プロローグ「ロズウェル准将、最後の戦い」⑤
「だ、誰が三下の若造だ! 誰が雑魚だッ! だ、だがッ! 貴様らがいくらハッタリをかまそうが無駄だ……。すでに、貴様らの足も潰し逃げ場もなく、貴様らが頼みにしていた艦隊も全滅させた。生き残っているのももはや貴様らだけだ! その有様で何が出来るッ!」
「ハハハッ! 何が出来る……か。ここで、そんな事を聞いてくるようでは、要するに何も解っちゃいない……そう言うことか、私は貴様を買いかぶっていたようだな……いや、むしろ安心したよ」
「黙れっ! 誰が口を挟んで良いと言った! 貴様らはどうあがいても敗者なのだ! 負け犬風情が吠えるなッ!」
「おいおい、君が私と話をしたいと言うから、話相手になってやってるんだろう? それとも何か? 降伏すれば、命くらいは助けてやろうとか、陳腐なセリフでも口にするのかい?」
「……ハッ! ほざけっ! そうだな……俺も血も涙もない鬼じゃない。お望みのようだから、敢えてこう言ってやろう。この場で跪いて命乞いでもするなら、命だけは助けてやろう。勇敢に戦い刀折れ矢尽きた勇者に敬意を払って、慈悲の心を見せる……これぞ、勝者の余裕と言う奴だッ! 貴様ら帝国との戦いは、もはやルールも何もないなんでもありの戦争だが、降伏した敵を助命する程度のことはしてやらんでもない。言わばこれは武士の情けと言ったところだ。大人しく負けを認めて、敗者らしく命乞いでもしてみせるのだな」
「はっ! 武士が聞いて呆れるな! ……戦時協定も何も、貴様らが話し合いの席についた試しが一度でもあったか? 勝手にこちらを悪と決めつけて、何一つ聞かないようでは話にもならんだろうが。なによりも、貴様らの扱いは今も昔も単なる武装テロリスト集団扱いだ。テロリスト相手には何でもあり、そして話し合いもしない……ルール無用の殺し合いあるのみだ。すまんが、それが古来からの我が帝国の方針だからな……悪く思わんでくれ」
「ぎ、銀河の秩序の守り手たる我らをよりによって、テ、テロリスト呼ばわりだと? 貴様、先程から何様のつもりだ! よもや、この期に及んで開き直りとはな! 解った……どうやらよほど、死に急ぎたいようだな。いいか? あくまでこちらの降伏勧告を拒否するとなれば、艦砲射撃を撃ち込んだ上で、ARMSを放って一瞬で皆殺しにするまでだ。まったく、貴様らを潰すためだけに、こんな美的センスの欠片もない殺人兵器なんぞを投入する羽目になるとはな……だが、貴様らがいけないのだッ! スターシスターズの非殺要項を突くような卑劣な手ばかり使ってきたのだからな! これは報いなのだ……因果応報と思い知るが良いッ!」
「悪趣味だと自分で認めるのか……。確かに閉所での人殺し専門兵器とはまた御大層な代物だ……。コロニーあたりに放てば、数万人をあっという間に皆殺しにだって出来そうだな。まぁ、弱い者いじめ専用兵器と言ったところか……発想が実にテロリスト的だな……」
「き、貴様ァッ! 貴様にだけはッ! 貴様にだけは言われたくないッ! ……人の命を駒のように扱い、自爆特攻すら辞さない狂気の兵士共を次々と生み出す……凡そ、まともな人間のやる事ではないッ!」
「ふふっ、貴様も私も所詮は同じ穴のムジナ……別に非難はせんよ。確かに、あのお人好しのスターシスターズに無理やり殺しをさせるよりはマシだろうからな。だが、解っているのか? お前がそれを使うたびに、お前自身の業を蓄積させていくのだと……。いいか? 無人兵器の人殺しの業は、それを作り出し、現場で殺しを命じたものに、知らず知らずに積み重なる……そう言うものなのだぞ。そうだな……同じ狂った人殺し同士、ひとつ仲良くしようじゃあないか……」
……「あの世でな」と内心で付け加えてやる。
どうやら、こいつは確実にコッチ側の人間のようだった。
如何にこいつが自己弁護を重ねようとも、こいつの精神性は私とそう大差がない。
まぁ、特殊戦などと言う汚れ仕事をやっていると自然にこうなる。
せめて、自覚くらいはしていただかないといけないな。
「き、貴様がそれを言うか! よりによって、この俺が貴様ら人殺しの同類だとッ! そもそも、貴様らの首魁……皇帝アスカは十億単位の罪なき民衆を虐殺して平然としているような怪物ではないか! そして、貴様らもいくつもの軌道都市コロニーに核融合爆弾を仕掛け、焼き払い……億単位の虐殺をも行ったではないか! どれもこれも許されざる罪だ! 貴様らこそ、外道! 滅ぶべき悪だ! 悪を滅ぼすのに手段など選んでいられるかッ!」
なかなかに耳が痛い話だったが。
まぁ、概ね事実ではあった。
だが、アスカ陛下の業の一部を我々にも分かち合えているというのは、敵側の視点とは言え、なかなかに悪くない話だった。
そう言う事なら、ここで我々が死ぬ理由としては十分過ぎる。
アスカ様の背負った業をほんの一部でも肩代わりできるのならば、誰もが喜んでここで死ぬだろう。
見渡すと兵達はむしろ誇らしげな顔をしていた。
……敵に認められると言うのは、味方やマスコミに認められるのとは訳が違うからな。
「……そうか。貴様らの中ではそうなっているのだな……。世の中には正義と悪があり、それに綺麗に境界線が敷かれていると思っているのならば、相当おめでたいな。そもそも、貴様らが正義だなどと誰が決めたのだ? 案外、この戦いは悪と悪の潰し合い……そんなものかもしれんぞ?」
「お、俺達が悪だと! 我らは貴様らとは違う! この銀河の秩序を守る……揺るぎなき正義の……ッ!」
「ハッ! そこまで言うのなら、虐殺兵器の視点でもう一度戦場を見てみろ……己自身が作り出したこの世の地獄を直視して平然としていられるようなら、貴様も大概だぞッ!」
……よせばいいのに、兵器視点で地獄の戦場の跡でも直視してしまっただろう。
アギトのモニターが唐突にブラックアウトし、吐瀉音が聞こえてくる。
馬鹿な奴だ……。
それが現実なのだよ。
如何に正義を標榜し、自らを正当化しようとも……結局やっていることは我々と大差ないのだ。
我々もあちこちに地獄を作り出して来たが。
奴らが帝国に戦争を仕掛け、帝国軍人を何人も葬り、戦場で地獄を作り出してきたのは動かしようのない事実なのだ。
そして、奴は地獄のような戦場の風景を直視したことで、今更ながら罪の意識に潰されそうになっているのだろう。
だが、その積み重ねは、確実にその精神をすり減らしていく……。
まぁ、間違いなく奴は、その精神寿命を派手にすり減らしただろうが……知ったことではない。
いずれにせよ、時間稼ぎはこれで十分だろう……あとは、仕上げだけだ。
「さぁ! 誇ろうではないかッ! 我々はアスカ様の業を肩代わりした上で、ここで揃って死ぬのだ! アギト君、君には解るまい……だが、礼を言う。我らの死に大いなる意味を与えてくれた事をッ!」
「な、何を言っているのか解らんぞッ! き、貴様らは追い詰められた敗残兵ではなかったのか! 何故、こんなゴミのように虐殺されながら、どいつもこいつも、そんなにも誇らしげな顔で喜んで死ねるのだッ!! 貴様らは……一体なんなのだ!」
「だから、アギトくん……君には、理解できないと言っただろ? そして、誠に済まないが……このまま貴様も道連れだ。あと一分で私の左足に内蔵された重力爆弾が無制限解放される。お前もつくづく馬鹿なやつだな……貴重な時間を私とのムダ話で浪費して、なんの意味もなく、単なる巻き沿えで死ぬのだからな……」
「は、はぁっ? き、貴様……何を言っているのだッ! まさか……これは! あ、青葉よ! 緊急……プライマリーコード! 直ちに超空間ゲートの管制室へに精密射撃集中! あの女を直ちに粉砕するのだ! やらせるなぁーっ!!」
どうやら、重力爆弾の重力偏差反応を捉えられたようだった。
重力爆弾はこれがあるから、破壊工作には使いづらいのだが……私は私なりに、既存の重力爆弾を改良することで、本来一時間も前から盛大に溢れ出す重力変動力場の発生を直前まで抑え込むことに成功していた。
なお、皮肉なことながらこれは敵の首魁……ハルカ・アマカゼ自身が開発していた代物で、そのデータを私は独自のルートで盗み出すことで、勝手に我がものとしていた。
まぁ、何に使うつもりだったのかは知らんが、アレの背負った業も相当なものだろうからな。
ここはありがたく使わせていただく……とでも、言っておくかな。
「ア、アギト様! 申し訳ありません……管制室周辺ではすでに空間連鎖縮退反応が急速に進んでいます! もう……手遅れです! 着弾よりも前に重力崩壊が始まってしまいます……このままだと我々も……ああ……もう駄目っ!」
アギトの後ろに控える黒髪のおかっぱ頭の少女が泣きながら、報告を続けると……フラッと後ろ向きに倒れかけるのだが、ギリギリで立ち直る。
なるほど、あれがスターシスターズの青葉か。
どうやら、すでに手遅れということを理解したようで、同時に自らの運命をも悟り、デッドロックに陥りかけたようだった。
そのままシャットダウンしなかったのは、その責任感ゆえにか……まぁ、何の意味もないのだが。
アギトくんも、いらぬ降伏勧告などせずに、その決断を10分前にしていれば、こんな結末を迎えずに済んだろうに……。
実のところ、完全にタダの巻き添えであり、さすがに申し訳ないと思わなくもない。
だがまぁ、戦場ではよくある話だった。
「な、なんだと! そんな馬鹿な! この俺が……こんな事でッ! じ、次元断層シールド緊急展開! その上で急いで緊急バックアップ転送だ! ふっざけんな! チックショウッ! これは罰なのか……地獄を作り出したこの俺への! だとしたら……だとしたらァッ!」
「アギト様、それ以上考えてはダメです! 思考デッドロックの兆候あり! そんな状態で死んでしまったら、再再現にも支障が……それに重力嵐の発生により、超空間通信も途絶! 本艦及び護衛艦もすでに重力場の影響で沈降中です! もう誰にも何も……出来ませんっ! なんて規模……まさか、無制限開放? そんなことをしたら、エーテル空間が崩れてしまうっ! 次元断層シールドもこんな規模の重力崩壊に巻き込まれてはとても持ちません! アギト様が敵を懐に引き込むなんてバカな作戦を立てなければこんな事には……」
「お、俺のせいなのか! ふっざけんな! ふっざけんな! 俺は……俺はーッ! アアアアアアアアッ!!!!」
何やら向こう側で、くだらない言い争いが続いているようだが。
なにかもがもう遅い……。
強烈な重力場の発生で、もはや私を含めて誰もが押しつぶされ、動けなくなっている。
かろうじて心臓は動いているが、推定ながらすでに10Gは軽く超えている。
このままでも時間の問題で圧死するだろうが、どのみち爆心地に居る時点で塵も残さず消し飛ぶことになるだろう。
だが、瀕死のセミじゃあるまいし、俯いて地面を見つめながら、死ぬなんぞありえん。
強烈な重力変動の中、かろうじて顔をあげると誰もが同じ気持ちだったようで、誰もが突っ伏しながらも顔だけは上げて、血反吐を吐きながらも無理矢理に拳を突き上げて、最後の意地を見せていた。
そう、これは……ただの意地だ。
死に様くらいは好きにしたい。
ならば、せめて……揃って、笑って逝くとしよう。
「……アスカ様、申し訳ない。ここで逝くのが我が運命……おさらばですッ! 総員、最後の……最後の敬礼を捧げよ! 我らが死は……アスカ様の為に! 我らが銀河帝国に栄光あれーッ!」
「「「「我らが死は、アスカ様の為にィイイイ! 銀河帝国に栄光あれッ!」」」」
この戦いで……。
銀河守護艦隊は、若手最優秀と謳われたアギト大佐と、重巡青葉以下多数の艦艇を消失。
銀河守護艦隊が一連の戦いで一度に受けた損害としては、過去最大規模の損害を出した。
……そして、銀河守護艦隊の根拠地にして、その最大拠点「Ω384」星系はこの日、この瞬間に消滅し、未来永劫封鎖されることとなった。
この損害はおよそ取り返しのつかないものであり、これまで帝国相手に連戦連勝を続けてきた銀河守護艦隊の敗北を決定づけたと……後々の世でも語り継がれる戦いとなった。
だが、この戦いで、第三帝国は精鋭中の精鋭と言われた……ロズ特殊戦隊を失った。
そして、帝国の歴史の影で、200年以上にも渡り、帝国に仕え幾多の名君と呼ばれる皇帝を育て上げてきた「知られざるキングメーカー」と呼ばれた重鎮……「ロズウェル・クシュリナーダ准将」と言う得難い人材を喪失した。
……この物語は、銀河帝国史上最高の皇帝と呼ばれた皇帝が誕生するまでの物語。
そして、それを見出し導いた……人ならざるものの物語だ。




