表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/97

第11話 宝物の思い出+Unreasonable judgment

 

 桜が通された部屋は、以前に訪れた社長室ではなかった。


 部屋の中はショーケースが並び、中には大量のソフトビニール人形や、変身アイテムが並べられている。

「うわ……何だこれ…………ってうわぁぁぁっ!!?これ今じゃプレミアついてる変身アイテム!? 隣のは…………え、もしかして撮影で使った本物だぁ!?」

 部屋に入るなりショーケースにへばりつき、奇声にも近い叫びを上げる桜。あまりの衝撃に完全に我を忘れていた。

 その様子をすぐ後ろで、紅葉は笑顔で見守っている。

「私は……というより私達は幼い頃、ヒーローに憧れていたんです」

「でも並んでるのはどっちかというと、男の子向けが多いような……」

「憧れていたといっても、自分がなりたかった訳ではないんです。ヒーローの様な存在が、私達を外に連れ出してくれる…………ノアカンパニーの外に出ることを禁じられていた私達にとって、そんな想像が密かな楽しみだったんです」

 紅葉の言葉を聞いた桜は我に帰り、ショーケースから体を離す。

「外に……?」

「父と母が消息を断つまで、私達は籠の鳥でした。大切に育てられてはいたものの、外に出ることは許されない」

 そして、紅葉はショーケースの中にある1枚の紙を指差した。


 そこに描かれていたのは、白い騎士と黒い騎士だった。子供が描く、不器用で、不安定な形ながら、その絵は心惹かれる何かを秘めていた。


「これは…………」

「私達が子供の頃に描いた、理想のヒーローです。私は世界を敵に回しても私を守ってくれる黒騎士を、蒼葉は皆の愛と平和の為に戦う聖騎士を」

 愛と平和、そして囚われの姫達を救う、2人の騎士。桜が兄に憧れているように、2人の心の根元にも、幼い頃の夢が絡んでいるのだろうか。


「さて、本題に入りましょうか」

「…………あ、そうでしたね。あの、それで、俺をこの部屋にわざわざ呼んだのは……?」

 桜の言葉に、いつかのように紅葉は頬を膨らませていた。今度は言われずとも分かる。

「敬語禁止……わ、分かりまし、っと、分かったよ」

「よろしい。……桜君、エリカさんとはいつからの付き合い?」

「エリカと?」

 何故そんな事を聞くのか桜には分からなかったが、誤魔化すような質問でもない。

「確か、えっと、知り合ったのは小学生の頃だったかな?」

「その時、エリカさんに変わったことは?」

「……特には」

 ますます質問の意図が掴めず、困惑する桜。それを感じ取ったのか、紅葉は説明し始める。

「まだ正確な検査結果は出ていないのだけど……エリカさんはおそらく、ジェノサイドからも、スレイジェルからも狙われる特異体質の可能性があります」

「どっちからも狙われる!?」

 思わず声を上げる。しかし思い返せば、桜が戦闘を行なった現場にはいつもエリカがいた。紅葉が嘘を吐いている様には見えない。

「どうして、エリカが……?」

「それはまだ分からない。スレイジェルに狙われるのだとしたら、彼女はジェノサイドだという事なのだけど──」

「エリカがジェノサイドだと!? 馬鹿なこと言うな!!」

 桜は紅葉の肩を揺さぶり叫ぶ。だが紅葉は表情を崩さず、静かに桜の手を握る。


「落ち着いて。彼女がジェノサイドなら、既に発症して怪物になっている筈。そうなっていない以上、その可能性は低い。それにジェノサイドから狙われる理由にも説明がつかない筈。そうでしょう?」

「あ……ご、ごめん」


 慌てて手を離そうとする。だがその手を紅葉は離さなかった。


「取り乱すのも無理はないです。だって大事な、幼馴染ですもの」

「ちょ、なんで離さな……」

「羨ましい。そんなに仲が良いなんて」

 紅葉の赤い瞳が桜を見つめる。そのまま吸い込まれ、虜になりそうになる。

 心地良さを感じたが、同時に得体の知れない恐怖に駆られ、目を逸らした。



 と、プラグローダーから通知音が鳴る。


 見るとそこには、蒼葉からのメッセージが記されていた。


 《草木ヶ丘公園にスレイジェル出現。先に向かっているから早く来て》


「スレイジェル……じゃあ俺、行ってくるから!」

「あぁ、待って」

 去ろうとする桜に、紅葉は1枚のチップを渡す。ライトグリーンの本体にライトブルーのラインが入った、明るいチップだ。



「きっと役に立ちます。じゃあ行ってらっしゃい、正義のヒーロー」

「う、うん。ありがとう」


 走り去って行く桜の背が扉の向こうに消えるまで、紅葉は見送った。

 口元に小さな笑みを浮かべて。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あ、あ、や、やべぇっすよ……!!」

 写見は山神の背に隠れ、震える。


 スレイジェルは落下した男性の遺体に祈りを捧げる様に頭を少し下げ、黙祷する。そして、ゆっくりと山神達の方を向いた。


「汝らは、誓えるか?」

「は…………?」

「汝らは神に誓えるか? 自らが穢れなき存在だと誓えるか?」

「何言ってんすかこいつぅ……!?」


 スレイジェルは以前に山神達が見たものと少し違った。

 顔の中心に巨大な目玉模様、そして白い鎧に身を包んではいるが、胸に描かれている天使は小さな笛を吹いており、その手には巨大なボウガンが握られていた。



 それが、ゆっくりと3人へ向けられる。

「ひっ!?」

「やべぇ……!!」

「っ!」

 2人を庇う様に、睡蓮がスレイジェルの前に立ち塞がった。

「睡蓮!?」

「まずいっすよ!」



「1人、神への忠義に背きし者がいたな」


 その瞬間、ボウガンから一矢が放たれた。


 光を纏った矢は睡蓮の肩を貫く。矢尻から光の鎖のようなものが伸びている。

「うっ!」

「てめぇ何しやがる!」

 山神は駆け出し、スレイジェルの頭部に右拳を叩きつける。

 しかし山神の拳から血が噴き出し、対するスレイジェルの鎧には傷一つつかない。

「ぐっ!?」

「神に対する冒涜者に、制裁を下す」

 スレイジェルは翼を広げ、飛び立とうとする。睡蓮を高所から叩きつけるつもりだ。


「やめろっ!!」


 山神が叫んだ瞬間だった。



 鳴り響く銃声、同時にスレイジェルの体が大きく仰け反った。続けてスレイジェルの手が撃ち抜かれ、ボウガンを落とす。


 睡蓮の肩から矢が消えた。


「制裁の妨害とは、罪深い……」

「これが人間に使える限界出力ね」



 銃声がした方向には、バイクに跨る白髪の少女がいた。長大なライフルを携えていた。

「お前、転校生か!?」

「早く逃げなさい。巻き込まれても知らないわよ」

 言い終わるより早く蒼葉はライフルをコッキング。再びスレイジェルへ向けてエネルギー弾を放つ。

 着弾の衝撃、飛び散る火花から、山神達は急いで離れる。


「No.9、バタバースケイプ。天罰を下そう」

 ボウガンを拾い上げ、蒼葉に向けて光の矢を放った。横っ飛びに躱し、銃撃を返す。

 しかしバタバースケイプは羽を広げて飛翔、高所からボウガンを連射する。雨のように降り注ぐ矢から、蒼葉は必死に地面を転がって回避する。

「埒があかない……!」

「終わりだ。天に帰れ、人間」

 更に矢の量が増す。大量の矢が蒼葉に突き刺さろうかという時だった。



「危ない!! っ、うわぁ、いった!!?」


 赤い重戦士が自らの体を張り、矢から蒼葉を守った。

「ク、クラッシュウォリアーじゃなかったら絶対死んでた……」

「遅い……!」

「ヒーローは遅れて来るとも言うし…………ゆ、許して」

 桜はバツが悪そうに言うと、バタバースケイプへ走り出した。



 続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ