第16話:妹の独自行動
私、ユリ・タカセは今日、とても重要なことを確信した。
お姉ちゃんに、確実に「何か」が起きている。
シン・トーキョー第三学区・IRON WOLVES基地・午前7時
「おはよう、お姉ちゃん」
私がいつものように挨拶すると、クレハが振り返る。
「おはよう、ユリ。今日の予定は?」
その返答に、私は微かな違和感を覚えた。
「お姉ちゃん、最近話し方が変わったよね」
「変わった?」
「前はもっと『えーっと』とか『うーん』とか言ってたのに」
クレハが少し考え込む表情を見せる。
「今は即座に答えが返ってくる。まるで...」
私は最後まで言えずにいた。まるで機械みたいとは、さすがに言えない。
「気のせいじゃない?」
クレハが軽く答えるが、その口調も以前と違う。感情の起伏が少なく、一定の調子で話している。
これは絶対に何かある
私は16歳だけど、姉の変化を見過ごすほど子供じゃない。最近のクレハの行動パターン、戦闘能力の急激な向上、そして昨夜聞いた襲撃事件の話...全てが繋がっている。
「今日は学校だから、気をつけて行ってくるね」
私は普通に答える。でも、心の中では既に計画を立て始めていた。
お姉ちゃんに何が起きているのか、必ず突き止める
◇
シン・トーキョー第三学区・企業立総合高等学校・午前10時
三週間夜の11日目の朝。校舎の巨大な透明ドームを通して見える空は、いつものように暗くて重い雲に覆われている。人工太陽システムが白い光を放ち、校庭の遺伝子組み換え芝生を青緑色に照らしている。
私たちの学校は、シン・トーキョーの大手企業が共同出資して建設された最新鋭の教育施設だ。何より重要なのは、ここには各企業の重役の子息・子女が通っていること。つまり、企業の内部情報に一番近い場所でもある。
「ユリちゃん、おはよー!」
隣の席のアイちゃんが挨拶してくれる。アイ・ハイペリオン、ハイペリオン社重役の娘。金髪に青いメッシュ、翡翠色の瞳は遺伝子治療の結果だ。
「おはよう、アイちゃん」
私は戦略的に微笑みかける。今日は彼女から情報を引き出さなければ。
「アイちゃん、お父さんお疲れ様みたいね」
「え?なんで?」
「この間、すごく忙しそうって言ってたでしょ?」
私は以前の会話を正確に覚えている。16歳の記憶力と観察力を侮らない方がいい。
「あー、そうそう!最近本当に大変みたい」
アイちゃんが声を小さくする。
「『重要案件』の会議が連日あるって。でも、詳しくは教えてくれないの」
重要案件
私の注意が集中する。
「どんな感じの会議?参加企業とか分かる?」
「えーっと...」
アイちゃんが考え込む。彼女の瞳の奥で小さなLEDが点滅した。視覚強化サイバーウェアが記憶検索しているのだ。
「オムニテック社とミカド社の名前はよく聞くかな。あと、『特殊技術』っていう言葉も」
特殊技術
私の推理が一歩前進した。お姉ちゃんの急激な能力向上と何か関係があるかもしれない。
「ねえ、アイちゃん。もしも普通じゃない技術を持った人がいたとしたら、企業はどうすると思う?」
「普通じゃない技術?」
アイちゃんが興味深そうに身を乗り出す。
「お父さんがよく言ってるけど、画期的な技術は『確保か排除』が基本だって」
確保か排除
背筋が寒くなった。まさか、お姉ちゃんが...
「でも、ユリちゃんなんでそんなこと聞くの?」
「あ、えーっと...小説を書いてるの。サイバーパンクもので」
私は咄嗟に嘘をついた。でも、16歳の想像力の範囲内として自然に聞こえるはず。
「わあ、すごい!読ませてよ!」
◇
昼休み・ハルカとの情報収集
屋上庭園で、政府官僚の娘であるハルカと弁当を食べながら、さらに情報を収集した。
「ハルカ、お母さんから最近何か変わった話聞いた?」
「変わった話?」
ハルカが箸を止める。彼女の頭に埋め込まれた小さなデータ端子が青く光った。記憶拡張システムが作動している。
「そういえば、『想定外の状況』への対処が必要だって言ってた」
想定外の状況
「どんな想定外?」
「詳しくは分からないけど、『慎重な調査』が必要だって」
私は冷静に情報を整理した。16歳だけど、分析能力は大人並みだ。
収集した情報:1. 複数企業が「重要案件」で連携
2. 「特殊技術」に関する動き
3. 政府も「想定外の状況」を認識
4. 「確保か排除」の方針
全部お姉ちゃんに関係してる可能性が高い
「ねえ、ハルカ。もしも家族が危険にさらされたら、どうする?」
「え?急にどうしたの?」
「いえ、ちょっと考えてただけ」
「うーん...きっと、できることは何でもするかな。家族だもん」
その言葉で、私の決意が固まった。
お姉ちゃんを守るためなら、私は何だってする
◇
午後2時・図書館での戦略的調査
学校の図書館で、私は組織的に情報収集を行った。一般的な企業資料を装いながら、実際には戦略的な分析を進める。
検索キーワード:- 「企業間協力案件」
- 「技術開発競争」
- 「政府企業連携」
- 「セキュリティ強化」
表向きは学習目的の基本的な情報検索だが、実際には現在起きている事態の背景を理解しようとしていた。
発見した情報:- 近年、企業の技術開発競争が激化
- 「革新的技術」を巡る企業間の情報戦
- 政府の「新技術に対する監視体制」強化
- 「特殊能力者」への注目度上昇
やっぱり、お姉ちゃんの能力が注目されてる
私は資料をプリントアウトして鞄にしまった。後でお姉ちゃんに見せて、一緒に対策を考えよう。
でも、その時、図書館の入り口で見慣れない大人の姿を目にした。
黒いスーツを着た男性が、明らかにこちらを監視している。
まさか...
私は16歳らしからぬ冷静さで状況を判断した。慌てるのは愚策。自然に振る舞いながら、相手の動きを観察する。
男性は私が気づいていることに気づいていないようだった。
この状況をどう活用するか
私は迅速に行動計画を立てた。
◇
午後4時30分・計算された行動
放課後、私は意図的に普段と違うルートで帰路についた。これは単なる逃避ではなく、尾行者の正体と目的を探るための戦略的行動だ。
予想通り、黒いスーツの男性が後をつけてくる。
でも私は16歳の女子高生として、自然に見える行動を取りながら、同時に状況を分析していた。
商店街に入ったところで、尾行者は一人から三人に増えた。
完全に包囲戦術を取ってる
普通の16歳なら恐怖でパニックになるかもしれない。でも私は違う。
お姉ちゃんを守るためには、私が強くならなければ
私は人工野菜の反射面を使って後方確認し、逃げルートを三つ想定し、緊急時の連絡手段を確保した。
そして、最も重要な判断を下した。
このまま逃げ回っても意味がない。相手の目的を知る必要がある
◇
午後5時・商店街での対峙
商店街の中央広場で、私は意図的に立ち止まった。
周囲には買い物客がいる。ここなら相手も無茶はできないはず。
「ユリ・タカセ」
黒いスーツの男性が私の名前を呼んだ。声は機械的で感情がない。
「あなたに話があります」
私は16歳らしい震え声を作りながら、実際には冷静に分析していた。
相手は私の身元を完全に把握している
でも、暴力的な手段は避けたがっている
つまり、何らかの制約がある
「お姉ちゃんがどうしたって言うの?」
私は震え声で尋ねた。でも、これは演技だった。
「それはここでは話せません。来てもらいます」
やはり拉致が目的
私は瞬時に判断を下した。
「嫌です!」
大きな声で宣言し、周囲の注意を引く。
「知らない人について行くのは危険だって、学校で習いました!」
買い物客たちが振り返る。男性たちが困惑した表情を見せた。
「お姉ちゃんに何をしたいの?どうして私たちを狙うの?」
私の声は商店街に響いた。これは恐怖による混乱ではなく、計算された行動だった。
「静かにしなさい」
男性が近づこうとした時、私は最後の切り札を使った。
「助けて!知らない人に連れて行かれそうです!」
商店街の警備システムが反応し、自動通報機能が作動した。
男性たちは撤退を選択した。
しかし、私は知っていた。
これで終わりじゃない
◇
午後6時・基地への帰還
基地に戻った私は、収集した全ての情報を整理した。
分析結果:1. 複数の企業がお姉ちゃんを監視
2. 政府も状況を把握している
3. 私も監視対象になった
4. 相手の目的は不明だが、拉致を辞さない
「お姉ちゃん、重要な話があるの」
クレハが帰宅すると、私は迎えた。
「今日、学校で色々調べてみたの。お姉ちゃんを狙ってる組織のこと」
クレハの表情が変わった。
「ユリ、危険な真似はしないで」
「でも、お姉ちゃんを守りたいの」
私は16歳らしからぬ真剣さで続けた。
「私も戦力になりたい。お姉ちゃんがいつも私を守ってくれたように、今度は私がお姉ちゃんを守る番」
「ユリ...」
「今日集めた情報があるの。企業の動き、政府の対応、そして...」
私は尾行されたことを簡潔に報告した。
「これからは、私たちも作戦を立てて行動しなきゃ」
クレハの目に、驚きと誇らしさが浮かんだ。
「いつの間に、そんなに大人になったの?」
「お姉ちゃんの妹だもん」
私は微笑みながら答えた。
「でも、お姉ちゃんの秘密も教えて。私にだって、知る権利があるでしょ?」
今度は、私たちが一緒に戦う番
企業都市の闇は深い。でも、私たちには絆がある。
そして私は、姉を守るためなら何でもする覚悟ができていた。
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