第25話 無垢なる盾+A glimpse of great power
「何だ……その姿は!?」
彼岸の口から驚きの声が漏れる。あの姿は見たことすらない。リンドウがそこまでの進化を遂げる事など考えられなかった。
だが現実に、目の前でそれが起こった。彼は目の前で進化した。正義などという、彼岸が最も嫌う言葉によって。
「ふざけるなっ!! 何が、何が正義だ!!」
ブレイクソードを振りかざし、渾身の力と殺意を込めて斬りかかる。しかし桜はそれをシールドで防ぐ。いくら力を込めても少しも動くことはない。
「ブレイクソードの、刃が、通らない……!?」
「ふざけてなんかいない!! 俺の正義は絶対貫いてみせる!!」
ヒガンバナの攻撃を弾き、拳による一撃を返す。その一撃は重く彼岸へと響く。
「馬鹿な……積み重ねた戦闘データは俺の方が上の筈だ!!」
「復讐なんて空っぽな目的の為に戦ったって、何も得られる訳がない!」
シールドによる薙ぎ払いが、ヒガンバナの手からブレイクソードを弾き飛ばす。
今度は怨嗟に満ちた拳がリンドウに向かって放たれる。
《ガントレットモード》
シールドが変形、プラグローダーと接続され、分厚いガントレットへ姿を変えた。
ぶつかり合う両者の拳。しかし競り合う事は一切なく、リンドウの拳がヒガンバナへと衝突した。
「……っ!?」
彼岸はあらゆる感情が混ざり合い、混乱する。真っ先にブレイクソードを拾い上げ、チップを挿入。
《Input Tip Breaker》
桜はシールドモードへ変形させる。プラグローダーを3回スライド。
《Data Loding Complete》
イノセントシールドが淡い光を纏う。しかし彼岸は構わずブレイクソードの一撃を放った。
《Update Complete Scar Murder》
無数の黒い剣閃が一直線に向かってくる。
桜は避けず、イノセントシールドを構える。
次の瞬間、剣閃はシールドに受け止められ、そしてそのまま吸収される。
「なっ!?」
イノセントシールドはすぐにガントレットモードへ変形。先程とは違い、強い光を纏って桜は一気に距離を詰める。
《Capacity Max! Innocent Finish!!》
「ぐぅぅぅぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
拳はヒガンバナに打ち込まれ、多量の火花を散らせながら吹き飛ばした。
廃ビルの壁や柱を貫通し、落下した地面を削りながら瓦礫の山に衝突した。
地面に叩きつけられたヒガンバナは変身解除。初めて敗北する結果となった。
「こんな、事が……!」
立ち上がろうとしたが、やがて意識が途切れ、地面に倒れ伏した。
「エリカッ!!」
変身を解除するのも忘れ、桜はエリカへ駆け寄った。目立った外傷はなく、まずは一息吐く。
「桜……私…………ジェノサイド、なんだよ……? 悪い奴は、やっつけなきゃ……」
「エリカはまだ誰も傷つけてなんかいないだろ? まだあの約束は続いてる」
変身を解除し、すっかり力が抜けてしまったエリカを背負う。全てを委ねるように頭を肩に乗せ、エリカは小さな声で囁いた。
「皆怒るかな……嫌がるかな……」
「そんな事しないよ。エリカだって睡蓮の事を受け入れただろ?」
「ん……。ねぇ桜、もし私が、皆を傷つける様になったら、その時は…………」
「分かってる、約束だもんな。だからそうならないでくれよ。俺も蒼葉達も頑張るからさ」
安心しきったように息を吐き、エリカは眠った。
桜は変化を遂げたVUローダーとピュアチップを見る。何故このような現象が起こったのか。自分の知識ではいくら考えようと答えは出なかった。
「……あぁ、あったかいなエリカ……いや、あっつ、あっつい。何で、いや、熱い!?」
「あぁ……先を越されちゃったか」
倒れた彼岸の元に、1人の少女が現れる。ビルを見上げ、一瞬目を細める。
「そっか……インフェルノコードに護り手が。こりゃ面倒になりそうだなー……むむ、コネクトチップを進化させた? ん、もう彼岸じゃ手に負えない訳だ。なら私が動かなきゃ……」
ブツブツと独り言を話し終えると、少女は踵を返す。黒い髪と黒いローブが翻り、隙間から蝋のように白い肌が覗いた。
「まずは残りのジェノサイド、アースリティアを引きずり出さないとね……それまでしっかりお姫様を守ってね、正義のヒーローさん?」
続く




