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【嫉妬の章】鍵のない暗号

 図書館の奥。


 机の上に、紙が並ぶ。


 


 断片。


 断片。


 断片。


 


 東塔、第三層。

 西塔、地下。

 北塔、最上階。


 


 どれも“それらしく”、だが決定打にならない。


 


 サミエムが頭を掻く。


「……無理だろこれ」


 


 正直な感想だった。


 


「全部嘘で、しかも本物の可能性もあるとか、どうしろってんだよ」


 


 ヘリオは何も言わない。


 視線は紙の上。


 


 灰崎も同じだった。


 


 だが。


 


 見ているのは“文字”じゃない。


 


 流れ。


 


 情報の“通り方”。


 


 一方で。


 


 リュミエラは、動かない。


 


 ただ、見ている。


 


 並べられた紙を。


 


 そして。


 


 その“間”を。


 


(……違う)


 


 小さく、息を吐く。


 


「これは……場所じゃない」


 


 ぽつりと、呟く。


 


 サミエムが顔を上げる。


「は?」


 


 リュミエラは紙を一枚取る。


 


『東塔、第三層』


 


 それを、横に置く。


 


 次に。


 


『西塔、地下』


 


 さらに。


 


『北塔、最上階』


 


 並べる。


 


 じっと見る。


 


 そして。


 


「……揃いすぎてる」


 


 灰崎が、わずかに目を細める。


 


 同じ違和感。


 


 だが、言語化はまだだった。


 


 リュミエラは続ける。


 


「東、西、北……」


 


 指でなぞる。


 


「方角がバラバラなのに、“同じ精度で書かれてる”」


 


 サミエムが眉をひそめる。


「いや、だからなんだよ」


 


「普通はズレる」


 


 即答だった。


 


「情報って、均一にならない」


 


 一拍。


 


「なのにこれは、“揃えられてる”」


 


 ヘリオの視線が変わる。


 


 理解した。


 


「……意図的に」


 


 リュミエラは頷く。


 


「うん」


 


「これは“場所”じゃない」


 


 紙を、重ねる。


 


 順番を変える。


 


 並び替える。


 


 そして。


 


 止まる。


 


「……座標」


 


 小さく呟く。


 


 灰崎が言う。


「どういう意味だ」


 


 リュミエラは顔を上げる。


 


 目は、完全に“解く者”のそれだった。


 


「位置じゃなくて、“関係性”を示してる」


 


 紙を三角形に配置する。


 


「東、西、北」


 


「つまり、南が“抜けてる”」


 


 サミエムが口を開く。


「……あ」


 


 気づいた。


 


 今回の潜入先。


 


 南騎士団基地。


 


 ヘリオが紙に書く。


 


『起点』


 


 リュミエラが頷く。


 


「そう」


 


「南が“基準点”」


 


 つまり。


 


 他の情報は、そこからの“相対位置”。


 


 場所そのものじゃない。


 


 “ズレ”を示している。


 


 灰崎が低く言う。


「……なら」


 


「本当の場所は」


 


 リュミエラは、紙の上に指を置く。


 


 空白。


 


 どこにも書かれていない場所。


 


「ここ」


 


 沈黙。


 


 だが。


 


 それで終わりじゃない。


 


 リュミエラの表情が、わずかに曇る。


 


「……でも、まだ足りない」


 


 サミエムが呻く。


「まだあんのかよ……」


 


 リュミエラは静かに言う。


 


「これは“第一層”」


 


 一拍。


 


「“見せていい解”」


 


 空気が、凍る。


 


 ヘリオが紙に書く。


 


『二重暗号』


 


 リュミエラは首を振る。


 


「……もっと悪い」


 


 ゆっくりと、言う。


 


「“解けること”が前提になってる」


 


 灰崎の目が細くなる。


 


 理解した。


 


 これは。


 


「誘導だな」


 


「うん」


 


 リュミエラは頷く。


 


「この答えに辿り着くこと自体が、“想定内”」


 


 つまり。


 


 ここから先に進む者を。


 


 待っている。


 


 サミエムが笑う。


 


 乾いた笑い。


 


「……クソ野郎だな、ほんと」


 


 だが。


 


 恐怖はない。


 


 むしろ。


 


 燃えている。


 


 灰崎が言う。


 


「いい」


 


 短く。


 


「乗る」


 


 リュミエラが顔を上げる。


 


「え?」


 


「どうせ避けられないなら」


 


 一歩、踏み込む。


 


「踏み抜く」


 


 その言葉に。


 


 サミエムが笑う。


 


「いいね、それ」


 


 ヘリオも、わずかに頷く。


 


 リュミエラは――


 


 一瞬だけ迷って。


 


 そして。


 


 決めた。


 


「……行く」


 


 これは罠だ。


 


 分かっている。


 


 だが。


 


 その奥にしか。


 


 嫉妬帝はいない。


 


 灰崎は静かに目を閉じる。


 


 ほんの一瞬。


 


 思い出す。


 


 “奪われた男”を。


 


(……全部奪う、か)


 


 なら。


 


 その“核”を壊す。


 


 奪わせないために。


 


 奪われたものを取り戻すために。


 


 静かに。


 


 戦いは、核心へと近づいていく。

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