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〖エヴォルは異常〗と〖再生〗

 魔王ガンダールヴやレギンや……非戦闘員のドワーフ大臣でさえ序列持ちだからか、頭を抱える程度で済んでいる。


 しかし、一般的な国民は別だ。暴力の声が、地上から聞こえる。


 俺はソロモン王に向けて、いつもより黒い感情のこもった声で言う。


「おい、クソ野郎。今すぐこの狂った魔術を止めやがれ」


〖嫌だよ。俺の世界を救うんだ。その為には、この国を滅ぼして……サキュバス国に近づかないと〗


「なら素通りすれば良いだろ」


〖君は何も知らないんだね。転移門の中でも特殊な転移門があるんだ。それはエヴォルとドラゴニアの国境か……ドラゴニアに現れると俺は考えている〗


「考えている? つまり、お前のこの虐殺は憶測なのか?」


〖確信はあるよ? このエヴォルって国は異常だからね〗


 何が異常なのだろう?


 俺はかの王に対し、意識を集中する。


「道テイム・拡散!」


 道テイムの透明なエネルギーがソロモン王の体のあちこちを伝う。


 しかし、効果は殆ど無い。


〖痒いね。その技……知恵テイムのエネルギーが巡る俺の体には余り効かないみだいだ〗


 くすり、とかの王は笑う。


 くそ。


 何か出来るはずだ。


 俺はあいつが呼びだした巨人ネフィリムも、精鋭部隊も倒せる。


 なのに、あの男だけは倒せないっていうのかよ。


 それなら、このままでは。


 ドン!


 魔王城の一部が破壊される音。


 それは地面からの攻撃だった。


〖念には念を入れさせて貰う。ジャンヌは君達のとこの序列五位にやられて……回復に時間がかかってるけど、彼等でも時間稼ぎにはなるだろう〗


 下には、異世界転移者ロビンフッドとシモ・ヘイヘが、俺を睨んでいる。


「道テイム・拡散!」


 俺は彼等を攻撃。


 道テイム・拡散は殺戮用に特化したスキルだ。


 一瞬で相手に脳内出血や静脈動脈や心臓そのものの破裂、神経の断裂などが起きて、リンパ液や血液や細胞液や脳脊髄液がポン! と破裂して行く仕様だ。


【やばいスキルで、小賢者怖い……】


 だが、俺のスキルをくらったロビンフッドとシモ・ヘイヘはよろけただけで、意識そのものは保っていた。


「なんつースキルだよ。ソロモン王に知恵テイムをかけて貰ってなければ……一瞬でやられてたぜ」


「ロビン。相手はもはや五大魔王と同格と思え。巨人ネフィリム部隊を一瞬で倒した魔物だ。だがこの分じゃ、巨人ネフィリム部隊も知恵テイムをかけていれば耐えられたんじゃないか?」


 シモ・ヘイヘとロビンフッドの体には紫色のエネルギーがかけられていた。


 まずい。このままでは。


 そこに、スレイブの風魔法がかかる。


『魔王様!』


 魔王は懐から羽のついた機械を弱々しく取り出す。


 魔王は、スレイブに向かって話す。


「スレイブ。この知恵テイムは破壊衝動を増大させる。せめて破壊を体でなく……衣類や道具にする様に、呼びかけてくれ」


〖は?〗


 ソロモン王は、上空でまぬけな顔をしていた。


 いや、実は俺も「は?」と思っていた。


 しかし、魔王の言うことは理に適っていた。


 人を殴ろうとしたら物に当たるみたいな奴は、いるっちゃいる。


 それは強い情動に支配されてしまった時の一種の理性的対応だ。


「ふぉおおおおお!」


 魔王は、自分の衣類を引き裂き始めた。ドワーフ大臣もだ。


 寒くないのだろうか? いや、寒いだろうな。


 見た感じ、レギンはどうにか耐えてる。個人差があるのだな。


【ロードロード、小賢者もきつい】


 そっか。俺はかからないけど、小賢者は。


【知恵テイム、どんどんかかる】


 マジか。


【その内、ダメになりそう】


 頑張ってくれ。


 しかしどうしたものか、攻撃手段がない。


 ……ん? あれは。


 桃色のケンタウロス美少女が、ロビンフッドのイケメン顔を思いっきり踏んでこちらにジャンプしてきた。


 シモ・ヘイヘがそれを狙撃銃で撃とうとしたが、ブーケが担ぐビッチエルフが風魔法で阻止。


 シモ・ヘイヘは鎌鼬によって切り裂かれ、流血する。


「ブーケ、スレイブ」


 彼女達二人が、魔王城最上階に到着した。一瞬の出来事であった。


「道さん。巨人達を倒したように、あいつらを倒せないんですか?」


「ブーケ、やってみたんだがダメだ。あいつの体は知恵テイムのエネルギーに覆われている」


「じゃあ、あれをお願いします」


 ブーケは鉄の道を指差した。


 俺は言わんとすることを一瞬で理解する。


 そう、さっきと今は全く違うところが一つある。


 ソロモン王は明らかに、一箇所にいて……その場から動いていない。


「道テイム!」


 俺は鉄の道を曲げて、それをソロモン王の元まで向ける。


〖何!?〗


 ソロモン王が驚愕するより早く、ブーケが動き出していた。


 桃色の魔力が、一つの光輝く点となり――上空にいるソロモン王に突撃する。


 ドン!


 その蹴りは、見事に命中する。


 そしてソロモン王の体に大きな穴が穿たれた。


 まるで大砲が貫通したような大穴が、かの王の胴体に空いている。


〖ぐふ……〗


 そして、ブーケは反動を利用して、鉄の道まで戻ってくる。


「道テイム!」


 俺は少しでも柔らかくしようと弾力を作り、ブーケを鉄の道で受け止める。


 ブーケはすぐに魔王城の床まで降りてきた。


「っく……あいつ、だめです!」


 ブーケは悔しそうな顔をする。


 スレイブが眉を顰めて聞く。


「どういうことですか? ブーケの蹴りは直撃して、大ダメージを」


「戦ったら分かります……あいつは大穴を開けても、敗北の気持ちになってない」


「敗北の気持ち?」


「殴ったり蹴ったりすると、相手が終わったって気持ちになってないと勝ってないんです!」


 言わんとすることが俺には分かった。つまり。


 ソロモン王はブーケが蹴っても、まだ余力があるってことか。


〖知恵テイム、ソロモン。我が体よ、再生せよ〗


 ソロモン王の体が一瞬で回復した。


 こんな化け物、どうやって倒せばいいんだよ。


 くっくと上空でソロモン王は笑う。


〖ロードロード、お前を化け物呼ばわりしたけど……そんな化け物と戦えて勝てそうな自分も、人間離れしてるな〗


 くそ。アイツを倒す手段はないのかよ!

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