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4人が家族旅行から帰ってきて数日、父親が仕事でいないある日
「それでね、海に入ろうってなったんだけど」
義弟である龍ちゃんの土産話を私の部屋で頷きながら聞いていた時
トントン、と控えめなノックが聞こえた
龍ちゃんに待つように伝えると少し不服そうに返事をした
「はい、誰かしら?」
使用人だろうと思い扉を少し開けて思わず固まる
そこに雪のような肌に大きな黒目がちな目に栗色の髪の美女…詰まるところ、義母である雪さんだ
今までこんなに直接関わることはしなかったのに、どうしてだろう
とりあえず扉を全て開けて中に入ってもらう
雪さんは寛いでいる龍ちゃんを見て驚いたようだった
その龍ちゃんはつまらなさそうに寝っ転がっている
近くのクッションを引っ張ってきて雪さんに差し出し小さ目のテーブルを挟んで向かい合う
通りかかった使用人にお茶を頼み、それを雪さんに差し出し、寝っ転がる龍ちゃんの側にも置いて漸く一息つく
はぁ…何かしたかなぁ?思い返す
帰ってきたからおかえりなさい、と父親が見てない時にこっそり言った以外に雪さんと紫音さんと接触はしてない
龍ちゃんが度々来てるのが問題かとも思ったが、さっき驚いていたところを見るとどうも違うようだ
他には…
悩み始めた私を雪さんは意を決したように見つめた
「あのね…今日は零ちゃんに謝りたくてお邪魔したの。」
「?」
思わず眉をひそめてしまった
それを見た雪さんが申し訳なさそうにするから慌てて表情をなおす
「いえ、その、雪さんが私に謝るようなことありましたでしょうか?」
「…沢山してしまったわ。」
悲しそうに申し訳なさそうにする雪さんの話を黙って聞くことにした
どうやら龍ちゃんも静かに聞いている
「私、前の奥様に悪いと思っていたのに、雅己さんに
結婚しよう。紫音も龍太も勿論一緒に住むんだ、家族なんだから
って言われて凄く嬉しくなってしまったの。
零ちゃんのことも聞いていたから仲良くなれるといいわね、って紫音とも話してた。」
ゆっくりと頷きながら話を聞いて先を促す
「それで、初めて零ちゃんと会った後、雅己さんに零ちゃんと仲良くしたいって伝えたの。
そしたら…その時の雅己さんの目が凄く怖くて…」
「仲良くしたいって思っていたのにずっと零ちゃんに話せずにいた。
ご飯だって零ちゃんがいないのがおかしいと思いながら怖くて口に出せなかった。
ごめんなさい。それで、使用人の方に少しだけ話を聞いてしまったの。
零ちゃんと雅己さん、それと前妻の蘭さんのこと。
それで私、ずっと酷いことをしてしまっていたって。漸く気づいたの、零ちゃんが寂しくて辛い思いをしてたって。
私があの時、雅己さんにもっと強く言えてたらって。
零ちゃんも一緒がいいって、家族だって。」
弱いお義母さんでごめんなさい、と泣きながら謝る雪さんにハンカチを渡す
この人が悲しむことはないのに、優しい人
以前、父親に対して持っていた感情を今は無くした私のために泣いてくれるのは申し訳なくて勿体ない
「雪さんが謝ることじゃないです。
…見ての通り、父と私は仲が良くない。
でもそれは自己中心的な私の母と新しい家族に不仲を隠そうともしない父、そして自己中心的で我儘で傲慢な私自身が悪いんです。
だから、歩み寄ろうとしてくれた貴方達の優しさを無下にしてしまった。本当にごめんなさい。」
口調も気にしない
対面から雪さんの真横に移動し、床に手をついて謝る
顔を上げさせようとしている雪さんを気にせず、じっと頭を下げる
なぜこの人たちにまで気が回らなかったのか
父親が嫌いだと、自分の身が大切だと、優しい人達が気にして傷ついてると考えなかった。
やはりゲームの登場人物であると考えてしまう頭がある
くだらない父親と私のことで幸せをしっかりと味わうことができないなんて申し訳ない
下げていた頭を上げて雪さんに向き合う
「一度、父と話をします。
雪さん、紫音さん、龍太さんには本当に申し訳ないことをしてしまいました、すみません。
父と話して、それから私とも仲良くしてくれますか?」
それを聞いて涙を拭きながらええ、ええと頷く雪さんにもう一度頭を下げる
父は嫌いだけど話す他に解決はしない
暁を呼び、父が帰り次第、私が話があると伝えて。
と言った。
暁は驚いたようだけど頷いて一礼した。
その後、雪さんと龍ちゃんと初めて何気ない家族のような会話をした