オタ爽双1
限りなくR17な気がする……ま、いっか!←
人生とはままならないものである。俺は今まさに、それを実感していた。
父親はサラリーマン、母親は専業主婦という平凡な家庭で生まれ育った俺は、何も得意とすることがなかった。強いて比較的まだマシだったのが「勉学」で、小・中と成績が上位だった俺は調子に乗って設立されたばかりの特別科のそれなりの高校に進学した。しかしそこで有頂天になった俺は入学してから一切の勉強をせずにネットや漫画にのめり込み、それに伴い成績は急降下、中学時代の成績は夢だったのかと間違うばかりの赤点オンパレードになった。それでもなお勉強しようとはしない俺を見かねて、母は塾に通わせた……がそれでも成績が上がるばかりか俺は余計にやる気を失いわずか半年で塾をやめてしまった。
高三にもなってようやくやり始めるかと思いきや「どこまで勉強しないでいい大学に入れるか」というどうしようもないゲームを考えた俺は、学校の宿題程度、予習はそこそこに復習は全くせずに最後の高校生活を送った。そして結局センター試験で撃沈、国公立大学をあきらめて奨学金を狙っていた二流の私立大学の工学部に進学することになったのだ。……結局は奨学金すら取れない点数だったのだが。大学生活に憧れていたから、就職と浪人の道は始めから存在しなかったし、親も反対していた。
積極性に欠ける俺は、基本的に自分から声をかけて友達を作ろうとしない。向こうからかけてきた奴とそれなりに話してみて、「あ、コイツ話合うわ」と思えば二人とも楽しめ、そこから流れるままに友達になる、というスタンスをとっている。大学でそれはどうかと思ったが、プログラムの授業で隣に座った奴が気さくに俺なんかに話しかけてくれて嬉しかった。そこからなし崩しでそいつの友達とも話すようになったし、履修科目はもちろんのこと、二人とも選択科目が重なったのもあり一緒に行動することが多かった俺たちは、お互いに一番の「親友」とも呼べる存在になっていた――ような気がする。もちろん、大学内ではだが。
そして二人ともめでたく進級、二年になりまたしても授業のほとんどが重なり、一緒に行動していたのだ。
そんなある日。
中二病を発症させると同時にオタクに体ごと飛び込んだ俺が、久しぶりに部屋の整理をしている時に見つけた中学校時代のアルバム。「うわ、俺わっか!」とか笑いながら眺めているうちに人生のピークだった中学時代を思い出してしまい感傷的になっていると、ふと強烈な眠気を感じた。
「あ、れ……?」
徐々に強くなっていくそれに抗えず、目を閉じてアルバムの上に倒れるのを最後に俺の意識は途切れた――
「……で、ここはどこ?」
ふと目が覚めると部屋にいた。起き上がってみると、どうやら自分はベッドで横になっていたらしいことがわかる。だれかが運んだのだろうか、とすると不法侵入者か?
「ん? ……はっ!?」
撥ねられたであろう箇所を見るために服を捲ると腹筋が割れている。え、なんで? 俺根っからのモヤシっ子なんだけど。体脂肪率十七パーセントの若干ガリガリの痩せ型だったんだけど。これどう見ても体育会系の身体だよね。下手したら体脂肪率一桁とかじゃね? うっわ、筋肉めっちゃ固い。カッチカチなんですけど。
慌てて室内を見回すと家具も棚の上の物も貼られているポスターも、全部が全部見覚えがなかった。ちょっと待って。ここ誰の部屋? 俺のマンガやゲームはどこ行ったの? あのお小遣いとバイト代貯めて買った品々!
戦利品に絶望しながらも部屋全体を見回す。部屋の広さは大体六畳くらいといったところだろうか。机とベッド、いくつかの棚とクローゼットがある程度で、とてもすっきりした印象を受ける部屋だ。色が黒と白でかためられていたり棚に本が並べられていたりと、この部屋の持ち主は几帳面な性格だと伺える。することがないのと何故自分が此処にいるのかを調べるために、悪いとは思いながらも机の中を拝見する。
「……うおう」
所狭しに並べられた小物類、そのどれもがスペースでキッチリと区切られて分類別に分かれている。些か几帳面すぎやしないだろうか。悪く言えば神経質? とにかく全段調べてみたが、手がかりになりそうなものはなかった。まあ自分の机の中に自分の名前書いたもの入れとく奴なんて珍しいわな。前にも教科書類は立っている様子がなく、本格的にこの身体の名前がわからず不安になってしまう。
「んー、クローゼットの方は、と。……おっ」
中には洋服ダンスと棚、かけられている服が何着かあり、棚の中にマンガが立てられている。俺の部屋よりはだいぶ少ないが、それでも平均的に見れば多いほうだろうか。しかし――
「……知ってるマンガが一つもないんだが」
表紙の絵を見るからに新しい部類に入るだろう。全作品を網羅しているといっても過言でないこの俺が、知らない作品ばかり集められているのだ。ふと気になってパラパラと捲って流し読んでみる。くそっ、前髪邪魔だ。
「……」
そっと本を閉じる。何なんだあのクオリティ。いくらなんでも低すぎるだろう。いまどき席替えで隣の席になったからって言って告白されるなんてシチュエーションがあるわけない。しかも実はその女子が一・二を争う財閥のご令嬢で? あらゆる刺客から彼女を守るために生活していくうちにどんどん形成されるハーレム……ベタすぎる。絵がヤバいくらいにクオリティ高いのに展開がありきたりとか超残念なんですけど。
「おっ、センスいいじゃん」
洋服ダンスを開けるとカジュアルな服からフォーマルな格好まで。実に俺好みな服がそれなりの数あった。流石にコスはなかったが、それでも十分過ぎる量のふく。俺と話が合いそうだ。服装と部屋の雰囲気から判断するに、この身体の持ち主がこの部屋の主――男性、ということで間違いはないだろう。服のサイズから判断するに高校生くらいだろうか。……しかし一体ここは何処なんだろうか、そろそろ心配になってきた。
「……まさか、ね」
何となくこの状況に見覚えがある。そう、俺が書いていた、読んでいたジャンルにもこの手の話は多々あったのだから。
「トリップ、的な?」
死んでいないが転生トリップ、ただこの状況を詳しく付け加えるとしたら「憑依トリップ」が妥当だろう。誰かの体をそのままのっとってしまった形になる。
「……だとしたらこの身体の持ち主は?」
憑依にありがちなのは「身体の持ち主の魂が同居している」場合と「完全に魂を追い出した」場合かのどちらかだ。じっと自分の中を探してみるが、どうやらこの身体にはいないらしい――ということは。
「……俺、乗っ取っちゃった系?」
俺、どうやら泥棒らしいです。誰かー! ヘルプミー!!
「……まあ、俺に出来ないことをしようとしても仕方ないよね」
どことなくモヤモヤ感は残るがとりあえず切り替えよう。今のこの状況のほうが問題だ。まず何をするかだが、戻れるか戻れないのかわからないこの状況……こうなったら!
「……よし! もうこの状況を楽しもう!」
前世? の父さんと母さん、並びに姉さん。俺は(多分)元気にやってるので心配しないでください。あと、できれば同人誌や黒歴史気味の小説設定集は捨てといてください……マジで。お願いします。絶対に中身は除かないでください、パソコンのデータも同じく!
「……さて、一先ずこの部屋全域を漁ってみるか」
切り替えたのはいいが、如何せん「憑依」となると事情は大きく変わってくる。「トリップ」の可能性もあるが、パッと見の見た目からして違うのでその線は薄いだろう。しかし気になるのがこの身体の本来の持ち主だ。そして一番気になるのがその容姿。……だってさ、せっかく第二の人生歩んでるんだよ? 見目麗しい美形とかに憧れるじゃん……はい、俺からしたら手も届かない人たちのことですよ。わかってるんです。
「鏡、鏡……ないなあ」
男子学生の部屋に期待した俺が馬鹿だったのだろう、姿見はもちろん、コンパクトミラーの類も簡単に探しただけでは見当たらなかった。ん~、だったら代わりになるもの……と探した結果。
「窓でいっか」
カーテンを開けて反射してきた顔を見ることにした。色合いは分かりにくいが大した問題ではない――そう思ったのだが、鏡の自分を見て俺は絶句した。
「うわ~、モッサリしてる……」
さっきから気になっていた前髪が鼻まで覆っている。なんだこれ、マリモ? 新種の生物かなんか? ……BL学園の王道転校生を連想させる。ん? ということは……。
「今時こんな髪型流行んねえぞ」
小説とかだとこの髪の下に美形があるよな~と、期待を込めて髪をかき上げる。おお、すげえサラサラしてんじゃんと気をよくして窓を見て――固まった。
「……何ですか、コレ」
アーモンド形のつり気味の目に筋の通ってツンと高めの鼻、緩やかに弧を描いた形と色のいい唇。まつ毛は長く、線の薄いあごはスッキリと落ちており肌には黒子もニキビもない――ようは、美形。
「誰、コレ」
まんま「二次元キャラが飛び出してきましたよ」並みの美形がいた。ニッコリ笑うと、右の犬歯が見えて若干の可愛さを増した……繰り返す。何だこれ。どこのキャラクター? 特性で言ったら「爽やかスポーツマン」って感じだろう、黒髪で腹筋も割れてておまけに美形? ……天はコイツに二物も三物も与えたな。これで頭の出来が良かったら俺はコイツを嫉妬で殺しそうになるぞ……あ、今は俺自身か。ってことは自殺か、それはやだ!
……てかちょっと待て。これが俺って冗談でしょ? 自分で言うのもあれだろうけどはっきり言ってスゴくカッコイイ。人形にも女性にも見えない、かといって幼さを残した男前美形、それが今の俺の顔である。……これなんて罰ゲーム? イケメンマスク被ってるフツメンじゃんか!
「ってかちょっと待てよ……」
顔でこれなんだから身体も相当なもんじゃねえの? そう思った俺は来ていたスウェットとジャージを脱ぎ捨て、パンツだけになる。恐らく寝巻だったのだろう、パンツはボクサーパンツで、色も俺好み……悉く趣味が合う件について。ちょっと問題がありませんかねえ。
「うわ、スゲ……」
捲っただけじゃわからなかったが改めて裸体をさらしてみるとその凄さがよくわかる。
「腹筋ボッコボコじゃん! うわ、力こぶ凄……」
元の身体ではうっすらとしか割れていなかった腹筋がボコボコに八つに割れており、生えていた胸毛はきれいさっぱりなくなっている。腕や太股も調べてみると、フニャリと摘まめた筈の肌が全く摘まめない位筋肉がついていた。目立っていた脛毛なども一切残っていない、所謂完璧な「細マッチョ」だ。冗談半分で力こぶを作ってみると綺麗に浮き上がった。維持しながら反対の手で触ってみるとカチカチである。反対の腕も同じく硬く、筋肉はあるが筋肉質ではないという完璧な「肉体美」を披露していたのだ。
「コイツヤバすぎるだろ……ん?」
ふと気になって下着の中をのぞき込んで絶句する。オイオイ、マジかよ。
「凄く……大きいです……」
ちょっと待て、コイツ本当に高校生か? なんだよこの太珍砲。俺大学生だったのに標準サイズだったぞ? 年下に性器のサイズ負けるとかありえねえ……ってかオイ、コイツ淫水焼けしてねえ!? マジで!? 俺童貞だぞ!? あと十年で魔法使いだったぞ!?
「……最近の学生は早熟すぎんだろ……」
なんだよコイツ、非童貞かよ。あーあー、萎えた。超萎えた。俺の敵だ。不貞腐れながら服を着なおす俺は、しかしふと思い出した。
俺の肉体は死んだ、そしてこの身体に乗り移った。イコール、この身体は今は俺の物。
「……フ、フフフ。ぃぃぃぃやっっほうぅぅ!」
イコール、このイケメンと肉体美、加えて太珍砲も俺の物! ぃいよっしゃあ! これはまじで「強くてニューゲーム、しかもハーレム生活」が待っている!
待ってろよ、まだ見ぬ美少女たち! 俺がお前ら全員喰ってやるぜ! ハハハハ……。
ここまで書いて力尽きた。