二話「グリーンメスカル」3
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バルにはすでに男の姿はなかったが、店の老夫婦は男のことを記憶していた。
「ああ、いたいた。悲壮な表情で詰め寄ってきて、バッグが消えたんだが知らないかって聞いてきたかしら」
テーブルを拭いたり、椅子をあげたりと店じまいをしながら、初老の女性が言った。
「どんな男でした?」
「若い男の子だったわね。背は低めで、ちょっと目つきがよくなかったかしら」
「人間ですか? 悪魔? 幻視者?」
「人間だったわ」
「名前とか、連絡先とかを残していきませんでしたか?」
「聞かなかったわね。とにかくすごく焦ってる様子で、私が知らないというとすぐに飛び出して行ったもの」
「その男性はぁ、よくお店に来るんですか?」
マイラが隣から口を挟んだ。胸の前で組んだ手をきつく握りしめ、罪悪感に絶えず苛まれているようだった。
「見ない顔だったわね。お父さん、窓際の席に座っていたお客さん、知ってますか?」
「いや、知らねえな。一度来た客の顔は忘れないものだが……」
「そうよねえ、初めて来た人じゃないかしら」
おばさんは俺たちの方に向き直って言った。
「そうですか。ありがとうございます。もし、その男を見かけることがあったら、連絡してもらえますか? 俺たち、デイヴィットの宿に宿泊していますので」
「分かったわ」
バルの老夫婦はデイヴィットのことをよく知っているという。そのため俺たちは宿屋の名前を告げて、立ち去るだけでよかった。




