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秘宝の乙女は海賊に囚われる  作者: 柘榴アリス
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戦闘

イリスはシリウスと向かい合って食堂で食事をしていた。チラリ、とシリウスを窺う。周りは下品に笑い、酒を飲んで大口を開けて音を立てて食べ、豪快な食べ方をしている。あまり、綺麗な食べ方とはいえない。イリスは街娘の出身とはいえ、ライオネルに引き取られてからは貴族令嬢と変わりない教養と礼儀作法を受けてきた。あまりにも馴染みのない光景にたじろぎそうになる。でも、シリウスは違う。彼は音一つ立てることなく、スープを口にして、品よく食事をしている。マナーも洗練されている。イリスは彼も貴族としての教育を施されたのだと感じた。

―どうして、彼は海賊なんかに…?

イリスは疑問に思ったが深く聞かない方がいいだろう。海賊は色々と複雑な事情があって海賊船に乗る人間が多いと聞いたことがある。ただの好奇心で追及して彼の機嫌を損ねたらそれこそ、自分の身が危ない。イリスはそう思い、気にしないことにした。イリスは黒パンを手にして、それを一口サイズに裂こうとした。が、石のように固くて全くちぎれない。パンと格闘するイリスを見て、シリウスは手を伸ばすと、

「貸せ。」

「あっ…、」

ひょい、とパンを持っていかれる。彼は石のように固くてイリスではちぎれもしなかったのに難なく、食べやすい大きさに裂いた。それをイリスに無言で差し出した。

「あ、ありがとう…、ございます。」

イリスは感謝を言い、シリウスはああ、と頷き、黙々と食事を続ける。無愛想だけど…、こうしてよく気が付いてくれてさりげなく助けてくれる。もしかしたら、彼は優しい人なのかもしれない。そう思い始めた。イリスはシリウスが裂いてくれたパンを口にする。黒パンはパサついていて、噛んで咀嚼するのも一苦労なほどに固く、味も美味しいとはいえない。でも、不思議と温かい味がした。少しだけほっこりとした気持ちでいると、不意にシリウスは食事の手を止めた。顔を上げ、周囲を見渡す。

「シリウス様?」

「アラン。部屋に戻れ。」

「えっ?でも、まだ…、」

「いいから今すぐに…!」

その時、ドオーン!という大砲の音と共にぐらり、と船が揺れた。

「敵襲だー!」

「きゃあ!?」

イリスはバランスを崩して倒れそうになるが真正面にいた筈のシリウスがいつの間にか傍にいて、支えてくれた。

「ご、ごめんなさい…。」

謝るイリスを見て、シリウスはチッと舌打ちをし、イリスの手を引いた。

「し、シリウス様!?」

「直に戦闘が始まる。お前は足手まといだ。早く部屋に戻って大人しく籠っていろ。」

シリウスはイリスの手を引きながら部屋に向かう。イリスも必死でシリウスに続いた。甲板に出ればもうそこでは戦闘が始まっていた。

「殺せ!全員だ!歯向かう奴は容赦なく斬り捨てろ!」

グレンの命令が聞こえる。細身の剣を振るい、相手を斬りつける姿が目に入る。返り血を浴びたその姿はまるで獲物を狩る肉食獣のように獰猛で恐ろしい。イリスは目を背けた。目を背けた先にはアロイスがいた。手にしていた短剣を振るい、敵を切り裂いていく。その表情は…、笑っていた。突然シリウスが立ち止まった。次の瞬間、目の前に誰かが倒れ込んだ。肩から腹にかけて斜めに斬られ、酷い出血だ。男は絶命していた。イリスはヒッ…!と悲鳴を上げた。

「シリウスじゃねえか…。船医のお前に死なれちゃ困るんだよ…。」

ぬっと現れた大男はジャミールだった。身の丈ほどもある大剣を肩に担ぎ、刃からはポタポタと血が滴り落ちている。その顔や体にも至る所に血を被り、瞳はギラギラと輝き、残虐な笑みを浮かべている。イリスは顔を背けた。ふと顔を上げれば鉤爪を装着したデリックが敵を切り裂いていた。刃に付着した血を舐めとり、猟奇的な表情を浮かべている。

「ほら、戦わねえ奴はさっさと部屋に引っ込んでな。」

ジャミールにそう言われ、シリウスはイリスの手を引いた。イリスは口元を押さえ、ふらふらしながらも必死で足を踏み出した。

「ぎゃああああ!」

断末魔の叫びにイリスは思わずそちらに目を向ける。

「見るな。」

バッとシリウスが目を覆ったが一瞬だけ見えてしまった。ミハイルが十字架を握りしめ、何かを呟きながら手を掲げ、複数の海賊が影のような触手に捕まり、絞殺されていた。

―な、何…?あれは…?

あちこちで聞こえる悲鳴と噎せ返るような血の匂い…。これはまるで…、八年前のあの惨劇の日の様…。平和だった街を襲い、地獄絵図へと変えたあの悪夢…。イリスはう…、不快感に顔を歪ませた。えずいてしまい、食べた物を吐き出してしまいそうだ。しかし、イリスは必死にそれを耐えた。船の上で食糧は貴重だ。折角食べた物を戻してしまう。

「イリス!チッ…、」

シリウスは倒れ込みそうになるイリスを支える。

「死ねえ!」

すると、いきなり剣を振り上げて襲い掛かってきた敵にシリウスは舌打ちをしてイリスから手を放し、隠し持っていた短剣を投げた。短剣は相手の喉に突き刺さり、そのまま相手は床に倒れた。支えをなくしたイリスは床に膝をついてそのまま倒れこんでしまう。

「おい!しっかりしろ!」

イリスを抱え上げ、シリウスは呼びかけた。イリスはぐったりとしている。シリウスはイリスを抱き上げて急いで部屋に運んだ。

「イリス。とりあえず、水を飲め。少しは気分が良くなる。」

そう言って、イリスに水の入った器を口に当て、流し込む。が、イリスは飲み込むことができずに口や首元を伝ってボタボタと服を汚してしまう。シリウスは数秒悩んだが器の水を口に含むと、イリスに口づけた。そのまま口移しで水を飲ませた。

「ん…。」

コクンと喉が嚥下したのを確認し、シリウスはイリスから唇を離した。スウ、と寝息を立て始めるイリスを見てシリウスは漸く一息吐いた。外ではまだ激しい戦闘の音が聞こえた。

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