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第43話 混沌は始まる+Inferno Key

 

 絶えずレバーが上下するスラスターブレイドは氷と炎の斬撃を繰り出し、赤黒く輝くブレイクソードと衝突する。

 力任せの一撃が、ヒガンバナを防戦一方にさせるほど苛烈に振るわれる。以前に《メガロファングフォーム》へ変身した時に似ているが、本質が違うことに蒼葉は感づいていた。

「おい転校生、取り敢えずあのヤギ男のローダーは回収したけど……桜、どうしちまったんだよ?」

「分からない……」

 だが原因が分からない今、蒼葉と山神はただ見守ることしか出来ない。


 何度目とも分からない鍔迫り合い。そこでヒガンバナから言葉が飛び出した。


「何故お前がその姿に……?」

「何の話だっ!?」

「所詮忌魅木に踊らされている人形にすぎないか!!」


 ヒガンバナはブレイクソードを強引に振り切り、リンドウの胸部に斬撃を食らわせる。しかし怯む様子すら見せないリンドウはスラスターブレイドを突き出して反撃。


 距離が開いた隙に、リンドウはプラグローダーをスライド、ヒガンバナはブレイクソードからプラグローダーを腰へ装着。


《Update Complete》

《Update Complete Scar Break》


 リンドウが放つ灰色の正拳突きと、ヒガンバナが放つ黒色の中段蹴りが激突。両者の絞り出す様な声と共に、拮抗するエネルギーは徐々に巨大化していく。

 やがて混ざり合った一撃が暴発。

「ぐぁっ!?」

「くっ!」

 大きく後ずさる2人。しかしそれでも止まらないリンドウが、再びプラグローダーをスライドしようとした時だった。


 突然背中に何かが突き刺さる音。それは桜の耳と同時に、体内にも響き渡った。目の前に舞い散るのは、灰色をした本の頁。


「あ、が……!?」

「やはり私の推測通り。インフェルノコード解放の最後の鍵は君だった、日向桜」


 いつのまにか背後に現れていたウィズード。その右腕は深々と、桜の背中に侵入していた。肩まで突き刺さっているにも関わらず、体を貫通していない。代わりに謎の黒い渦が発生している。

「桜っ!!」

「このバリア野郎、桜に何してんだ!!」

 蒼葉と山神は走り出すが、見えない障壁に阻まれる。

「こんな壁で防げるもんかよ……は!?」

 いくらホウセンカが壁を殴っても、全て弾き返されてしまう。ユキワリの蹴りも同様だ。

「何で割れねえんだよ、クソっ!!」

「データが不十分なのだろうね。彼を殺すつもりはないから、君達は黙っていたまえ」

 話している間に、桜の背中から灰色の炎が噴き上がり始める。リンドウの眼は藍色と黄金に明滅を繰り返し、尚も苦悶の声が漏れている。


「コード全解析完了。切り離しも可能だな。力の均衡が崩れれば案外簡単なものだ。……さて、では頂くとしようか!」


 ウィズードが勢いよく腕を引き抜いた。その瞬間凄まじい大きさの炎が逆巻き、剣の様な物を形成する。

 それは剣と呼ぶにはあまりに美しく、鍵と呼ぶにはあまりに攻撃的なシルエットだった。

「美しい……これがインフェルノキー………」

 満面の笑みを浮かべるウィズード。剣状の物体を抜き取られたリンドウは地面に倒れ、変身が解除される。それを見たヒガンバナはブレイクソードを鞘に収め、変身を解いた。

「それもあの女の指示か?」

「機会を伺っていただけさ。いや思いの外簡単に事が運んで嬉しい誤算だ。邪魔してすまなかった、続けてくれたまえ」

 そう言い残し、ウィズードは姿を消した。


 彼岸は桜をしばらく見つめた後、蒼葉達に視線を移す。


「無駄だと思うが言っておく。こいつからプラグローダーを取り上げておくんだな。自分達の首を絞める事になる前に」


 返答を待つ事もなく、目の前に現れた黒いバイクに跨り、彼岸は去って行った。


「何だったんだよ、色々ありすぎて訳が……」

「とにかく今は桜を連れて帰りましょう。話はそれから」

「そ、そうだった、おい桜、大丈夫か!?」

 倒れたまま動かない桜を2人がかりで持ち上げ、帰路につく。


 2人は気がつかない。瞼の裏にある桜の瞳が、金色に染まっている事に。





「マージーでー!? やったぁ、キーだぁ! お手柄だよぉ!!」

 ウィズードから受け取ったインフェルノキーを、クロッサムは子供の様に胸に抱えて飛び跳ねる。

「まさか彼の中に眠っているとは俄かに信じられなかったが……少し心当たりがあってね。調べてみれば、この通りだった」

「よっしよっし! インフェルノコードまで後一歩! はぁ〜、さぁて、ご褒美をあげないとね〜」

 クロッサムは灰色の炎を掌に浮かべ、それをウィズードへ投げ渡す。彼が受け取った瞬間炎が弾け、中からチップが姿を現した。半分が天使、半分が悪魔の異形が描かれている。

「もう十分ローダーは君の身体と同調している筈。それと合わせて使えばいいよ」

「なるほど。こういう事か」

 ウィズードは自らの体内に手を入れ、中に眠るローダーとチップを取り出した。以前は白く輝いていたチップも、ローダーと同じく燻んだ灰色に染まっている。だがむしろ、今の方が心地よいと彼は感じていた。


「あぁ、あとテランスの再起動も願いたい。いつまでもあのままでは彼女も浮かばれない。ヒガンバナからローダーは受け取ったのだろう?」

「やっておくって。じゃあその調子でコードの方も頼むよ〜」

「手筈は整えておこう。だが起動はレディにしか出来ない。頼まれてくれるかい?」

「もちろん。じゃあお願い」

 クロッサムが手を振ると、ウィズードは再び何処かへ向かって行った。意地の悪い笑みを浮かべながら、ひざまづいて動かないテランスの抜け殻に近づく。手に灰色のローダーを出現させながら。

「節制と暴食か……面白そうだね。それじゃあ、えいっ!!」

 テランスの左手首にローダーを接続、そして胸にチップを挿入した。


「…………っ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!?」


 絶叫と共に、目に光が戻る。激しく息を吐き、自分の身に何が起こったのかを確認する。

「わ、私は、一体……?」

「ハロー。ご機嫌いかが?」

「だ、誰ですか、貴女は!?」

 怯えるテランスへ、クロッサムはあるものを差し出した。

「それは……」

「美味しいよ〜、ドーナツ。食べる?」

 ふんわりと甘い香りを漂わせるシュガードーナツ。当然だが、アースリティアやスレイジェルは食事を必要としない。テランスも、その筈だった。


 しかし彼女の脳内は、ドーナツに対する未知の魅力で満たされていた。甘い香り、香ばしく揚がった狐色の生地。


 テランスはドーナツを受け取ると、一口頬張る。するとどうだろう。先程までの全てが口と脳を支配する快感へと変わる。

 常に己を律していたテランスにとって、信条を狂わせるには十分過ぎる程だった。

「もっと、もっとないのですか!?」

「あるよ〜。お食べなさいな」

「んぐ、んぐ、ん、ぐ。何ですか、何ですかこの感覚は!? ああぁぁぁ……蕩けてしまいそう……」

 食べ屑を零しながら、恍惚の表情を浮かべるテランス。もう彼女の頭は《理想の世界を作る》使命など忘れ、無限に湧き上がる欲望に溺れていた。


「うんうん。やっぱり壊れてる方が可愛いよ」


 ドーナツを齧りながら、クロッサムは微笑んだ。




「インフェルノコードが奪われた、だと?」

 階段に座していたジャスディマの声色が低くなる。その事実を告げたアフェイクは、非常事態だということを理解していない様子だった。

「ご飯の時間に降りてみたらいなくって……何処に行っちゃったのかしら?」

「お前の管理不足、というのも一因だろうが……そもそもだ。俺達の目を盗んで、人間1人を運び出す事が可能な奴がいるのか?」

 ジャスディマの問いに、アフェイクは否定の意を込めて首を振る。


 その時、祈りを捧げていたフェイザーの声がピタリと止んだ。


「何かあったのか、フェイザー?」

「…………来客だ」


 協会の扉が開く。


 来客は小さく笑いながら、足を踏み入れる。


「あら〜、ウィズードじゃない。久しぶりね」

「久しぶりだなアフェイク。変わりないようで何より」

 微笑みながら駆け寄るアフェイクに、ウィズードは笑みを返す。

 しかしそんな彼女の肩を掴み、ジャスディマは自らの背に下げた。

「ジャスディマ? あ、もしかして嫉妬?」

「…………何があった、ウィズード」

「何、とは?」

 鬼気迫る表情で睨まれて尚、ウィズードの笑みは崩れない。アフェイクは首を傾げ、フェイザーはただ黙って、2人のやりとりを傍聴する。

「お前のローダー、随分と様子が変わったな」

「命の恩人に助けられてね。いや実に快適な気分だよ。ヘブンズローダーとは比べ物にならない」

「…………誰の差し金だ。何が目的で戻ってきた?」

「待ってくれ」

 戦闘態勢に入ろうとするジャスディマに、ウィズードは両手を軽く上げ、敵意はないことを示す。変わらず笑みを浮かべたまま。

「私はただ、君達にインフェルノコードの在り処を教えに来ただけだ」

「何故お前が知っている?」

「私は代理人から聞いただけさ。ジャスディマ、何を怒っているんだい?」

「今のお前を安易に信用する事が出来ない」

 ジャスディマは懐からチップを取り出した。対するウィズードは呆れたように息を吐き、2枚のチップを取り出す。

 彼の左腕に、灰色のローダーが出現する。


「ウィズード……?」

「アフェイク。今の私には分かるんだ、この世界の美しさが。不浄なものを身に宿したからこそ、今まで気づかなかった美しさを理解出来る。私達が管理するだけなど、もったいない」


 理解出来ていない様子のアフェイクに、ウィズードは静かに説く。

「こんな素晴らしい世界を生きる人間達には、更なる進化と幸福を与えるべき。そうは思わないか?」

「…………バグだらけで収拾がつかないな」


 ジャスディマがチップをヘブンズローダーへ挿入。

《Set Up Complete》


「天臨」


《Falling Angel…… Justice》


 十字架のボタンを押すと、その姿を変容させる。腰に白いローブ、全身を覆う白い甲冑、その胸には勇ましく槍を掲げる天使の紋章が刻まれている。4枚の翼は他のアースリティアと違い、金属の様に輝いている。額から一本角が突き出た兜、そのスリット部分から黄金に輝く2つの複眼が覗いている。


「覚悟しろ、ウィズード」

「覚悟をするのは君の方かもしれないよ、ジャスディマ」


 ウィズードは灰色のローダーを開き、最初に灰色のチップを挿入する。

《Chaos Virus Install》

 周りに霧が立ち込める。ローダーやチップと同じ色をした霧はウィズードを囲い始める。

 そして今度は、自らのチップを挿入。ローダーを閉じた。


「天……おっと、違うか。ならば彼等の言葉を真似よう。……変身」


《Fall Down!!》


 ローダーをスライドさせると、黒と白の頁が舞い上がり、姿を変える。



《Contaminated Memory! Coad Wisdom》



 その身体は灰色に染まり、複眼の色は爛々と輝く赤に変色。烏帽子の様な頭と背中の翼には奇怪な紋様が浮かび、胸に描かれた天使達は救いを求め泣き叫ぶ様な表情になっている。


「私は更なるステージへ進化した。このカオスローダーのおかげでね。さぁジャスディマ、私の力の実験台になってくれ」

「つけあがるな。お前が俺に勝てるとでも?」


 ジャスディマは手元に巨大な槍を出現させる。神の絵画が見守る中、天使と堕天使の対決が火蓋を切った。



続く

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