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03話。対岸の火事


 帰宅して唸る。


(普通の女の子だっただけでも、よかった……のかな?)


 どうなのだろう。

 これがん、ん、んぅん、な雰囲気の子だったとしたら、それはそれで見なかったことにしようと自己防衛と精神衛生のため、記憶から綺麗に抹消するのも簡単だったのではないだろうか。

 なんてことを考えながら、光の天使ルミエールの生放送を見ている。


 当たり前だが光の天使ルミエールはいつも通りだ。

 なにが楽しいのか、元気いっぱい今日の肌寒さについて雑談を繰り広げている。


(……今日も寒かったよな)


 自分だけが知っている秘密に、優越感がないと言えば嘘になるのだが、それは秘密であるからこその成り立つ優越感であり、誰かに自慢できるようなことでもない。

 誰かに言い触らしたところで、ストーカー紛いの行為に顰蹙を買い、信用を落とすことになるだろう。

そんなこんなを考えながら見る生放送は気が散ってしまい、楽しそうに笑う光の天使ルミエールの姿が、どこか上滑りして見えて、いつものように集中してのめり込めない自分がいた。


(……なんだかな)


 そう言えば吉田先輩は大のアニメファンだが声優の情報はあえて調べない派だったか。

 アニメの世界観に入り込めなくなるとかなんとか言っていた。

 俺は基本的に漫画を読むのが好きな、いわゆる原作派で、漫画家志望だったこともあり、アイドル業界や声優業界の話はピンと来ていないのだが。

 精々うちの県を本拠地にしている彩橋46のメンバーはレベルが高いと言う話を知っているくらいだ。


(俺も普通のアイドルとバーチャルアイドルの違いくらいはわかるんだけどなぁ)


 アイドルは公私共に人間としての高い魅力と技術を、理想と共に要求される。

 その点バーチャルアイドルは都合が良い部分だけを見せることが出来るし、視聴者もその都合のいい部分だけを見たい人が大半であると吉田先輩も分析してた。


(そう、二次元は都合が良いんだ……)


 だからいいのに。そんなこと、わかっていたのに。

 放送終了後、適当に他のバーチャルアイドルの配信や動画も回って見たが、お絵描きのネタは思い浮かばない。

 明日は早番だ、早く寝よう。


================ 

 

 次の日。

 俺は後輩の三河くんと指示書を見て、共に頭を悩ませていた。


「焚き火台を置くって、売り場にそんなスペースないっすよね?」

「コンロの所開けて出せってことかな?」

「正気っすか?」

「うーん、例のアニメで紹介されてたからかな?」

「正気っすか……」


 聖地巡礼ブームや町興しブームもいい加減落ち着いただろうに。

 もう少し一般的な道具ならまだしも、そんな専門道具の売り上げが伸びるはずもないのに。


「オレ、断然折り畳みのコンロ勧めるっすけど……いいっすよね」 

「……うーん」

「来月の頭ってことは、テントも一緒に届くんすよね?」

「一応レイアウトは考えてたけど、焚き火台を出すとなると、どうしようかねぇ……」


 どうしても大小の商品がごちゃごちゃと陳列されている売り場を見渡して頭を悩ませる。

 考えていると、三河くんが顔を上げた。


「あ、そうや今日、イットウくんの所でコラボ企画やるの知ってます?」


 仕事中だろうに。

 白い目で見るが、気にすることもなく関係ない話を振って来る。


「イットウくんのゲーム配信企画なんすけど」

「ルーンちゃんがゲストで呼ばれてるやつだろ?」


 際どい所まで切り込むトークで注目されつつある、珍しい男性バーチャル侍系アイドルのイットウくんと、歯に衣着せない自由なトークで周りをひやひやさせる、ルーンちゃん。

 二人のノンストップクソゲーぶった切り企画がお昼頃に行われる予定だ。


「オレ、その時間帯に休憩入りたいんすけど……駄目っすか?」


 三河くんは最近特にルーンちゃんを推している。

 俺は苦笑を一つ、快諾する。


「いいよ、パートさん達にも声かけて調整しとくよ」


 三河くんは愛されキャラなので特に問題もないだろう。


「あざっす! また今度ルミエールちゃんの放送ある日、遅番変わるっすね!」


 なんとなく光の天使ルミエールとどう向き合うべきなのか、もやもやしていて、そこまでしてくれなくてもとは思うが。

 そう言ってくれているならありがたく頷いておこう。


「そうだね、時間が合ったら頼むかも」

「うっす!」

 

============


「……」

「どした?」


 休憩が終わり、売り場に出て来た三河くんが浮かない顔だった。


「うーん……いや、とにかくアーカイブ上がったら見て欲しいっす」


 首を傾げながら仕事に戻って行った。なにごとだ?

 そして結局アーカイブが上げられることはなかった。

 早番の仕事上がりは7時なのだが、休憩室でいつもの三人で集まり、あまり褒められたことではないが某ニコニコ動に転載されていた拡散用動画を見て、騒動の顛末を確認させて貰った。


「……これは酷い」

「うーん……」


 炎上していた。

 SNSや掲示板、コメント欄で辛辣な意見や叩きが飛び交い、なかなか騒然となっている。

 駄目出しするくらいなら黙って去る空気があるこの界隈では、なかなか珍しい出来事かも知れない。


「ってか、イットウくん企業ついてたのか……」


 晩までには個人特定までは至らなくとも、とある成人向けゲームメーカーが背後についている説が濃厚として、ソースと共に情報が拡散されている。


「イットウくん、今日は終始喋り硬かったっすよね……」


 企画に用意していたクソゲーが後半から元ネタを知らないと解けない暗号問題が乱発する展開となり、ルーンちゃんがその辺のネタを上手に拾えずにぐだり、サプライズに用意していたホラー作品は本気でNGを出されてお流れとなった。


 イットウくんも空気を読んで雑談メインに切り替えたのは良いが、急遽な話題転換に会話もあまり転がせず。

 滑りっぱなしの空気をなんとかしようと空回りするイットウくんが焦り、ルーンちゃん弄りへシフトして行った所まではぎりぎり放送は成立していたのだが、ルーンちゃんが上手く言葉を繋げていない所に、更に滑るのを恐れたイットウくんが、ルーンちゃんの言葉に被せながら怒涛の突っ込みを入れたりと、完全に舵取りを間違えぐだぐだなまま番組は終了した。


「すっげー叩かれてますね……」


 放送終了後、SNSに届いた生放送への批判を、キャラなりきりのまま暴言で切り返したのが最後の駄目押しだったようだ。

 ルーンちゃんファンは激怒し、炎上を喜ぶ勢は煽り盛り上げ、特定班にも火がつき企業と関わりがありそうだと言った所まで暴き出されてしまう始末。

 一応、今の流れは企業の力を借りていたバーチャルアイドルが、他社のゲームを暴言交じりで弄っていた所業を叩かれているのだが、皆の怒りがどこにあるかは明白だろう。


「まあ、ルーンちゃんも突っ走り気味だったけどな」

「これがルーンちゃんの素っすよ?」

「だからだよ」


 吉田先輩は格好つけた仕草でタブレットパソコンをピッと指さしながら語る。


「ルーンちゃんはいつも通りだったんだろうけど、自分が大手なのをまったく気にせずがんがん話しかけるから、イットウくんがどんどん委縮して行ってる。用意してた企画が滑ったのもあって、飲まれまいとして最後は暴走しちゃったんだろう」


 視聴者もルーンちゃんのファンが大半で、ルーンちゃんのリアクションへのコメントが圧倒的に多かった所で、自分がなんとか舵を取ろうと張り切った所為で余計に痛々しいことになってしまっていた。


「通話だけだけじゃ会話の空気も読み難しいし、配信中はラグもあるからな」


 掛け合いの呼吸を合わせるのはお笑い芸人さんだって難しいと言うのに、企画から一週間も経たず、一度も会ったことが無い者同士が物の一、二時間打ち合わせをしただけでコラボをやっているのだから、こう言うことも起こり得るのだろう。

 しかし普段ならそんな初々しさや、手探り感や失敗は面白く作用する方が多いのだが、今回は炎上してしまった。

 俺は吉田先輩に質問してみる。


「でも、ホラーを本気で嫌がってる所とか、普通なら盛り上がる所ですよね?」

「その辺からイットウくんへの辛辣コメント増えてるんっすよね……」


 芋引いてんじゃねぇぞ。なんて発破のかけ方は、確かに当たりが強いように思えるが、切り込みキャラとしての味だし、これ以上きつい突っ込みや弄りは普段からコメントでされていると思うのだが。


「それもな……配信者が弄りのコメントを拾って返すのと、配信者同士で芸人風の弄り合いするのではスタイルが違うんだよ。イットウくんはそこからわかってない感じだな」


 なるほど。

 やっていることは似ていても、お便りを元に話を広げるトークと、台本の無い即興漫才をやる程の違いがあるのか。

 そして舞台でアドリブをやるのは非常に難しいとも聞く。


「最後は女の子を立てるって、お笑いの基本すら出来てない。女性を叩いて終わるのが許されるのは、大御所か夫婦漫才くらいだ。女の子が凹まされてるのに、無理して笑ってるままお開きって、最高に後味が悪いだろ」


 ルーンちゃんにはあまり熱を入れていない俺でも不快感を覚えるくらいなのだから、ファンはたまった物ではなかったのだろう。


「基本は最後に男が道化役やらないとオチにならないんだよ。終始ぐだってオチもない。ゲストであるルーンちゃんを立てるどころか、きつい当たりで凹ませたまま終わって、ルーンちゃんファンのやり場のない怒りが大爆発って流れだな」

「なかなか難しいんですね……」

「まっ、今回はまさかやらないだろって見えてる地雷蹴とばしてる感じだけどな。バーチャルアイドルになるだけなら、中身が素人同然でもなれる時代だ」


 一人なら好き勝手にやれていても、コラボで組むとなれば色々複雑になって行くのだろう。


「ファン層の違いが難しいから男女のコラボは現実のアイドルでもあんまりないんだよ。男アイドルの女性ファンも、女アイドルの男性ファンも、男女のアイドルで完璧な空間作って楽しく雑談するだけじゃファンは3疎外感覚えるだけだからな、応援なんて出来ない」


 よっぽど面白い夫婦漫才でもやれるなら別だけどな。と、男女でも成立している人達を例に上げながらつけ加える。

 吉田先輩はだいぶ言葉を選んでいるが、ネット上ではもっと過激な意見も散見されている。

 匿名板なんかも探せば、もっと激しくお互いのファンがお互いを貶め合っている場所なんかもあるのだろう。精神衛生上、そこまでは見ないが。


「だから、このコラボはどうするのか、バーチャルアイドルならではの妙案でもあるのかと興味あったんだけど、まさか基本すら知らない子の勇み足だったとはね」

「その辺は男女平等じゃー、とか思っちゃったんすかねぇ……」

「イットウくん若そうだし、普通に社会経験なさそうだな」


 吉田先輩は苦笑している。

 職場で女性陣に不評を買った男性の末路なんて言及するのも恐ろしい。

 確かにアバターから年齢はわからないが、怖い物知らずの若者だったのかも。


「ま、安易なコラボで軽く売名出来るとか簡単に考えてたんだろ。企画も雑過ぎる。これも勉強だ、痛い目みればいいさ」


 似たようなコメントも動画の上に流れている。

 俺はそこまで辛辣にも思えないが、確かに放送が酷い出来なのは同意するので、あまりイットウくんを擁護する気も起こらない。


「あ」


 三河くんがスマフォの画面を見ながら呟く。


「イットウくん、しばらく活動謹慎するらしいっす……」

「事実上引退かね……トカゲの尻尾切りだな」


 吉田先輩は不敵に笑っている。


「毒舌の切り口も、キャラのアバターがあるからこそ許されてた所あるだろうからな。これでゲームメーカーの社員説が確定したら、なかなかバーチャルアイドル史に名を遺す炎上になるな」


 吉田先輩は炎上を楽しんでいる節も若干あるのだろうが、普段から色々と分析するのが好きなので蘊蓄を語ってくれる。

 俺は人の話を聞くのが苦にならないので、いつも大人しく聞き手に回っている。


「ルーンちゃんは元々企業主導ですし、魂の人も割れてるっすけど、あれが素っすからどうしょうもないっすよ……ルーンちゃんにまで飛び火しないといいんすけど」


 三河くんは不安そうだ。


「その辺も女の子だから、守護らねばって空気だよな。まあ、実際だるい企画につき合わされた被害者だろうし……と言うか元々魂やってる人は有名声優なんだろ?」

「有名って程じゃないっすけど、マイナーなギャルゲーの、常夏デリバリーのミツキちゃんってわかります? 一応メインヒロインやってたっすね」

「ミツキちゃんはわかるけど、声優までは知らないな……まあ、元から実力者なんだから、当然良い演技はしてくれるわな」


 一度判明してしまった魂の人の情報は、ネットで検索すればいくらでも出て来てしまう。

 それでもルーンちゃんのファンは多い。


「結局、実力があれば身バレや特定なんかは関係ないんでしょうか?」

「んー、メリット、デメリットある話だな……今回、イットウくんのように隠してた背後関係まで特定されてしまうのは確実にデメリットだな」


 頷く。


「元々ファンがついてるような人なら、そのファンを呼び込めるメリットもあるんだろうが……バーチャルアイドルを楽しみにしている層はあんまり良いは顔しないだろ。それに本物の声優ファンなら勝手に探り当ててにまにましてるだろうしな」


 それこそルーンちゃんは最初に声優さんのファンが囲いになっていて、新参お断りの空気もあった。

 だが、結局は熱心なファンの応援や拡散で、キャラクターの面白さが知れ渡り大規模コミュニティーにまで育った。


「どう作用するか、賭けでもあるわけですね」

「キャラクターだから言えるようなぶっ飛んだ無茶が効かなくなったりする弊害もあるかもな。演じる側の心理状態も、どうしたって変わって来るだろう」


 なるほど。頷いていると、三河くんが明るく言う。


「オレはあんまり気にしないっすけどね。声優もアイドルもアニメキャラもバーチャルアイドルも、全部別物として見るっすから」


 それが一番柔軟な楽しみ方なのだろうが、そこまで上手く割り切るのも難しく思える。

 二人が視線で、お前はどうだと問いかけていた。

 俺は自問自答しながら応える。


「俺は原作派だから、アニメは最初から原作キャラに声優さんが声当てて演じてくれてるって目線なんですよね……でも、バーチャルアイドルだとどうなんでしょう、そのキャラクターが喋ったりこっちに呼びかけてくれるのが嬉しいんですよね。あれはほんと独特ですよね」


 俺も熱く語る。

 声優さんに呼ばれるのは、あくまでアイドルとしての視点な気がする。

 あの、キャラクターに呼ばれるあの感動とは似て非なる物だ。

 少年の日、ヒーローショーで見たヒーローに握手をして貰えて感じた胸の高鳴りに近いのかも知れない。ファンタジーの存在がそこに生きている感覚。


「わかる」


 吉田先輩は深く同意してくれた。


「つまり、バーチャルアイドルってコンテンツは一つの完成形なんだよ。そりゃ好奇心から裏事情が気もなるのも仕方ないけど、どうせ知った所でバーチャルアイドルより面白くはならない、つまらない現実が待ってるだけだ。芸能人の私生活を根掘り葉掘り穿って喜ぶのは、テレビマスコミの文化だけで十分だろ」


 その辺は娯楽の多様化と言うことなのだろう。

 そう言うのを求めていない人が集まっている空気は確かにある。


「配信側も、トークが上手い人は容姿やプライベート抜きにして、実力だけを評価して貰える理想的な環境とも言えるのかもな。そもそも二次元自体が理想を追い求めた物であって、バーチャルアイドル文化はそれ単体で成立し得る……ああ、だから見た目はキャッチャーで万人受けするタイプが強いんだな、なるほどなるほど」


 喋りながら思いついたようで、吉田先輩は一人で納得している。

 尖ったデザインでコアな人気を確立しているキャラもいるが、確かに大規模コミュニティーに育っている先駆者を見れば、見た目はわかりやすさと受け入れ易さを重視しているようにも見える。


 もちろん魂は鋭く尖っていたり、天才的な個性でぶっ飛んでいるキャラが多いのだが、きちんとした線引きと配慮は忘れていない。

 逆に、そうでなければ可愛いアバターだけでは生き残れていない。


「渡辺だって、ルミエールちゃんの中の人とか知りたくないだろ?」


 心臓が跳ね上がる。


「ええ、まあ……」

「ルミエールちゃん、特定されたら引退する宣言してるっすからね」

「え。ほんとに?」


 心臓が凍りつく。


「あー、初期の変な荒し湧いてた頃、私生活に影響あるなら辞めるって言ってたな」


 最初期までは知らない。

 そんなことがあったのか。

 物凄く迂闊で危ういことをしていたことを今更後悔する。

 記憶を消したい。こめかみに拳銃を突きつけて、忘れろビームを撃ちたい気分だ。

 と、俺が一人で焦っていても会話は続く。


「商業戦略的な面からも、気になる連中には、どんな人なんだろう、って気にさせて想像させておくのが一番なんだよ」


 知ってしまえばつまらない現実が待っている、と言うことか。

 確かに、照沢さんは普通の人だった。アイドルの裏側だってそうだろう。

 光の天使ルミエールの現実離れした輝きと一致せず、終始戸惑ったまま喫茶店を後にしたのだった。


 三河くんのように、全部別物だと割り切って考えるのが正解なんだろうが、昨日の今日で、そんな簡単に割り切れない。


「まあ、どんな業界でも言えるんだろうけど、上位に食い込んでる連中はどいつもこいつも実力はあって当たり前、努力と根性論なんてパッシブスキルの世界だからな」


 俺も専門学校で散々味わった、理解不能な程の情熱。

 おまえは漫画を描いてないと死ぬのかと、本気で心配になるような人がいた。

 漫画以外にも面白い物たくさんあるだろうと他の遊びに誘っても、遊びが終われば直ぐに漫画を描きに戻る変人。

 そう言う連中に、凡人の俺が敵うはずがないと思い知った。


「あれ? 吉田先輩、声優には興味ないのに彩橋46は見るっすよね?」

「あれはリアルのアイドルだからいいんだよ」


 バーチャルアイドルとアイドルの違いはわかるが、アイドル声優と普通のアイドルはあまり変わらない気がするのだが、こだわる人はこだわるので、にわかな俺にはわからない線引きがあるのだろう。

 オタク道は奥が深いし道も複雑だ。


 そう言えば、殆ど身バレしていても別人と言い張り続ける某ウェザーロイドさん大好きだが、あれもそう言い張ることで最後の一線は守っているのと、魂の人のキャスターとしての地位と能力がそもそもある上に当人の愛くるしいお人柄、そしてそれを弁えた古参ファンの支えがあってこそネタとして成立している、素晴らしいコミュニティーだと言えるだろう。

 二番煎じであれと同じことを狙ってやろうとしても、余程上手くやらなければ滑るだけだ。


「ま、結局当人のスタイル次第っすよね。ゲーム実況者が企画立ててやってるバーチャルアイドルなんかもいるくらいっすから」

「そだなー。人気が出るのに実力はあって当然。その上にプラスされる話題性が、今流行のバーチャルアイドルのキャラクターなんだって所だろ」


 話をまとめに入る吉田先輩。


「今回はなにからなにまで、全部ちぐはぐで歯車が狂ったんだろうな。根性あるならこの失敗を糧になんかやればいいし、バーチャルアイドル業界の大事なサンプルケースとも言えるかもな」


 この手のオタク談義は止めどなくいくらでも語れてしまうので、まだ仕事のある吉田先輩は話を切り辞めようと、タブレットパソコンの画面をソシャゲの画面に切り替える。

 それを見ながら、俺は一人考えていた。


(……確かに)


 どんな方針で行くかは、それぞれのスタンス次第か。

 基本はバーチャルアイドルを名乗る以上、どこもキャラクター本人が生きて喋っている形は崩していない。


(そう考えれば……)


 光の天使ルミエールも、その日現実であったことも語っているが、バーチャル空間で起こった出来事と言う体で、方向性自体はキャラクターが生きている形だ。

 プライベートに影響があれば引退するとまで言っている。


(早まったことをしたな……)


 まさか出会えるわけがないと踏んでいたからと言って、ファンとしてはあるまじき行為だった。

 もやもやとした気持ちがまた胸の内で渦巻き、落ち着かなかった。






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