第9話 戦うと決めたなら+I must know the facts
「ねぇ蒼葉さん!? 一体何が起きてるの!?」
「後で話す! だから今は大人しく掴まってなさい!」
サイドミラーで背後の様子を伺う。タートルジェノサイドの影は見えない。あの見た目から推測するに、「トライアングルホース」の速度には追いつけない筈。
「蒼葉さん、前、前!!」
「っ!?」
エリカの言葉を聞いた瞬間、反射的にバイクのブレーキを握り、甲高い音と共にバイクを横に滑らせて急停止させる。
「それは……!?」
目の前に立ち塞がっていた青年の手に握られた長剣、そして柄にはめ込まれたプラグローダー。蒼葉は思わず呻いた。
青年の顔が一瞬だけ、怒りに燃える様に歪む。
「…………変身」
《Scars don′t disappear Grudge is eternal 復讐者よ、怒りのままに力を奮え!!!》
傷だらけの鎧に身を包んだ復讐者が姿を現した。
「な、何、今、人が……!?」
「どうしてプラグローダーを……!? とにかくここを離れないと!!」
蒼葉すぐさま「トライアングルホース」を反転させる。
しかし突如、道の脇にある水路から影が飛び出した。
引き離した筈のタートルジェノサイドだった。
「水路を泳いできたわけ……てっきりリクガメの類かと思ってた」
「ァァァァァァアアアアア」
タートルジェノサイドは蒼葉とエリカを交互に見やり、首を傾げる。一向に襲いかかる気配がない。何のつもりなのか、蒼葉には理解出来なかった。
背後を見やる。漆黒の剣を携えたブルームが迫ってくる。
ならば、成功率が高い方にかける他ない。
「エリカさん、もっとしっかり掴まって」
「え、こ、こう?」
「もっと! しっかり手を回して、体をくっつけて!」
「は、はいぃっ!」
エリカが自らに掴まった事を確認し、トライアングルホースにコネクトチップを挿入。
《Input Tip Booster》
桜が以前使用した時と同様にマフラーから炎が噴き出す。
「逃すかっ!!」
スカーアヴェンジャーは意図に気がつき、走り出す。
蒼葉はスロットルを回し、アクセルを全開にしてタートルジェノサイドへ突進。
急に全開になった勢いでバイクは宙を舞い、タートルジェノサイドを踏みつけて飛び越えた。
「……また逃したか」
「ァァァァァァアアアアアッッッ!!!」
体をバイクで踏みつけられ、流石に呑気なタートルジェノサイドも怒り心頭の様だった。
しかしあまりの怒りに、バイクを追う前に近くにいたスカーアヴェンジャーへと襲いかかった。
「お前に用はない」
突進してきたタートルジェノサイドに対し、スカーアヴェンジャーは腹甲めがけて「ブレイクソード」を振り下ろした。
剣閃は頑強な甲羅を豆腐のように斬り裂き、中からタール状の黒い体液が噴き出す。
「アアッ!!?」
「お前の鎧に俺の剣は通じない」
タートルジェノサイドは必死に腕を振り回して抵抗する。しかしその両腕すら斬り裂かれ、その頭部に飛び回し蹴りをお見舞いされる。
鈍い音が響く。今の一撃で頭部は不自然に変形していた。
するとタートルジェノサイドは体の各部を背甲の中に仕舞い込む。そして高速回転しながら体当たりしようとする。
しかしスカーアヴェンジャーは1枚のコネクトチップを取り出し、「ブレイクソード」の柄尻へ挿入。
《Input Tip Breaker》
更にプラグローダーを開き、中のチップも「ブレイクソード」へ挿入。
《 Scar Avenger Standby》
刃がドス黒いオーラを纏い始め、アイレンズの色が黄金から赤へと変化した。
《Update Complete Scar Murder》
飛翔してきたタートルジェノサイドへ無数の斬撃が降りかかり、スカーアヴェンジャーへ到達する前にその身体は塵と化した。
元はジェノサイドだった塵が体に降りかかると同時に耳元へ通信が届く。新たな指令だ。
「何だ」
[主人からの伝言を預かっている。「ヒガンバナ」の調子はどうだ?]
「問題ない、正常に稼働している」
彼が身に纏うスーツ、「ヒガンバナ」。どのような経路で入手したのかは彼と彼の主しか存じ得ない情報である。
[ならいい。引き続き、稲守エリカの確保を──]
「悪いが優先事項が変わった」
[何だと?]
通信機越しから男の訝る声が耳に入る。
「忌魅木の人間を見つけた。そう奴には伝えておけ」
[おい、任務を放棄する気か!? 勝手な行動は──」
仲介人の男の制止を聞く前に通信を切る。
青年──彼岸は「ブレイクソード」を鞘にしまい、中からコネクトチップを取り出して変身を解除する。
あの顔を忘れられる筈がない。望んでもいない運命を自分に押し付けたあの家族を。
「待っていろ、忌魅木……」
次は逃がさない。
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ノアカンパニーの中へ通され、案内のままに辿り着いた客室の椅子にエリカは座る。
数人の使用人が目の前にコーヒーが入ったカップとソーサーを置き、お茶菓子の入った小皿が出される。
向こう側に座る蒼葉に、エリカは一番気になっていた疑問をぶつけた。
「単刀直入に聞くよ蒼葉さん……桜とは、どんな関係なの?」
「そうね……ビジネスパートナーみたいなもの?」
「本当に?」
「意外と疑り深い。本当よ。私は彼みたいな直情的な人間、好きじゃないの」
「そ、そう…………」
安心したような、少し腑に落ちないような。そんな複雑な表情を、コーヒーを飲んで誤魔化す。
「……草木ヶ丘が、最近おかしい。変な機械とか、今日見た怪物とか……一体何が起こってるの……?」
「もっと前から、異変は起きていた。それが今になって表面化してきただけ」
蒼葉は目を伏せ、コーヒーに砂糖を入れる。角砂糖を複数個入れ、ミルクをたっぷりと注ぎ込む。最早コーヒーかどうかも分からない。
「……そんなに入れたらコーヒーの味しなくなっちゃうんじゃ」
「何事も均衡を保てれば一番良い状態になる。……これは美味しいけれど」
「えっ」
戸惑うエリカを気に留めず、蒼葉は激甘なカフェオレを飲む。
「今はその均衡が、どちらに傾くか揺れている時期なの。ジェノサイドか、スレイジェルか。まぁどちらが残ったとしても、今のところ人類に与えられる選択肢は2つ。滅びか、隷属か」
「……?」
「良い機会だから、きちんと説明しましょうか。貴方も知りたいでしょう?」
蒼葉が言葉を投げかけた人物は、いつの間にか部屋に入っていた。エリカは振り返る。
「桜……」
「……聞かせてくれ。知らなきゃ駄目だ、これからも戦うって決めたなら」
いつもと違う様子に、エリカは困惑する。
蒼葉は小さく頷き、話し始めた。
続く




