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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
アルト家 家訓!

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ルフトの毒

 リュリューシュを抱っこする。重くなったなぁ。

 ほっぺぷくぷくのつやつやのすべすべだよ。女子が憧れて止まない赤ちゃん肌ですよ。


「かぁさま」


「なぁに?」


 少し喋れるようになったリュリューシュは、よく呼びかけてくれる。いやぁ、親バカで結構なんですけど、可愛いデス!


「顔に出すぎ」


 リュリューシュの可愛さにデレていたらゼファス様からツッコミが入った。めっちゃ呆れた顔をされた。

 いやいや、ゼファス様見て下さいよ!


「ですがゼファス様、こんなに可愛いのですよ?」


 ホラ、とゼファス様にリュリューシュを渡す。ゼファス様に抱っこされて笑顔になるリュリューシュ。

 母親に似ず、人見知りしない子です。女皇になるのだから、人見知りではない方が良いとは思う。


「ぜふぁさま」


 ゼファスと発音しづらいのか、ぜふぁ様と呼ばれるゼファス様。まんざらでもないのか、ん、と返事してるし。

 天使に抱かれる幼児とか、眼福ものです。我が子だけど。


 ロシュフォールを抱き上げる。リュリューシュより少し重いかなぐらい。

 ふふふ。今日も無表情ですね。何考えてるんだろう、この小さな頭の中で。

 ユーの父上は私の事ばっかり考えてるって公言して憚らないアレな人なんデスヨー。

 ルシアンもこんな感じだったのかなぁ、お義父様もそんな事言ってたもんねぇ。そんなアレな人にそっくりなロシュも将来、病ンデレな、諸々チートなのに残念感があるイケメンになるのかなー。

 ……ロシュフォールに目を付け……いやいや、愛されるのはどんな人なのかなー。

 ……うーん……ごめんなさい……とりあえず謝ってオキマス……。


「ロシュ、ご機嫌はいかがかしら?」


 ほっぺにキスをする。ロシュフォールのほっぺもぷくぷくだ! たまらん! なんだこの雪見だいふく感? いや、マシュマロ?!

 もしや食べられるのでは?!


 ロシュの手が伸びてきて私の頰に触れる。

 小さい手だなぁ。でも生まれた時はもっともっと小さかったんだもんね。大きくなった。

 今のところ問題なく育っているけど、小さい子は熱をよく出すって言うし。

 心配は尽きないよね。


「みちる」


 呼び捨て!

 ロシュフォールが珍しく口を開いたと思ったら、呼び捨てですか、母の名を。さすがルシアンの子ですね。


「かあさま、でしょう?」


 優しく諭すと、む、と口を尖らせた。やっべ、これすら可愛いのは、この子が可愛いからですか? 親バカだからですかね?!


「みちる」


 再度言われた。こんにゃろめ。可愛いけど駄目なんだぞ。こんなでもお母様なんだぞ。


「貸して」


 ゼファス様の腕が伸びてきて、ロシュフォールが私から離れる。

 リュリューシュはセラに抱っこされて喜んでる。


「ロシュフォール、アレはそなたの母親だ。名で呼んではならぬ。

私の事は分かるか?」


 今度はアレ!

 幼児に正論かましつつもアレ呼ばわりとか、ひどない? そっちの方が名前呼びより酷いと思うのは私だけですか?


「ぜふぁす、様」


 なんでそっちは呼べんのよ?!

 母、嫉妬ですよ!


 ゼファス様は頷いて、私を見る。


「呼んでみよ」


「ははうえ」


 おや?!

 かあさまではないけど、呼んでくれたぞ?!

 これ、嬉しいね?!


 ついつい顔が緩んでしまう。


「そうだ。あんなのでもそなたの母親だ」


 あんなの?! 重ね重ね酷いな!

 抗議しようとしたら、ゼファス様の口角が上がる。


「きっと、そなたとリュリューシュを誰よりもいつくしんでくれるだろう」


 ……なんですか、突然。

 なんですかなんですか。

 いつもツンでデレな癖にそんな、反則じゃないですかね。ちょっとどころかかなり顔が緩んでしまって戻せないじゃないですか。


「いつく、しむ」


 ロシュフォールが言葉を繰り返す。お、なんかルシアンっぽい。意味を理解しようとしてるのかな。


「そうだ」


 ゼファス様の子供時代の事はよく知らない。何て言うかそれは、私だけは知っちゃいけないような、上手く言語化出来ないけど、知るべきではない事のように思える。

 本人直々に話して聞かせてくれるなら、心して聞かせてもらうけれども。


「そうよ、ロシュ」


 ゼファス様の腕の中にいるロシュフォールの頰を撫でる。


「母様は貴方を愛していますよ」


 背後でため息が聞こえて振り向くと、ルシアンが壁に寄りかかってため息を吐いてた。


「ミチルに愛してると言ってもらうのは至難の業だったと言うのに……」


 また……!

 子供への愛とさ、異性への愛って違うじゃないですか?

 そこに凹むの、本気でどうかと思うよ?


 ロシュフォールがルシアンに向かって両手を伸ばす。

 ルシアンはロシュフォールをゼファス様から受け取るとまた、ため息を吐く。

 嬉しそうにロシュフォールはルシアンの顔を触る。触られてもルシアンの表情に変化はない。

 えー、良いなぁ、私もあんな風にルシアンの顔触りた……いやいや、ちょっとストップしとこうか、自分。


「親子の愛と言う事で我慢しますが……」


 めっちゃ納得いってない顔ですね。

 毎回思うけど、ほんとこの病ンデレ、無茶苦茶だ。好きだけど。


「いちゃつくのは二人になってからやって」


「いちゃついておりませんよ?!」


 何を言うんだね、ゼファス様!


「ルシアンは誰がいても関係ないでしょ」


 ごもっともですね。


「収穫祭はもうやったの?」


 いやいや、王太子家族が行方不明で心労で倒れてる設定だって言うのに、そんなのやれる筈ないがな。


「行っておりませんが……」


 ゼファス様はルシアンを見て一言。


「一週間後ね」


「かしこまりました」


 頭を下げるルシアンを真似て、ロシュフォールも頭を下げる。

 ロシュフォールって、ルシアンが大好きっぽいんだよね。だからお義父様のこと……。







 収穫祭をやるならば、是非にやりたい仮装パーティー!


「楽しそうねぇ」


 誰にどんな仮装をしてもらうかを紙に書いていく。


「楽しいわ。けれどとても悩ましくもあるの」


「悩ましい? どうして?」


「どなたにどの役をやっていただくか、迷ってしまうわ」


 ドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男、そういったものは実はこっちの世界でも知られている。

 何故かと言うと、どう考えても君、転生者でしょ! っていう人が書いた物語に出て来るからだ。

 前に読んだリュドミラが残した破廉恥本にも狼男とか出て来てたし……。


 ドラキュラ──お義父様

 フランケンシュタイン──ダヴィド

 狼男──ルシアン

 天使──ゼファス様

 バニー(仮)──ミチル、モニカ


 ここまで書いていた紙を見てセラがうーん、と唸る。


「大旦那様、ドラキュラの格好と言っても普段通りよね?」


 ……確かに?

 あれはあっちの世界でやるからこそコスプレになるんであって、こっちの世界では普段着だな?


「天使も聖下がやるなら教皇の衣装と変わらないわよね?」


 ……ごもっともですな?


「で、なに、このバニーって?」


 言葉では説明出来なかったので、図解した所、久々のデコピンをくらった。

 い……痛いよ、痛すぎるよママン……。


 あまりの痛みにカウチに横になって悶絶する私を、セラが半眼で見つめる。……うん、怒ってらっしゃいマス。


「こんな格好、王太子が許す筈ないでしょ。ミチルちゃんも同様よ。ルシアン様に部屋から出してもらえると思ってるの? 狼男なんでしょ? ルシアン様。それに託けて部屋に軟禁よ、馬鹿ね」


 重ね重ねその通り過ぎて反論の余地なし!

 まぁ、とりあえず書いただけで本気でやる気はなかったんですけどネ……仮でも駄目だったらしいよ。


 まだ痛むおでこを撫でながら上体を起こす。


「まったく……」


 呆れた顔で見られております。

 まぁ、やむなし。


「仮装なんてしなくても良いでしょ。謝肉祭で仮面着けたりするんだし」


「それなのだけれど、謝肉祭までには終わるのよね?」


 この、なんちゃって行方不明騒動は?


「………………」

「………………」


「今日のおやつはみたらし団子よー」


 ちょっ?! はぐらかした?!


 淑女としてあるまじいけれども、腕を伸ばしてセラの服を掴む。


「今、どのような状況なの?」


 セラが困ったように眉間に皺を寄せる。


「それがねぇ……」


 なんだか歯切れが悪いですな?

 次の言葉を待つ。


「あっちがまだ、手を出して来ないらしいのよねー」


 え。

 まさか現状で満足しちゃったとか?


「それは、お義兄様も困ってらっしゃるのでは?」


「それはそうなんだろうけど、あっちが動くって事は、ラトリア様も被害に遭う訳だから難しいわよね。

早く毒殺未遂起きろ、とは言えないじゃない?」


 セラの言葉に思わず頷く。

 いくらアルト家が毒に対して耐性があるからって、ノーダメージの筈はない。


 ポリット侯爵の元には毒が届いている筈、と言うのは既に届いている情報で。

 だけどそれをまだ使ってない。使ったら速攻で自分が疑われるって分かってるから?

 頭良いって言うか、意外に頭使ってた、って言うか。


 王太子家族のステータスが行方不明ではなく、死亡になるのを待ってるとか……?


「この膠着状態が続くのは、誰にとって得なのかしら?」


「ラトリア様じゃないかしら?」


「お義兄様? 何故?」


 むしろいつ来るかいつ来るか、と気が気じゃないのでは? 少なくとも私だったらそうなる自信があります。


「ロシェル様は第二子を身籠ってらっしゃるのよ」


 なんと……! おめでたい事じゃありませんか!


「御子息のオーガスタス様への教育は始まっているのよ。アルトの血を引く者としてのね」


 あぁ、知ってます。

 アサシン教育ですね?


 変な顔を私がしてしまっていたのか、セラが困った顔をする。


「また変な事を考えてるでしょう。

まったく、ミチルちゃんは……でも、そうね、少し話しておくわ」


 ん?


「アルト家の血を引く男子が家を継がなかった場合、どうなるのか」


 キース様みたいに他家を継ぐだけなのかと思ってたんだけど、違うの?


 ため息を吐くセラ。

 その様子から、あまり良い話ではないのが窺い知れると申しますか。


「アルトを継がない男子は、子を持てない身体にされるの」


 ?!

 

 これまではね、とセラは付け加えた。

 あまりの事に言葉が出ない。


「ラルナダルトがそうであるように、アルトもまた、血統に厳格なのよ……。

いくらカーライルが大国三国に挟まれた難しい環境下にあるからと言って、ルフト家が毒に長けているの、おかしいと思わない?」


 ざわり、と肌が粟立つ。


 ……あれは、外に対してのものなのだと思っていた。


「ルフトの毒は宗家にも向けられるのよ。だからあのように毒に対して強い耐性を持つに至ったの」


「アルトに生まれた者が他家や他国に渡って、後のカーライル、アルト家に仇なす事がないように、一代限りとなるように毒を盛られるの」


 え、じゃあ、もしルシアンがアルト家を継がなかったら、そうなってたって事?

 ラトリア様は子供がいるけど、それはどう言う事?


「ルシアン様からは何か聞いてる?」


「今回の事は、ラトリア様……お義兄様への試練だろうと言っていたわ」


 セラは二度程頷いた。


「大旦那様はもう一つのアルトを作ろうとしてらっしゃるのだと思うわ。それが出来るかどうか、ラトリア様は試されてらっしゃるんでしょうね」


 もう一つのアルト……。


「規模は大きくないでしょうけど」


 なんでそんな事?


 私の疑問を見透かしたセラが呟くように言った。


「アルトをディンブーラに取り込まれた時の担保でしょうね」


 ロシュフォールとリュリューシュの姿が脳裏に浮かぶ。

 思わずデイドレスを握りしめてしまった。

 咽喉が、乾く。


「……フィン……フィオニアの息子は、次の春にサーシス家当主の元で教育される事が決まったわ」


 アレクシア様と、フィオニアの子。


「二人が婚姻を結ぶ条件の一つが、生まれた子は五才になったらサーシス家の人間として生きていく事なの」


 そんな酷い条件を、アレクシア様とフィオニアは呑んだの?


「そうしなければ、子を残せないようにされるか、最悪の状況になってもおかしくなかったのよ」


 そう説明するセラの方が、私より辛そうに見える。


「ラトリア様が無事に事を済ます事が出来たなら、あの方はアルトの影として、もう一つのアルトとして立つ事になると思うわ」


「ですがそれは、お義兄様の望まぬ未来なのでは?」


 ラトリア様は陰謀とかそう言うのを嫌ってる。

 出来なくはないだろうけど、やりたくはない筈だ。

 それなのに……。


「……オーガスタス様の命を守る為なら、毒を飲むのではないかしらね」


 視線を下に向け、じっとテーブルの一点を見つめるセラ。

 セラも子供がいる。だからラトリア様の気持ちがよく分かるのかも知れない。

 ……私も、ロシュフォールとリュリューシュの事を思うと、今まで忌避した事でも、これまでのように簡単に拒絶出来ない気がする。


「……はじめは、ミチルちゃんが眠りについて、ルシアン様の血筋が絶えた時の為にラトリア様が子を持つ事を許されたのだと思ったのよ」


「あぁ……」


 何処までが、お義父様の中で計画されている事なのだろうか。


「リオン・アルトが天才と言われるのは」


 顔を上げてセラを見る。


「どんな状況下でも必ず好転させるだけの知力があるからなのよ」


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