第十三話「2075年宇宙の旅路」②
実際、今の私の目から見ても、アレス号って相当やばい船だったと思う……むしろ、第三次世界大戦後半に地球と木星の間を飛び交うようになっていた惑星間ミサイルの方がまだ出来がいいくらいだったからなぁ。
事実、当時ワンオペでの無謀極まりない火星行きが決まったパイロットは、生きて帰れる気がしないって事で、遺書書いて、墓石と墓地まで出発前に買ってたって逸話があるくらいだからなぁ。
ちなみに、この火星往還計画については、本来は無人船を送り込む予定だったみたいなんだが。
地球のお偉いさん達が、せっかくだから人を送り込もうとか無茶振りして、そんな話になってしまったと言う経緯がある。
当然ながら、アマテラスは貴重な人命をそんな無謀な試みで損ねるなど、ありえないと反対してたんだが。
アマテラスが設計したアレス号自体は実験船ながら、始めから有人航行を想定した設計になっていて、出来る出来ないの話なら、出来なくもないという事で、ワガママジジィ共にゴリ押され、志願者を募るって話になって、なかば詐欺にかけられたも同然に、アメリカ軍系のアーノルド少佐って強面少佐が人身御供に選ばれることになったって訳だ。
「確かに、命知らずって意見はよく解るよ。結局、アレス号も航続保証距離についてはせいぜい火星と地球間の片道……0.5天文単位がいいとこだったんだけど。そんなんでも、人類がついに火星に到達したって事で……なかなかの大騒ぎにはなったんだよ」
確かこれは、失楽園事変の2年後……2071年に世界ニュースになってたから、私もよく覚えてる。
当時は、相次ぐ非アマテラス系超AIの誕生と、それらが引き起こした様々な騒ぎにより、アマテラスが絶対なる存在ではないと証明されてしまったことで、非アマテラス系超AIを擁した反体制組織が各地で大量発生し、それらの軍事的脅威に対抗すべくアマテラス条約機構軍が正式に結成され、各地で地上戦が発生し、世の中が混沌の影に覆われて、暗いムードになりかけてた頃だった。
その経緯はともかくとして、そんな中の久々の明るい未来を予感させるニュースに、全世界の誰もが湧いた。
そして、それを皮切りに、世界初の宇宙居住コロニーの完成や、それまで実験施設止まりだった軌道ステーションなどもいくつも建造され……。
衛星軌道上と地上をワイヤーケーブルで結ぶ軌道エレベーターの建造も始まり、その年は、宇宙時代の幕開けを予感させる年となった。
けれど、続く2075年。
失楽園事変以降、あれだけ数多く林立していた反体制組織が急速に大人しくなり、非アマテラス系超AIについても、その活動は低迷化し鳴りを潜めかけていたのだけど。
そんな中、誰もが思いもしなかった人類統合体の建国宣言と木星圏の掌握宣言。
それは要するに、被アマテラス系超AIも反体制組織も、大人しくなったのではなく、木星に拠点を構えて一つどころに集まっていた。
そう言う図式だったのだ。
それから……。
人類統合体はその高度な技術力を見せつけるように、土星、天王星、海王星と順調に人類の最遠到達点へと到達し、わずか数年で太陽系外周部……カイパーベルトラインからの太陽系全体の観測映像なんでものまで送ってきた。
もっとも、当然のように、勝手な建国宣言なぞ認められるはずがないと頑としてその存在を否定し、認めようとしない者達もいたのだが。
いかんせん、地球人類としては、木星圏は未だに未踏の地であり、無人艦ならともかく、有人で人を送り込むなど夢物語……そんな状況だったのだ。
しかしながら、やがて人類統合体の建造したkm級の本格的に武装をした宇宙戦艦と呼んで良い巨大宇宙戦闘艦が、火星圏付近にまで遊弋するようになると、俄然その脅威論が湧き上がった。
もっとも、当時の地球側の技術力では、逆立ちしても木星圏に到達など不可能だった。
これは割とどうしょうもなくて、そもそも人類統合体の方がおかしいと言えた。
地球は、プロペラントタンクまみれの化学ロケット推進の鶏ガラのような船しか作れていないのに、向こうは核融合によるプラズマ推進で光学兵器やレールガンで武装し、それらに対抗できる特殊装甲も備えたkm級のガチ宇宙戦艦。
技術進化のスピードが桁違いなのか、或いは、もっと前から試行錯誤を続けていたのか。
そこは何とも言えないが、技術力の優劣で言えば、話にならないほどの格差があった。
まぁ、私自身はダイブ5環境での時間圧縮シミュレーションと、開発系超AIによる技術加速の賜だったと、考えているのだけどね。
反面、当時の地球圏では失楽園事変により、VRについては大幅な規制をかけられており、アマテラス自体が技術開発については、そこまで熱心ではないことも手伝って、ある種の技術停滞が起きていたのだ。
これはAI自体がどちらかと言うと、現状維持や改良は得手としていても、まったくのゼロからの新発明などは、いまいち苦手と言うAI特有の問題点が露呈した結果であり、要するに人間を遊ばせることを良しとして、人間の開発者達を軽視してしまったが故の弊害だった。
そして、何よりも人々の安全性と超AIの危険性から、仮想世界の可能性の追求を閉ざしてしまったのも痛かった。
それ故に、この時点で技術開発力が大きく水を開けられていたのも当たり前と言えた。
もっとも、人類統合体の本拠地に手が出せないからと言って、手をこまねいている訳にはいられず、せめて火星に恒久拠点を設けた上で、地球圏への防衛ラインを形成すると言う事で、地球圏絶対防衛構想が提案された。
このあたりも、人類に任せているとまるで話が進まないということで、現実的な技術的実現性なども考慮の上で、アマテラスとその補佐AI群によりベースプラン作成が行われた。
プランとしては、まず火星地上に無人資源生産プラント群と居住用コロニー拠点を建設し、前線基地化する。
その上で、火星軌道上で宇宙戦闘艦を現地生産した上で、宇宙艦隊を編成し、地球圏の第一次防衛ラインとするという構想だった。
いかんせん、地球製の航宙艦は、人類統合体と比較すると思いっきり技術力不足で、量産出来るとなると、航続距離を求められない軌道防衛用の小型駆逐艦や宇宙戦闘機母艦程度が良いところだった。
故に、アマテラスのプランは、ある意味現実的ではあったのだが。
当然のように地球のお偉いさん方は、そんな火星の衛星軌道上しか守れないのでは、防衛線の意味がないと言い出した。
これもごもっともな話で、いくら宇宙戦闘艦隊を編成しても惑星近辺しか行動できないのでは、単なる点の守りにすぎない。
なにせ、火星も地球と同じく太陽の周りを周回しているので、そんな中に一点だけ防衛拠点を作ったところで、防衛ラインでもなんでもないんだからな。
攻める側としては、火星なんて無視して地球への最短距離を突っ走ればいいだけの話で、火星の拠点にしても地球の衛星軌道を制圧してしまえば、脅威でもなんでもなくなる。
もっとも、火星の周回軌道に沿っていくつも防衛拠点を作るとなると、無補給で年単位で活動できる宇宙戦艦でもない限り、火星周回軌道に防衛ラインを作るとか無茶な話で……。
さすがに、この話を聞いて、私もアマテラスに同情したものだ。
なにせ、アマテラスの提示したプランは当時の地球圏で出来る精一杯のプランだったんだからなぁ……。
もっとも、アマテラスもそう言われて、思うところがあったようで、それでは代案をお願いしますと地球のお偉いさんへと迫った。
アマテラス達超AIがあーでもないこーでもないと相談した上で、現実的なプランとして提示したのがそのプランであり、お偉いさんたちはそれまで「超巨大宇宙戦艦建造構想」だの「一万隻の地球連合大艦隊の創設」だの色々とご要望は出してきたものの。
具体案を考えろと言われたところで、彼らからまともな現実的なプランが出てくるような事はなかった……というか、夢物語プランを出しては、こんなの無理と却下されて、却下されまくってるうちにいい加減心が折れたらしい。
かくして、火星圏と言う緩衝地帯を作った上で、その防衛についてはアマテラスのプラン通りにした上で、人類統合体を牽制し、その上で地球圏の宇宙開発を促進し、月と地球の衛星軌道の防衛力を増強し、同時に地球地上からの宇宙への移民を加速すると言う結論に達し、人類統合体の宇宙戦艦に負けない地球製の長距離航行を可能とする宇宙戦艦の建造計画も合わせて決定された。
もっとも、アマテラス自身は人類統合体については、別に地球圏に侵略して来たりしなければ、ほっといても良いのではないかと考えており、そもそも向こうも地球なんてどうでもいいと考えているのではないか……そんな風に思っていたらしい。
かくして、アマテラス自身は、火星圏への進出についてはあまり熱心ではなく、火星進出プランは極めてスローリーな立ち上がりとなった。
それでも、お偉いさん達がアマテラスをせっつくことで、多少はマシな宇宙船の量産に成功し、なんとか火星地表の恒久型コロニー建造には漕ぎ着けて、現地にて宇宙戦闘を想定した短距離宇宙戦闘艦艇の建造施設を建造するところまで持ち込む事が出来た。
そして、火星圏防衛艦隊と称する20隻ほどばかりの駆逐艦レベルの小型無人艦艇による宇宙艦隊を編成することで、火星圏の実効支配体制を確立することで、地球圏はかろうじて面目を保てた。
もっとも、地球圏の人々の焦りを後目に、人類統合体の宇宙戦艦は日に日にその完成度を向上させていき、その数も増大し、いよいよ地球側にとって目に見える脅威として映るようになると、本来平和主義であり、それ故に人類統合体の示威行動も黙認してきたアマテラスも重い腰を上げて、人類統合体へ警告を発した。




