「リリス賛歌」
魔王ガンダールヴが歌を歌うらしい。おっさんがスナックで歌うカラオケみたいな感じだろうな。ガンダールヴの見た目で歌が上手いなんて想像できない。
まぁここはレギンのパンツでも見て心を癒やすとしよう。
俺はレギンのパンツを見る。彼女は疲れたのか、少し座って体育座りのようになる。体育座りでパンツを見るというのと、歩行時のパンツを見るというのは違う感情だ。
同じ人間でも、結婚式や葬式や風呂場なら違う表情をする。
同じパンツでも、歩行時や体育座りや着衣の瞬間などは違うパンツなのだ。
【エナジーが回復しました】
美少女は素敵だ。見ただけで幸せになる。そのパンツを鑑賞することは名画を鑑賞する以上の楽しみがある。人の黄金比、素材そのものの美しさ。
【エナジーが凄く回復しました】
凄く?
【ロードロードの語りがあればある程、エナジーが溜まります】
何でだよ。
【パンツに知恵を働かせられるからでしょうね】
普通の人はこんなん考えられないのか?
【普通の人なら無理】
俺って変わってたんだな……。
【ロードロードは変態紳士】
っふ……確かにそれは俺の代名詞だな。
【もっとパンツを考えよう】
気が向いたらな。
【パンツ見たい。色んな美少女の、パンツ……】
甘えるな、小賢者。そもそも俺はお前とパンツの趣味が合わないだろうが。野性的なパンツなんかより現代社会的パンツのが良い。
【素朴さと野生さに溢れるパンツ、その至高さが分からない愚か者め】
ふん。その内レギンにセーラー服とストッキング履かせて野生感を更に消してやる。
【い、嫌ー!】
決定権は俺にある。小賢者は黙ってろ。
【うぅ……しくしく】
小賢者うぜえな。パンツのことに口だしするのだけは止めて欲しいぜ。どんなパンツを好きかなんて個人の自由だろ。しかし、至高のパンツはシルクにストッキングにセーラー服だね。これは譲れない。
魔王が俺の方を向いて咳払い。っち、聞いてやるとするか。
「では、謳うぞ?」
「おう」
魔王の手許には楽器もないからアカペラで歌うのかな?
魔王は目を閉じて歌い始める。それは俺がイメージしていた歌とまるで違う歌だった。
「ずるい女のせいで、アダム様は追放された。
残ったリリス様は悲しんだ。
……リリス様が木と交じらい、ドライアドが生まれた」
俺は驚愕した。それは、魔族の始祖が……魔族を産んだ歌。
「リリス様がアメーバと交じらい、スライムが生まれた。
リリス様が馬と交わり、ケンタウロスが生まれた。
リリス様が火と交わり、サラマンダーが生まれた。
リリス様が水と交わり、ウンディーネが産まれた。
リリス様が土と交わり、ノームが産まれた。
リリス様が風と交わり、シルフが産まれた。
リリス様がトカゲと交わり、リザードマンが生まれた。
リリス様が鳥と交わり、バードマンが産まれた。
ある日、突然変異が生まれた。
遺伝子情報が不安定な人間達が、サキュバス族と交わった。彼等は消えゆく存在。サキュバスの様にエナジーを稼ぐ存在でもない。
すると、亜人達が生まれた。
ある日、ドワーフが生まれた。
ある日、エルフが生まれた。
ある日、サキュバス族が生まれた。
そして、リリス様はエルフとサキュバスの力を分析し、ドラゴンが生まれた。
リリス様は待っている。世界最愛の人はただ一人。
リリス様は待っている。叶わない恋が六千年。
相手にされないリリス様、相手にされるのを待っている」
俺はただ、沈黙するしかできない。魔王の歌は、カラオケなんかじゃなく吟遊詩人のような語り方だった。
そしてこの歌は少し神話チックだが……この世界においては神話でなく史実なのだ。
リリス賛歌。
追放されたアダムを思ったリリスは……その性欲を使って、人間以外の全てと交わり、そして産む力を持っていたから産んでしまったんだ。
それが……レギンやブーケやスレイブが生まれた理由。この世界に、魔族がいる明確な理由か。
俺の隣で、ブーケがレギンに、
「何度聞いても、重い歌ですね」
「そうか? ロマンチックだけど」
「怖いですよ、この歌」
と、やり取りしていた。……レギンがロマンチックって思うのは、なぜだろう?
彼女がリリスと同じサキュバス族だから、リリスの気持ちに理解出来るのかな?
魔王ガンダールヴは俺の方を見て神妙な顔つきになる。
「これがこの世界に伝わるリリス賛歌だ。全ての魔族に伝わる」
「リリス賛歌……」
まるでもう一つの聖書じゃないか。そうか……アダムが追放された世界……残された人もどき……亜人・リリス。そいつの物語か。
全ての魔族の始祖リリス……そういうことかよ。文字通り、全部産んだのか。魔族がこの世界に存在するのは……そいつが素材になる動植物と交わっていったから。
全ての魔族はリリス様から生まれた。この世界の全ての存在と交わり、生めるだけ生んだ。魔族というのは……魔物であれ、亜人であれリリスから生まれた。
「この歌って誰が作ったんだ?」
「誰が作ったのかは知らんがリリス様と会った方だと言われている」
「リリス様は……アダム様を愛している。しかし六千年たっても答えていない。叶うわけが無い。とっくに振られているのだ。それどころか」
魔王はくっくと残念そうに笑う。彼のように笑う人には見覚えがある。苦しい現実を嘲笑って誤魔化すような……俺が自分を自重する時の笑い方に似ていた。
魔王は叶って欲しいが叶ってない……そう思っているのかもな。
「人間界は六十億七十億人と栄えているのだろう? ならサキュバス族が滅ぼすことなど出来るわけもない。あの世界が滅んで、アダム様が帰ってくる……そんなことを期待しているのだろうが、無理だろうな」
魔王がそう言うってことは。
「……リリスはアダムが帰って来ることを期待しているのか」
俺の問いに、魔王は頷く。
「余はそう考えている。でなければリリス様はサキュバス国など作らず、自分の命を存続させる為だけに異世界転移するはずだ。その方がリリスの生存は脅かされぬ。サキュバスは少数の人間からエナジーを吸収すれば良いのだ。なのに、今のサキュバス族達は……明らかに人類そのものを魅了しようとしている。……奇妙なのは、魅了の方が文明の破壊より優先されることがあることだな」
「……もっとサキュバスが少なければ……人類がその分、ポルノで脳を破壊されなくなる」
「そうだ。そしてリリス様は文明をもっと作らず、この世界で魔族が豊かになることもなかった」
エヴォルでさえ中世ヨーロッパ的な発展はしている。所謂RPGな街並だ。
しかし……サキュバスが少なくてもドワーフやエルフやドラゴンは勝手に豊かになっていくのではないだろうか? 既に生まれているんだから。
「もうちょっと噛み砕いてくれるか? リリスが文明を作ったってのが分からない」
「……そうか、お前は人間だったな。だからそれすら分からぬか」
俺を見る魔王の顔から笑顔が消えた。なぜだろう、魔王の顔はとても悲しげだった。
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