凡人だって努力したい
ゼファス様から教えてもらった話をルシアンに伝えた。少しでもルシアンの役に立つ情報であって欲しいと思いながら。
伝えた後、ルシアンは考えを巡らせていた。きっと脳が高速回転してると思うんですよねー。凡人ミチルには及びつかない事に気付いちゃったりなんかしてるんだろうなー。
余計な事を発言して思考の邪魔をしないようお茶を淹れてみた。
それにしてもですよ? 外出して戻ったら部屋に軟禁されてアレやコレやのヤンデレ仕様だったのに、まさかの放置!
いやー、新鮮な気持ちでお茶してオリマス。
言い方あれですけど、なんか平和やんな?
考えがひと段落したのか、少し待っていて下さい、と言って部屋を出て行ったルシアン。
おぉ! こんな事かつてなかったよ! それだけ重要な事だったと思われマス。四天王と話し合うのかな。それとも情報収集とかしちゃうのかなー? アサシンファミリーは情報収集もお手のものっぽいし。
ある程度確証を得ないと私には話してくれないけど、秘密主義のオトーサマよりは良いと思うんですよ! お義母様は嫌じゃないのだろうか? ……なんて思ったけどお義母様は普通の貴婦人で、私みたいな人騒がせな属性はないし、トラブルに巻き込まれる事もほとんどないんだろうな……。私も欲しい、平穏……。
こんなに引きこもってるのに、何がいかんのか……。解せぬ。
ゼファス様の言葉を思い出す。
マグダレナの民の血を引いていて、条件が合えば魔力の器を持つって言ってたなぁ……。
私を襲ったキャロルだって平民だったけど魔力の器を持ってたんだよね。女神がきまぐれに器を授けるのだと思ってた。大抵次の代には引き継がれないって言ってたから。
動植物を口にする事も身体に変化をもたらす、って事も言ってた。
魔力の器がない平民達は毒である魔素を自力では分解出来ない。魔力を含む動植物を摂取する事で解毒される。魔力の器を持つ私達マグダレナの民だって変成ばかりしていると器が汚染されていく。それを浄化しつつ、体内の魔力を増やすのが錬成。出来ない場合は魔石を摂取する。
魔力を含む動植物を摂取することで器もいくらかなりと浄化されるんじゃなかろうか?
いくら魔力を含む食材だとは言っても、魔石の方が効果が高いのは純度の問題? それとも量?
ゼファス様のあの口ぶりだと、魔力を含む動植物を食べているだけで一定の効果がある風だったよね。でも器を持てる者は少ない。持つには条件が必要だとかなんとか。
条件……なんだろうなぁ。
色々と考えてみても何も思い付かない。
ルシアンなら気付くって言ってたなぁ。
さっきの様子からルシアンは何か思い付いてたっぽいし、そのうち調査した結果を教えてくれるだろうきっと。そうだそうに違いない。
それにしばらく帰って来ないだろうから、引き続きまったりしてよう。
こんなにあっても食べきれないからって、お菓子を入れたバスケットをゼファス様に押し付けられたんだよね。
あれだけのお菓子の量、常人なら食べきれないだろうけど、常時糖分不足を訴えるゼファス様ならいける気がスル。胃袋が四次元とか亜空間と繋がってるっぽいし。
実際は私を少しでも元気づけようとして持たせてくれたんだろう。本当に天邪鬼だと思う。
いそいそとバスケットからお菓子を取り出したところで視線に気付く。
わぁ……ルシアン。戻って来てた……。っていうか早すぎでは?
「それは?」
バスケットをガン見するルシアン。
ご安心下さい。ただの食物デスヨ。
「お土産にとゼファス様からいただいたものです」
「ふぅん?」
なにゆえそんな冷たい視線をバスケットに……。
あっ、そうだ。この人甘いもの関連で己に苛立ってるんだった! 私に関するとめちゃくちゃ狭量になるって言い切ってたし。
「私もご一緒しても?」
「……モチロンデス」
イケメンの 笑顔の圧が 甚だし(ミチル)
カフェのメニューは最初から多く用意しない。
各国の都市部。つまりギルドが設置されている場所の近くに店を構える。
土地柄というか、国民性というか、住人に合わせた店構え、メニューにするんだって。それでカフェに抵抗感がなくなってきたら、季節毎のメニューや女皇御用達メニューなんかを出していくとかなんとか。
確かに、実はあんまり皇国に良い印象持ってないって国で、女皇お気に入りスイーツはコレでーす! とかやりづらいよね。
「なお、イケメンは配置しないそうです」
にやりと笑うダヴィドにセラが何か投げて、頭にクリーンヒットしてた。グッジョブですよ、セラ!!
「痛いんですってば、それ」
痛む場所を撫でながらセラをジト目で見てるけど、自業自得ですよ。
「あ、でも皇都でしたら人材も豊富ですから可能です」
「不要です」
食い気味に拒否しておく。
イケメンカフェじゃなくて良いって言ってるのに!
カーライルのカフェで見た目の良い店員さんにこだわったのは、貴族の令嬢や夫人をターゲットにするから必須だっただけだし!(いえ、個人的趣味も混じっておりましたことをこの場でお詫び申し上げます……)
今回のカフェは平民向けなんですよ。貴族向けではなく。とは言え貴族の人たちも入れるように分けるとかなんとか?
皇都のカフェは私の好きにして良いって言われてるけど、私には女神の愛し子とかいう恥ずかしい二つ名がありまして……とてもじゃないけどそんな事出来ないYO!
ただでさえメニューで駄目な奴感強いのに……。
「清潔感のある店員にしてくれれば良いわ」
「ルシアン様がお怒りになられるから我慢なさるんですね?」
ダヴィドのこめかみにセラのデコピンが炸裂した。
「余計な事ばっかり言ってるんじゃないわよ。そんなのわざわざ確認しないでイケメン取り揃えるぐらいの配慮見せなさいよ、馬鹿ねぇ」
いや、止めて?
「不要です」
「いいの? 皇太子殿下は許可してくれたじゃない?」
いや、ゼファス様がそこを反対する理由がないだけじゃ……。
ルシアンが嫌がるのも大きいけど、自分の立場なども鑑みた結果、イケメンは不要だと言っているのに。
「私はカフェを成功させたいのです」
ギルドが多くの国に出来て、それがその土地に住む人達の生活基盤を支えるものになってくれて、カフェはゼファス様の糖分不足解消とアルト家の情報収集なんかに使われるとして。情報収集は正直門外漢なんで、口を出すつもりはなく。
ただ、医療とか教育関連のギルドを作っていくにあたって、その二つのギルドの設置には条件が伴う。
支配者層からすれば不要に思えても、それをもって国力を判定されるとなれば対応せざるを得ないだろうと思う。そうなった時、平民を軽んじてる国の内部情報を正しく取得するのに拠点は必要で。
情報収集するだけならこれまでと同じだと思うけど、そこに皇国の包括的支配を目論む祖母の存在があったりする。
その先にはリュリューシュとロシュフォールがいる。だから私も出来る事をしたい。
「それだけを望みます」
イケメンだとかは二の次ですよ。
各国に不満を抱かせたい訳じゃない。
でも事を進めていけば不満を抱かせる事もあると思うんだよね。
だから、どういった事に不満があるのかとか早い段階で知る事が出来たなら、解消に向けて動けるんじゃないかって思う。
理想ばかり口にするなと言われてしまうかも知れないけど、それでもお互い幸せになる方向で努力した方が良いと思うんですよー。
「情けは人の為ならず」
「あっちの言葉?」
セラの問いに頷く。
「人に対して情けをかけておけば、巡り巡って自分に良い報いが返ってくるという意味です」
打算的で申し訳ない。でも、それは相手の幸せあったればこそなんで許されたし。
「随分悠長ですねー」
呆れ顔のダヴィド。
「敵ばかり作るのは馬鹿のする事よねぇ」
何もしてなくても敵しか作らないお義父様みたいな人もいるけどね? いや、何もしてないは嘘か……。
まずはカフェを作って。
医療だとか教育に力を入れて、イリダやオーリーが軽い気持ちで攻めてこようなんて思えないようになったらいい。
文化の発展とかに寄与出来るような凄い知識を持つ転生者じゃなくて申し訳ない。
文房具ぐらいしか知らなくって本当にもう……。
万人を幸せにする事は難しいけど、その努力はしたって良いと思うんだよね。世界を動かすのは大きな力を持つ人や優れた人だろうけど、凡人が頑張ったっていい筈!




