エヴォルの意味② 〖圧倒〗vs「劣勢」
どんなに傷つけようとも、どんなに撃退しようとも、無傷の体になって再び空に君臨する。
ソロモン王。
あんな奴を、どう倒せっていうんだよ!
「ソロモン王……止めてくれ。エヴォルを素通りして、特殊な転移門まで行けばいいじゃないか。貴方の強さはもう皆理解したんだから。降伏する。もう止めてくれ!」
魔王やドワーフ大臣は倒れ込んでいる。ブーケも眩暈を感じていそうだ。
レギンとスレイブもまた、苦しそうに膝をついている。
知恵テイムのエナジーがどんどん俺の仲間にデバフをかけている!
こうなったらエヴォルは降参するしかない。だが。
〖ロードロード、リリスと関係が深いこの国は……生かしておけない〗
ソロモン王は首を横に振った。なぜだ? なぜここまでエヴォルを滅ぼそうとするんだ?
「関係が深いって、何で言えるんだ? 根拠はあるのか!?」
〖お前、他の国がどんな名前か知らないのか?〗
「エヴォルだろ? それが、どうかしたのか?」
〖知れたこと。他がサキュバス国、エルフ国、竜国ドラゴニア、オーガ国などあるのに……この国だけまるで、特別のように唯一変な名前がつけられている〗
……言われてみれば確かに。
でも、それが何だと言うのか?
〖ロードロード、しっかり考えろ。この世界で……名前を付けることは特別な意味がある〗
!
……ネームドってことか。
「人間だけが、名前を付けられるってことだろ? エヴォルは人間に名付けられただけ……この世界にも人間はいるって言うし」
〖ロードロード、前提が間違ってる。この世界の人間が名付けるのは……個人の名前だけだ〗
「え……」
〖国の名前なんて、この世界の人間は付けられない。付けられるとするなら、この世界においてただ一人。魔族の始祖リリスだけだ。あいつだけは、ネームドが出来る。莫大なエナジーを使うと思うがね〗
エヴォルは……リリスが名付けた?
なら、俺の前の推理は当たっているんじゃないだろうか??
愛を、否定しているのだ。
〖魔族でネームドが使えるのはリリスだけ。そんなリリスが、唯一捻って名付けた国の名前エヴォル。特別じゃないわけないだろ〗
そう言われたら、そうなのだろうが。
〖エヴォルは……エヴォリューションを意味するのだろうな〗
エヴォリューション?
つまり、進化か。
「ソロモン王、なぜそう思うんだ?」
〖亜人国家に対する名前だからだ。亜人を見ろ。サキュバスは性欲、ドワーフは鍛冶、オーガは凶暴さ、ケンタウロス族は走力……どれも人間の何らかの特徴を極端に進化させた種族だ。特定の何かへの進化を遂げた亜人種のサラダボール。それがエヴォルの意味だと考えられるね〗
――確かに。
考えたことも無かったけど……言われてみればその通りだ。
亜人。それはバラバラに見えて……人間の派生のようにも思えてくる。
「エヴォリューション、進化か。俺は愛を否定したのだと思ったな」
〖どういうことだ?〗
「LOVEを反対から呼んでエヴォルなのかなって」
〖っは、この童貞野郎が〗
ソロモン王は俺を軽蔑した眼差しで見る。少し、俺は傷ついた。
「童貞……関係ある?」
〖あるな〗
「あるのかよ」
〖……アメリカでモテない奴が銃乱射したりするだろ〗
日本でもモテない人が刃物振り回すこと、あるね。恋愛弱者が発狂したり、本当に頭おかしい人がやってるイメージ。
〖そういうことさ〗
「どういうことだよ」
〖リリスは……弱者女性だ〗
「は?」
弱者男性じゃなくて、弱者女性?
〖相手にされないで六千年だぞ? そこら辺の不細工やブスでさえ120年がいいとこだろ。完全なる弱者女性、それがリリスなんだよ。そしてそんな女が国の名前にエヴォルと名付けた。童貞にはこの意味、分からないかな? 分からないから童貞なんだよ、この童貞〗
む、むかつく。これだからイケメンリア充で、陰キャに当たりがきつい奴は嫌いなんだ。
ふん。そもそも人間120歳までなかなか生きないがな。
……でも、納得は出来る。
恋愛弱者。
リリスは、相手にされない女性。
好きだからこそ……手に入らないからこそ……。
そうか。
非モテが刃物や銃で暴れるように、サキュバス族を使ってアダムとイヴの子孫である人類を……殺しにかかってるってわけね。
小賢者はそんな人を、俺に救えと言うのか。
俺に、救え?
出来るとは思えないが、彼等は俺に期待するだけの価値があると思ってるってことは確かだ。
何故、俺なんだろう。
だが、新しい疑問が浮かんだとしても――今は疑問に勤しんでいる暇はない。
あの上空で魔術を行使する男を止めないといけない。
ふと、ソロモン王は微笑んだ。
その顔は、勝利を確信している。
〖機は熟した。知恵テイム、白家! かの眼よ、その頂に灯れ!〗
ソロモン王の言葉で、知恵テイムの紫色の輝きはより一層増した。
街を見れば、沢山の人が死んでいる。もはや完全に倫理が壊れている。
人間性が、知恵が壊され……破壊衝動で亜人達が殺し合っている。
スレイブが、弱々しく言う。
「伝令が、入りました。ヒポハスさんが、死んだそうです。各地の有力者がどんどん死んでいます」
ヒポハス――序列五位が。
そして、下から狙撃が行われた。
ドン! ドン!
二発の銃声。
「ぐふ……」
ドワーフ大臣と、スレイブが打たれた。
シモ・ヘイヘの凶弾だろう。
白髪の老兵の笑い声が聞こえる。
「すまねえな。恨みはないが、人類を守る為に死んでくれ」
ドワーフ大臣は胸を、スレイブは頭を打たれている。そして、グロテスクなことに中身が出ていた。
ドワーフ大臣と、スレイブが死んだ。
道テイムで直そうと思ったが、これだけ破壊されていたら、もう治せない。
「ドワーフ大臣……スレイブ……」
ドクン。ドクンドクン。
ない筈の心臓が、鼓動する。高ぶる気持ちを抑えきれそうにない。
こうなっては仕方ない。俺のエナジーの全てを使って、あの王を打倒する。これを外せば、もう手段がないが、仕方ないだろう。
「道テイム!」
土が――、否。
大地が、捲り上がる。
上空のソロモン王はドン引きした顔で地上を見下ろす。
〖おいおい……まだこんな力を残していたのか〗
「道テイム!」
空に向かって、土が、石が、動き出した。
光るピラミッドを、俺の道テイムした素材が覆い尽くしていく。
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