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全冥死神協会

 死神協会。正式名称を、全冥死神協会という。世界各地に存在し、多くの死神たちが働いている。


「おはようございます」


「おはようございまーす」


 日本支部の建物内に朝の挨拶の声が響く。死神は、いわば死後の公務員。亡くなった人間から選ばれ、適性のある者だけが死神となる。


 勤務時間は午前8時から午後5時まで。残業がないわけではないが、基本的に規則正しく、定時で帰ることのできるホワイトな職場。

……例外部署を除いては


 回収課。現世に赴き、死者の肉体と魂を切り離して回収することが仕事。他、暴れ回り逃げる魂の追跡、捕獲、時に、死神の天敵である悪魔の討伐も業務に含まれている。


 人間はタイミング良く死んでくれるわけではない。だから回収課は、定時出勤も定時退社も基本的に存在しない。回収すべき魂が現れれば現世に赴いて回収する、支部に戻れば書類作成、また回収任務、書類作成、その繰り返しである。


「疲れた……」


 回収課の執務室、狭くてボロボロの部屋。そこに置かれている机で項垂れているのは、13歳にしてエースと称される黒井江仁(くろいえに)だった。魂回収報告書、始末書、修繕費請求書などの書類の山を前に、死んだ目をしている。


 その向かい、灰皿の上に、すでに山盛りになっている吸い殻の上にさらに吸い殻を押し付けているのは、回収課の最年長である鏡夜也仏(かがみやなりふつ)だ。イライラしながら、次々と煙草に火をつけ、一言も発さずに書類を書いている。


「寝たいです……」


 ぼそっと呟いたのは、ソファに座り、書類作成もせずストロングゼロを飲んでいる男。良珠悔六(いいだまくむ)だった。煙草まで吸っている。その姿を見た鏡夜が呆れたように声を出した。


「仕事しろよ」


「眠いので」


「全員眠いんだよ」


「最後に寝たのいつでしたっけ」


「3日前だよ」


 鏡夜は書類から顔も上げずに言った。向かいでは、江仁が船を漕いでいる。頭が前に後ろに、と、ぐらぐら揺れる。書類の字も、何を書いているのかさっぱりわからない。


「お風呂……」


 江仁が寝ぼけ眼で呟いた。

 ここ3日、食事もロクに摂らず、風呂にも入らず、眠らず、ひたすらに業務をこなしていた。


 だが、いつもいつも、こんなに忙しいわけではない。今は自殺が多い時期なのである。それに殺されて亡くなった人の魂。もし、この世に死の形が自然死しかないのであれば、彼らがこんなに苦労することはなかっただろう。


 書類を書きながら、鏡夜はボソボソと愚痴を吐き始めた。


「なんで回収課はこんなに人がいないんだよ……」


「なんでみんなやめていくんだ……」


「3人で回してるなんて異常事態だ……」


 しかも、3人のうち、1人は子供、もう1人はアル中。どうしようもなかった。


「しばらくしたら閑散期に入りますよ、多分」


「そうか」


「多分ね」


 そう言いながら、悔六は新しい缶を開けて飲み始めた。さっきまで飲んでいたストゼロの缶はソファの下に転がっている。


「それにここ数時間、出動命令も下ってないですし、もしかしたら今日は帰れるかも」


「書類が終わればな!」


 鏡夜は机をバン!と叩く。それに驚いた江仁が、少しだけ目を覚ました。目の前には虫が這ったような文字が書かれた書類。鏡夜に見られる前にそっと隠した。


「ねぇ悔六、俺ちょっとだけ寝たい」


「はあ」


「ソファ変わって」


 悔六が返事をするより早く、江仁は悔六を押し退けた。そしてソファに横になる。あっという間に、小さな寝息が聞こえてきた。


 悔六はストゼロを持ったまま、ソファの前に突っ立っている。だが、鏡夜に腕を引かれ、机の前に座らされた。


「書類を書け」


「面倒ですね」


「やらないと終わらん」


「仕方ないですね」


 悔六はペンを取ると、目の前に山積みになった書類の処理に取り掛かった。


 しばらくの間、回収課の執務室には、ペンを走らせる音、ページを捲る音、そして、江仁の小さな寝息だけが響いていた。

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