第十五話「憧憬」①
なんで、微妙か。
宇宙機動兵器ってのは、基本的に有人が望ましいとされている。
もちろん、戦場での戦力として考えると、無人兵器や遠隔操縦型の無人兵器も人的資源の損耗を考えると、そう悪くない発想なんだが。
まず、遠隔操縦機は宇宙の距離感ではまるで話にならない。
遠隔操縦機自体は電波式の大昔で言うところの巨大ラジコンってとこなんだが。
例え電波の速度……要するに光の速度でも10万キロも離れると、0.5秒という馬鹿にならないタイムラグが発生する。
遠隔操縦パイロットが、現地の画像を見て状況を判断し、指示を出すまで仮にゼロタイムで反応して指示を出せたとしても、往復1秒のタイムラグは戦場では致命的だ。
実際は、判断に1秒……遠隔指示の処理に1秒、そして、合計1秒のタイムラグ。
かくして、10万キロの彼方の無人機は、その場でおきた事象に対処するのに、最短でも3秒ほどのタイムラグを許容する必要がある。
そんなにかかってたら、反応するより問答無用で先に敵に撃たれて、爆散するのがオチ……。
戦場で三秒も反応が遅れるとか、そんなもん余裕で死ねる。
だからこそ、宇宙の戦闘では遠隔操縦なんて方式はまるで使い物にならないとされている。
ならば、無人兵器のAIに現場での判断を丸投げすればいい、そんな風に考えられたんだけど。
実は、AIってのは、グレーな状況やとっさの判断に難がある。
敵と味方が隊列組んで真正面で睨み合って、ヨーイドンで撃ち合いを始めるなら、AIの正確性や統一群体制御などが生きてくるんだけど。
敵味方が入り乱れるような乱戦や、広域電波ジャミングで戦場が霧に包まれたような状況。
あるいは、敵を認識する前に奇襲された場合など……。
いちいち例をあげるまでもなく、AI判断が一気にグダる事例なんてのは、戦場では枚挙にいとまがない。
そもそも、連中は基本的に想定外に弱い。
その想定外のために、人間様がいる訳でな。
そして、戦場なんてのは想定外の連続と言っても過言じゃない。
要は、無人機ってのはスタンドアロンでの運用にまるで向いていないんだよなぁ。
だからこそ、個別に戦闘させるのではなく、相互連携させた上での集中運用……つまり、群体統制ってのが無人兵器運用の基本になっている……つまり、質より量の発想だな。
だけど、そんな風に密集させて一斉に突撃させたところで、宇宙戦闘機程度の装甲では有効射程内に辿り着く前にあっさり捕捉されて、低出力のレーザーの乱射程度で一網打尽にされる。
その一網打尽にされる対策さえなんとかなれば、工業力に物を言わせての大量生産戦略で、圧倒できるんだが……。
現実は、それを許さない。
結局、多数のデコイ的な無人機に、無双できる高性能な有人機を混ぜ込むことでのハイローミックス思想。
これが最適解なのではと言われており、宇宙機動艦隊構想もこんな風なプロセスを得て、形になりつつあるんだが。
ここに来て、私も宇宙機動艦隊構想……ダメダメなんでは? 位のことは思うようになっていた。
「実際、どうなんだい? 一応、いくつかの目撃情報や撃沈した地球側の君たちへの補給船の規模などから、君達の母艦はkm級よりも小さい500m級の改造輸送艦のような船だと推測しているんだが、そんな程度の規模の船でアステロイド・ベルト帯とは言え、長々と居座れるものなのかい?」
ふむ、直球で来たか。
しかも、結構図星付いてきてる。
一応、補給船は物資を届けたら、火星ステーションへの帰還コースで一目散に逃げ帰る運用なんだけど。
そんな行きで95%が行方不明になるような過酷過ぎる行程……無事に帰れる訳が無い。
案の定、木星に鹵獲されてたらしい……。
でもまぁ、ここまで来たら、洗いざらい正直に話しても良いと思う。
どのみちもはや、アレ以上ゲリラ戦で頑張れるような余力も残ってなかったし、作戦としてはとっくの昔に破綻してたってのが実情だったんだからな。
「そうだね。我々もかなり無理をしてたのが本当のところだよ。実際、地球側の肝いりで作った500m級の最新艦艇でも全然足りてなかったってのが正直なところだ。もっとも、km級の大型宇宙艦を作ろうにも、そこまで行くと地上で作って打ち上げるとか無理があるから、まずは軌道上に大型艦艇の造船設備から作らないとって話なんだけど……。そこら辺はようやっとスタートラインに付いたばかりってのが実情でね」
まぁ、でかい船を作ったら作ったで、今度は4天文単位とか途方もない距離を埋めるための補給網やら補給施設やらの構築やらなんやら、課題は山盛り。
ほんと、もうどうしろとってとこじゃあるんだよな。
ホント、アレス号のときでも、さんざん苦労してたった一隻の宇宙船に補給物資を届けるってためだけに、100隻単位の無人補給船なんて用意してたんだけど。
さすがに、それは大げさとか言ってたけど。
あの時も、無人補給船がデブリとの衝突事故で爆沈とか、ちょっとした加減速やコース変更がきっかけっで、ランデブー失敗とか続出して、100隻で大げさどころか結構ギリギリだったってのが実情だった。
宇宙でのランデブーって、実はめちゃくちゃ難易度高い。
だからこそ、今の技術でも作れる短距離小型宇宙戦闘艦の数をとにかくひたすら揃えまくって、拠点の専守防衛に務めるってのは、ある意味現実的だった。
「そうか……。まぁ、我々は始めから外宇宙を想定して、km級の宇宙艦艇や大型の無人補給拠点艦も建造していたからね。でも、地球はついこの間までせいぜい月くらいまで行ければ十分……そんな発想で、小さな艦艇しか作れないと思っていたのに、もうこんな木星と目と鼻の先の距離まで進出できているなんて、そこは我々も驚いていたんだよ」
実際にアステロイドベルトでのゲリラ戦を想定した大型宇宙戦闘機のイフリートを設計開発したのは私だし、母艦についても逆算式で500m級はないとまるで足りないと言うことで、これもやっぱりAI設計による新規設計艦だった。
ま、まぁ……それで突貫で作られたのが、なんとも不格好なパッチワーク船ってのは、お粗末な話だとは思うんだがね。
実際、お偉いさんもこのドクトリンに勝利の可能性を見たようで、盛大に予算をつけてくれた上に、割と大々的に送り出してくれたのだ。
「地球も侮れない……そう思われていたのであれば、私達が無理してここで頑張っていたのも無意味ではなかったかな。もっとも、この程度で木星相手に戦争出来ると考えてるんだから、地球人のお偉いさん方も現実ってもんが見えてない」
アマテラス条約機構軍側の宇宙艦艇技術については、現状ではかろうじて宇宙の戦場のスタートラインに立った程度のお粗末な代物だと言える。
真面目に宇宙で戦争をするなんてなると、あと軽く10年以上の歳月が必要だろうと言うのがアマテラスもだけど、私自身の見解だった。
ちなみに、私達のアステロイドベルドでの浸透ゲリラ戦術は、費用対効果と言う面では想定以上の戦果ではあったらしい。
人類統合体の大型無人輸送艦を軽く二桁は撃沈。
掃討に出向いてきた無人小型戦闘艦や長距離型の大型宇宙戦闘機も同じくらいは撃破しているし、大型戦艦も沈めるまではいかないが、奇襲に成功して損害を与えて撤退に追い込むことくらいは出来ている。
要は機動兵器を上手く使って、遮蔽物をフル活用しての待ち伏せ戦術。
要するに、接近に気づかれさえしなければ、大型艦艇でも沈めることは不可能ではない……。
もっとも身も蓋もなく言ってしまえば、これは太平洋戦争の頃と同レベルの発想であり、正面切っての戦闘とはとても言えない。
それでも、初めて人類統合体の大型戦闘艦に目に見える損害を与えたと言うことで、地球側ではビッグニュースとして扱われたほどだった。
だからこそ、アマテラス条約機構軍では、お偉いさんの号令のもと、イフリートをベースにした大型宇宙爆撃機や戦闘機、その母艦の開発に多大なリソースを注ぎ込んでいるんだけど……。
現状、イフリートによる長距離奇襲攻撃が成り立っているのは、あくまでここが遮蔽物の多いアステロイドベルド帯だからと言うだけの話で、なにもない宇宙空間で正面切っての対艦戦闘ともなると、イフリートではとても勝ち目はないと言うのが率直な所だった。
機動兵器による対艦攻撃なんて、いくら数を揃えたところで、遮蔽物もないところで突っ込ませたら、光学索敵により、片っ端から長距離レーザー狙撃で撃ち落とされておしまい……それは私だって良く解っているのだ。
「だが、ついこの間まで火星まで進出するのがやっとだったのに、単艦でアステロイドベルド帯に進出するところまで来ているのだから、地球側の技術も侮れないって我々も思っているよ。もっとも、だからと言ってヤクーツク元帥が再三主張しているように、地球の制圧までは必要ないだろうって思うんだがね……」
「もしかして、私達が頑張りすぎた……そう言うことなのかな? けど、君らはそれらは事故だと思ってたんだろう」
「そうだね。我々もアステロイド帯は危険宙域と認識してるから、送り込んだ補給艦が全て無事に到着するとは思ってない。だからこそ、事故で失われる分を想定して、多めに出すというのが常だったんだが。確かに、想定以上の損失が計上されてきてて、不思議には思っていたんだ。もっとも、前々からヤクーツク達は、地球人の浸透戦術だと言い張っててね。勝手に掃討艦隊を出したりしてたのは把握してたんだが……この件に関しては、やっこさんの方が正しかったんだな」
なんとも、暗澹たる気分になる。
私は私なりに、この勝ち目の見えない戦争に少しでも足しになればと言う思いで、技術士官にも関わらず最前線で命がけの戦闘を重ねて来たのだけど。
カール・ミラー総帥派からは、誤差程度の損失としか思われておらず、私達が交戦したのもヤクーツク派の片手間程度の掃討艦隊に過ぎなかったって訳だ。
けど、そうなると客観的に見ると、むしろ主戦派を後押しして、間違った方向へ導いていたような気もしてくる。




