐心のままに全てを破壊するのではなく、呪縛を破壊する英雄の姿だった。
続く
