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生命乃樹

弓の強さをキロ表記にしたのは都合です。当時の中国の単位よりこちらのが分かり易いと思ってこう書きました。

 情景が移る。

 耶律楚材がモンゴル武将達と馬小屋のような場所で話している。

 耶律楚材の話にモンゴル武将達は不満気な顔を浮かべていた。


「馬を活かすべきです。交易の民としては、あなた方の馬の使い方はまだまだだ」


「我らが馬を生かし切ってないだと?」

「不敬な……殺すぞ」


「ひいいいい! 違うんですうううう! 脳筋止めてえええええ!」


 耶律楚材はまたもやモンゴル武将に殴られそうになってる。


「お前はモンゴル軍人相手によくそんなことを言えるな」


「最後まで話を聞いて下さああああい!」


 耶律楚材はむせび泣きながら馬に近づき、


「馬だって、疲れるはずです!」


「そんなの分かってるぜ」

「舐めてんのか、あ?」


「ひいいいい!」


「理由を聞いてやるよ。さっさと話せ」


「は、はい……駅伝システムを作るべきです」


「駅伝システム?」


「馬の休憩所ですね。馬だって走れば疲れるわけです。だったら体力や重要拠点などを計算して予め馬の待機所を造っておけば、乗り継ぎで高速移動が出来る訳です」


 耶律楚材の説明を聞くと、モンゴル武将たちは関心して頷いた。


「ほお、成る程。その通りだな」

「優秀じゃねえか」

「この馬乳酒やるよ」


「い、いりません」


 酒を断られたモンゴル武将達の顔つきが明らかに機嫌悪くなる。


「俺達の酒が飲めねえってのか?」

「飲めよ、飲まないと許さんぞ」


「ひいいい、殴らないでえええ! 飲みます、飲みますううううう!」


 耶律楚材は酒が嫌いなのだろうか?

 泣きながらちびちびと飲み始めた。


 草原覇者チンギスハンが馬にかけより、馬を撫でる。

 その手には耶律楚材の書いた地図。


「ふむ。馬より早い移動手段は存在しない。言うなればこれは……普通の道路と違って速く動ける道路ってことだな。高速道路、といったところか」


 耶律楚材は目を見開き勢いよく馬乳酒を飲む。


「ごぶごぶ。!? なんだこの味、おかしい!」


 モンゴル武将達が耶律楚材を見て怪訝な顔になる。


「何だ?」

「おい、腐ったもの出してないよな」

「い、いや新鮮なものを……まずかったか?」


「……ごくごく」


「な、何て勢いだ」


「うまいいいいいい!」


 耶律楚材は嫌がっていたものの、一旦飲むと馬乳酒をすぐに飲み切ったようだ。


 ……耶律楚材がこんな笑顔になったのは初めて見たな。

 馬乳酒は健康に良いと聞くが、そんな美味しいのか。


「激しい性格だな」

「全くだべ」


 モンゴル武将達に向かって耶律楚材が、


「馬乳って美味しいんですね。これは栄養価も高そうだ」


「そりゃな」

「大地をかける馬だぞ。その元気を貰ってんだから栄養がないわけねえ」


「これは凄い。ごくり、ごくり」


 耶律楚材はおかわりし、ごくごくと馬乳酒を飲んでいく。

 かなり気に入ってるな。


「気に入ってくれて良かった」

「これでお前も、俺達の仲間だ」


「……美味しいもののお礼に、知恵を一つあげましょう。貴方達は弓矢が上手いじゃないですか」


「そうだな」

「いつも鍛えてるからな」

「んだ」


「弓を伝令手段にしましょう」


「は?」


「貴方達、弓は何キロの使ってるんですか?」


「六十」


「六十キロ!?」


 モンゴル武将達が淡々と答えたら、耶律楚材は唖然とした。


「四十~六十キロ。弱い奴はそこまで強くないけど、六十キロがモンゴル軍人らしいモンゴル軍人。精鋭はそのくらい」


「……中国軍なら、三十キロって言ったら達人級とか化け物扱いですが……モンゴル軍というのは凄いんですね」


「へへへ」

「んだべ」


「駅伝システムに利用できます。特に、戦争の時の伝令は……役に立つと思います。離れた位置にいる舞台と緊密な連携を相互に行い、電撃的に勝利することができるでしょう」


「成程な」

「だべべ」


 チンギスハンはモンゴル武将達と一緒に耶律楚材の話を聞いていた。

 彼は耶律楚材をまっすぐ見て、


「耶律楚材、貴様は素晴らしいな」


「ハーン。とった駒を殺してしまうか。とった駒を雇用していかすか。それは大きな違いがあります。貴方達は殺すのでなく、とって使うべきなんです。これからウイグルを倒したら、職人は好待遇で雇いましょう。庶民なら殺して構いませんが、人材なら多少歯向かってきても有能な駒として雇った方がいい」


 とった駒を殺すのでなく雇用する……まるで将棋だな。


「分かった。そうしよう」


「……ハーン、貴方にご相談が」


「ふむ。分かった。場所を移そう」


 チンギスハンは耶律楚材の様子を見て、場所を移動した。

 それはチンギスハンの個室だった。

 占拠した町の一番良い部屋のようで、豪勢な内装だ。


「差し上げたいものがあります」


 耶律楚材の手には箱があった。

 あの中に、何が入っているのだろうか?


「毒入りの食べ物とか?」


「滅相も無い。我々ユダヤ人にとって、最大のプレゼントですよ?」


 そこにあったのは、生命乃樹の図が描かれた紙だった。


「これは……」


 チンギスハンの目が大きく見開く。


 耶律楚材は笑顔で頷く。


「白人もムスリムも、皆この叡智を求めました」


「何だ、これは」


生命乃樹セフィロトです。貴方なら、この意味が理解できるでしょう?」


「……」


「これは霊感ある人でないと見ることができません」


「……」


 チンギスハンの顔がどんどん険しくなる。

 ……俺からすれば、Wikipediaで見たことあるような図だが、そんな特別だったってことか?


〚ロードロード、お前はあの図の意味が分かるか?〛


 俺は「分からない」と答えた。


〚……霊感ある者は本当にあれを見て、驚くのだよ。これは描いてはいけないものが描かれている。それでいて一般人が触れたら運気が落ちるものが描かれている。だから朕は……モンゴルの仲間達にも、宗教を語らなかった。奴等の運気を下げるわけにはいかないからな〛


 そういうものなのか。

 まぁ、最澄が空海に見せてもらおうと思った理趣釈経が普通に見れる現代からすればともかく……昔はすごいものだったんだろうな。


 耶律楚材は笑顔で語る。


「そして、この力は血筋では継承出来ず人を渡っていきます」


「……」


「この紙、どうされますか?」


「私は、力は喰らうが……その図には神が宿っているだろう?」


「ほう……素晴らしい感受性ですな。貴方が感じたならそうなのでしょう。でも私は感じないんですよね。貴方のような素晴らしい感受性はないので」


「そしてその神は、モンゴルの神々を、精霊信仰を許さないだろう」


「……」


 耶律楚材の目は口以上に物語っていた。

 その通りだ、と認めている。

 確かにユダヤの神は多神教を認めない。


 ……草原の覇者は、それを一目で見抜いたっていうのかよ。

 凄い感受性だな。


 チンギスハンはため息をつき、


「喰らってやるが、朕はモンゴル人だ。モンゴルの精霊を裏切ることは出来ぬ」


「では栄光は限定的になります。よろしいですか? 多神教を認めてしまい、国が滅んでしまった王がいました。誰より賢いくせに、誰もが分かる知恵を実践できなかった男です」


 ……恐らく、ソロモン王のことだな。


「あぁ。迷いなどない」


 チンギスハンは耶律楚材に向かって躊躇いなく答えた。


「ではあなたに、この力を継承します。知恵と勇気。冷酷さと残虐さ。全てが磨かれるものです。ですが……いつかあなたの帝国は滅びるでしょう」


「……」


 ギュン、とチンギスハンの手の甲に生命乃樹が一瞬浮かび上がる。


「っぐ」


 生命乃樹は一瞬で消えてしまうが、チンギスハンは苦しみだした。

 チンギスハンの血管が少し浮き出て、耶律楚材は笑う。


「ははは。貴方は化け物になる……これでモンゴル草原どころか、大陸の覇者になれますぞ!」


「……構わぬ。朕は自分の遺伝子を……ばら巻くって決めたからな」

 余談ですが、馬乳酒は美味しいと評判なものの日本では入手困難です。

 ハッピーは飲みたいと思ってちょっと調べてみたんですが、手に入ることできず飲めたことないんですよね。

 馬肉は食えるのに馬乳酒は飲めないなんてがっかりです。

 ちなみに、馬乳酒はカルピスの元になったと言われる飲み物です。


 もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。


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