手紙
ラトリア視点です
登城した私を待っていたのは、王、王妃、それからポリット侯。
あらかじめラルナダルト公家から届いた物を持参すると伝えていた為、ポリット侯も登城している訳だが。
そうでなくとも彼の場合は私を始末したくて堪らないから、私が登城する日は必ず出仕していた。律儀な事だ。
私を見るなり、ポリット侯が声をかけてくる。
「呼び出しを受けて出仕したものの、なかなかお越しになられないので何かお有りだったのかと心配しましたぞ、レンブラント公」
表面上は善人を装っているポリット侯は、まるで私を案じていたかのような言葉を口にする。皮肉も言わない。
見た目だけなら、丸みを帯びた身体と相まって、実に人が良さそうに見える。
「お待たせし、申し訳ございません」
礼をすると、陛下は鷹揚に頷かれた。
「レンブラント公、それでラルナダルト公家から届いたものとは?」
「はい、陛下。こちらに」
取り出した赤い布。王太子が身に着けていた飾りを包んだ物だ。
飾りそのものは、本物。ラルナダルトから届いたのも事実。
陛下に飾りを差し出す。
「おぉ……、ジーク……!」
陛下は飾りを手に声を上げる。妃殿下は声もなく顔を手で覆う。ポリット侯に負けず劣らず、お二人とも中々の演技をして下さる。
誰も彼もが演じるこの茶番も、そろそろ終わりに近付いている。
ぐっと唇を噛み締め、拳を握り込んで俯く際にちらと目をやれば、ポリット侯の口の端が上がっていた。
緩んだ表情を慌てて難しいものに変えると、ポリット侯は大仰に言った。
「おぉ、陛下! お妃様、何とお労しい……!」
侍従が謁見はこれまでに、と声をかけてきたのを受け、私とポリット侯は陛下と妃殿下が退出なさるのを、礼をして見送った。
「いやはや……なんとまぁ……」
喜びを御しきれないのだろう、この場に適切な言葉を探すようなポリット侯にため息が出る。
これで今日は私に毒を盛るまい。
「私も、これにて失礼します」
声をかけると、ポリット侯は笑顔になる。
「えぇ、えぇ、どうぞ気をつけて」
疑っていない様子に、苦笑いを浮かべてしまう。
王城を辞去した私は、約束を取り付けていたフレアージュ侯爵邸へと向かう。
王太子妃の生家であるフレアージュ家に到着すると、侯爵が直々に迎えてくれた。
本来ならあり得ない事だが、ラルナダルト家から届いた物をお渡ししたいと連絡していたのもあり、一人娘の安否が気になったのだろうと推察する。
「あぁ、レンブラント公。どうも落ち着かなくてね」
「いえ、侯自らのお出迎え、恐縮しております」
爵位こそ私が上になるが、親程に歳の離れたフレアージュ侯に居丈高に振る舞う程愚かではない。
この方には礼節を以て接する必要がある。私の、目的の為にも。
サロンに案内される。
腰掛けてすぐに茶が供される。
「情けない姿で、申し訳ない」
力なく笑うフレアージュ侯が痛々しい。
「……いいえ、無理からぬ事です」
侯は何もご存知ない。ここに至るまでは秘匿されていたのだから。
一人娘とその子らの安否が知れず、心労がたたったのだろう、洒落ものとして流行の先端を担っていたフレアージュ公とは思えぬ窶れっぷりに、申し訳ない気持ちになる。
預かっていた手紙を侯の前に置く。
封筒に書かれた字に見覚えがあるのだろう。侯が震える手を伸ばす。
「この字は……」
何かに気付いたのだろう、顔を上げて私を見る侯に、頷いて返す。
「お読み下さい」
封蝋こそラルナダルトのものであるが、中の手紙は別の方からのもの。
沈黙が降りた室内で、侯が便箋を手にする音だけが響く。
一度読み、確認するように読み直した侯は、片手で顔の半分を覆った。
「……良かった……」
手紙の送り主は、モニカ妃。
何が書かれているかは知らないが、家族全員無事である事と、今回の騒動に関する事がいくらかなりと書かれているのだろうと思う。
「それから、もう一通」
懐から取り出し、侯に差し出す。
「王よりお預かりしました」
侯は僅かに目を見張り、封筒を手にする。
陛下からフレアージュ侯に向けられた手紙には、今回の仔細が書かれている。
手紙を読み終え、顔を上げたフレアージュ侯はいつもの表情を取り戻していた。
「レンブラント公も、今回はご苦労されたようだ」
「一生分の毒を、頂戴しました」
そう答えると侯は声を出して笑った。
「我らを騙したのだからそれぐらいと申し上げたい所だが、毒に耐性を持つアルト家の者でもお辛かったか」
えぇ、と答えて頷く。
「なにしろ、イリダ大陸の毒にはさすがのアルトも耐性は持ち得ておりませんから」
侯の眉がぴくりと動き、目が細められた。
「……なるほど」
二度程頷いたフレアージュ侯は、私を見て言った。
「謹んで、お受けしよう」
「ご協力感謝します」
これで、私の準備は済んだ。
後はポリット侯。貴方の番だ。




