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第45話 暴走ノンストップ+Reaching the true form

 

 心臓の鼓動が狂ってしまう程の咆哮が止み、赤い瞳がジェノサイド達に向けられる。3体はビクリと身体を震わせ、反射的に距離を取った。

「へー、君ジェノサイドだったんだ」

 怯えた様子を見せるジェノサイド達に対し、ロースグは然程焦った様子がない。すぐにディノニクスジェノサイドの周りに土人形達を出現させ、取り囲む。

「だったら僕らが戦う意味ってないわけだ。一緒に彼奴ら、倒さない?」

 ユキワリとホウセンカを指差し、語りかける。しかしディノニクスジェノサイドは反応する様子はない。自分を囲む土人形達をキョロキョロと観察し、仕切りに鼻を鳴らしている。


「おい…………転校生、なんで桜が……!?」

 山神の声は蒼葉に届いていなかった。


 エリカに続き、桜もジェノサイドだった。何故今まで気がつけなかったのか。検査は入念に行なっており、これまで桜がジェノサイドウイルスに感染した形跡は無かった。

 だというのに、今こうして桜はジェノサイドへと変貌を遂げた。


「桜……」


「何で反応しないんだろう? まぁいいや、面倒だからほっといて」

 ロースグも興味を失い、土人形達をユキワリ達へけしかけようとする。

 その時、トンボジェノサイドが羽根と口を震わせ、ディノニクスジェノサイドへ威嚇をした。

「ギギギチチチ……」



 次の瞬間、ディノニクスジェノサイドの顔がトンボジェノサイドの方を向く。


「ウァァァァァァァァァァァァッッ!!!」


 姿が消えたかと思うと、周りの土人形を全て蹴散らし、一瞬でトンボジェノサイドの目の前へ。振り上げられた拳が顎を捉え、乾いた破砕音と共に身体を宙へ浮かばせる。そこへ更に跳躍し、3本の鉤爪を束ねた斬撃で胴体を両断。コアが破壊され、地上へ落下する前に爆散した。

「なっ……!?」

 呆気にとられ、足を止めるロースグ。黒い液体が付着した爪を齧ったディノニクスジェノサイドは、全身の鱗と羽毛を逆立てた。

 相対したヘッジホッグジェノサイドとヒクイドリジェノサイドも吠える。

 次の目標に選んだのはヒクイドリジェノサイド。蹴りでの抵抗を全ていなすと、中段蹴りの隙を突いて脚を掴み、地面に引き摺り、何度も叩きつける。そして怯えるヘッジホッグジェノサイドへ、勢いよく叩きつけた。

 棘に覆われたヘッジホッグジェノサイドに対してのダメージは小さい。しかし怪力と棘の硬さが合わさり、ヒクイドリジェノサイドの身体は傷ついていく。

 やがて抵抗出来なくなったヒクイドリジェノサイドの首を掴み上げると、プラグローダーが独りでにスライドを始める。


《Madness!! Cracking Break!!》


 右腕を覆う大量の黒い霧。そのままヒクイドリジェノサイドの首を握り潰し、爆散させた。

「キュ、キュ、キュ……」

 完全に戦意を喪失したヘッジホッグジェノサイド。数歩後ずさり、背を向けて走り出した。

 だがディノニクスジェノサイドは見逃さない。回り込み、顔面を蹴り上げてひっくり返した。

「ウォォォォォォッ!!!」


《Madness!! Cracking Break!!》


 大きく跳び上がり、黒い霧を纏った両足でヘッジホッグジェノサイドの腹を踏みつけた。道路を陥没させる程の衝撃と共に、ヘッジホッグジェノサイドは爆発。僅かな断末魔だけが木霊した。

 爆炎の中、大きく一呼吸置くディノニクスジェノサイド。次の視線は、ロースグへと向けられる。

「おい…………冗談、やめろよ」

 脱力仕切ったように身体を揺らしながら、ゆっくりと近づいてくるディノニクスジェノサイドに、ロースグは後ずさる。

「同じジェノサイドでしょ……何で僕に来るんだよ……!? 殺すなら彼奴らにしろよ!!」

「…………」

「来るな!! あぁもう、何で本気出さなきゃならないんだ!!」


《Sloth!! Cracking Break!!》


 ロースグは必殺技を解放。無数の土人形達が集まり、腕に剣や斧、鋸を生やした鎧の戦士を象った人形へ再錬成。6体の新たな土人形がロースグを守るように出現する。

 それを見たディノニクスジェノサイドは歩みを止め、鼻を鳴らす。続けて首を鳴らし、大きく息を吸い込んだ。

「何を……」


「ウァウ、ウォウ、ヴァァァァァァ!!!」


 ディノニクスジェノサイドが天に向かって吠えたかと思うと、プラグローダーから大量の黒い霧が発生。それらは6個の渦へ姿を変え、やがて渦は形を変えていき、6体のジェノサイドを生み出した。


 1本しか爪が存在しない腕、顔が無く、鰭のように反り返った鶏冠が生えた頭。身体は鱗のみだが、何処からか不気味な唸り声を発している。

「嘘、でしょ…………何だよそれ!?」

 ディノニクスジェノサイドから生まれたクローン達は一斉に土人形へと襲い掛かる。土人形達も武器を使って応戦するが、攻撃を受けても一切怯まないクローン達に押されていく。


「つ、強い……」

 蹂躙される様子を、ただ見ているしかないホウセンカは言葉を漏らす。しかしユキワリは小さく震えながら様子を見ていた。その手の中に、プラグローダーの解除キーを握り締めながら。


 ディノニクスジェノサイドはスラスターブレイドを出現させる。しかし刃は大量の錆に覆われ、最早鈍器の様な形状へと変貌していた。

 噴射口から黒い炎を噴き出しながら、スラスターブレイドでロースグを殴りつける。分厚い皮膚に覆われた身体が悲鳴を上げ、激痛による呻きが漏れる。

「あがっ……やめろ、やめろって、がはっ!!」

 顔面を殴りつけ、首を掴み上げ、地面に叩きつけ、足の鉤爪で踏みつける。一方的に蹂躙され、ロースグはボロボロになっていく。

 遂に土人形の内の一体が撃破された。クローンはすぐに他の個体の増援に向かい、次々と土人形を倒していく。

「こんな、こんな……おい、誰か、誰か僕を助け、ぐはっ!?」

 頭を蹴り上げられ、虫の息となる。倒れたロースグの身体がクローンによって持ち上げられ、羽交い締めにされた。

 ディノニクスジェノサイドのプラグローダーが黒い光を放ち、スラスターブレイドがそれを吸収する。

「やめろ……来るな、来るなぁぁぁぁぁぁ!!!」



《Madness!! Cracking Break!!》



 渾身の一撃がロースグの脳天に命中。石が砕けるような鈍い音が辺りに響き渡り、ヒビが全身に走る。

「ぁ、ぁ、ぁぁぁ…………!!」

 微かな叫びを上げると同時にロースグの身体は砕け散った。灰となって空へ舞い、後にはヘルズローダーとチップのみが遺った。


 クローン達も消滅。ディノニクスジェノサイドは息を吐き、呼吸を整える仕草をする。視線は既にホウセンカを向いていた。

「お、おい……桜……?」

「ウウゥゥゥ……」

 スラスターブレイドが持ち上がり、足が地面を蹴った。あの凄まじい速度で接近してくる。

「桜!? おい、正気か桜!?」

 迎撃態勢を取りながら呼びかける。しかし速度が緩むことはない。


 そこへユキワリが割って入り、ディノニクスジェノサイドの腕を掴む。


「転校生!?」

「プラグローダーを外す! そうすればきっと……」

「グァァァッッッ!!!」

「うぐっ!?」

 掴んだ腕を振り払い、スラスターブレイドをユキワリへと叩きつける。激しく火花が飛び散る衝撃。目標は完全にユキワリの方へと向いた。

「やめろ桜! そいつは転校生なんだぞ!!」

「ウガァァァッッ!!」

 駆けつけようとするホウセンカに、またしても出現したクローン達が立ち塞がる。

「くそっ、邪魔すんな!! やめろ桜!! やめろ!!」

 土人形とは違い、いくら殴ろうと立ち上がり、襲い掛かるクローン達。

 対するディノニクスジェノサイドは力任せに武器を振るい、ユキワリを容赦なく攻撃する。

「あっ……!! さ、桜……!」

「ゥゥゥ……!!!」

 重い一撃を潜り抜け、再びプラグローダーのある左手を掴む事に成功する。しかし解除キーを差し込もうとした瞬間、伸びた右手がそれを阻止。黒い霧が解除キーを呑み込み、塵へと変えてしまった。

「そんな、キーを……!?」

「ウァァァァガァァァァァ!!」

 ユキワリの手を払い、スラスターブレイドを薙ぎ払う。一閃はユキワリの頭部へ直撃。マスクが破壊され、蒼葉の素顔が露わとなる。

 伝わった衝撃を吸収しきれなかった為か、額から大量に流血し、白い肌を染めていた。


「転校生ー!!! ……っ、桜ぁぁぁ!!」


 クローンを全て跳ね除け、ホウセンカは一直線に走る。

《Finale Stage!! グランドナックルフィニッシュ!!》

 拳にエネルギーを纏い、それをディノニクスジェノサイドに叩き込もうとする。

「目ぇ覚ませぇぇぇ!!」


《Madness!! Cracking Break!!》


「がっ……!?」


 その拳が届くより速く、ディノニクスジェノサイドの鉤爪が黒いエネルギーを纏って伸長。ホウセンカの腹部を刺し貫いた。引き抜かれると同時に変身が解除、山神は力無く倒れこむ。


「桜……もう、やめて……!」

 ふらつきながら、蒼葉はディノニクスジェノサイドにしがみつく。だが無情にも想いは届かず、蹴り倒され、マウントを取られる。自らの手が傷つく事も厭わず、ユキワリの胸部装甲を強引に剥がし、インナースーツの下に眠る心臓へ狙いを定める。

「やめ、ろ、桜ぁぁぁ!!!」

 山神は口から血泡を吹き出しながら、懸命に叫んだ。


 蒼葉は見た。


 ディノニクスジェノサイドの瞳。それは荒れ狂う戦い方とは違う事に、蒼葉だけが気がついた。


(…………そうか。これは貴方の、本当の……)


 振り下ろされる爪と、伸ばした蒼葉の両手がすれ違う。細い指がディノニクスジェノサイドの頬へと触れる。


 鉤爪は、蒼葉の心臓を貫く直前で止まった。



「ずっと、怖かったんだ……自分が何者なのか分からなくて……」

「…………」

「私も、一緒……自分が分からなくて、不安で、怖くて……自分が傷つかない様に、人の役に立とうとして……だから、私は、桜の事…………」

 そこまで言ったところで、蒼葉は力尽き、意識を失った。ディノニクスジェノサイドは腕を下ろし、天を仰ぎ見る。


「ウァァァ…………ァァァァァァ……ァ、ァ……」


 力無く吠える。意識を失う直前まで聞いていた山神には、それは泣いている様に聞こえた。


 その姿は再び桜へと戻る。しかし錆びたプラグローダーは元に戻らない。


「俺は…………俺も、ジェノサイド、だったんだ…………ぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」



続く

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