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第55話 動き出す計画+The key is the avenger

 

 一方その頃。


 激しくぶつかり合う正義の槍と傲慢の大剣。何度目かも分からない鍔迫り合いが始まる。

「中々やるなぁ、スレイジェル」

 プラウダが呟くが、ジャスディマは一切反応しない。動きの癖を読み取り、確実に仕留められる隙を分析している。しかし、

(動きは単調で大振り……なのに何故隙がない?)

「おぉい、無視しないでくれよ」

 プラウダはジャスディマを蹴り飛ばして距離を取る。

「俺が他人を褒めるなんてないんだぜ? 少しは嬉しそうにしてくれよなぁ?」

「お前の戦い方で性根は全て分かっている。自分以外の全てを見下した傲慢で身勝手な奴だとな」

「戦い方が分かってるなら早く一撃入れてみろ!」

 大剣を振り上げ、再び襲い掛かるプラウダ。ジャスディマは冷静に軌道を計算し、振り下ろされた刃を槍で受け止める。そのまま大剣を槍で押さえつけると、左拳に光を纏って殴りつけた。

「オッ!?」

 骨の鎧に亀裂が走る。しかし動きが止まったのは一瞬。プラウダは槍を跳ね除けるとジャスディマを斬りつけた。

「っ!?」

 互いに始めて傷がついた。いずれも致命傷ではないが、刃の応酬が一度止む。

「今のはそこそこ効いた……お前、やっぱり面白い奴だ」

「その割に、余裕が見えるぞ」

「たりめぇだ。これで死ぬくらいならジェノサイドなんざとっくに根絶やしにされてる」

 鎧の傷は塞がり、再び傷1つ無い状態へ変わる。

「けど、この調子じゃ俺が勝つなぁ。俺はいつまでも続けて構わないぞ?」

「いつまでも続けるつもりはない」

 ジャスディマの背に、白い矢が刺さった。すると傷は瞬く間に消え去り、再び輝きを放つ。

「次は一撃で消してやる」


「もう、目を離すと怪我して」

「余所見をする余裕があるとはな」

 ジャスディマへ矢を射ったアフェイクへ、ラスレイの腕から火炎が放たれる。しかし背中の翼が羽ばたくと、火炎は風でかき消される。

「あら、気に障った?」

「意外だっただけだ。防戦一方だからな」

「それはそうよ。私は貴方に直接攻撃は出来ないもの」

「ならば何故戦う」

「そ、れ、は」

 アフェイクの手に、今度は赤い矢が現れる。弓に番え、ラスレイへ向けて引いていく。

「俺を回復でもさせる気か?」

「逆よ。とびきり痛いのを味合わせてあげる」

 指が離れると同時に矢は飛翔する。ラスレイは躱すまでもないと、手を伸ばして矢を掴もうとした。

 だが彼の手に触れた矢は突如形を変え、斬撃の様な衝撃波となってラスレイの腕を斬り刻んだ。

「これは……」

「避ければ良かったのに。貴方もあっちの彼と一緒で慢心していた?」

「ふん、大方あのスレイジェルから吸い上げた傷を矢に封じ込めて射出したのだろう。ならばもうその技は使えん」

 斬り裂かれた腕からは黒い液体ではなく、マグマの様な燃える液体が流れ落ちる。あれほどの斬撃を喰らって尚、損傷は外皮が剥がれたくらいらしい。

「だがその治癒能力は厄介だ。やはり消さねばならない」


 ラスレイは燃える腕を振り回し、アフェイクを打ちのめそうとする。が、アフェイクも器用に身を翻して回避していく。

「あら、あら、もう、容赦ない人」

「アフェイク!? 何を呑気している!」

「おいテメェ何よそ見してんだ、ぐぉっ!?」

 ジャスディマはプラウダを突き飛ばすと、ラスレイの横へ転移。突き出した槍はラスレイの胸部を抉り、身体を大きく吹き飛ばした。

「ありがとうジャスディマ。かっこいいわ〜」

「世話を焼かせるな。戦闘能力が皆無なのを自覚しろ」

「ひっど〜い!」


「全く、何を遊んでいるのやら……っ?」

 その様子を楽しむ様に見物していたオドントだったが、不意に表情が強張る。しばらく何かに聞き入る様に黙りこくる。そして、

「……はぁ。イレギュラーはいつも唐突だ。残念ながら時間なので僕はこれで」

 別れの挨拶を残し、姿を消した。


「お〜いラスレイ。俺たちも帰ろうぜ、白けた」

「まだスレイジェルは倒していないぞ」

「関係ないね。今日はもう終いだ。てなわけでスレイジェルども、思ったより楽しかったぜ。次は本気で潰すからそのつもりでな」


 プラウダとラスレイも後を追う様に、黒い霧を巻き上げながら姿を消した。

 残された2人も変身を解除。深刻な表情で黙るジャスディマに、アフェイクは静かに並び立った。

「オドントはやはり敵対勢力だった」

「あの子はジェノサイド側かしら? 初めて見た時はそう見えなかったけど」

「恐らくはウィズード達の仲間だろう。だがあのジェノサイド達は違う。互いに利用し合おうとしている様に見えた」

「狙いはインフェルノコード……稲守エリカちゃんね。貴方とは関係も深い子」

 アフェイクの言葉に、ジャスディマの眉がひそめられる。

「俺と彼女はもう関係ない。それより問題なのはディザイアスだ」

「報告するの?」

「……俺は、奴がオドントの正体を知っていて敢えて何もしなかったと考えている。その理由を聞かない事には、今後背後を気にせず戦えない」

 そのまま姿を消そうとするジャスディマの手が掴まれた。アフェイクの細い手だ。僅かに震えている。

「いくら貴方でも……ディザイアスを敵に回すのだけはやめて」

「消されるのが嫌なら関わらなければいい」

「そういう事じゃない。私が消されるのなんてどうでもいい、だけど……」

 その先は言わず、アフェイクは手を離した。

「……私も行く。ジャスディマは不器用だから、私がいないと不安だもの」

「好きにすればいい」

 ジャスディマとアフェイクも光を残して姿を消した。向かう先は自分達の拠点、そして場合によっては敵地となってしまうかもしれない、教会だ。




 オドントはある人物から指定された場所へ降り立つ。そこでは既に、その人物が待っていた。

「久しぶり。じゃあ早く直して」

「君は相変わらずせっかちだなぁ」

 クロッサムから投げ渡されたカオスローダーを受け取る。自分のカオスローダーと接続し、修復プログラムをインストールする。その間も地面を足で叩き続けているところを見ると、クロッサムは随分機嫌が悪いらしい。

「…………うん、これで終了」


《Re Loading》


 カオスローダーを放り投げると、それを基点に体が再構築されていく。やがてそれはウィズードの姿へと変化した。

「……すまないレディ。手間をかけさせてしまった」

「あれは想定外だし別に良いけどさぁ……リンドウのローダーがもう計画に使えないのは……っ!」

 クロッサムは近くにあった自動販売機を蹴り上げる。故障した自動販売機が炭酸飲料を吐き出すと、オドントがそれを拾い上げる。

「だったら、君が言っていた予備を使ったらどうだい? ヒガンバナ、だっけ? 彼のプラグローダーも初期型だった筈」

「アイツ嫌いだからヤダ……って言ってる場合じゃないよね」

「一応もう一つはディザイアス達が持っている……けど、戦闘データが足りないからあてに出来ないかな」

「仕方ないかぁ。じゃ、一旦目的変更ね〜」

 クロッサムの目が灰色一色に染まる。


「インフェルノコード、目的を変更。ヒガンバナからプラグローダーを回収」


 目の色が元に戻る。それを確認したオドントはもう一つ提案を行う。

「忌魅木が管理している衛星へのアクセス権も、そろそろ掌握しておくべきじゃないかな」

「そっかー、じゃあそっちにも……ねぇ、来てくれるよね?」

 彼女からの視線に、ウィズードは頷いた。

「あぁ、先程の汚名返上も兼ねたい」

「当然、私も参加させて貰えますよね?」

 街灯の上にいつのまにか座っていたテランスも加わる。両手にはアイスクリームとドーナツ、褐色に染まった肌、両耳にはピアスが。

「随分俗世に染まったな、テランス」

「だぁって楽しいんですもん。人間、最っ高」

 以前の面影は一切ない。アイスクリームを一口で棒だけにし、ドーナツも頬張る。

「んく、んく、ごくっ。ふぅ、ね、きちんと働きますよ〜?」

「オッケ。じゃあ2人は私と一緒に行こう。オドントはインフェルノコードと一緒にプラグローダーをお願い」

「分かったよ。そっちは頑張って」

 話が纏まる中、ウィズードは1人歯噛みしていた。必死に笑顔で誤魔化しながら。

「リンドウ……日向桜……次は必ず…………惨たらしく引き裂いてくれる……!!」





「なるほど、そういう状況だったわけね」

 地下にある蒼葉の隠れ家で、桜達は今後の方針を決めるために話し合っていた。ここであれば衛星の記録にも残らないらしい。

 桜は1人で行動していた間にあった出来事を全て話した。自分が信じていた兄はアースリティアであったこと、そしてエリカの中にあるインフェルノコードが解き放たれてしまったことも。

「本当にごめん……」

「仕方ないだろ。俺達がいても止められた保証はないんだ」

「ただインフェルノコードが解放されたのは厄介ね。私達はそもそもインフェルノコードが何なのかすら分からない」

「ってなると対策も立てられないのか……」

 3人は小さく唸る。しかしこの場で蒼葉以外に良い案を考えつかないことを、桜と山神は分かっていた。

「桜、何かこう、インフェルノコードからエリカに戻すチップとか」

「いや、そもそもコネクトチップがどうやって変化してるのかも分からないし……」

「そうだよなぁ。あーちくしょー! あいつらばっかり好き勝手にやりやがって! 俺達にも何かありゃ……」

「…………試してみる価値はあるかも」

 そこで蒼葉が何かを思いついたのか、プレシオフォンに何かを記入し始める。

「桜、ヒガンバナにコネクトチップを奪われたのよね?」

「うん……って、まさか!?」

 桜が声を上げると同時に、蒼葉の手からプレシオフォンが離れる。小さな出口から飛び去って行ってしまった。

「まさかヒガンバナと協力する気!? いくら何でもそれは無茶じゃないか!?」

「協力する気はない。けど」

 紅葉の言葉を思い出す。言葉の裏を読み、そしてそれを応用する。

 きっと紅葉を助けることにも繋がる筈だ。

「紅葉は桜から、リンドウから力を奪うって言っていた。……逆にヒガンバナの力を、私達が利用出来たとしたら?」

 蒼葉の策に、桜と山神が顔を見合わせる。


「ヒガンバナからコネクトチップを奪う。それが何かの、エリカを助ける方法に繋がるって、信じるしかない」



続く

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