第一話 夢現
新作です。もし良ければ昔の作品もみてください。マイページから見ることができます。更新は不定期です。昔の作品ぐらいのスピード感になると思います。
みんなは"Cities Horizons"という都市シミュレーションゲームを知っているだろうか?俺はそのゲームで程々に遊んで程々の所でやめて……普通だ。ここまではなんの変哲も無い日常だ。
「市長、どうやら別世界に来たようですよ。高速道路と鉄道が寸断されていて……。」
何か秘書らしき人が喋っているがこのゲームはキャラゲーではない。おかしい。非日常的だ。
「は?えっ?誰?」
「麻衣ですけど……。」
「市長って俺のこと?」
「はい、そろそろ記憶喪失の真似はやめませんか?」
「いや、本当だって。知らないんだ。」
「ならこの都市計画を見れば思い出しますよね。」
麻衣は全く信じずに書類を俺の前においた。『夏彩市開発計画書』……ページをめくる。確かに俺が作った都市だった。やった覚えのある開発ばかりだった。でもそれはゲームの話だ。これは夢なのだろう。明晰夢は初めてだ。
「そんなはずは……。」
「市長、本当に今日はどうしたんですか?確かに異常事態ですがあなたまで、記憶喪失になったら困ります。」
この夏彩市は十万人都市だ。このゲームは途中で投げてしまったからまだ発展途上だ。
「エネルギーに関しては"核融合炉"があるため問題ないですが何かしら外と交流をしなければ夏彩市は終わりです。」
そういえば核融合炉モニュメントは開放していた。懐かしいな。ゲームではこれを立てれば他の発電所はいらないとまで言われた強力な発電所だ。この夏彩市では景観を重視して風力発電も太陽光発電も残している。つまり俺のわがままだ。
「よし、なら外交をしよう。」
「ええ。今すぐ調査隊を編成します。」
「高速道路が寸断されたのにどうやって移動するんだ?」
「……ヘリですよ。ほら行きますよ。」
確かにそういえばあった。このゲームは車社会だから忘れてた。……ん?行きますよ?
「え?俺が行くの?」
「市長だから当たり前ですよ。」
市長ってそんなこともするのか。
◆
この夏彩市には空港が2つある。一つは俺が借金して無理して建設した国際空港。そしてもう一つは普通の国内線のための空港。前者は赤字だが市の発展のための致し方ない犠牲だ。第一、市の財政は余裕のある黒字で問題ないそう思っていた。
「飛行機が一機も来ていない。」
「外部との往来は全て途絶えています。鉄道も高速道路もです。」
あれ?もしかしてゲームオーバーが近づいているのか。というかさっきから麻衣さんの横に出るゲーム画面を見たくない。
「現在の収支は第二次産業、第三次産業ともに壊滅的です。」
「麻衣さん、ま、まだ住民税があるから……。」
「あなたが産業が好調で住民を増やしたいから減税したのですよ。」
この秘書は夏彩市の問題を適切に言うから嫌いだ。でもこういう人材も必要なことは分かってる。そしてハンガーからヘリが運ばれてくる。本当にゲームの中に来てしまったのか。それとも夢なのか。
「ところで他の調査隊のメンバーは?」
「私達だけですよ。」
「え?麻衣さんヘリ操縦出来るの?」
「秘書ですから。」
「ハイスペック過ぎない。」
「市長も中央から派遣されているので優秀……なはずです。」
「この話やめ!行こうか。」
危ない。俺が優秀ではないとバレるところだった。というか中央から派遣されたって何だ?あのゲームで選挙がなかったのはそれが理由なのか。
ローターが回転を始めて機体が上昇する。窓の外から見える景色が綺麗でつい見入ってしまった。本当に現実だ。ゲームのグラフィックがずっと細かくくっきりと見える。
俺が作った街はこんなにきれいだったのか。
「原材料が不足しています。」
「麻衣さん……止めてください。」
街ごと異世界に来たせいで嫌な通知が見えた。この街の二次産業は加工で成り立っている。原材料が輸入出来なければ廃業してしまうだろう。
「冗談ですよ。これからそれを解決しに行きますよ。」
「あはは……。」
「まぁ衛星からある程度他の都市があることも分かってます。」
「衛星!?」
「ロケットを打ち上げましたよね?」
「異世界に来たのに衛星はあるの?」
「何故かありました。」
ロケット発射場は観光地のモニュメントだったがそんな機能もあったのか。
「これから行く都市について他の情報は?」
「これです。」
麻衣さんが運転しながら紙を渡す。結構アナログですね。資料には衛星写真とそこから考察できることがいくつか書かれていた。
城壁があるのか。文明レベルが違いそうだな……。
◆
そして三時間ほど経ったあとようやく着いた。あれ?なんか兵士と偉そうな人がいるのだが……。
「何者よ?」
これって万に一つぐらいの確率で歓迎されてる?盾と槍を持った兵士がヘリを相手に睨み合っている。
「夏彩市から来た外交使節だ。」
「夏彩市……聞いたことないわね。」
いずれにせよ、街を見せないと信じて貰えなそうだな。
「本当にあるんだって!」
「ふむ……嘘は言っていないようね。」
少女は何故か信じてくれた。兵士が多いからより一層、彼女の平和的な装いが目立つ。布一枚って……いや可愛いけど、文明レベルは中世どころか古代なのだろうか?
「……私はリリス。あなたは?」
「俺は……エータ。」
「何をしに来たの?」
「通商条約を結びに来た。」
「……ごめんなさい今は難しいわね。」
「何故でしょうか?」
久々に麻衣さんが喋った。
「今、神事の最中だから一週間後なら権限がある人が対応できるわね……。」
神事……。終わった。文明レベルが違い過ぎる……。夏彩市の経済は原材料が無いせいで立ち行かなくなるだろう……。
「ならせめて貴方が我々の街に来ることはできませんか?水面下で交流は進めたいです。」
麻衣さんは諦めて無かった。リリスはじっと俺の目を見つめてそれから
「……いいわよ。」
「しかしお嬢様……。」
「……大丈夫よ。私の神眼が信じられないの?」
「分かりました……。」
リリスはお付きの兵士としばらく話してから俺たちの街に来ることになった。夢にしては随分リアルだ。そろそろ目覚めてもいい頃だけど。
「それなら行こうか。」
「ええ、準備するわ。」
最後まで読んでくれた方ありがとうございます。