気持ちの変化
部屋に戻ったイリスはそっと手首に嵌められた腕輪を撫でた。シリウスに嵌められた銀の腕輪…。シリウスの所有者の証として嵌められたこの腕輪がイリスは始めは嫌いだった。まるで本当にペットのような扱いに憤りすら覚えていた。でも、今は違う。イリスは最近ではこの腕輪がシリウスと繋がっているかのようで嬉しく思えるようになっていたのだ。今では外してほしくないとすら思っている。いつからそう思うようになったのだろう。イリスは自分の感情の変化に戸惑っていた。気付いてしまったのだ。自分の気持ちに。いつの間にかイリスはシリウスに恋をしていたのだ。始めは怖くて怖くて仕方がなかった彼の存在がいつの間にかイリスの中で変わっていた。彼に深い尊敬と信頼を抱くようになってしまった。冷たい言葉とは裏腹に気づきにくい優しさでイリスを守ってくれていた。日々一緒に過ごす中で彼の真面目で努力家な一面に触れ、惹かれた。イリスが困っている時はさりげなく助けてくれた。見捨ててもよかったのにイリスを救ってくれた。自覚してしまったらイリスはシリウスと過ごした時間を思い出し、次から次へと彼の魅力に気づいてしまう。だからこそ、ショックだった。船長と一緒にいたシリウスを見て。美男美女でお似合いの二人だった。それこそ、絵になる位に。恋心を自覚した途端に失恋だなんてイリスは乾いた笑いを浮かべてしまう。でも、これでシリウスが今までイリスに手を出さなかった理由が分かった。実は、始めシリウスに捕らわれた時にイリスは貞操の危機を抱いていた。もし、彼に関係を強要されたらどうしよう。海賊は女を攫って慰みものにすると聞いていたから無体な真似をされたらどうしよう。不安で仕方がなかった。だから、正直シリウスがそういった気配すら見せなかったことに安心したものだ。きっと、シリウスにとってイリスは子供で性的な魅力を感じなかったのだろう。あれほど、容姿の整った人だ。イリスでなくても、船を下りればたくさんの美女が寄ってくるだろう。彼なら女には困らない筈だ。そう納得した。女としてそれはどうかと思うがイリスは女としての魅力とか自尊心よりも貞操が守られる方が遥かに重要な事だった。でも、今なら分かる。彼がイリスに手を出さなかったのは恋人がいたからだ。メアリーというあれだけの美女が傍にいるのだ。イリスのような平凡な女など食指も動かないのだろう。以前はそれで安心できた筈なのにシリウスにとってイリスは恋愛対象外であるのだと思い知らされ、落ち込んだ。それでも、イリスはシリウスに対する気持ちを諦めることはできなかった。
―シリウス様は自分に逆らわない限りは私を守ってくれると言ってくれた。だから、自分の傍を離れるなって。なら…、なら私は…、
イリスはギュッと腕輪が嵌まった腕を抱き締めるように反対の腕で抱え込んだ。そっと腕輪に唇を寄せる。彼が許してくれる限りは傍にいたい。私はシリウス様が好き。この気持ちはそう簡単に消えるものではない。二人の間を邪魔するなんてそんな図々しい真似はしない。ただ少しの間だけでもいい。もう少しだけシリウス様と一緒にいたい。そうイリスは願った。




