第4話 バトルのギアチェンジ+Burn it up, sword of justice
エリカを昏倒させた黒い影は大口から涎を滴らせながら、ゆっくり近づく。
その時だった。
校門を突き破り、一台の車が突貫。黒い影を吹き飛ばした。
「何とか間に合った!」
「いや…………エリカ!? エリカ!!」
車から飛び出した桜は倒れ込んだエリカの元へ駆け寄る。首筋に指を当て、口元と左胸に耳を当てて、呼吸、脈を確認する。気を失っているだけの様だ。
「何してるの、後ろ!!」
「グァヴァァァ!!」
蒼葉の声と黒い影の咆哮。桜はエリカを抱えて走る。黒い影は先程と同じく凄まじい速度で突進する。が、今度は桜が横に跳び、通り過ぎてしまった。
「ライノジェノサイド……あれなら完成するかも」
「ライノ……サイ? とにかく蒼葉、エリカの事お願い!」
「分かってる、貴方は早くジェノサイドを」
蒼葉にエリカを渡すと、桜は振り返る。
ライノジェノサイドは足で地面を蹴り、鼻息を荒くしている。頑強な甲殻に包まれた四肢、盛り上がった胸板、そして鼻から反り返る様に生えた一本の角。
「あれがジェノサイド……クリーチャーみたいだ」
「グァヴァァァギィィ!!」
桜はプラグローダーを開き、コネクトチップを挿入。《PURE ARMER PLUG IN》の音が聞こえると同時にカバーをスライド。
「変身!!」
《 英雄 物語の始まりを刻め The birth of hero!!》
虹彩が金色に輝くと同時にアーマーを装着。アイレンズが青紫色に輝いた。
「さぁ、ヒーローの出番だぜ!!」
桜は勇んで拳を構え、ライノジェノサイドへ拳を叩き込む。
「うおりゃっ!!」
更にラッシュを仕掛ける。右、左と交互に胸板へ叩きつける。が、
「あ、あれ……?」
ビクともしていない。直後、ライノジェノサイドは右腕を桜に向けて振り下ろした。吹き飛びながら地面で二回バウンドし、サッカーゴールに入ってしまう。
「何で効かないんだ……?」
「当たり前でしょう! リンドウはスラスターブレイドと一緒に運用する前提なんだから!」
「だってスラスターブレイドだっけ、あれ使い辛くて。説明書出してよ」
「いいから使いなさい!」
蒼葉に説教され、渋々桜はプラグローダーのボタンを押す。《スラスターブレェイド》という音声とともにスラスターブレイドが現れた。今度はトリガーを引かない様に持つ。
「グァヴァァァ!!」
「おっと!!」
迫ってきていたライノジェノサイドの突進を紙一重で回避。その時長い角がゴールネットに引っかかり、もがき始める。
「今がチャンスだ、せやっ!!!」
とスラスターブレイドを振り下ろす。少し傷ついたのみで、未だ分厚い皮膚は突破出来ない。
「なんだよ、やっぱりダメじゃ……お?」
桜はスラスターブレイドを見回していると、トリガーの反対側にレバーを発見する。HIGH、MIDDLE、LOWがあり、レバーはMIDDLEの位置にある。
「これを弄れば……!」
迷わず桜は一段階レバーを上げ、トリガーを引く。
《プラス 1 ギア!!》
丁度ライノジェノサイドがサッカーゴールを振り払い、こちらに突進してくるのを見た。桜はスラスターブレイドを構え、かわしざまに胸部へ斬りつけた。
火の粉が飛び、ライノジェノサイドに浅い切り傷を刻みつけた。
「効いてる!! この調子で……!」
更に振るいながら、もう一段階レバーを上げる。
《プラス 2 ギア!!》
今度の斬撃は火の粉などとは比較にならない、烈火を纏ったものだ。ライノジェノサイドへ袈裟斬りをし、渾身の突きで巨体を大きくのけぞらせる。
「アアァァァグァギィィ…………!!!」
天を仰ぎ、自らを奮い立たせる様に足を踏み鳴らすライノジェノサイド。角を前方へ向け、勢いよく突進してきた。
桜はすかさず角へスラスターブレイドを振り下ろす。だが僅かな拮抗の後、桜の身体が大きく吹き飛ばされた。
「うわっ!?」
だがしかし、空中で一回転し、地面に着地すると同時に受け身を取った。
「これじゃ足りないか、だったら最大パワーで!!」
桜はスラスターブレイドのギアを二段階上げようとして、一旦その手を止める。
自転車のギアやマニュアル車のギアは一気に上げると制御が効かなくなる事を思い出した。先にスレイジェルと戦った時にスラスターブレイドが暴発したのはそれが原因ではないか。
そう思い立った桜は、レバーを一段押し上げる。
《プラス 3 ギア!!》
そして地面を3度ほど力一杯斬りつける。炎が逆巻き、煌々と燃え上がった。
そこから更に、一段階押し上げた。
《フルパワー!! フルブースト!! スラスターブレェイド!!!》
「更に更に……押し上げていくぜ!!」
プラグローダーを3回スライド。待機音が鳴り始める。
《Now Loding……Now Loding……》
「グヌォォォォォォガァァァァァァ!!!」
ライノジェノサイドは雄たけびを上げ、地面を踏み鳴らす。次の一撃で決める気のようだ。
「こっちもそのつもりだ!!」
《Update complete Fire Full Slash!!》
プラグローダーから以前とは違う音声が鳴った。拳に纏った光はスラスターブレイドの刃に集まり、炎が白色の輝きを帯びる。
「ウゴッォォォォッォオォォォォォ!!!」
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! せやぁっ!!!」
猛スピードで突進するジェノサイドに、桜はスラスターブレードを横一文字に薙ぎ払った。
一瞬の静寂。
やがて2人の間に、何かが落下した。
ライノジェノサイドの、角だった。
「グ、ア、アァァ、グアァァァァァァァァァァッ!!!?」
断末魔の叫び、そして身体が劫火に包まれる轟音と共にライノジェノサイドは爆発四散した。
そして爆炎の中から、スレイジェルの時と同じように何かが飛び出した。手のひらサイズほどの黒い球体。
「ふぅ……何とか突破……ん? 何だこーー」
と、拾い上げた球体を突如横から引っ手繰られた。見ると蒼葉が、球体を大きめの保管器へ格納していた。
「お疲れ様。じゃ、彼女を何処かに寝せて帰りましょう」
「待って。エリカの家なら知ってるから送って……」
「馬鹿。正体晒したいの、正義のヒーローさん?」
「うぅん……」
桜は困ったような声を出し、プラグローダーからチップを抜いた。
変身を解除し、エリカに肩を貸して車の中に運び込む。
「何処に連れていく気?」
「俺が借りてたアパート。鍵なら俺もエリカも持ってるし、そこに置くなら……」
「もう貴方のアパートから荷物は撤去されてるけど?」
「……え、早くない? で、でもまぁ、こんな外に放り出すよりは、さ?」
「……仕方ないわね」
「よっしゃ!」
嬉しそうにガッツポーズを決める桜に、蒼葉は大きな溜息を吐いた。
だが今回の戦い方は前回よりマシではあった。スラスターブレイドの特性を理解し、瞬時にプラグローダーとの連携に繋いだ判断力。一般人にしては戦いに慣れるのが早い。
「まぁ何はともあれ…………これで新しいチップの開発が進む」
蒼葉は保管庫の中にある球体を睨む。
本来のリンドウは、あんな性能ではない筈。自分が真価を発揮させてみせる。
それが自分の存在証明になる。
「ん〜……ん?」
エリカの目が覚めた時、何処か見覚えのある天井があった。
自分は何をしていたのか。よく思い出せない。
「…………思い出せない。何してたんだっけ? ここ何処? 今何時……」
腕時計の時間を見たエリカは、顔が青くなった。時計の短針は、8を指していたのだ。
「うわぁ、うわぁ!? こんな事してる場合じゃないよぉ!! 帰らなきゃ!」
掛けられていた毛布を跳ね除け、開いていた扉から飛び出した。
(ところであの部屋、桜のアパートだよね? 誰が……いや、まず何で家具とか何もなかったんだろ?)
そんな疑問を胸に秘めながら。
「…………」
青年は部屋から出ていくエリカを物陰から見つめていた。スマートフォンを起動し、誰かに繋ぐ。
「彼奴はどうする? ……しばらくは監視だと? そんな悠長に構えられている場合か? だったら何の意図があって彼奴を…………何、ジェノサイドの反応?」
青年が振り返ると、そこには一体のジェノサイドがいた。まだ生まれて間もないらしい。つるりとした頭と体、いずれも粘液に包まれている。
青年は頭を掻きながら通話を切った。
「…………邪魔だ、消えろ」
その背には、月の光を反射する長剣と、それに取り付けられたプラグローダーが輝いていた。
続く




