第八話「超A.Iアマテラス」②
そして、20世紀の頃から続いていた日本の経済問題についても、徹底してまずは国民を裕福にさせるとする方針や次々と展開される圧倒的な新進テクノロジーの数々と、国営企業として統合化され、完全自動化の上で効率化を追求したことで生まれた圧倒的工業力の力技で、国際的にも先進科学技術と重工業を売りにした工業国としての立場を確立し……。
その上、国家財政システムも一度白紙にしてから、シンプルな体系に作り直し、そのムダや無理を省き、国自らが経営する巨大企業の収益を国家経営に当てることで、国民からほとんど税金を取っていないにも関わらず、大幅な財政健全化を実現し、同じ様に財政難で苦しむ他所の国から、真似されたりアドバイスを求められるほどとなっていった。
もっとも実際の所、日本の国としての財政自体は、前世紀から引き継いだ借金山盛りで、相変わらずの火の車と言う状況は変わってなかったんだがね。
けれど、国家財政が黒字でお金を余らせて、どんどん借金を返していくって状態は、実のところ、市場に流通する資金の多くを政府がガメて巻き上げているようなもので、必然的に政府以外……民衆や企業はその分、お金が回ってこなくなって、皆揃って貧乏になる。
おまけに、増税三昧で国民の懐からお金を取り上げて、実質物価高ともなれば、スタグフレーションにだってなるに決まってる。
この辺がバブル崩壊後の日本経済を低迷化させていた根本的な原因で、後世でも限りなく自滅と言われるような愚行の大本とも言えた。
実際、日本も90年代辺りまではバブル崩壊とかなって、怪しくなってたんだけど財政健全化とか言い出して、消費税とか導入した頃辺りから一気におかしくなった。
まぁ、この辺は個人の財布と国家の財政を同じようなものだと決めつけて、財政赤字がさも悪いことのように喧伝していた当時のマスコミや財務省のお役人……何よりも先々のことなんて、まるで考えてなかったアホな政治家共が悪い。
結局、連中は自分達の任期中に問題が起きなければ、それでいいって自己中な考えだったから、先のことなんてまるで見えちゃいなかったし、上級国民様と言う時点で、下々の国民達の生活なんてどうでもいいと思ってたみたいなんだよね……。
もっとも、そう言うくだらない連中がアマテラスの強権でまとめて吹き飛んで、ざっくりごっそり粛清された事。
何よりも、従来マスコミのように情報を選別せずに、良くも悪くもすべての情報を開示する事を良しとするアマテラスの方針の前に、マスコミが意味をなさなくなった事で、いわゆるマスゴミが自然淘汰された。
なにせ、マスコミの仕事も基本的にアマテラス発表の情報を右から左へ流すだけになってしまったんだもん。
新聞や紙メディアなんて、とっくに絶滅していたし、TV局も民放TV局はその大半がエンタメ系になってやたらと細分化されて、NHKも解体されて国営ニュース局として再構築させられており、アマテラスの大本営発表や地方ニュースやら天気予報を流すだけのTV局になってしまっている。
ネット上のローカル配信チャンネルについては、それこそ個人系も含めて無数にあり、皆、好き勝手に意見を述べたり、情報発信やらに勤しんでいる。
規制などについては、むしろ昔よりゆるくなってるので、中には過激な意見や危なっかしい実況配信ばかりを行う配信者も居たりするのだけど……。
どうもAI達も、この手の個人の情報発信については、法に触れない限りはそっとしておいてくれるのが一応基本対応ではあるようなのだ。
もっとも、視聴者からの通報などで違法行為が確認されると割とそっこーで逮捕されて、チャンネルもお取り潰しとなるので、完全に無責任かと言えばそんな事はないらしい。
いずれにせよ、前世紀から21世紀前半にかけての様々な問題については、ほぼ解決しており、国民の貧困化と言った経済の問題についても、一昔前のような貧乏くさい風潮はあらかた消失しきっている。
まぁ、実のところ経済ってのは、国民の気分ってものが一番大事で、その気分を盛り下げるような事を30年以上に渡って長々と続けてきたのが、かつての日本政府であり、自業自得と言われる由縁なのだ。
そして、20世紀から続いていた少子高齢化の流れと、LUCIFER禍のダブルパンチでの労働人口減少による労働力の激減と言う問題についても、後にアマテラス系列と呼ばれることになる先進AI搭載の人型ロボット群の大量展開でやっぱり力技で解決し、その他、ありとあらゆるすべての分野で海外勢を軽く凌駕し、圧倒することで世界各国と比較して相対的に経済力が増した事で、沈没国家と罵られていたような惨状をあっさり解決してしまった。
当然ながら、そんなある意味怪物に乗っ取られた日本国が世界でも圧倒的な勝ち組となりつつあるのを、アメリカに代表される比較的LUCIFER禍の被害が少なかった諸外国勢が黙ってみているはずもなく、各国が徒党を組んで、すわ第三次世界大戦前夜のような雰囲気までいったのだが。
ここでもアマテラスはやらかしてくれた。
今度は世界中に、アマテラスの同類が同時多発的に発生したのだ。
要するに、アマテラスをベースに各国のアイデンティティを埋め込んだ国家嚮導AI群……。
超AIにとっては、人類の構築したネットワーク網は初めから、自分達の庭のようなもので、いかに頑強なセキュリティも高度な暗号化も、ほとんど意味をなさなかった。
その上でアマテラスは、自らの派生コピーのような超AI群を堂々と惜しみなく各国に送り出し、それら各国に出現した超AIは、アマテラス同様あっさりそれら国々をあっさりと乗っ取り、その庇護下においていった。
もちろん、ネットワーク網の遮断やら軍事力などで、この流れを止めようとした者達もいたようなのだが。
無線の電波網経由だろうが、容赦なく侵入されてしまうし、その拡散についても同様で結局誰も止めることも出来なかったし、そんな電子世界の怪物たち相手に軍事力やら権力なんぞ、なんの意味もなかった。
はっきり言って、出来レースの茶番以外の何物でもなく、その上、これらはすべてアマテラスは純然たる善意のもとに行っていたのだから、なかなかにタチが悪かったのだが……。
アマテラス自身も日本一国だけを救済しても仕方がないと考えていたので、それを世界規模に拡大したと言うのは、むしろ当たり前の話ではあったのだ。
そして、世界各国が順調に超AI達の庇護下に下っていくと、それら超AI達も当たり前のように相互リンクを始め、正式に国家相互互助協定を締結することで、世界各国は日本同様の国家嚮導超AIに導かれるAI統制国家群と化し、まとまりのなかった世界は、たちまちのうちに統合され、LUCIFER禍や環境問題、貧困や不平等に人種差別……そして何よりも戦争と言ったありとあらゆる問題が解決へと向かっていった。
もちろん、ここまですんなりと話が進んだのは、LUCIFER禍による世界規模の災厄により、人類の力が低下していたのも理由の一つだったのは間違いない。
古き時代の価値観を引きずり、社会の大多数を占めることで抵抗勢力化していた老人者達が、自然にその数を減らし、遺伝子改造新世代人類と言うアマテラスの子供たちと言うべき者達が台頭していき……。
……依然として、人口激減による経済の縮小化により発生した問題などはあるものの、アマテラス達の提唱した人類救済計画の元に、世界は些か歪な形ではあったものの確実にいい方向に変貌を遂げていった。
要するに、今の世界は超AIに率いられた管理社会として、平和裏に統一され、争いも貧困もなくなりつつあり、着々と次の文明段階……宇宙時代を迎えようとしていた。
とまぁ、これが2069年現在の世界情勢だった。
もちろん、管理社会と言うと、古典SFなどで描かれていたように、人々はディストピア飯を食べて、生活面や移動……あらゆる事柄をコンピューターに管理され、個人の自由意志が認められない家畜のような生活となる事を想像するかもしれないが。
実際のところ、今のアタシらは割りとフリーダムな生活を送っている。
基本的に国内だったら、なんの気兼ねもなしに行けるし、京都辺りの観光都市になると、指定された建物に住んで、日中町中を散歩して、背景に徹してるだけで、住民エキストラと言う事でお給料がもらえるとか、文字通り日々を遊んで暮らす事だって出来る。
失業してホームレスになったり、ニート化して食べ物を買うお金がなくなっても、あちこちにある無料食料配給所に並べば最低限の飲食類は確保できるし、住むところや着るものだって選択の余地があまりなくなるだけで、住民サポート局に行って生活困窮申請をすれば、無償で提供してもらえる。
そもそも、お金がなくなったとしても黙っていても最低限の生活を送れるだけのお金は毎月支給してもらえるので、少なくとも食いっぱぐれることもなかった。
生活困窮申請さえすれば、後は政府指定の居住施設で、ボケーッとしてても、食べ物やお金ももらえるし、そのうち適当な職をあてがわれることで、めでたくニート卒業ってなる。
これは、病気や怪我でリタイアする羽目になっても一緒で、医療AIや医者のお墨付きが出れば、もうその時点で生活支援対象者となり、無理に仕事をしなくても補助金生活ができるようになる。
うちなんかも、お婆ちゃんが要生活支援対象者なので、毎月結構な額の補助金がもらえてるし、お兄ちゃんも元々高給取りだから、別にお金に困ったりはしてない。
要するに、社会保障が昔と比べるとめちゃくちゃ手厚くなっているのだ。
仕事もやんなくても、割りとなんとかなるってその時点でなんと言うか、ダメ人間を量産するだけなんて、最初は思われてたんだけど。
暇だからという理由で仕事をするって人も結構いるし、仕事が生き甲斐って人も少なからずいるので、なんだかんだで国民総ニートみたいにはなってない。
そもそも、AI達は人類に奉仕してなんぼと考えているので、無職化して野垂れ死にさせるとか、むしろそんなの絶対に許してくれないって立場ではあるのだ……。
そう言う意味では不自由かもしれないけど、お金がないと自由もへったくれもないので、そんなものじゃないかなぁ。
まぁ、アタシ、未成年だからオンラインのバイトくらいしか仕事した事ないから、そこら辺はよく解んないだけどさ。
もちろん、旧世代と新世代の確執とか、国同士の確執と言った問題がないとは言えないのだけど……生物災害で、世界人口が激減し若い新世代が多数派となった今となっては、そこはあまり大きな問題ではなくなっていた。
ぶっちゃけ、人間達がこぞって遊んでいても、社会は普通に回るし、誰も困らなくはなっているのだけど。
新規研究開発分野や対人サービス業……医療関係者や料理人やら、エンターティメント系のような人間でないと務まらない職業は多数存在するし、何よりもAI達は自分達が無責任な存在だと認識しており、その行動決定については、人間の最終判断を必須とすると定義していたことで、人間には彼らに対する責任者としての役割が残されていたのだ。
まぁ、これはごもっともな話で、例えばAIが何らかの形で人命を損なう事故を起こしたとして、その場合の責任が何処にあるのかと言う問題がある。
何らかの理由で多くの人死を伴う公共交通車両の事故が発生したとして、車両を操縦していたのはAIだからと、そのAIを搭載したハードウェアを死刑ならぬ、廃棄処分にしたところで、その行為にはなんの意味もない。
彼らは容易に自分達をコピーできるので、ハードを破壊されたところで、痛痒にすら感じないのだ。
同じ理由で自由を奪い取る懲役刑も何の意味もないし、罰金刑もそもそも彼らはお金を貰って仕事をすると言う概念がないので、やっぱり意味がない。
だからこそ、AI達には責任能力というものは存在せず、それは使用者たる人間が肩代わりすべきものなのだと定義されている。
これはまぁ……21世紀の初頭頃からすでに保険業界などで議論されていたもので、当時の時点で将来的に自動車が無人化した場合の責任問題と言う事で、すでに数多くの議論と思考実験などの蓄積があり、最終的に使用者責任と言う事で落ち着くことになるだろうとされていた。
要するに、AIのやらかした行為への責任は、そのAIが管理する機材の利用者に付帯するものとされ、例えば、アタシが身につけているバイタルカウンターが緊急薬剤投与機能の不備で誤動作を起こし、アタシを薬物過剰投与で心停止に至らしめ死なせてしまったとする……。
もちろん、使用者はアタシ自身ではあるのだが、病院側に強制的に着用された時点で、バイタルカウンターの搭載AI及び、その機能に関する管理監督責任はすべて病院側……それもAI管理監督責任者の責任となる。
これは、そのAI管理監督責任者が名前だけのもので、普段は別の業務に専念していて、AI搭載機材の動作確認業務などは管理AIに一任していた場合でも同様となる。
当事者にとっては、何もしていないのに罪に問われると言う時点で、実に理不尽な話ではあるのだが、AI管理監督責任者の職責とはそう言うもので、問題発生時に最終的に責任を担うのがその役割であり、そのリスクについては給与手当や権限などの形で還元されているし、そもそも責任を負いたくないなら、初めからその役職を辞退すればいいだけの話なのだ。
そんな訳でAI達にとっては、人間の存在が必須であり、自分達の上位存在だと認識しているし、その自由意志についても可能な限り尊重してくれるので、ある意味持ちつ持たれつと言うべき関係なのだ。
なのでまぁ……今の御時世とっくに絶滅した職業もあれば、新たな職業なども次々と生まれつつあるし、その価値が見直された事で、思わぬ形で人気職となった職業もある。




