【暴食の章】三賢者の面前にて
三賢者の面接は、謁見の間では行われなかった。
それだけで、この場が「儀礼」ではなく、
選別であることが分かる。
案内されたのは、食都中枢――
幹の最深部にあたる地下会議室だった。
天井は高く、壁は黒曜石に似た石材で覆われている。
魔力遮断、転移封じ、感知妨害。
(逃げ場はない)
そういう場所だ。
円卓の向こう、既に二人が座していた。
一人は、クロノス。
時魔導士にして、暴食帝三賢者の筆頭。
年齢は測れない。
若さと老いが同時に存在しているような、不自然な佇まい。
感情を見る。
――薄い。
まるで時間そのものが、感情を摩耗させているかのようだ。
もう一人は、穏やかな微笑を浮かべた男。
柔らかな物腰、落ち着いた気配。
だが、その内側に秘めた魔力量は、クロノスに劣らない。
空間魔導士、リオネル。
三賢者の中でも、
「才能」という一点においては最も評価が高い人物。
俺は一歩進み、静かに頭を下げた。
「魂術師・灰崎零。
本日はお時間を頂き、感謝します」
「形式張る必要はない」
クロノスが即座に切り捨てる。
「ここは、審査の場だ」
単刀直入だった。
「アルシャルノ山踏破。
金色熊の討伐。
功績としては十分だ」
一拍。
「だが、三賢者の席は“功績”で座る場所ではない」
リオネルが、静かに言葉を継ぐ。
「君が“危険かどうか”
それを判断する必要がある」
空気が、張り詰める。
「魂術師という存在自体が、ね」
俺は何も言わず、二人を見た。
「聞こう」
クロノスの視線が、突き刺さる。
「なぜ、魂術を使う」
一瞬、言葉を探す。
だが、隠す意味はない。
「……必要だからです」
「必要?」
リオネルが首を傾げる。
「誰にとって?」
「この世界にとって」
その答えに、二人の反応は分かれた。
クロノスは目を細め、
リオネルは、興味深そうに口角を上げる。
「世界、か」
クロノスが低く呟く。
「随分と大きな話だ」
「英雄願望はありません」
俺は、はっきり言った。
「誰かの代わりに犠牲を背負えるほど、
俺は強くない」
セレンの名が、胸を過る。
「……だが」
クロノスが続ける。
「魂術師が現れるたび、
各地で不可解な失踪が起きている」
来るべき話題だった。
「君は、それをどう思う?」
俺は即答しない。
慎重に言葉を選ぶ。
「事実だと思います」
空気が、重くなる。
「証拠はありません。
ですが、魂術師が“消される”存在であることは知っています」
「恐れているか?」
クロノスが問う。
「恐れています」
正直に答えた。
「だから、ここに立っています」
リオネルが、静かに息を吐く。
「面白い」
彼は笑った。
「力を隠す者は多い。
だが、君は力の危険性を隠さない」
クロノスが、円卓に指を置く。
「最後だ」
声が、低くなる。
「犠牲について、どう考える」
俺は、迷わなかった。
「避けられない場合があるのは、理解しています」
一拍。
「ですが、
犠牲の上に成り立つ勝利を、正しいとは思わない」
クロノスの視線が、わずかに揺れた。
「……甘いな」
「ええ」
否定しない。
「それでも、それを捨てたら
俺は魂術師である意味がなくなる」
沈黙。
長い沈黙。
やがて、クロノスが立ち上がる。
「結論は出ている」
彼は告げる。
「灰崎零。
お前は危険だ」
一拍。
「だが、現時点では――
帝国の敵ではない」
リオネルが肩をすくめる。
「監視付き、というやつだね」
「当然だ」
クロノスは冷淡に言う。
「三賢者の席を認める」
俺は、深く頭を下げた。
「承知しました」
こうして俺は、
正式に暴食帝三賢者の一人となった。
それは栄誉ではない。
帝国の闇に、
片足を踏み入れたという宣告だった。




