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第10話 真実の欠片+Where is the piece?

 

「まずは順を追って説明しましょう。あの怪物…………ジェノサイドとは何なのか」

 蒼葉はタブレット端末を取り出し、いくつかの資料を2人に提示した。


 桜が目撃した何の特徴もないジェノサイド、そして実際に交戦したライノジェノサイド、そして最後の一枚には、歪な二重螺旋構造が写っていた。


「これは……?」

「まず、1枚目はジェノサイドの初期段階。この段階でももう助からない。遺伝子が修復不可能なレベルまで変質している」

「じゃあ、2枚目の怪物って……」

「これが最終ステージ。理性も完全に失って、とめどない破壊衝動と食欲のまま暴れる」

 桜は今までに戦った2体の事を思い出す。

 逃げる人間を執拗に追い回し、追い込まれてなお戦意を失う事なく襲い掛かってきた。

「でも、人間の遺伝子をこんな滅茶苦茶にするなんて……自然に生まれたものなの?」

 エリカは写真の内、1枚の写真を蒼葉へ見せる。そこには黒い球体が映し出されていた。勉強が得意ではない桜にも、それが「ウイルス」の様なものなのは理解出来た。


「違う。ジェノサイドウイルスは人為的に作り出されたもの。そしてそれを作ったのは……私達の父親、忌魅木(いみき)紫葉(しば)

「蒼葉の、お父さんが……!?」


 僅かに見せた辛そうな表情を、桜は見逃さなかった。しかし彼女はすぐに話を再開する。


「ここからあのロボット、スレイジェルの話にも繋がるのだけど……私達の父は、細胞工学の博士だった。あらゆる生物のDNAと結合出来るウイルスを発見していた父は、自分の欲に動かされるまま研究と改良を続けた。…………最後に生まれたものを見て、ようやく彼は気がついたのよ。自分が怪物を生み出した事に」

「…………っ」

 エリカは自らの肩を抱いて震える。蒼葉の話に恐怖を抱いたからではない。

 言葉の端から漏れる蒼葉の感情を、彼女は敏感に感じ取っていたのだ。


「幸か不幸か、彼の妻…………つまり私達の母はロボット工学に広い人だった。2人はジェノサイドウイルスを封印し、いざという時のためにブルームシステムと、それらを扱えるAI兵器の開発を始めた。そうしてスレイジェルが生まれたのだけど……」

「…………だけど?」

「そこから先の記録は残っていなかった。何故ジェノサイドウイルスが流出したのか、何故人間の味方につくはずだったスレイジェルが人間を襲うのか。……もしかしたら、外部の人間が消したのかもしれない。そしてその人物が、鍵を握っているはず」


 蒼葉は大きく息を吐き、背もたれに寄りかかる。そこまで長い話ではないが、相当疲れた様子だ。

「私から話せるのはこれくらい。…………納得出来た?」

「……ありがとう。とりあえずは、その、素性がよく分からない奴を探すしかない、って事だよな? 分からない事だらけだけど、俺は俺に出来る事をやる」

「そう。まぁ貴方は迷わずに戦ってくれればそれでいい。さてと、最後に…………」


 蒼葉はエリカの元に歩み寄り、彼女の唇に自分の人差し指を当てた。

「この事は他言無用。桜の正体や今の話を知った以上本当は外に出してはいけないのだけど…………今回はこちらが巻き込んでしまったから、特別。ここの社長には私が話を通しておくから、貴女は早く──」



「少し待って貰えませんか?」



 背後のドアから声が響き、部屋の中に足を踏み入れる。

「紅葉……」

「え、えっ!? 蒼葉さんに、そっくり……!?」

 戸惑うエリカに、紅葉は小さく一礼する。

「ノックもなしに申し訳ございません。私、ここノアカンパニーの代表取締役の忌魅木紅葉と申します」

「あ、あ、代表取しま…………しゃ、シャチョウさんでしたか! どどど、どうも! い、稲守エリカですぅ!! えっとえっと、本日は……」

 取り乱して早口になるエリカの肩を、桜は叩いて落ち着かせる。あれを見てもなお、紅葉の小さな笑みを浮かべた顔は崩れない。

「申し訳ございませんが、もう少しだけこちらでお待ちいただけないでしょうか?」

「へ? ど、どうして、ですか?」

「貴女は一般人にも関わらず、ジェノサイドに2回、スレイジェルに1回接触しています。偶然にしては不自然すぎる。ですので、こちらで一度身体検査を受けて貰いたいのです」

「は、はぁ……そういう事でしたら…………」

 エリカは小さく頷く。しかし蒼葉の表情は厳しいものだった。

「紅葉……言っておくけど彼女は……」

「勝手がすぎるんじゃない? 監視カメラの録音だけを切ったのはまぁいいけども、どこに耳があるかは分からないよ?」

 クスリと笑い、桜の左腕を指差す。

「プラグローダーから聞いていたのね……」

「え、って事は俺の生活音とかも筒抜けじゃん!? 嫌だ、絶対嫌だ!」

「周りを巻き込まないんじゃなかったっけ? ま、話くらいは目を瞑りましょう。でも、次からはきちんと私の許可を貰ってから、ね?」

 紅葉の笑顔の色が変わる。愛想笑いから、蒼葉を見下す侮蔑の笑いへ。心を踏みつけられるような感覚に、蒼葉は思わず拳を握り締めた。


「あぁそれと、桜君。お話がありますから、後で私の部屋に来て下さい」

「話? それって何の……?」

「秘密」


 小さくウインクし、桜色の唇に人差し指を当てる。その動作に思わずぐらりと揺れた。

(いや、その動きは、反則……!!)

 そんな彼の様子を白い目で見つめる蒼葉と、青ざめた表情で見つめるエリカに気づく事は無かった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「今日はエリカまで休みだったな……」

 放課後、いつもの帰り道には2つの影しかない。山神は横目で睡蓮の様子を確認する。いつもはつらつとした彼女は、何処かつまらなそうにしていた。

「最近おかしな事ばっか。桜はいなくなるし、転校生は結局何者か分からないし、エリカは連絡つかないし……」

「それに、あの変な機械だ。正直な話、あまり思い出したくないが……彼奴ら何だったんだ? あと、俺達を助けてくれた奴は……」


「ちょっとちょっと、お二人さーん!!」


 と、2人の背後から快活な声が掛かった。振り向くと、1人の少年が駆け寄って来た。

 首からハンディカメラを下げ、頭には赤いキャップを被っている。かなり小柄な体型で、睡蓮より少し背が高い程度だ。

「誰……?」

「あ、彼奴知ってるぞ。確か新聞部の2年だ。よく桜にくっついて回ってたような」

「その通りっす! 俺、写見(うつしみ)菊雄(きくお)っていいまっす!!」

 キャップを取り、元気よくお辞儀をする写見。

「で、何の用だよ?」

「はい、最近桜さんいなくなってしまって、まぁ、こんなこと言うと、あれなんすけど…………新聞のネタがなくて…………」

「うわぁ、桜の事を食い扶持にしてるんじゃないか。なんて奴」

「ち、違いますよ!! 確かに俺、桜さんに引っ付いて回ってますけど、それはあの人の生き方に惚れたからっす!」

 睡蓮から疑いの目を向けられた写見は、手を大仰に振りながら弁明し始める。


「誰かの為にあそこまで自分を投げ打てる人いないっすよ! 俺もあの人に、不良のカツアゲから助けてもらって、だから彼に密着取材をして、皆に知って貰おうと……」

「わ、分かった分かった。お前の気持ちは痛いほど分かったから、要件を言え」

「あ、そうだったっすね! えっと、まずはこれを!」


 そう言うと写見はあるものを取り出した。

 それは新聞の切り抜き。そこにはこう書かれていた。


「草木ヶ丘市にて変死事件多数。被害者はいずれも高所から落下死している……何が変なんだ? 飛び降り自殺とかじゃないのか?」

「それがっすよ、周りには飛び降りれる様な高所なんてないんすよ。なのに被害者は皆、高い所から叩きつけられて死んでいる」

「それは流石に変だけど……私達と何の関係が?」

「そこでこれっす」


 写見が取り出したもう一枚の切り抜き。それは以前、睡蓮達も出くわした天使達の襲撃についての記事だった。

 写見が指さしたのは、写真の端。

「あ、私達が写ってる」

「っていうかいつ撮られたんだよこれ。あの場にいてよく撮れたな、これ撮影した奴」

「今回の事件、俺はこいつらが絡んでると考えてるっす。そこで、お二人にお聞きしようと思ったんすよ」

 早くも写見はメモ帳を取り出し始める。だが2人は無言で首を傾げ始める。


 何しろあの時は無我夢中で、逃げることに精一杯だったのだ。ショックの所為か記憶も曖昧な点が多い。話せることなど殆ど無いのだ。


「っても、あんま覚えてないし……」

「お願いしますよ〜。何でもいいっすから。例えば、そう、空を飛んでいたとか──」



 その時、重く鈍い音が3人の横から響いた。遅れて、何かが羽ばたく音がやって来る。



 原型が分からなくなるほどグチャグチャになった人間の遺体、そしてその上に着地する純白の天使。



「……目の前に、いるぞ…………」

 山神は震えながら、天使を指差した。



 続く

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