天翔ける馬車・空を裂く咆哮
「じゃあ天馬車に乗ろう!」
次の日、一行はいろいろ話し合った結果、速さを重視して天馬車に乗っていくことになった。朝早くの車は空いておらず、お昼過ぎの車を予約したので午前中一行は適当に街の周りをぶらついた。
「こっちだよ~! これから中央諸国に行くんだしここでできることは楽しみつくさないと!」
フレンにつれられ、ハナニラは花の姫君のいろんなところに遊びに行った。街の北区にはフレグランスショップがあり、一行はいろんな香りをつけて楽しんだ(ハナニラは特にクローバーのものが気に入った)。
「もうそろそろ時間だ」
クルルが不思議なデザインの腕時計を見ながら言う。
「場所は東門だったよね? すぐ行こう!」
フレンが場所を確認し、一行は泊まっていた宿がある東区の門を目指した。
「これが天馬車…」
ハナニラは生まれて初めて天馬を見た。美しい流線形の背中に細身だがしっかりしてそうな足、ハナニラ何人分かもわからないほど大きくて立派な翼。なんてきれいなんだろう。
「ほら、ハナニラ~乗るよ~」
「はっ、今行く!」
フレンに呼ばれてハナニラは急いで天馬に引かれている車に乗り込んだ。ハナニラが乗り込み、扉の固定を確認した天騎手が天馬にまたがり、指示を出すと、天馬は地面を強くけってジャンプし、後ろにいる車もそれに引かれて離陸した。離陸時は大きく揺れた車内も少し時間がたつと安定し、安心して外の景色を楽しめるようになってきた。
「見て~あそこ! おっきい山~」
「ほんとだ! 雪かぶってる!」
フレンが指さした先には白い帽子をかぶった岩山が姿を見せていた。
「あれは天至山脈。花の姫君と中央諸国の間にそびえる巨大な山脈。巨大な魔力の源泉でもある」
「どんな生き物が住んでるんだろう?」
「そりゃもちろん、巨大な魔力のたまり場っていうんだから、ドラゴンとかじゃない?」
フレンがクルルに問いかける。
「そう、あるいはもっと強大なものとか」
「そんなのが住んでるかもしれないところの近くを飛行しても大丈夫なの?」
ハナニラは不安げに聞いた。
「大丈夫だと思うよ。人間と魔族の戦争に勝利した人間側は数十年かけてすべての魔獣を管理するようにしたから」
ヒャーン
何か遠くの方で音が聞こえた気がした。
「何? 今の音」
ハナニラが聞いたが
「なんか聞こえた?」
フレンもクルルも何も聞こえなかったようだ。
ヒギャーン
まただ、小さな音、しかし確実に何か聞こえる。外がすこし暗くなったような気がした。
「ほら」
ハナニラはフレンとクルルの方を見ながら耳を澄ます。
「中央諸国が近づいてきたのかな? 眠らない街の音かも」
「眠らない街?」
ハナニラが聞き返した。
「そう、ずっといろんな生き物がいて四六時中音も光も止まない街。あれは確か中央諸国の一番東の街だったはず!」
ヒャース!
「もう着きそうなんだ! まだ一時間半しかたってないよ! ラッキ~♪」
フレンがごそごそと降りる支度を始めた。しかし窓から外を見ていたクルルは不安そうな顔をしている。
「おかしい、中央諸国が見えない」
クルルがそういった瞬間、車ががたがたと震えだした。ハナニラは窓から地上の景色ではなく車を引いている天馬の方を見た。天馬が荒ぶっている、その姿は、何かにおびえているようにも見えた。
「天馬の様子がおかしい。何かにおびえているみたい」
ギャース!
音が大きくなってきた。
「この声、まさか」
フレンがばっと窓に顔を近づけ後ろの方を見る。
「ドラゴン!」
そういうが早いかクルルはハナニラとフレンを座席へ押し付けた。その瞬間ーー
「クルル!」
大きな轟音とともにクルルの座っていた後ろ側の席がドラゴンに襲われる。一瞬で車内の小物が外へ飛んでいき、ひどい耳鳴りと轟音がハナニラを襲い思わず両耳を手で覆った。急に温度が下がり凍えてしまいそうだ。後ろで天騎手がパニックになりながら天馬をせかしているが天馬もパニックになってまったくいうことを聞いていない。
ギャアアアアアス!!
けたたましい咆哮とともにドラゴンは次の攻撃を繰り出そうという姿勢に入る。
「つかまって! ハナニラ! 飛び降りるよ!」
この轟音の中でもフレンの声はなぜかはっきりとハナニラに届いた。フレンはハナニラの腕をぎゅっと掴んで飛び降りる。それに引っ張られてハナニラも空中に身を投げ出した。
「うわあああああああああ!」
ハナニラは叫びながらもなんとかドラゴンに目を向けた。ドラゴンはちょうど馬車を粉々にしたところだった。顔をぐっとこちらに向けドラゴンがまた叫ぶ。
「フレン! 来る!」
「クルル!」
フレンがそう叫ぶとクルルが下からフッと現れた。手には真ん中が太った変な形の笛がある。クルルはそれを口に当て、ドラゴンの方を向いて吹いた。
キュウウウアアアアア!
するとこっちに向かってきていたはずのドラゴンんが奇妙な悲鳴にも聞こえる叫び声をあげ体をくの字に曲げる。
「今のはいったい…?」
「レント!」
フレンがそう唱えると猛スピードで落下していたハナニラたち一行の体が、急に羽でもついたかのようにふわっと落ちるようになった。
「はあ、とんだ災難だった」
ハナニラは上をちらりと見た。ドラゴンがちょうど逃げていくところだった。
「今のドラゴンいったい何? 人類の管轄外にあるドラゴンがまだあるってことかなぁ?」
状況がひと段落し、クルルはほっと一息つき、フレンは困惑半分、興奮半分の様子でドラゴンについて考えている。ハナニラは何がなんだかよくわからず、何から質問すればいいか迷っていた。
「さっきの笛みたいなやつ、何なの?」
ハナニラはクルルに尋ねた。
「あれは…龍脅笛。この笛の音がドラゴンは昔から苦手で、今でも使われてる護身用の笛」
「どこでそんなの手に入れたの? それにあのドラゴンは? 天騎手の人は無事かな?」
ハナニラの疑問は尽きない。
「うーん、わからない。全部のドラゴンは人類の管理下にあって、ドラゴンを一般区域に無断で持ち出すことは絶対にやっちゃいけないことなんけど」
「天騎手の人は?」
「多分無事だと思うよ。さっき花の姫君の方向に飛んでいくのが見えた」
「…何かがおかしい」
少し時間がたった後、クルルがつぶやいた。
「うん、そうだね。ドラゴンはとても危険な生き物。特にさっきみたいなやつは一匹で国1つ滅ぼせちゃうくらいヤバイ。だから厳重に管理されてるはずなのに」
「その管理を抜け出して一般区域で暴走した。首につけられていたはずのチェーンを引きちぎって。いや、誰かが切ったのかも。あの切断面は少しきれいすぎる」
「……」
何かヒントになるものはなかっただろうか? ハナニラはじっと目を瞑ってさっきのことを振り返っていたーー突然の轟音、耳鳴り、ドラゴンの咆哮、一歩間違えたら自分が…
「はっ!」
ハナニラは思わず目を開けてあたりを見回した。まだゆっくりと地面に降りていくところだった。ほかの二人は何をしているのだろう。ハナニラはこっそりと二人の方を見た。クルルは地図を取り出し、進むべき方向を確かめていた。フレンは難しい顔をしているしかし…見間違いだろうか、一瞬きらりと目が輝いたように見えたような…?
「フレン?」
「ん? どうしたの? ハナニラ」
フレンがハナニラに目を向けた。その目はいつも通りワクワクしているフレンの目だった。そういえばフレンの目っていつもこんな感じだったっけ。
「ううん、なんもない」
ハナニラはそう答え、次に目的地のことについて考える。中央諸国の東端にある眠らない街、いったいどんなところなんだろう。そんなことを考えていると自然と心の中にあった靄のようなものが晴れ、次の街への期待感が心を満たすのを感じる。きっとフレンも同じことを考えているのだろう、ハナニラはそう思った。
ここまで読んでくださりありがとうございます。遅れてしまってごめんなさい!
スローペースですがこれからも頑張っていきます。




