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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
ミチル きょにゅー化プロジェクト

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ミチルの深淵なる悩み その4

甘さを追求してみました。


今回ちょっと文字数多めです。

申し訳ありません。


 ダヴィドは不思議キャラだと思う。

 初めて会ったのは至星宮で、レーゲンハイム一門が勢揃いした時で、あの時は挨拶ぐらいだったから、まともに話したのは最近なのだ。

 なんかちょっとのんびりしてると言うか。アウローラもおっとりした空気感があるけど。


「ははぁ、この魔道ミルと言うのはなかなか面白いですねー。新しい技術なんじゃないですか?」


「イリダ船の技術を模倣したものと聞いているわ。大きさも性能もまだ及ばないみたいだけどね」


 ほほー、と言いながら魔道ミルを裏返して刃の部分を観察するダヴィド。魔石が入ってないから危なくナイヨ。


「ミチル様は次に何を作らせるおつもりなんですか?」


 ん? 次?

 え、何か文化貢献って言うか、技術革新って言うか、そう言う視点で作らせてると思ってるとか?


「そんなものミチルちゃんにある訳ないじゃないの」


 その通りなんだけどさ、セラ、言い方酷くない?

 あはは、とダヴィドも笑ってるし。遠慮ないな、この二人。


「いやいや、申し訳ないです、そう言う意味じゃなくって」


「?」


 私とセラはダヴィドを見る。


「ミチル様の欲しい物は何でも用意したいってルシアン様がおっしゃるんで、次は何かありますか? って意味でした」


 あー、ナルホド。

 何かしようとした時に前世で便利だったものを思い出すと欲しくはなるものの、今は特にないなぁ。


 ダヴィドの手からミルを取り上げたセラは、慣れた手付きでお皿に盛り付けたティラミスに、仕上げの抹茶をかけていく。そう、抹茶ティラミスですのよ!

 って言っても全部抹茶、ではなくて、抹茶の層とココアの層があるんだけどね。


「はい、ミチルちゃん。召し上がれ」


「ありがとう、セラ。いただくわ」


 わーい! 抹茶ティラミスー!

 口に入れると、ふんわりとした柔らかい味が広がる。

 んーっ、ティラミスうまー!


「美味そうに食べますねー」


「ダヴィドも食べてく?」


 セラが尋ねると、ダヴィドは首を横に振った。


「オレ、甘いものダメなんですよー」


 そうなんだ。ルシアンもそうだけど、甘いもの苦手な男子は一定数いるもんね。セラとゼファス様は例外だけど。


「あら、残念ね」


「オレの代わりにアウローラにでも食わせといて下さい」


「アウローラには不要よ」


 …………ん? 不要? アウローラも甘いもの苦手だったっけ?


「食べないんならさっさと出てってちょうだい。邪魔だから」


「うわ、酷い扱い」


「セラの言う通りだ。今のおまえはルシアン様のお側に侍る事が本分だろう」


 部屋に戻って来た銀さんが言うと、ダヴィドは肩を竦ませた。


「はいはい。戻ります」


 立ち上がったダヴィドは、「何か欲しい物を思い付かれたらおっしゃって下さいね」と言って去って行った。

 あれは一体何のご用聞きなんだろうか? ルシアンなりの逆催促か?


 ティラミスを半分程食べた所で、セラが言った。


「明日はチーズケーキにしようと思うのよ」


「チーズケーキも好きよ」


 ここの所、おやつをセラが用意してくれるようになったんだけど、どういう心境の変化だろうか? ちょっと前は太ったら筋トレだとか言って脅していたのに。

 好きなものばかりだから嬉しいけど。


「そうそう、皇太子殿下から手紙が来てたのを忘れてたわ」


 そう言って胸ポケットから手紙を取り出す。


「おやつの催促かしら?」


「ミチルちゃんに会いたいからに決まってるでしょ。おやつの催促って、どういう認識してるのよ?」


「糖分の過剰摂取を常に必要とする天邪鬼皇太子」


「間違ってはいないわね」


 開封して中の便箋を取り出す。いつも立派な大きな紙で手紙をくれるけど、ゼファス様からの内容はシンプルを超えて短文だから、いっそ一筆書き用便箋をプレゼントしたくなる。

 たたまれた紙を開くと、一行だけ

"菓子枯渇"

 と書いてあった。

 戦中の電報か。いや、イメージで言ってるけど。

 って言うかこれ、手紙にする必要あるか?


「何て書いてあったの?」


「お菓子を持って来いと書いてあるわ」


 むしろ私の説明の方が優しい気がする。


「そこは正しく、会いに来い、と読んであげて」


 苦笑しながらセラは銀さんと私に緑茶を煎れてくれた。

 甘い物の後の濃い目のお茶、美味しいです。


 ゼファス様に持って行くお菓子、何にしようかなー。

 最近燕菓子で攻めてたから、今度は別のものにしようかな。


「次は燕菓子ではないものにしようかしら」


「チーズとかヨーグルトを使ったものなんてどうかしら?」


 チーズも良いね。ヨーグルトか、それも面白そうだけど、何があったかなぁ。ヨーグルトを使った冷たいデザートなんかも良いけど、それはどちらかと言うと夏向けだしなぁ。チーズの方が良いかなぁ?

 執務中も食べるんだろうし、そうなると食べやすい奴が良いかも?







 パティシエに手伝ってもらって、試作品を作ってみた。

 きなこの入った、口に入れるとほろりと崩れるクッキーで、レーズン入りのクリームチーズをサンドした奴!

 こういったものは最初にルシアンに食べさせないと、後がこわ……もごもご……やっぱり旦那様に食べてもらわないとね!


 クリームチーズのレーズンサンドを持ってルシアンの執務室に突撃する。

 あらかじめお邪魔しますと連絡しておくと、長時間拘束……いやいや、長くお邪魔するのは、妻としていかんからね、サッと訪れてサッと撤退したい訳です。


 テーブルの上に置いて、レーズンサンドだよーと伝え、部屋から逃げ出そうとした私の腰にルシアンの腕が回された。ぎゃっ! ホールドされた!

 あっ! みんな部屋から出て行かないで?!


「逃がしませんよ?」


 楽しそうな声で言うルシアン。

 逃がさない、って、それ妻に言う言葉なの?!


「お仕事の邪魔をしたくないのです」


「むしろミチルで満たされた後は効率が上がるとロイエには推奨されています」


 そんな事言って、ユー、そのままなし崩しとか多いじゃないデスカ。いつ効率上がるのよ?


「もう、ルシアン、お仕事をなさって下さい」


 まったく、人の気も知らないで。

 ルシアンの顔を見る。私が大人になったように、以前よりも精悍な顔になったルシアン。

 以前はふとした時に色気が滲み出てたんだけど、最近は常に出てる。出っ放し。源泉垂れ流し温泉(言い方)みたいですわ。

 なんで色気枯渇しないのかな。どういう事? 私なんて出そうと思っても出せないのに。


「珍しい」


 ルシアンの手が頰に触れる。


「ミチルがこんなに私の顔を見つめるなんて」


 嬉しそうに目を細める。


 別に見つめたくない訳じゃないですよ。隙あらば見つめたいぐらい好きでたまらない顔ですよ。見つめてると大概ルシアンにあれやこれやされたりするだけで。

 本当はルシアンに負けないぐらいべったりくっついていたい訳です。それを我慢してるのですよ、私だって。ちょっとくっついたりしたら、それもやっぱり大変な事になるからで。

 好きで好きで、どうしようもないのはルシアンだけじゃないのだ! 愛情表現をすると倍になって返ってきて、恐ろしい事になるから控えめなだけですよ。


「ルシアンのバカ」


「ごめんね?」


 楽しそうにルシアンが言う。いつもそうだけど、絶対悪いと思ってない。


「理由も分かってらっしゃらないのに謝りましたね?」


「ミチルの気分を損ねた事だけは分かりました。笑顔になって欲しいから謝りましたが、足りませんでしたか?」


「足りないです」


「どうすれば許してくれる?」


 そう言って両腕で抱きしめられる。

 きっと何を言っても、この破廉恥イケメンの思う壺なんですよ、分かってるんです。絶対甘やかすって言うか、溶けたくなるぐらいの愛情表現をしてくるに違いない。

 でもね、ミチルだってたまには甘々したくなるんですよ。え? いつも砂を超えて砂糖吐く程甘いだろうって? 奇遇ですね、私もそう思います!

 ルシアンは新婚にこだわってたけど、私としては、ずっと甘いのが夢。理想。願望。

 愛されるだけで満足してはあかんのですよ。自らも動かなくては!


「許しません」


 だから、私からだって、するのです。

 ルシアンのまぶたにキスをする。きっと舐めたら甘いに違いない、蜂蜜色をした瞳を隠してるまぶたに。

 滑らかな頰にキスをする。

 ルシアンの手が私の頭を抱え込むように、強く抱き寄せる。強引だって思うけど、嫌いじゃない。むしろ好き。

 そっと重なった唇は、更に重なって息も出来なくなる。

 伝わるかな、私だって好きで好きで、大好きなんだって事が。


「許して?」


「駄目です」


 私からも抱き付いて頰に頰をくっつける。くすりと笑うのが聞こえて、見ると、優しい笑顔が私に向けられている。私にだけ向けられるこの笑顔。

 ルシアンは分かっているんだろうか? それがどれだけ私を喜ばせるのか。以前はそれすら不安だった。愛される理由が分からなくて。

 今はもう、ルシアンは何故私を、なんて事は思わない。愛されたから愛した訳じゃない。私がルシアンの事が好きだと言う事が重要なのだ。それから、言葉も態度も惜しんではいけない事も。

 それをあまり表に出せないのは、お返しが激しいと言うのもあるし、私があまりに不慣れで、止められる自信がないというのが大きい。でも、これだって慣れていけば加減も分かってくるんだろうと思う。


 思わず息を吐くと、ルシアンがこめかみにキスをしてきた。


「ミチル?」


「ルシアンは本当に分かっていません」


「うん?」


 少しだけ、ルシアンの瞳に不安が混じる。こんな顔、他の人はさせられないと言う事が、どれだけ私を喜ばせるか知ってるのかな。

 私だけが知るルシアン。私だけがこんな顔をさせられる。こんな気持ち、知らなかった。


「罪深いです」


 ルシアンは本当に。


「ミチル、もう少し分かるように話して? 私に悪い所があるなら、直すと約束します」


「全部です、ルシアン」


「全部?」


 予想外の答えだったんだろうと思う。

 もっと分かりやすく伝えるべきなのは分かってる。でも、そう言うのはもうちょっと待って欲しい。時間がかかっても上手になれるように努力するから。


「全部好き」


 ルシアンが目を僅かに見開いた。驚いた顔で私を、瞬きもしないで見つめる。

 私は言い慣れていないのもあって、愛の言葉を上手く言えない。上手い事言おうとすると失敗するから、素直に言う。


「全部、全部好きです。愛情表現をしたら、どう止めていいのか分からないぐらい、胸が痛いぐらい好きです、ルシアン」


 ルシアンが目を細めた、と思った瞬間、強く抱きしめられた。苦しいぐらいなのに、嬉しくて。

 噛み付くようなキスを何度も何度もされて、全部ルシアンのものになる。


「ミチル、愛してます」


「もっと聞かせて下さいませ」


 細胞に染み込むぐらい聞かせて欲しい。


「愛してますよ、ミチル。私の全て」


 嬉しくて、胸がくすぐったくて、もっと奥は熱くて。


「私のルシアン」


 誰にも渡したくない。誰かが、ミチルより自分の方がルシアンに相応しいなんて思うのも嫌だと思ってしまうぐらい。みっともなくてもいい。そもそも私はみっともよくないから。恥とか外聞とかどうでも良い。

 貴方の隣に立つのは、私だけでありたい。


 愛してるんです、ルシアン。どうしようもないぐらい。







「それで、レーズンサンドはどうだったの?」


「…………あ」


 セラの問いに、すっかり忘れていたレーズンサンドの事を思い出す。

 えへへ、と、とってつけたように笑って誤魔化すと、呆れた顔を一瞬させたセラ。


「まぁ、良いわ。味も大事だけど、重要なのはそこじゃないから」


「?」


 味は大事だよね?


「気にしなくて良いわよ。ミチルちゃんはルシアン様から愛されていれば良いの」


 それはそれでどうなんだろう。

 夫婦仲が良いのは大事なことだけどさ。

 アルト一門のヒトタチは、何でこう、私とルシアンを二人っきりにさせようとするんだろう? 前から疑問だったんだよね。


「以前から気になっていたのだけれど……何故、皆はルシアンと私を強制的に二人にするのかしら?」


 あ、ルシアンが病ンデレだから? それが一番かも知れないな?


 怪訝な顔をしてセラが言った。


「まさか嫌だなんて思ってる訳じゃないわよね?」


「それはないの。ただ、皆、ルシアンの味方で、私の味方がいないでしょう?」


「え?」

「え?」


 セラと見合う。

 ん?


「嫌じゃないのよね?」


「嫌ではないわ」


「じゃあ間違ってないじゃない?」


「えっ、でも、ホラ、恥ずかしかったりするでしょう?」


「なんだノロケなのね」


 ノロケ……?!

 いや、でも、ルシアンの暴走?を止めて欲しいとかってあるじゃない?

 私といちゃいちゃしてないで仕事に専念した方が……。


「まだ恥ずかしいとか言い出すなんて、ミチルちゃんは成長してるんだか、後退してるんだか分からないわぁ」


 ぅぐ……っ。

 セラの言葉に、何も言い返せない私。

 挙句ため息を吐かれてしまった。


「大体、ワタシ達が二人っきりになるのを止める理由なんかないわよ。主人夫妻の仲が良いのが一番だし、ルシアン様は病ンデレだし、ミチルちゃんはルシアン様を愛してるんだし、ヤンデレの取り扱いは慎重に、って言ってたのはミチルちゃんでしょ?」


 モシモシ?

 それ、本当の所はルシアンが病ンデレって言うのが最大の理由なんじゃないの?


「それにしてもミチルちゃんてば、気付いてないのね?」


「?」


 気付く? 何の事ですかな?


「ルシアン様と二人きりの時間を過ごした後、凄い幸せそうな顔してるのよ、ミチルちゃん」


「?!」


「だからワタシ達としては、ミチルちゃんてば恥ずかしがってるけど、幸せなんだなー、って思うわよ、当然ね」


 顔が熱くなる。顔だけじゃなくて全身。汗まで出てきた!


「そ、そんなに……?!」


「そうよぉ」


 うふふ、とセラが微笑む。


「でも、ミチルちゃんが恥ずかしくって嫌だ、って言うなら、命がけで止めない事もないわよ?」


 ルシアンを止めるのに命かけるの?! そういえば前にロイエとセラがルシアンにやられた事アリマシタネ!


「どうする? ミチルちゃん」


「ぅ…………」


「あ、そうそう。ワタシが調べた、胸を大きくする方法だけど」


 イキナリ話が変わった?!


「大豆も良いみたいだけど、チーズやヨーグルト、ミルクなんかも良いみたいよ」


 だから最近セラが乳製品のおやつばかり出すのか!


「入浴後のお手入れの方法も、効果的なものに変えてもらったのよ」


 そうだ! エマとクロエによる入浴後のマッサージも変わってた!

 ……ぼんやり受け入れててスミマセン。


「それから、一番重要なのが、愛される事」


 ?!


「ミチルちゃんがあんまりいちゃいちゃしたくないって言うのなら、抑えめにしていただきつつ、ルシアン様に効果的な方法をお願いしなくちゃねぇ」


 効果的なホーホーってナンデスカ?!(悲鳴)

 それに、そんな事を知ったらルシアンがまた、それを理由にあんなことやこんなことをしてくるかも知れんではないか?!

 いちゃいちゃが嫌な訳じゃないけど、なんか、それは違うって言うか嫌って言うか……!


「け、結構です、このままで……!」


 セラがにっこり微笑んだ。


「了解☆」






 夜。

 湯浴み後に、エマとクロエに香油を塗り込まれていく。言われてみれば、確かにそこ、念入りにマッサージするんだ?! と、脳内ツッコミ入れたくなった。気持ち良いなーしか思ってなかった自分ちょっと殴りタイ、恥ずかしい。今更ですけど。


 いやー、もう、自分が思った以上にゲンキンなのを知るのって、本当恥ずかしい!

 そんなんなってたら、皆、進んで二人っきりにするよね。自分だけ気付いてなかったのかな?!

 ルシアンも気付いて?! そうなる相手なんだから、当然知ってるよね、やっぱり。


 恥ずかしくて、自分しかいない寝室のベッドで枕に顔を埋めて脚をバタつかせた。


「暴れたいの?」


 顔を上げると、ルシアンが壁に寄りかかって笑ってこっちを見てた。

 起き上がって枕を抱きしめて顔を埋める。は……恥ずかしい……。イロイロ恥ずかし過ぎる。


「髪が乱れてる」


 隣に座ったルシアンが、笑いながら私の髪を指で梳いていく。


「ほら、苦しくなるでしょう?」


 枕を取られてシマッタ。

 両手で顔を挟まれる。


「顔が真っ赤。何かあった?」


「る、ルシアンは……」


「なぁに?」


 髪にルシアンのキスが落ちてくる。


「あの……私が……」


「うん」


「ルシアンとその……過ごした後の私は……」


 駄目だ! これ以上聞けない!

 幸せそうな顔してましたか、なんて聞ける筈がない!


 あぁ、と言ってルシアンが柔らかい笑みを浮かべる。


「とろけたように、甘く愛らしい状態になりますね」


 ぐはっ!!

 ヤバイもう無理! 穴! 穴に入りたい潜りたい冬眠します!!

 逃げるように布の中に潜り込んだ私を、ルシアンが布の上から抱き締める。クスクスと笑う声が聞こえる。


「もしかして、気付いていなかった?」


 頷く。

 強く抱き締められて、布の上から頰にキスをされる。


「愛しい人」


 ううううううっ! 恥ずかしいぃぃぃっ!


「顔を見せて?」


 首を横に振って、布を掴んで顔が見えないようにする。


「そんなに恥ずかしがられると、もう二度とミチルに触れられなくなってしまう」


 それは……それは駄目……!

 布を掴む手を放すと、ルシアンが布をめくった。

 うっとりしたような、とろけるような笑顔を浮かべたルシアンの顔が目の前にあった。

 頰にキスをされる。


「貴女は本当に、私を堪らない気持ちにさせる」


 うぅ……違う意味で私もたまらないです……。居た堪れない……。


「とても、可愛い」


 ルシアンを見る。嬉しそうな顔をしている。

 恥ずかしいけど……ルシアンの側にいたい。触れたい。抱き締められたいし、キスもしたい。声も聞きたい。

 実際、幸せなんだからそうなるんであって。それはその、恥ずかしいけど、悪い事ではないんじゃないかな、うん。そう、きっとそうなんです。


「……ルシアンの側にいられると、幸せになるのです」


「私も幸せです、ミチル。貴女が私に幸せをくれる」


 ルシアンに幸せな気持ちをあげられてるのか。そっか。それは凄く嬉しい。私ばかりが幸せなんじゃなくて。

 そっか。良かった。


 優しいキスが降ってきて、嬉しくて、ルシアンに抱き付く。


「ねぇ、ミチル」


「なんですか?」


「近頃、私とバフェット公に噂が立っているんです」


「噂?」


「私とバフェット公が、胸の大きな淑女が好みであると言う噂が」


「!?」


 私を見るルシアンは笑顔なんですが、目が笑ってません。おおお、怒って……?!

 って言うかなんでそんな噂が?!


「どう言う事か教えて?」


「えっ、あのっ」


「夜は長いから、じっくり教えてもらおうかな」


 お……おたすけをーーっ!!


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