第14話
地の文も会話文も、長くなるのが悩みです。
車を運転しながら、コウガはインカム式の無線機で学園長に連絡を入れていた。
「ええ、はい、学園長。アキト君とシルバーナ様両名を無事保護しました。2人に怪我はありません。これからそちらに向かいます。…ええ、ええ、わかりました伝えておきます。それではまた。」
学園長への連絡を終えたコウガはアキト達に話かける。
今アキト達はコウガの車の後ろの席に座っていた。シルバーナを真ん中にして、その左隣にアキトが座り、右隣に大きな何かが入ったバッグが固定されてあった。車の後ろ側面と後ろ側の窓にはカーテンが敷かれ、外から見えないようになっていた。窓は全て防弾ガラスで出来ており、襲撃に備えている様子が見て取れた。
「学園長先生に君達の事を伝えました。無事で何よりだと言ってましたよ。あとアキト君は携帯の電源は常に入れておくようにとも言っていました。」
「すみません…、気を付けます。」
コウガのいつもの口調に若干アキトの張り詰めていた雰囲気が和らぐ。それを確認したコウガは話を切り出した。
「さて、それでは状況を説明します。アキト君が学園長に連絡を入れた後直ぐに、学園長と懇意にしている政府関係者から情報が入り、思っていたより深刻な事態になっている事がわかりましたので、急ぎ迎え兼護衛として私が派遣されました。寮のシステムによりアキト君が無事であることはわかっていましたが、実際にこの眼で確認するまでは心配で気が気でありませんでしたよ。」
そういって話すコウガの顔には、本当に安堵している様子が見て取れ、アキトは心配を掛けた事を再び反省した。
「ご心配おかけして申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、その反省を次に生かせれば良いのですよ。そして深刻な事態と言うのは、我が国に亡命しようとしていたアビス貴族フェルミ公爵が何者かにより襲撃を受け、亡くなったと言う情報がもたらされた事なのです。」
「!、そ、そんな…」
コウガの発言の内容にシルバーナは絶句し、みるみるうちに青ざめる。白い肌はまるで死人のように生気を失っていた。
「それは確かな情報なのですか?」
見かねたアキトがコウガに問うと、申し訳無さそうにコウガは答えた。
「いえ…、死体などの確定的な証拠が出てないので本当に殺されたかどうかは定かではありませんが…。すみません…、シルバーナ様にとっては大事な家族の話、配慮が足りなかったですね…。」
「いえ…、覚悟していましたから…。」
気丈に振る舞いながらも、シルバーナの顔色は悪かった。
「そしてどうやら、その襲撃犯人がこの学園の生徒であると、アビス王国の外交官から糾弾されている様なのです。」
「そんな…。」
絶句するアキトにコウガは更に話を続ける。
「もちろん私は生徒達を信用していますし、そんなことある筈がないと学園長も激怒していました。ですが先方は、『我々アビス王国の国民は皆、フェルミ郷を慕っている。間違っても手をかける事はない。だとしたら、貴様の国の導族を嫌う不穏分子がフェルミ郷を殺害したに違いない。』の一点張りで聞く耳を持たないそうです。」
「あの人は!良くも抜け抜けと!恥というのを知らないのですか!」
この外交官というのは、シルバーナ達が海外逃亡しようとした時、他の導族国家への逃亡は王子達の逃亡の影響で難しくなっているからと、ヨミ国への逃亡を勧めて来た人物であり(無論、多大な謝礼を請求してきた)、シルバーナ達の状況を良く知っていた。
そのような人物なので、このような発言は暗殺者達の肩を持つ形になり、裏で暗殺者達とつながっていたと容易に想像できた。
余りの内容にシルバーナが憤慨する。先ほどまで死体のように白かった肌は今は怒りで真っ赤に染まっている。
「ええ、そうですね。ですが外交官が襲撃犯とグルだとまだ完全に決まった訳ではありませんし、早とちりしない為にも慎重になって下さいね。しかし、このままでは国際問題に発展し、引いては戦争が始まるかも知れないとの事で、今政府内は大混乱している状態です。
この内容については箝口令が敷かれ、今政府の役人や警察が学園に集まって事情聴取を行っている所です。シルバーナ様、そこであなたには我々ヨミ側は無実であると証言して欲しいのです。」
「わかりました。私でお役に立てるのならば喜んでその役、仰せつかりましょう。」
幾分か落ち着いたシルバーナは、今度は自らの使命に燃えてした。しかし、アキトのその行動に否定的であった。
「しかし、もし相手が聞く耳を持たないのであるならば、その弁明に意味など有るのでしょうか?
もし、初めから何かしら言いがかりを付けて戦争を始める気なら、シルバーナ様の言葉にも耳を貸す可能性は限りなく低いです。むしろ、暗殺者やスパイにシルバーナ様の居場所を知られてしまう危険性が高いのでは。」
アキトの懸念にコウガは少し困った様に答える。
「ええ、十中八九その通りでしょう。しかし、残りの一、二割の可能性を否定する事はできません。それに、これはアビス国に向けてと言うよりもヨミ国内に向けてと言う意味合いの方が強いのです。」
「…国内の強硬派の動きを抑える為、ですか…。」
シルバーナに危険な行為をさせる事に心底嫌な表情を浮かべながらも、アキトは理性により冷静であった。
「その通りです。もしもこのままアビス側の主張が『強硬路線』のみであった場合、先走ったヨミ国内の強硬派が、アビス王国に対して何か敵対行動を起こすかも知れません。そうなってしまえばアビス王国の民意は強硬派に傾き、穏健派は戦争に対して否定的な態度を採り続けることが難しくなります。
そうなってしまえば、戦争を止めることは叶いません。互いに多くの犠牲者が出るでしょう。そうならない為にも、少々危険ではありますが、シルバーナ様がアビス王国は戦争は望んでおらず、今回の事件は一部の強硬派の陰謀である為、どうか挑発に乗らないで欲しいと主張して頂きたいのです。」
「わかりました。その程度の事でしたら幾らでも。」
シルバーナの気丈な答えにコウガは感心する。
(完全に敵陣直中な環境の中、怒号や非難が飛んでくる可能性が高いのに、悠然として恐れが無い。例えアキト君や私がいたとしても同朋の導族はいないのに、更に庇護者の祖父が生死不明の中、これほどの精神力を持つとは…。やはりそこは幼くともアビス王国の大貴族令嬢、覚悟が違いますね。私の生徒達も見習って貰いたいものです。)
そこで、横で黙っていたアキトが口を開く。
「その弁明の場所に、僕も同席してもよろしいでしょうか?」
「それは構いませんが、どうしてですか?」
巻き込まれたとは言え、一般人のアキトには、シルバーナの弁明の場には同席する必要は無い。
「シルバーナ様の弁明の時は、恐らくかなりの非難がシルバーナ様に集まるでしょう。物が飛んでくるかも知れません。僕はシルバーナ様の横に立って彼女を支えたい、物が飛んでくるなら盾になりたいんです。」
「そんな…!アキト様がその様な事をなさる必要はありません!これは私達導族の問題、あなた様が傷つかれることなど…」
「いいえ、シルバーナ様。」
アキトはシルバーナの言葉を遮って彼女を見る。
「僕はあなたを守り抜くと誓いました。それは暗殺者からも、あなたを非難するヨミ国政府の人からもです。あなた一人にこんな重圧を背負わせません、僕も一緒に背負います。」
「アキト様…。はい…、わかりました…、よろしくお願いします…。」
アキトの言葉に、シルバーナの頬は紅潮し、発する言葉はたどたどしくなる。それを見ていたコウガは優しく微笑んだ。
「今の君なら、大丈夫そうですかね。」
「何ですか?先生。」
「そこのバッグを開けて見なさい。」
アキトがシルバーナと場所を交代し、黒いバッグを開けて見ると、そこには銃器や様々な機械類、それに騎士甲冑が入っていた。
「先生、これは…。」
「もしも君に覚悟が無ければ渡すつもりはありませんでした。覚悟無い者が持っていても危ないだけですからね。ですが君なら大丈夫そうです、これらを君にあげましょう。使う機会が無いに越した事はありませんが、もしもの備えとして持っていて損はありませんよ。説明書はそこに有りますので読んでおいて下さい。」
「わかりました…、ですが、何で甲冑が?」
アキトは銃器などの現代ね武器の中に一つだけ異彩を放つ防具について尋ねた。
「えっ!何でって、着るためですよ?」
コウガはさも当たり前であるかのように答えた。
しばらく道を進んでいると、人気の無い交差点へ差し掛かった。そこで、説明書を読んでいながらも時々外を警戒していたアキトは異変に気付く。
(おかしいですね…。この辺りは普段ならもう少し車や人が通って居ても良いはず…。)
そこまで考えてある答えに思い至るアキト、コウガを見ると、彼も同じ考えの様であった。
「アキト君、シルバーナ様、頭は低くしてしっかり捕まり、喋らないように、少々手荒な運転になります。」
そう言うと、アキト達が指示通りにした事を確認して、アクセルを踏み込んだ。突然、窓に蜘蛛の巣の様な罅が入った。それと同時に複数の車が交差点の左右の建物の死角から現れ、コウガの車の道を遮る様に交差点内で止まる。
「狙撃主は右手側にいましたから…。」
コウガは思い切りハンドルを回しながらブレーキを踏み込み、ドリフトしながら交差点を左に曲がる。次の瞬間、車に衝撃が走る。車の前方左側のタイヤが破裂したのである。
「まさか狙撃!?二名いましたか!こちらの動きが読まれていますね…。」
二回目の狙撃の場所をある程度特定し、一回目の狙撃ポイントと合わせてどちらからも死角となる建物の間に何とか車を隠す。
「仕方ありませんね…。此処で迎え撃ちましょう。」
コウガが車のボタンを操作すると何かが車の後ろから飛び出した。
「ガソリンタンクを排出しました。起爆阻害剤も注入したので爆発もしない筈です。この車はかなり頑丈に作られていますので、下手に外に出るより安全なはずです。本当ならタイヤもパンクし辛いのですが、どうやら細工がされていたようですね…。」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるコウガの言葉に、アキトとシルバーナは戦慄する。スパイがかなり近い所に潜んでいたことがわかったからだ。そんな彼らを安心させる為か、とても穏やかな声でコウガは喋る。
「大丈夫ですよ。彼らは僕が相手をします。先ほど救難信号を入れたので、あと数分もすれば救援が来るでしょう。それまで耐えれば私達の勝ちです。」
「ですがそれでは先生が…。」
コウガの心配をするアキトに、コウガは再び微笑み、
「大丈夫です。私はそう簡単にはやられません。それより、もしも私が突破された時、シルバーナ様を守るのはアキト君なのですよ?」
コウガの言葉に、アキトは責任の重大性に気付いて緊張で顔を強張らせる。
「さっきのバッグの中に小型無線機と発信機が入ってますので、逃げる際はそれを持って行きなさい。なるべく建物の陰に隠れて狙撃を警戒しながら人の多い街中へ向かいなさい。難しいかも知れませんが、頼れるのはあなただけなのです。」
「はい!必ずやシルバーナ様をお守りします!」
アキトとコウガの会話の最中、先ほどの車から降りた複数の人影が、こちらの行動を警戒しながらジリジリと近寄ってくるのが見えた。
「そろそろ時間ですね。練習無しのぶっつけ本番、アドリブのみのダメダメ脚本、それでも役者は踊らなけばなりません、傍で見ている小さな観客のためにもね。」
コウガはアキトとシルバーナの頭を撫でると、車のドアを開けて、狙撃を警戒しながら外へ出た。
「さあ!騎士が姫様を守る物語の開幕です!」
コウガは自らとアキトを鼓舞するために、高らかに声を上げた。
コウガ先生のセリフが臭すぎます。(責任転嫁)




