1幕 お祈りはいりません
空は泥を吸ってしまったスポンジのように暗い曇天で今にも雨が降りそうだ。太陽の日差しはどこにもなく、まだ昼であるのに薄暗い。
外に出かけるには躊躇する天候で、森林の中を中年男性と少年が歩いていた。
少年は空を見上げて、今日は私の初仕事なのについてないなと、がっがりしたように呟く。初めての仕事は晴天であって欲しかった。験担ぎではないが、その方が自身の未来を祝福してくれるように感じられたからだ。
まだ雨は降ってはいないのに、鬱蒼と茂る地面の草も足に絡みついて、重たさを感じてしまう。周りは木々が聳え立ち、木々から伸びて地面を這う根っこが自然の障害物として、歩行の邪魔だ。
これまで鍛えていたが、それは街の中で石ころや窪みはあっても、平地で歩きやすい地面とは全く違うと痛感してしまう。注意をして歩かないと短時間で体力が尽きてしまうだろう。己の呼吸、体運び、剣や盾、リュックなどの持ち方、そして周囲への警戒。全てを自分一人でやるのだから、よくよく考えなくてはならない。
ここで息が荒れれば、初心者丸出しで他の新米冒険者と同じように見られてしまう。それは嫌だった。
「おい、大丈夫かい? 少しきつそうだが、休憩をとるか?」
「あ、はい。まだまだ大丈夫です。森歩きに慣れていないから、反対に休みなく進んでくれると助かります、ガーリーさん」
「そうかい、まぁ、森歩きにはコツもいるしな、疲れたと感じたら遠慮なく言ってくれよ? 人間というのは自分が思う以上に疲れていることも多いからね。シグルド君のやる気は買うけど、帰りに疲れたと言って倒れないでくれよ」
前方を歩く中年男性が冗談混じりに注意を促すので、反論することなく素直に頷く。シグルドと呼ばれた少年は今日が初任務の冒険者だ。何を言っても説得力は皆無なので、口を噤むしかなかった。なによりも、ガーリーという名の中年男性の言う通り、へばってしまい冒険者ギルドに抱きかかえられて帰れば、他の冒険者たちに馬鹿にされることは確実だった。そんなことになれば英雄を目指すシグルドにとっては耐え難いことである。
休むことを拒否するシグルドをガーリーは観察し、特に息も荒げていないし、歩きにも問題は無さそうだと見て取ると再び歩き始める。
「まぁ、薬草採取は森の浅層でやるから危険はほとんどない。あまり肩に力を入れすぎないように歩くといいよ。魔物の警戒も俺がやるからさ。それがベテラン冒険者の役目でもある」
「はい、ありがとうございます。ガーリーさんに出会えて幸運でした」
軽く肩を竦めて歩き続けるガーリーにシグルドは感謝の念を込めて頭を下げると、ガーリーを追いかける。
シグルドとガーリー。2人は街から徒歩で2時間ほどかかる森林にて薬草採取をしに来た冒険者たちである。
街近くにしては木も伐採されることなく残り、鬱蒼と茂っていて、視界が通りにくい中で歩きづらさも加わるのに、ガーリーは自然な動きで足を引っかけそうな根っこを避けて、魔物が潜んでいそうな草むらから距離をとり、危なげなく歩いていく。その動きは初心者にとっては、かなり参考になるものだった。
「ん? なにかあるかい? 気になったことがあったから小さなことでもいいから教えてくれると助かるよ。俺らは慣れから見逃す危険があるかもしれないからさ」
「いえ、参考になるなぁとガーリーさんを見ていて感心していただけです」
「ははは、人は見かけによらないだろう?」
視線に気づき、おかしそうに笑うガーリーに思わず図星を突かれてシグルドは口ごもってしまう。ガーリーの言う通り、シグルドはこの中年冒険者を無意識に下に見ていたところがあったからだ。
それを見抜かれていたのかと、羞恥で頬を赤く染めてしまうが、ガーリーは特になにも思わないようで、気にせずに歩き続けるので、そのことがますますシグルドに恥ずかしさを覚えさすのであった。
「しかし、シグルド君は若いね。おじさん、ギルドから飛び出てきた君を見て、あまりにも若いから、おせっかいと思いつつも、ついつい声をかけてしまったよ」
「あ、すいません。わ、俺、冒険者になれる歳になるの、ずっと楽しみにしてて。英雄譚とかってあるじゃないですか、子供の頃から憧れてて、いつか俺もって冒険者になれる日を心待ちにしてたんです」
しどろもどろになってしまうが、シグルドの本心だ。
「わ、俺の家って、平凡などこにでもあるパン屋なんです」
「へー、パン屋? それはそれは、飯に困らないで良さそうだけど、退屈だったのかな?」
前を歩くガーリーの声音が硬くなり、視線が細まり冷たくなる。だが、シグルドは自身の夢を口にするのに恥ずかしさを覚えていて、ガーリーの小さな変化には気づかなかった。
「いえ、お客様が美味しかったよと笑顔を向けてくれるのは嬉しかったんですけど、でも、家は長男が継ぐし、身の振り方を考えないといけなかったんです。そんな時に常連さんの冒険者のいろんな話を聞いて」
「憧れを持ったってところか」
茶化すようなガーリーのツッコミに気恥ずかしいさで頬を赤くしてしまう。まさにそのとおりであり、よくある話でもあったからだ。冒険に憧れるよくある子供の一人がシグルドだ。
「は、はい。両親も冒険者になりたいって言ったら最初は反対してたんですけど、体を鍛えて冒険者さんにいろんなことを教えて貰ってたら、ようやく許してくれたんです。と言っても、15歳になるまでは実家通いですけど」
「冒険者になれる歳になったらすぐに登録したってことはまだ12歳か。若さだねぇ」
世間話の一つであり、ガーリーにとっては珍しくもないのだろう、振り向きもせずに前方で生えている邪魔な枝を剣で切り払う。一大決心のもと、冒険者になったシグルドにとっては、もう少し感心して欲しかったが、世間的に見たら話のネタにもならない内容なのだ。
簡単なように話すが、実際は両親に許してもらうのは大変だった。父親には殴られるし、母親には泣かれた。冒険者さんを師匠と呼び、師事して鍛えたけれども、正直言うとまだ許してもらっていないと思う。恐らくは冒険者の厳しさを知ってやめさせるために、実家通いで許してくれたのだ。
そして、その厳しさをシグルドは早くも痛感している。森林での歩き方や体力の配分、薬草の探し方など、実地で何回か冒険者の師匠に連れられて教えられたが、師匠がいないと心細さと共に、何もできないのでとの不安が大きく、習ったことの半分もできていなかった。
ギルドから飛び出て、森へと向かうシグルドに声をかけてきてくれたのが心配してくれたガーリーだった。ガーリーのお陰で、不安は薄れていた。一人であったら、曇天の下、聳え立つ木々、鬱蒼と繁茂する草むらを見て、怖くなりユーターンしていたかもしれない。
「良いご両親じゃないか。ピカピカの革鎧に鉄で補強された木の小盾、新品のブーツ、リュックサックまで新品だろう? それに腰に下げてるシミターも、漆の鞘に入って抜かなくても名剣だとわかるよ」
嫉妬混じりにからかうガーリーは、ブーツは頑丈だが、擦り減って色も落ちている。着ている革鎧はそこかしこが穴が開いてボロボロだ。剣も手入れはされておらず、鞘には泥が付着している。お世辞にもよい暮らしをしているようには見えず、失礼だけどうだつの上がらない冒険者という表現に相応しい男性で、シグルドの装備を見て羨ましそうに言う。
「えっと、これはシミターでなく、日本と━━」
「おっと、話はここまでだ。薬草群に到着だ。さ、早く採取してくれ。帰りを急がないと雨が降りそうだ。びしょ濡れで帰るのは勘弁だからね」
シグルドが最後まで言い終わる前に、ガーリーは立ち止まり、前方を悪戯そうにニヤニヤと指差す。
「わぁ、こんなに薬草が! 本当に採取して良いんですか?」
森林にぽっかりと開いた空き地。そこに薬草がたくさん群生していた。師匠に連れられてきた時もここまで多くの薬草が群生していた光景は見たことがない。
「あぁ、良いよ。浅層なのにちょうどここは人も寄り付かない穴場でね。でも、俺もそろそろ中層に探索に行こうと思ってたから、誰かに教えておこうと思ってたところなんだよ。君が採取している間は俺が見張りに立つから終わったら交代してくれ」
「ありがとうございます! えっと、薬草は薬効が高いから、固くて古い葉を主に採取する、若芽は無視をして……」
ニコニコと笑うガーリーに、シグルドは頭を下げて礼を言うと、師匠に教わったことを思い出しつつ、薬草を採取する。
薬草採取は量と質によって報酬が大きく変わるので、師匠から気をつけて採取するようにと口を酸っぱくして言われたものだ。
夢中になって採取する。初めての仕事がこんなにうまくいくなんて幸運だとシグルドはリュックサックに次々と入れていく。
この時、シグルドは完全に無防備だった。見張りはガーリーがしてくれるし、初の仕事に浮かれていたシグルドはそもそも調子に乗っていた。
だから、本当はここで痛い目に遭うところであったのだろう。
━━本来であれば。
雲に僅かに切れ目が入り、日差しがほんの少しの間だけ空き地を照らした。そして、その日差しにより、シグルドを覆うように剣を振りかぶる人影が映った。
「くっ!?」
即座に薬草を投げ捨てると、シグルドは身体を投げ出して横へと転がり、シグルドの座っていた場所に剣が振り下ろされた。
まるで耕作するように、剣が土を捲り鈍い音が響く。あとワンテンポ遅ければ、土ではなくシグルドの頭が割れていただろう。無理やり跳んだために頬に土がつき、手が小石にひっかかり小さな傷を作る。
「何をするんですかっ、ガーリーさん!」
痛みと驚きを心の中に踏みつけて、鋭く叫ぶシグルドの目には、ガーリーがいた。外れた剣を引き戻すと薄笑いを浮かべる。
「ん〜、わからねぇか? これ以上なくわかりやすいと思うんだけどな。おじさん、中層に向かうと言ってただろ? そこで君の持つ綺麗な武器とか欲しくてさ、ここは殺して奪おうと思ったわけさ」
小腹が空いたから、軽い物でも食べるといった罪の欠片もないガーリー。そこにはさっきまでの気の良いおじさんな姿はなく、ナメクジのようにねめつけるような笑顔は醜悪で、シグルドが初めて見るものだ。
「ほら、その武器、冒険者には人気なさそうだけど、貴族には高く売れそうだろ? 売った金で装備を一新しようと思ったわけさ」
「なっ!? こんなことをして大丈夫だと思ってるんですか? 一緒に薬草採取をしに行く姿を他の冒険者も見てます。私がいなければ、冒険者カードからすぐにバレますよ?」
「それは大丈夫。俺はもともと冒険者でも何でもないんだ。こうやって地道に馬鹿で世間知らずな初心者冒険者狩りをして生計を立ててるだけなんだよ」
どおりでギルド内ではなく、街から出てから声をかけてきたはずだ。ガーリーのことを少し怪しくは思っていたが同じ薬草採取の依頼を受けた冒険者だと思っていた。だが、その前提が崩れ、シグルドは青褪める。
人の良い冒険者と知り合いになれて、初の仕事もうまくいくと浮かれていたのに、大違いだった。ガーリーにはちょうど良い獲物にしか見られていなかったのだ。
「だからおとなしく死んでくれっ!」
再び剣を振りかぶるガーリー。殺意の籠もった一撃は、シグルドを萎縮させるのに十分であり、シグルドはわたわたと慌てふためき逃げ回るしかできない。
「ふはっ、そんな逃げ方じゃ、ツノウサギにだって負けてたな。ほら、さっさと死んでくれよ、箱入り息子が、世間を甘く見たな!」
力任せの剣撃はシグルドを殺すためだけの攻撃で、師匠に教わったことを欠片も思い出すことなく、鞘から剣を抜くことも考えずに、シグルドは無様に逃げ回る。
外れた剣撃により幹が削れて、草むらが刈られ、時折シグルドの革鎧を浅く切り、頬を掠る。シグルドは痛みに顔を引きつらせて、ますます動きを鈍くして、ガーリーは自分の優位性を確信し、まるで獲物を追い詰めた猿のようにニヤけた笑みが深くなる。新品の革鎧やブーツはもちろんのこと、シミターは見るからに高価そうな物だ。あれらを売り払えば暫くは働かないで暮らせると、人殺しの対価にしては十分だと考える、腐った笑顔だ。
「新品の装備を買ってもらった両親にあの世で詫びろよ、すいません、ぼきゅが間違ってました〜ってな! お前の師匠とやらも雑魚の冒険者なんだろ? なにせ冒険にそんな脆そうなシミターを持つお前を止めないんだからな!」
小馬鹿にするガーリー。その嘲りのセリフを耳にして、シグルドの恐怖で凝り固まった頭はスーッと冷えていき、小鹿のように震えていた足が力強く地面を踏む。
「私はいくら馬鹿にしても本当だから仕方ないです。でも両親や師匠を馬鹿にするなっ!」
まるで身体に火をつけたように熱くなり、怒りのままに迫る剣撃の横腹に手を打ちつけて、跳ね除ける。
「!?」
ただそれだけだ。剣撃に合わせて軽く手を打ち付ける。言葉にすると、簡単にできそうな手法だが、ガーリーは顔色を変える。
なぜならば簡単ではないからだ。ミスをすれば、簡単に腕は切られるだろう恐怖心を押し殺し、手を打ち付けようとする人間がどれくらいいるか? 少なくても、自分なら手に持つ小盾で受け止める。
状況判断ができないほど怒っているか、それとも……それだけの実力があるか。
「くっ、まぐれだ! あれだろ、怒ってたから、なにも考えずに手を出しただけだろ?」
荒々しく剣を振るい続けて、シグルドの反応をガーリーはうかがう。たまたまであって欲しい。目の前の少年はたった12歳で体格も小柄だ。弱々しそうで狼に狩られる羊にしか見えなかった。羊の皮を被る狼ではないはずなのだ。
だが、ガーリーの希望とも言える楽観的な予想は、佇まいを変えたシグルドによって打ち砕かれた。
剣撃が当たらないのだ。それどころか、さっきまで毛虫のように這い回り逃げ惑っていた少年は今は落ち着いて、まるで静かな水面のような表情でガーリーの攻撃を躱していく。全力の振り下ろしは手で軽く受け流されて、ならば牽制で手数による乱撃をとめちゃくちゃに振り回すと、小盾を斜めに構えるシグルドにより、その軌道をずらされてしまう。体当たりで吹き飛ばそうとすれば、体格差をものともせずに、巧妙な力の入れ具合をして傾けながら受け止められる。
明らかに目の前の少年は腕が立つ。少なくとも自分よりは遥かに上であるとガーリーは青褪めて、段々と息切れがして動きが鈍くなっていった。
その様子をシグルドは冷静に観察していた。落ち着いて観察すれば、足取りはバタバタで、腕の振り方も素人だ。魔物相手であれば力任せでも勝てただろうが、仮にも5年間師匠のもとで鍛えてきたシグルドの相手ではなかった。
「本当の実戦はこうなんだ……」
「く、くくそっ! 悟った顔をしてるんじゃねぇよ、ガキの癖に! なんの苦労も知らねぇガキの癖によぉっ!」
ガーリーも腕の差を悟り、このまま戦っても負けると思い、勝負に出ることにする。腕に全力を込めて、思い切り剣を振りかぶる。勝算はある。相手は細い刀身のシミターだ。革鎧を傷つけることはできても致命的な一撃とはならないだろうし、そもそもリーチの差が違うので、深くは入り込まれない。受け止められれば、そのままシミターを打ち曲げて跳ね飛ばし、武器のなくしたシグルドを斬り殺す。
対して、シグルドは鳥の羽根でも掴むようにそっと柄を握り、腰を落とすと構えをとると呼気を整える。
「ぬぉぉ! 死ね、このガキ!」
「ふっ!」
剣を振り下ろすガーリーと、鋭い呼気を放ち迎え撃つシグルド。
一瞬の閃きが奔る。
━━そして、ガーリーの剣が振り下ろされることなく、地面へと落ちると、ガーリーはゆっくりと膝をつく。
「ば、馬鹿な、まだ間合いじゃなかったのに」
ガーリーの腹は切られていた。臓物が零れ落ち、血溜まりができていく。いつの間にかシグルドは剣を抜いた構えで立っていた。ガーリーの目には剣を抜いたところは全く見えなかったのに切られていた。
「マナを込めた居合切りというやつです。それにこれはシミターではなく日本刀というらしいですよ、ガーリーさん」
「マナを込めた……、けっ、なんだよそれ……て、天才かよ」
静かに残心を解いて日本刀を鞘にしまうシグルドは、倒れるガーリーを哀れに見つめると、頭を下げる。
「ガーリーさん、ありがとうございます。今日は色々ありました。訓練と実践は違うこと。穴場で見た日差しの溢れる美しい薬草群、そして……殺し合い。師匠は冒険にはきれいなことと汚いことがたくさんあると言ってましたけど実感しました。貴方のおかげです」
ガーリーを馬鹿にしているのではない。本当にシグルドは感謝をしていた。もしも、今日の出来事がなければ、シグルドはもっと酷いことになっていたかもしれない。
今日の出来事は師匠との5年間の訓練に匹敵する濃さの内容だった。
見るとガーリーの目は光を失い、息絶えていた。最初は気の良いおじさんだと思っていただけに自分の甘さを蹴飛ばされた感じだ。
(人を殺した……怖いよ。でも……それでも薬草群を見つけた感激は本物だった。私は英雄になりたい、他の土地を見て回りたい)
手は震えて吐き気がするが、シグルドはグッと気持ち悪さをその心ごと呑み込むと、薬草を詰めたリュックを担ぐ。
死んだガーリーの持ち物はどうしようかと考えるが、これで持っていったら、自分を持ち物を狙ってきたガーリーと同じようになると感じると嫌だったので放置することにした。さすがに死体を埋めるまではしない。いずれ魔物か動物により食い散らかされて消えるだろう。
「はぁ……依頼は成功だけど、師匠にはなんて説明すれば怒られないだろ」
そうして、シグルドはため息を吐くと気丈に背筋を伸ばし、街へと帰宅する。
雨がシトシトと降ってきて、シグルドの心をまるで現しているようだった。
パン屋の平凡な子供が英雄の道を歩むかは、誰も知らない。だが、少なくともシグルドは初めての冒険を終えたのである。
◇
雨が降り始め、ガーリーの死体を濡らしていく。誰とも知らない悪人は、このまま土に帰るか、腹をすかせた動物に食われるか。
━━それとも。
「パンパカパーン。おめでとうございます、アマガミカナタ様。貴方は厳正なるオーディションの結果、見事悪役として採用されることとなりました!」
どこからか、底抜けの明るい声が響く。
と、ガーリーの死体がその身体も剣も服すらも粘土細工のように形を失い溶けていき━━。
「ありがとうございます。粉骨砕身の思いで、このどこまでも残酷で現実的で、それでいて先の見えない劇が最高となるように悪役を引き受けさせていただきます」
まるで天上から奏でられるような美しい少女の声が響き、空間に裂け目ができると、ほっそりとした腕が出てくるのであった。




