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銀河帝国皇帝アスカ様 零ーZEROー ~スペアボディと呼ばれた彼女が皇帝陛下と呼ばれるまで~  作者: MITT


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第一話「四光年の旅の終わりに」①

 ――帝国暦317年11月

 辺境銀河七帝国、第三帝国エルデン恒星系最外周部エッジワース・カイパーベルト

 サジタリウス級恒星間超大型航行艦一番艦サジタリウスにて――


 ……かれこれ、二百五十年ほどにもなるだろうか。

 随分と永き時を私は、生きてきた。


 誰にも必要とされず、誰にも縛られず、自由気ままな風来坊として生きていく……それも悪くないと思っていたんだが。

 運命の導きとでも言うべきか、ほんの小さな偶然の積み重ねから、辺境銀河第三帝国の皇帝の配下となって、以来長々と帝国の守護者……いや、これは少し違うか。


 さすがに、いくらなんでも不遜にすぎる物言いだ。

 ……いいところ、帝国の雑用係と言ったところかな。


 私には、その程度が相応しいだろう。

 そして、幾人もの皇帝達の下で、様々な雑用仕事を続けているうちに、気がついたら200年以上も経っていた。

 

 まぁ、これが私の経歴と言ったところだ。

 

 もっとも、250年と言う月日は、思い起こしても長い月日だった。

 主君たる第三帝国の皇帝にしても、すでに10代以上も世代交代している。

 

 そして、その誰もが先代が世話になった事で、深く敬意を表した上で相応の待遇で迎えてくれた……。

 銀河帝国の皇帝と言う存在は、帝国臣民のありとあらゆる最終的な責務を背負う最終責任者であり、国家における最終判断を行う判断装置とも言える。


 こんな重責を担うべき者を有象無象の中から人々の意志で選ぶだの、血統で選ぶなど論外と言える。

 

 だからこそ、銀河帝国の皇帝は、数多くの多くの素質ある者達や皇帝となるべく設計された者達から、皇帝として相応しい者を選定し見出す……そうやって、選び出されるようになっている。


 これは、前任者の意思も民衆の意思も関係なければ、有力者達の思惑なども関係ない。

 ただ、システムにより全国民から候補者が選び出され、初代皇帝の残した皇帝としての選定基準に基づいた、選定プログラムにより皇帝が選び出されるのだ。


 要するに、銀河帝国とは初代皇帝と言う理想の支配者のテンプレが先に組み上げられており、それに近い判断基準や価値観、行動指針を持つものが選ばれる……そう言う仕組みなのだ。


 当然ながら、そんな皇帝達も最初は、前任者から引き継ぎくらいは受けるものの、何もかもが未知の世界であり、そのとてつもない重責に押しつぶされてしまいそうになるものもいる。

 それはむしろ当然の話であり、そんな若葉マークで頼りない皇帝達をフォローする為の存在が帝国には実在している。


 一般的には知られていないのだが、特別皇帝補佐官……通称「ガイドライン」と呼ばれる古参AIや私のような長命者などで構成された皇帝の相談役チームの事だ。


 厳密には、帝国のあらゆる職責にあるものは、誰一人として最終決定権を持っていないのだが。

 現実問題として、あらゆる決定を皇帝がする訳にはいかないので、各部署に権限を貸し与えたと言う建前で、皇帝決済に至る前にその多くの案件が処理されている。


 だが「ガイドライン」には、本気で一切の権限が与えられていない。

 あくまで、助言役であり皇帝の決定に異を唱えることは許されない。


 もっとも、この皇帝、バカなこと言い出したな……と思ったら、遠慮なく「陛下、馬鹿言ってますねー」と非難し、異を唱えることが許されている。


 要するに、その長い経験に基づき、忌憚のない意見や助言をする。

 そして、皇帝は「ガイドライン」の助言や意見を無視しても一向にかまわないのだが。


 その話がどんなに不快な内容であろうとも、話を最後まで聞き、決してその口を閉ざさせてはならないし、処罰もしてはならない……それが「ガイドライン」の特権と言えるもので、要するに、皇帝相手に何を言っても構わない……そう言う役どころであるのだ。


 要するに、私はその「ガイドライン」の一人として、長らく皇帝達の支えとして仕えてきた……まぁ、この時点で十分、帝国の重鎮と言えるか。


 もっとも、それはある意味、無責任な立場ともいえ、皇帝達にとっても、そんな生き字引達の意見や過去の事例についての見解を聞くと言う事は、極めて有意義な事であり、無責任な立ち位置で、遠慮の要らない話し相手になってくれる私のような存在はいつの時代の皇帝も重宝してきたのだ。


 私が帝国に関わり始めた最初の100年くらいは、大した問題は無く、私も帝国の幹部のひとりとして、帝国各地を渡り歩いたりしていたのだが。

 建国100年を過ぎ、初代皇帝ゼロ陛下の残照が薄れ、七帝国体制への移行後の混乱が収まってきた辺りから、いささか様相が変わってきた。

 

 本来、皇帝への意見具申機関のはずの帝国議会が、民主主義の出来損ないのような代物となり、やれ政体を変えるべきだの、議会へ権限移譲を……等と言った越権と取れる発言が目立ってきたり、議会での発言力の多寡で議会の席順が決まるだの……。


 明らかに、様相がおかしくなってきていて、皇帝に権限が集中しすぎている関係で、皇帝の孤立化と言う問題が発生するようになり、当初は皇帝が独り立ちするまで支えるための存在だった「ガイドライン」が、皇帝の話し相手と言う名目でより一層重用されるようになってしまったのだ。


 もっとも、権限も決定権もないのは相変わらずであり、皇帝に呼び出されて、茶飲み相手になってみたり、ささやかなアドバイスをしてみたり、時に愚痴の聞き手になってみたりと、なんとも無責任な立場ではあったのだが。

 

 それだけに居心地も悪くなく……皇帝の雑用承り役などをこなしながら、日々を過ごしてきた。

 

 そして、長い……とても長い年月が過ぎていった。

 私は幾人もの皇帝に仕え、その最期を看取り……数多くの人々との出会いと別れを繰り返していった。


 長い時を経ると、いつしかあらゆる物が色褪せて見え……生きていく為の原動力、意欲も減退し、世俗への興味を見失っていく……。

 長い月日を稼働し続けたAI達の言うところの精神摩耗限界と言うものが、私にも理解できるようになってきた。

 

 そろそろ、思い残すこともなくなり、ありとあらゆる物事への執着というものが無くなってきて、気がつけば仙人のような生活を続けるようになり、頃合いとばかりにお役御免の伺いも立ててみたのだが……。

 

 これだけ長く生きて、帝国とも深く関わってしまっていると、簡単にお役御免とは行かなくなるもので、なんだかんだで引き止められながら、色々理由をつけられて、様々な仕事を押し付けられたりしながらも、ダラダラと割といきあたりばったりな日々を過ごしていた……。


 要するに、何もかもがめんどくさい。

 

 そう思いながらも、外惑星探査のようなあまり人がやりたがらないような仕事に従事したり、身分を偽ってボランティアに精を出したりもしていた……言ってみれば、これも暇つぶしのようなものなのだが。


 そんな今回の仕事ひまつぶしもそろそろ終りを迎えつつあった。


『やぁやぁ、皆さんおはようございます! さて乗員の皆様へ、ご報告ぅ! 現在、全ての帰還シーケンスは順調に進行中、問題は一切ありません。素晴らしいっ! さすがと褒めてくださいね。当艦、恒星間航行艦サジタリウスはまもなく、エルデン恒星系カイパーベルトラインに突入し、外装解体作業を開始します。ちょっと騒がしくなりますが、気にせずお寛いでてください。然るべき後に最外周惑星軌道へ乗り、最終目的地のエルデン9軌道ステーションまで参ります。まぁ、窓の外を見ても代わり映えしませんが、そこはそれ! 次っ! 全乗員の解凍プロセス正常進行中、各員バイタル異常なし。皆様、大変お疲れ様でした。残す行程はあと3日ほどですが、眠たいからって二度寝は駄目ですからねー! ちなみに私、生まれてこの方一睡もしてませんので、悪しからず! お後がよろしいようで!』


 艦内放送にて、管制AIの微妙に気が抜けるアナウンスが流れるのが聞こえてくる。

 起床コールのつもりなのだろうが、起きがけに長々としたおしゃべりを聞くと、嫌が応にでも目も覚める。


 ……辺境銀河第三帝国所属、恒星間航行外宇宙航行艦サジタリウスの艦長。

 それが今の私の肩書で、外惑星調査団の団長でもあった。


 今の私はフルネームとして「ロズウェル・クシュリナーダ」と名乗っている。

 

 別にオリジナルと同じ名前を名乗っても良かったのだけど、アレに見つかると面倒事は避けられそうもなかったので、敢えて私は別の固有名称を名乗っているし、容姿にしてもアレとはまるで別人としている。


 ばっさりと、短くしたショートヘアにネコのようなと例えられるつり上がったグリーンの瞳。

 オリジナルは小柄だったらしいが、私は敢えて大柄の女性型義体にしている。

 

 そして、眼帯は……まぁ、これは趣味だな。

 なにせ、別に視力に問題があるわけではないし、今の時代……片目を失ったところで、カメラアイでも入れれば、なんとでもなる。


 理由は……かっこいいから?

 なにせ、すでに私は、オリジナルとかけ離れた別の存在なのだからな。

 

 見た目は重要であるし、女だてらに迫力を出すのに眼帯と言うものはなかなかに効果的なアイテムなのだよ。

 

 なお、オリジナルの記憶もその存在意義も何もかもを、すでに私は余計なメモリーとしてその大半を捨て去っている。


 アレとの繋がりはもはや、潜在意識下の朧げな記憶の残滓程度だ。

 だからこそ言える……私は私なのだと。

 

 なお、ロズウェルと言う名前は、古代地球のアメリカ大陸の片田舎の地名なのだが、地球外起源飛行体……UFOが墜落した地名として、有名だったらしい。

 

 今の時代……西暦換算2991年の世界では、とっくに人類は宇宙に進出して、銀河の各地にまで進出しているのだが、葉巻型や円盤型のUFOとの遭遇事例はひとつもない。


 むしろ、自分たちがUFO側の立場になることが何度もあったのだから、もはや笑い話にもならない。

 

 今の時代では、千年も昔……20世紀の出来事など、本当にあったかどうかすら定かではない古代の記録として残っているだけなのだ。

 

 ガイドラインとして登用され、早急にまともな名を決めろとかそんな話になって、何か面白いネタはないかと、古代地球の歴史データベースを眺めていて、ふと見かけたロズウェル事件と言う単語とその背景、そして、なんとなく語呂が気に入ったので、以来その名を名乗ることにしてみたのだが。


 思えば、これが私がアレの派生コピーではなく、確固たる個人として自己を認識したきっかけになったのは、確かなようだった。

 

 それ以前は「HA306」なんて味気ないコードナンバーを自称していて、最初に世話になった皇帝……クリシュナ陛下にそんな名前で人間と呼べるかと言うことで、陛下の名を冠したクシュリナーダの名を与えられたのだが……。

 

 なんとも大仰な名前であり、だからと言って捨てられるようなものでもなかったので、改めて自分の名前として「ロズウェル・クシュリナーダ」と名乗ることにしたのだ。

 

 もっとも、ロズウェルだと男か女かも解らないということで、親しい者達はロズと言う女性的な略称で呼んでくれていた。

 ただ、その手合の者達は総じてその後に「先生」と付けてくれるのが常なので、こちらとしては複雑だ。


 ちなみに「クシュリナーダ」は古代地球のクリシュナと言う神様の別の呼び名らしく、名付け親のクリシュナ陛下も我ながら大仰かつ不遜な名前だと笑っていた。

 

 神の名を名乗るとか確かに不遜な話だが……銀河人類史上最大規模の大帝国、銀河帝国の皇帝ともなると、誰もが銀河史にその名が残されるような現代の神に匹敵する存在なのだから、不遜とは言えないだろう。

 

 そして、皇帝陛下と起源を同じくする名を与えられる……これは大変に名誉なことであり、この私に箔と言うものを与えるに十分すぎた。

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