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本城玲子は黙ってない ~最強の嫁・本城玲子の半生~  作者: 上板橋喜十郎


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第五章 嫌がらせはチャンスの始まり 第二節

 私は、自分の中から大輔への愛情が完全に消えている事に気付いた。

もう好きじゃなかった。

怖いだけだった。

そして同時に、強く思った。

(義実家から解放されたい)

(幸せになりたい)

 そこからの私は早かった。

翌日、電気屋へ行き、ボーナスを使ってICレコーダー、小型ビデオカメラ、メモリーカード、フィルムカメラを購入した。

さらに文房具屋で日記帳を数冊購入。

レコーダーは肌身離さず持ち歩くことにした。

 義理家族が旅行から帰ってくる最終日。

私は書き置きの通り、家中を徹底的に掃除した。

トイレ。

風呂。

台所。

居間。

全部。

もう“良い嫁”を演じる必要なんて無かったのに、身体が勝手に動いた。

この後の逆襲の為に――。

 そして夜。

義理家族が帰宅した。

それからは面白いくらい証拠が取れた。

取れる。

取れる。

暴言。

DV。

嫌味。

嫌がらせ。

全部、録音した。

写真も撮った。

日記にも書いた。

辛かった。

でも、

(幸せになる為だ)

と思って我慢した。

しかし、全てが反撃の為の証拠になると思ったら少しは気が楽になった。

そして、へそくりも少しずつ貯めた。

証拠データ。

現像した写真。

書き溜めた日記。

お金。

それら全部をゴミ袋へまとめ、義家族が絶対に触らない掃除用具箱の底板の下へ隠した。

さらに私は、結婚前に働いていた会社へこっそり相談した。

すると、ありがたい事に正社員として復帰させてもらえる事になった。

 問題は、今の会社を辞める事だった。

浩輔さんの知り合いが経営している会社だからだ。

でも私は覚悟を決めた。

溜まりに溜まった証拠を全部持って、社長夫妻へ今までの事を正直に話した。

これは危険な賭けだった。

下手をすれば義実家へ筒抜けになる。

でも結果として、その賭けは成功した。

社長夫妻は私の話を聞きながら、本気で怒ってくれた。

奥さんは途中で泣いていた。

そして分かった。

社長夫妻も、ただの学生時代の同級生というだけで、でかい顔をして無茶ばかり言ってくる浩輔さんにうんざりしていたのだ。

「逃げなさい」

奥さんが真っ先にそう言ってくれた。

私は、その言葉だけで泣きそうになった。

 その後は一気に事が進んだ。

社長が浩輔さんへ、

「研修の為、一週間出張へ行かせる」

と説明。

 私は出張の為の準備に見せかけて、証拠も荷物も全部まとめて義実家を脱出した。

少し離れた場所で社長の奥さんと合流。

そのまま社長が借りてくれたアパートまで車で運んでもらった。

さらに弁護士まで紹介してもらい、その日のうちに内容証明を発送。

 大輔はようやく私の本気に気付いたらしく、携帯が鳴り止まなかった。

でも社長夫妻が守ってくれたお陰で、住居はバレなかった。

義実家の突撃も無かった。

 そして私は、久しぶりに“普通の生活”をした。

自分の為だけに洗濯をする。

自分の為だけに料理を作る。

それが、信じられないくらい楽しかった。

あの時初めて、

(ああ、私は奴隷だったんだ)

と実感した。

 一方、大輔と義理家族は最後まで、

「離婚なんかしねえ」

の一点張りだった。

でも弁護士さんが静かに言った。

「DVの証拠が充分揃っています。全員、実刑もあり得ますよ?」

その瞬間、全員大人しくなった。

結局、慰謝料と示談金として五百万円を一括で支払ってきた。

土地だけは無駄に持っていたので、それくらいの金はすぐ作れたんだろう。

 そして、その後の義実家。

私は最後の最後に、爆弾を投下した。

 まず、舅の浩輔。

私は以前から、

(この人、浮気してるな)

と思っていた。

毎週決まった曜日に雀荘へ行くと言って朝帰り。

でも、ある時気付いた。

その曜日、雀荘が定休日だったのだ。

さらに浩輔の部屋を掃除していた時、ペアリングの片割れを発見。

家中探しても千香子のサイズのリングは無い。

しかも、ちょっと離れたラブホテルの使い込まれたポイントカードまで出てきた。

そして思い出した。

(あれ……このリング、近所の人妻のネックレスについてたのと似てない?)

私は確信した。

だから弁護士事務所で最後に千香子に会った時、ぼそっと言った。

「浩輔さん、国道沿いのラブホで近所の奥さんと会ってますよ」

 結果。

千香子、その人妻の家へ怒鳴り込み。

浮気相手の旦那にバレ、浩輔は慰謝料請求される。

さらに千香子自身も、実はとんでもない額のカードローンを隠していた。

千香子の部屋を掃除していた時に督促状や明細を隠してあるのを見つけたのだ。

なので浩輔には、

「千香子さん、借金かなりヤバいですよ。洋服ダンスの引き出し」

と耳打ち。

 結果。

二人は互いに罪をなすりつけ合い、泥沼離婚調停へ突入した。

 次。

大輔。

実は取引先の偉い人の娘とダブル不倫していた。

私はその相手へ、不倫の慰謝料を請求。

すると相手の旦那経由で全部バレた。

会社にも伝わり、大輔はクビ。

さらに慰謝料請求まで食らった。

 次。

堅輔。

大学の同級生へストーカー行為をしていた。

盗撮写真などの証拠を握った私は、大学へ提出。

結果、除籍。

内定も取り消し。

 最後。

萌香。

婚約者とその両親へ、私への暴言や嫌味を録音した音声を聞かせた。

婚約破棄。

 義理家族が旅行へ行っている間。

私は掃除という名の家探しをしていた。

そして見つけた証拠を、最後に全部ぶちまけた。

正直、ここまで上手くいくとは思わなかった。

義実家は事実上、崩壊した。

一つの家族を壊したのに、当時の私は、

(ざまあみろ)

としか思えなかった。

その感情が怖くて、しばらくカウンセリングにも通った。

でも今では、武勇伝として笑って話せる。

助けてくれた社長夫妻には、本当に感謝している。

 大輔とは正式に離婚。

大輔と義実家からは、不倫とDVの慰謝料として総額八百万円。

さらに大輔の浮気相手から二百万円。

合計一千万円。

その金で、私はようやく人生をやり直せるようになった。

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