〖出現〗
魔王城の大広間。外はもう夕暮れである。
魔王が俺に向かって、
「ロードロード、北にそろそろ移動しよう」
「なぜ北なんだ?」
「西より北のが入られると厄介だ。ケンタウロス族がいれば西の移動はすぐに済む。陣形の展開もやり易い。西は開けた荒野が多く、走りやすいからな」
「そっか。俺が石畳の整備をもう制限しないといけないから」
「そういうことだ。行くぞ」
俺と魔王、ブーケやドワーフ大臣も歩き始めた。レギンも歩き出したが、彼女は足を止めて……天井を見上げた。
「な、何だ、これは」
レギンの顔は青ざめていた。まるで何かに怯えているように。
「レギン、どうした?」
「空が……」
「空?」
俺は視覚を上に向ける。
とはいえ、そこにあるのは天井だ。レギンが「空」と言うからには、何かが空にあるのを感じてるのだろうか?
俺の疑問に答えるように彼女は呟く。
「転移門が、乱れている」
レギンの黒翼が警戒を強めたのかざわっと動く。その言葉に、俺以外の三名がハッとする。転移門? 転移門って何だったっけ?
……そうだ。ドワーフギルドでレギンが言ってたな。確か、異世界転移する為に使う穴だって。
俺には見えないけど、サキュバス族は見えるんだったな。
「強大な魔力が、空に集まっている!」
レギンの言葉で血相を変えたブーケが、窓から上空を見る。
すると、窓の方からブーケの声が放たれた。
「魔王様、大変です! 上空をご覧下さい!」
「うむ。では余のスキルを使うとしよう。鍛冶テイム、魔王城よ姿を変えよ!」
え?
それは目を疑う光景だった。
魔王の掌が光輝き、魔王城の周囲に宙に浮いた無数のハンマーが出現。カンカン、ドンドン、とリズミカルな音と共に魔王城が変形していく。
そう、魔王城の最上階の天井が無くなり、剥き出しに近い構造になった。壁と柱はそのままだが、天井は完全に外側に寄せられている。
「変形できたんだな」
俺には意外だったが、魔王は平然と答える。
「当たり前だ。余はドワーフロード。自分で建てた城くらい変形できるぞ」
「ならこの城を戦車に改造したらどうだ? 戦場まで強力な武器になって行けるだろ」
「素材と知恵が足らんな」
悲しい理由だ。
「って、何だ、これは!」
空にあったのは、目を覆うばかりの魔方陣。
「ところどころに、エルティア王国軍の紋章がある。ってことは……やっぱりこれは」
ソロモン王の魔術ってことか。
俺もレギンも、皆がその魔方陣に注視している。
ちらりと街を見渡せば、街を行き交う亜人達も空を注視していた。夕日が彩る朱い空、そこに表れた紫色に光る不気味な魔方陣の数々。
嫌な予感がする。
「あれ、破壊出来ないか?」
「難しいな。恐らく近づいたら……敵が出てくる」
「何……」
「ブーケとお前がいるなら近接戦か中距離が好ましい。しかし、エルティア王国軍の主力も今までは近距離と中距離の戦い方を好んでいたのだが……これは」
そう。もしあそこに敵が来て、落下物なんて落とされてしまったら――、
俺と魔王の会話はそこで終わった。
魔方陣から、紫色の液体がどろりと滴った。アレは――。
それは突然燃え上がり、火柱となって、中から人の形をした何かが現れた。
遥か高くにある上空……その人物は殆ど見えないのに、声が魔王城まで聞こえる。
〖ここがエヴォルか。景色だけは悪くないな〗
その声は、むかつく様なイケメンボイスだった。その声には聞き覚えがある。ドワーフギルドで戦った紫色の人型の声。
金色に輝く大きな翼。綺麗な眉稜。意思が強い金色の瞳。風で舞う長髪は銀色。控えめに言ってイケメン。綺麗な紫と白のコントラストある魔術師チックなローブ服を着ていて、そこにはいくつかの紋章が刺繍されている。
ソロモン王。
古代イスラエルの王にして、エルティア王国軍を率いる敵の総大将が、そこに現れたのだった。
〖お前が、ロードロードか〗
「その声は……ソロモン王!」
ソロモン王は俺をじっと見る睨み、俺はにらみ返す。まるでダニ○ル・ラド○リフやレオ○ルド・ディカ○リオのようなイケメン。しかも声もイケメン……あの野郎、俺と真逆の強者男性か。
なんか、いけ好かねえ。きっと良い女を抱いてきたんだろうな。っていうか抱いたって記録を読んだ記憶が朧気にあr――、
〖ロードロード、勧誘の話、考えてくれたか?〗
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