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魔王の娘と異世界拉致された俺  作者: きしかわ
連れ去られまして異世界編
14/19

14話 おはようございます、疑念さん。

「……起き…………じゃ」


誰かが俺をユサユサと揺さぶっている。

ついでに頬を軽く叩かれている。

つられて意識が眠りの底から徐々に浮上していくが、瞼は相変わらず重い。

意識も未だ微睡みの中である。


「起きるのじゃ、トーヤ!」


声と共に、頬を叩く力がやや強くなる。


「うーん……あと10分寝かせて……」


モニョモニョと口を動かす。

この心地良い睡眠時間をもう少し味わっていたい。

ベタな台詞って意外と素直に出てくるもんですね。

そんなことをぼんやりと考えながら俺の意識は再び眠りに落ちていこうとする。


「寝言をほざいておらんで、いい加減目を覚さんか!」


誰ぞの怒声が浴びせられ、パシーンと軽快な音を立てて、俺の頬が叩かれ――いや、平手打ちされた。


「アウチ!?」


意識が一気に覚醒する。なんか妙に外人じみた悲鳴が漏れた。

痛みに驚き眼を開くと、至近距離から俺を睨みつけていた金髪紅目の少女と目が合った。

その整った美貌を直視して、まだうっすらと残っていた眠気が拡散する。


「ようやっと起きおったか」


「あー……おはよう、シア」


俺が目を覚ましたのを確認した少女――シアはフンと鼻を鳴らして此方から離れた。

見れば日は既に昇り、辺りは明るい。

草木が朝露に濡れ、しっとりと湿っているところから見るに時刻は早朝といったところだろうか。

俺はもたれかけていた身をゆっくりと起こす。背に感じていた温もりが離れていく。

あれ、なんだっけこの温かいの?と思い背後を振り返ると、そこには黒霧号が地べたに座り込んでいる姿があった。

ああ、そういえば昨日の夜は結局、ログハウスに入れなくて黒霧号にもたれて寝たんだったと思い出した。

思いの外、黒霧号の毛艶が気持よくてすっかり熟睡してしまった。冷たい夜風から逃れるように黒霧号に引っ付いて寝たのも熟睡できた要因のひとつだろう。

ありがと黒霧号、と声を掛けると、己が呼ばれたのを理解したらしい黒霧号が首を伸ばして鼻先を擦りつけてきた。

仕草がまんまじゃれつくペットみたいで可愛いなとか考えていると、


「トーヤ、……昨晩、何があったんじゃ?」


シアが戸惑い全開で尋ねてきた。


「何がって、……ああ」


一瞬なんのことか本気で分からなかった俺だが、シアの視線を追ってみれば彼女が何を聞きたいのかは一目瞭然であった。


「こいつは酷い」


昨日は夜だから余り気にしなかったが、俺が寝ていた周囲の地面は無残にもめくれ上がり、明らかに尋常ではない様相を挺している。

さらには、そこら中にサハギンの死骸がゴロゴロと転がっており、地面の荒れようと合わせて凄惨の一言に尽きる。

っていうかよくこんな状況でしっかり寝れましたね俺。日の下で見ると吐き気もよおしかねない光景なんですが。

昨日の晩は何か変に高揚してたのと、ラファエロが帰る間際に言っていった言葉によって生じた疑問のせいでそれどころではなかっとはいえ、俺は結構動揺していたらしい。

普段ならこんな場所で一夜過ごそうなんて思いもしないでしょうし。

意識してしまうと妙に生臭い匂いもしてくる。これはきっとサハギンから漂ってくるサカナ臭さだろう。

シアが顔を顰めているのは間違いなくこの異臭のせいだ。


「昨日の晩、寝てたら襲われてさ」


――カッパを召喚して撃退したよ、と続けようとして俺は思いとどまった。

これを説明しようと思うと、俺の【自問自答】という能力についても話すことになる。

昨日までの俺であれば特に何も考えずシアに【自問自答】のことを話し、これが何なのかと尋ねてもいた。

だが、今は少々事情が異なる。

俺と同じように日本から呼ばれてきた(と、思うんですよねあのカッパ。相撲とかター◯ルズとか言ってたので疑問を挟み込む余地が無い気がします)ラファエロが、サハギンを撃退後に何事もなく帰っていった様子を見るに、召喚された者は本来であればすぐに帰れる・・・・・・のではないかという疑問が生じている。

では、それをシアが説明すらしないのは何故かというところに俺は行き着いたのだ。

シアが俺を返そうとしてくれているのは本当なのか?

――そもそも、シアを信用していいのか?

そういえば彼女、俺がこちらの世界に来たとき下僕とか何とか言ってたし、加えて俺を焼き殺そうとかしてたし、思い返せば思い返すほど信用度の度合いは下がってゆく。

完全に疑うというところまではいかないにせよ、僅かばかりの疑念を抱いているのは確かだ。

ここで【自問自答】のことまで知られてしまっては、シアが良からぬことを企てていたとき対抗する手段が無くなってしまう。

迂闊に手の内を晒す真似は避けるべきだと思う。【自問自答】のことを訊くのはこの疑念を晴らしてからでも遅くない。

とはいえ襲われた俺がどうやって助かったかを伝えないことにはシアの質問には答えられないだろう。


ひとまず真相をぼやかして伝えかなあ、などと考えていると、シアが静かに俺の手を取った。


「へ?な、なに?」


間抜けな声を漏らす俺に構わず、シアは手から始まって腕、肩と俺の体をぺたぺたと触っていく。

突然のことにされるがままにシアに触れられていく。その手つきは慎重で、労るような触れ方だった。

……すっごくこそばゆいんですけど。あとシアの顔が近い。真顔ですよ真顔。何やってんのとか訊ける表情じゃないですってこれ!

美少女に触れられてるとかどういう状況なんですかこれ!あっそこはダメ、くすぐったい……!

変な声が喉元まで出かかったのを辛うじて堪える。


「……うむ、大事なさそうじゃの」


ひと通り触り終えたのか、シアが安堵したように溜息を漏らした。

そして改めて周囲へと目をやり、近場に転がっていたサハギンを見ると再び表情を曇らせた。


「こいつらはサハギンじゃの……よもやこんな所に出没するとは思わなんだ。あちらの湖から来たんじゃろうな。いや、そうではなくてだの」


そこでシアは一端言葉を切り、言い難そうにしながらも心底申し訳なさそうに頭を下げた。


「……すまぬ。トーヤを放り出したばかりに危険な目に合わせてしもうた。見たところ怪我は無いようじゃが、その……大丈夫じゃったか?」


「え、と」


「私が迂闊じゃった。街道は安全だと思っていたとはいえ寝所に忍び込んだ程度で、モンスターが出現するかもしれない野外へ放置するなど……本当にすまなかった。トーヤが無事だったのは本当に良かったが、それは結果論じゃろう。私は一時の怒りでおぬしを危険に晒した。謝っても謝りきれぬ……」


シアは俺に本気で頭を下げていた。

言葉の節々に申し訳なさが込められているのが分かる。

そんな謝罪を受けて、俺は戸惑った。

どうやら俺の体を触っていたのは怪我がないか確かめるためだったらしい。


「トーヤが私の寝込みを襲おうとする理性皆無の馬鹿者だったとしても、魔術の発動の片鱗も見せぬ愚鈍だとしても、言動がときどき気違いじみている変態だったとしても、本当にすまんかった……」


「オイコラ謝りたいのか悪口言いたいのかどっちなんですか!」


「本当にすまんかったのじゃ、変態」


「謝る気ないよねシア!?」


とはいえ俺自身、シアに家を追い出されたことに対して特に何も思うところはなかった。

だって自業自得なんですもん……。女の子なら寝顔を見られるのは良い気持ちがしないだろうし。

たとえ俺が紳士だったとしても!紳士だったとしてもだ!繰り返します、紳士だったとしてもです!

そもそもがサハギンに襲われたときは、その後に出現したカッパに色々意識もがれすぎてそこまで考えが至らなかったし。


「……トーヤの気が収まらぬのなら、私を殴ってくれて良いのじゃ」


さあ、とシアがぎゅっと目をつぶって顔を前に出してくる。

え、なんですかこれ……。


「いやあの、シア?」


声をかけてもシアは頑なに目を閉じたまま動かない。

形の良い唇も何かを待ち構えるように噛まれているし、体も強ばっている。

その割に手足はプルプルと震えているし、顔色も緊張に紅潮している。


「…………」


「…………」


殴れ、と?

いやいやちょっと待ってください。突然、自分を殴れと言われても困りますって!

身体の小ささも相まって小リスみたいに震えてる女の子に暴力振るえってのは無理な話ですよ!

そんな覚悟完了ってな感じに頬を差し出されてもどうしろと。

シアのせいで死にかけたのは、まあ間違いないけど。ここで殴りかるのは中々に難易度高いですよ。というか難易度高いとかそういう次元の話では無い気がする。

責任感がそうさせているのかもしればいが、この異世界には自身がミスったら相手に殴らせる習慣でもあるんでしょうか。それどこの蛮族。


「私は」


いつまで経っても飛んでこない俺からの制裁パンチ(飛ばす予定は今のところなし)に痺れを切らしたのか、シアが目を閉じたまま話しかけてくる。


「おぬしを元の世界に返せずに死なせてしまうところじゃった。これは私自身への罰じゃし、戒めじゃ」


だから構わずやらんかとシアは言った。


「……」


昨日の道中で抱いた疑念がまた首をもたげる。

シアは、どうしてここまでして俺を元の世界に返そうとしてくれるのだろう……?

昨日は結局、訊けなかった。

けど、今なら何となくシアは答えてくれる気がする。

弱みに付け込むようで少し気が引けるが、ここを逃せば俺は悶々とし続けるだろう。

それに、だ。

こうして真摯に謝ってくれるシアを疑い、隠し事をしようとすることが本当に正しいのか――?


「なあ、シア。どうして君は、そんなにも真剣に俺のことを元の世界に返そうとしてくれるんだ?」


だから俺は尋ねた。この胸のモヤモヤを絶ち切るために。

読んで下さりありがとうございます。

ストーリーが進展しない……!

次回で色々綺麗になる予定です。なお、投稿予定は10日の0時を目標としております。

更新できなかったらごめんなさい……。


そしてそろそろチュートリアル的な連れ去られまして異世界編が終わりになり、新章に突入していきます。


今後とも宜しくお願いします。


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