第8話 力強き意思+I can not bend, I will not bend
「エリカ、逃げるぞっ!!」
「えっ、きゃっ!?」
エリカの体を抱き、桜は横っ跳びに躱した。空を裂いた爪は先程まで2人が座っていた椅子を真っ二つにする。
コネクトチップが無い今、リンドウに変身して戦うことは叶わない。とにかくジェノサイドを人混みに行かせない様に誘導しつつ、エリカの安全を確保しなければならない。
「ってか重いなエリカ!」
抱きかかえられれば良かったのだが、あまりに突然だった為に俵担ぎしてしまったのだ。
「わ、私が重いんじゃないよ! みんなこれくらい……っ、桜!!」
エリカが後ろを指差すが、桜は振り向かない。追ってきているのは分かっている。そして振り向けばきっと、追いつかれる。
なるべく障害物が多い場所を選んで走っているが、このままでは時間の問題だ。
だが、その前に新たな障害が目の前に現れた。
「アアアァァァァ…………!!」
桜達の前方に、新たなジェノサイドが姿を現したのだ。湾曲した嘴、丸太のように凹凸が目立つ手脚、岩石の様な背甲と腹甲。
タートルジェノサイド。
ここは狭い路地。そこを塞ぐ様に、2体のジェノサイドが2人を挟んでいた。
「前門の亀と……後門のジャガー…………あの時喧嘩しなけりゃ良かった…………」
「桜ぁ…………」
エリカを下ろす。その表情に力はなく、目の端に涙が浮かんでいる。
昔と同じだ。
そして桜は、昔と同じ言葉をかけた。
「大丈夫だエリカ。こっからはヒーローの…………出番だぜ」
「ギィィィイイイイッッ!!」
「アアアァァァァ!!」
2体が2人に襲い掛かったその時だった。
唸るエンジン音がジャガージェノサイドの背後から轟く。ジャガージェノサイドは轟音に驚いて飛びのく。
桜が乗った三輪バイク、「トライアングルホース」。今それに乗っている人物の頭にヘルメットはなく、素顔が露わになっていた。
「蒼葉……!?」
すれ違う一瞬、蒼葉と顔が合った。
言わずとも、自分が何をすべきか。それを問うていることだけは分かった。
桜は頷き、エリカを蒼葉へパス。同時に蒼葉の手から、2枚のチップが投げられた。
「えっ、あ、あれ!? 何で、蒼葉さん、えっ!?」
「しっかり掴まってなさい!!」
スロットルを全開にし、タートルジェノサイドへ突進。そして前輪を上げ、地面へ叩きつけた。
「トライアングルホース」は宙を舞い、タートルジェノサイドの上を飛び越えた。
「アアアアアァァァァ……?」
何が起きたのか分からないのか、タートルジェノサイドは上を見上げ、のたのたと追いかけ始める。
ジャガージェノサイドの方はそれを見て獲物を奪われると察したのか追いかけようとする。しかしその前に桜が立ち塞がった。
全てを受け入れた訳ではない。目の前にいる怪物は、元人間。その人にも家族がいて、その人の人生があったはずだ。これから桜がしようとしている行為は、それを奪う事に他ならない。
「……でも、今の俺に出来る事だけは、投げ出したくない!!」
チップを同時にプラグローダーへ挿入。《Pure Armer》と鳴り響く音声と同時にプラグローダーをスライド。
「リンドウ ピュアフォーム」へと変身した。
「さぁ、ヒーローの出番だぜ!!」
スラスターブレイドを出現させ、桜はジャガージェノサイドへ走り寄る。
「ギィアッ!!」
しかしジャガージェノサイドは大きく跳躍、桜の頭を飛び越えて背後に回ろうとする。
「逃がさない!」
桜は瞬時にスラスターブレイドを投擲。空中のジャガージェノサイドをはたき落とす。
「らぁっ!!」
地面に落下した相手に、桜は格闘戦に持ち込む。スレイジェルやライノジェノサイドとは違い、柔らかい身体に打撃は鈍い音を立てて食らいつく。
「ギィアァァイ!」
だがジャガージェノサイドもすかさず反撃。胸部を爪で斬りつけ、更に桜の体を踏み台にして跳躍。背中に蹴りを放ち、よろめいた身体を爪で斬り上げて吹き飛ばした。
路地裏の壁に叩きつけられる桜。すぐさま立ち上がり、側にあったスラスターブレイドを手に取る。
「イッテェ! やったな、だったら……って冷た!?」
スラスターブレイドの柄はインナーアーマー越しでも伝わるほど冷えていた。見れば刀身にはうっすら冷気が溢れている。
よく見ると、レバーがいつもと違い、下に下がっていた。
「ハイの逆……ロウ……斬るとと熱が溜まる…………なら逆だ!」
スラスターブレイドのギアを下段に下げる。
そして襲い来るジャガージェノサイドの攻撃の回避に徹する。空ぶった爪の一撃が桜の背後にあるパイプを切断し、脇の下を前転するようにくぐり抜ける。
ギアを下げる。
《マイナス 2 ギア…………》
更に刀身の温度が下がり、柄に霜が降り始める。
攻撃を躱され続けたジャガージェノサイドは怒り狂うように吼えたて、鋭い牙で咬みつこうとする。
桜はスラスターブレイドの峰でそれを受け止めた。
見る見るうちにジャガージェノサイドの口が凍りづけになっていく。
「ギィィッ!!? ギャイ、ギュイッ!?」
腹部に蹴りを放ち、ジャガージェノサイドの牙を折りつつ大きく距離を取った。
凍りついた口元を仕切りに手で払うが、開いたままの口は塞がらない。
桜はスラスターブレイドのギアを、暴発覚悟で2段階下げる。冷気が2人の足元を覆い、吹雪のように刀身の周りを逆巻く。
《フルパワー!! フルブースト!! スラスターブレェイド!!!》
プラグローダーを3回スライド。
《Update complete Freeze Slash……》
地面にスラスターブレイドを叩きつけた瞬間、足元の冷気が大爆発。ジャガージェノサイドの脚を凍結させた。
俊足を奪われたジャガージェノサイドはもがくが、拘束は解けない。
「……行くぞっ!!!」
プラグローダーを開き、赤と金のチップを挿入。
《一撃粉砕 不撓不屈 Destroyer of Rigid Arms》
「クラッシュアックス」を具現化させ、身動きが取れないジャガージェノサイドへ大振りの振り上げをぶつける。凍りついた足ごと大きく上に打ち上げられた。
桜は「クラッシュアックス」に取り付けられた接続端子にクラッシュウォリアーのチップを挿入。
《Crush Warrior Standby》
「クラッシュアックス」を身体ごとハンマー投げの様に振り回す。徐々にオーラを斧と桜が纏い始め、旋風が打ち上がったジャガージェノサイドを引き寄せる。
《Update Complete Crush Storm!!》
投擲された「クラッシュアックス」は回転鋸の様にジャガージェノサイドに喰らい付き、空中で静止させる。
そしてクラッシュウォリアーの頭部にある角が、光を取り込み、一層輝きを増す。
「デヤァァァァァァッッッ!!!」
桜は走りだし、大きく跳躍。猪突猛進の勢いで空中のジャガージェノサイドへ頭突きを繰り出した。
「ギャァァァァァァァッッッ!!!?!?」
まさに一撃粉砕。ジャガージェノサイドの身体は木っ端微塵に爆散、砕け散った。
着地した桜に、爆散した灰が降りかかる。クラッシュウォリアーの、メタリックレッドと金色のラインが走る身体を汚した。
だが、立ち止まっている場合ではない。
桜は一度クラッシュウォリアーを解除し、ピュアアーマーのまま走り出す。
残るタートルジェノサイドを倒すために。
続く




