第289話 アトラスピラミッドの冒険
ここからアドバンテイルは本気で書きます!!!
轟音と共に通路が完全に遮断され、三人は行き止まりに近いフェンスに囲まれたエリアへと追い詰められていた。アトラスピラミッドの内部は、クリスタルのような幻想的な要素は微塵も存在しない。あるのは冷酷な鉄の匂いと、侵入者を排除するためだけに設計された機械的な罠の数々だ。
クロス「おいセノ、さっきからボケてる暇なんてないぞ。ここはアトラスピラミッドだ。一歩間違えれば、次こそ本当に形も残らない」
クロスは鋭い視線を周囲に走らせた。伝説の戦士としての感覚が、壁の向こう側で駆動し続ける巨大な歯車の振動を捉えている。ここは一度仕組みが動き出せば、止める術など存在しない死の迷宮だ。
セノ「わかってるって。俺の雷でこのフェンスごとぶち破ってやりたいところだけど、ヘタに刺激するともっとヤバい仕掛けが動きそうだしな」
セノは手にした杖を構え直し、パチパチと指先に小さな電光を走らせた。光と雷を操る彼であっても、この閉鎖的な空間での戦闘は神経を削られる。
フェルリア「ちょっと、さっきから二人で勝手に納得しないでよ!ここがどこかも、なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのかも、全然説明が足りないじゃない!」
フェルリアは乱暴に掴まれた肩をさすりながら、クロスを強く睨みつけた。彼女にとっては、いきなり現れたクロスに服を引っ張り上げられ、死の罠から放り出されたばかりなのだ。混乱するのも無理はない。
クロス「説明は後だ、フェルリア!今は生き残ることだけを考えろ。ほら、また来るぞ!」
クロスの叫びと同時に、床のパネルが次々と反転し、鋭利な槍が下から突き出してきた。クロスは瞬時にフェルリアの腰を抱き寄せると、わずかな足場を求めてフェンス際へと跳躍した。
セノ「うわっ、今度は串刺しかよ!スクラップどころか、これじゃバーベキューだぜ!」
クロス「だから語彙力が死んでるって言ってんだろ!いいから走れ!」
三人はフェンスに囲まれた狭い通路を、仕掛けを紙一重でかわしながら突き進む。アトラスピラミッドは、まるで三人の動きを嘲笑うかのように、次々と新しい罠を繰り出してきた。
フェルリア「もー!あんたたちと一緒にいると寿命がいくつあっても足りないわ!」
フェルリアは文句を言いながらも、クロスの驚異的な身体能力と判断力に必死についていく。彼女の知らないクロスの「戦士」としての側面が、この絶望的な状況下で嫌というほど見せつけられていた。
クロス「前方にゲートが見える!あそこを抜ければ、少しは安全な場所に出られるはずだ。セノ、援護しろ!」
セノ「任せろ!光の壁、展開!」
セノが杖を振るうと、通路の左右に眩い光の障壁が形成され、迫りくる矢や槍を弾き飛ばした。その隙を突いて、クロスは大剣の腹を使ってフェンスの一部を強引にこじ開け、二人を先へと促した。
クロス「急げ!ここが閉じる前に飛び込め!」
三人は火花を散らす機械仕掛けの間を縫うようにして、奥へと続く未知の暗闇へと飛び込んでいった。
全身を叩きつけるような凄まじい衝撃と共に、クロスは冷たい金属の床の上で意識を取り戻した。周囲を囲むのは、どこまでも続く灰色の鉄壁と、幾重にも張り巡らされた錆びたフェンス。空は見えず、天井からは鈍い機械音が絶え間なく響いている。ここは侵入者を逃がさない死の迷宮、アトラスピラミッドの内部だった。
クロス「いてて...みんな、大丈夫?」
クロスは火花が散る視界を振り払い、痛む身体を無理やり起こした。伝説の戦士としての強靭な肉体がなければ、今の落下だけで命を落としていただろう。
セノ「なんとかな......ッ!!死ぬかと思ったな。結構な高さだったし」
すぐ傍らで、セノが黄色い服にこびりついた鉄屑を払いながら立ち上がった。光と雷を操る彼も、この閉鎖的な空間に漂う不気味な魔力の気配に、剣と杖を握る手に力を込める。
クロス「にしてもなんだここ?フェンスに....みんな走れええええ!!!!」
クロスの言葉が途切れた瞬間、通路の奥から巨大な「壁」が猛スピードで迫りくる音が響いた。逃げ場のない狭い通路を、機械仕掛けのプレス機がすべてを押し潰そうとスライドしてくる。
がっ!!
クロスは反射的に、まだ地面に座り込んで状況を把握しきれていなかったフェルリアの襟元を掴んだ。そのまま、まるで荷物でも運ぶかのように彼女を強引に引き起こす。
フェルリア「ちょっと!!どゆこと!??」
フェルリアは突然の乱暴な扱いに抗議の声を上げるが、クロスの瞳には一切の迷いはない。彼は大剣を背負ったまま、驚異的な脚力で鉄の廊下を蹴った。
その瞬間!!!
キィィィンッ!!!ドゴオオオンッ!!!
三人がいた場所を、巨大な鉄の塊が完全に粉砕した。金属同士が激突し、凄まじい火花と衝撃波が通路を駆け抜ける。あと一秒判断が遅れていれば、三人の身体は鉄板に挟まれて消滅していたはずだった。
セノ「あぶねー...完全に挟まれてスクラップエッグになるところだったな」
セノは冷や汗を拭いながら、ぺしゃんこになった通路を振り返った。九死に一生を得た緊張からか、その口からは妙な単語が飛び出す。
クロス「スクランブルエッグだろそれェ!!!」
必死の脱出劇の中でも、クロスの鋭いツッコミが響き渡った。命のやり取りをしている最中だというのに、セノの言い間違いを放置できないのは、二人が幼なじみとして長い時間を共にしてきた証でもあった。
フェルリア「ちょっと!いきなり服を引っ張るなんて、女の子に対する扱いじゃないわよ!説明しなさいよ、ここは何なの!?」
ようやく足をついたフェルリアが、顔を真っ赤にしてクロスを睨みつける。紫髪の彼女にとって、このアトラスピラミッドの狂気はまだ現実味を帯びていないようだった。
クロス「悪い、フェルリア。でも、あそこにいたらマジで卵料理になってた。ここはアトラスピラミッド……一度足を踏み入れたら、止まることは許されない場所だ」
クロスは大剣の柄に手をかけた。前方からは、さらに別のギミックが作動する重厚な歯車の回転音が聞こえてくる。フェンスの向こう側で何かが牙を剥こうとしている。
セノ「さあて、次はどんな罠が来るんだ?俺の雷で全部ショートさせてやりたいところだけど」
クロス「油断するなよ、セノ。ここは俺たちの知っている戦場とはルールが違う。行くぞ、足を止めるな!」
伝説の戦士クロス、光の術師セノ、そしてまだこの運命に戸惑うフェルリア。三人のアトラスピラミッド攻略は、この轟音と共に始まったばかりだった。
一難去ってまた一難。プレス機を間一髪で回避した三人の目の前には、光を一切受け付けない底なしの暗闇が広がっていた。壁一面を覆う無機質なフェンスが、わずかな空気の振動を拾って不気味に共鳴している。
フェルリア「……真っ暗。ちょっと、あんたたち、何も見えないわよ」
フェルリアは震える手でポーチから松明を取り出し、火を灯した。オレンジ色の小さな炎が揺らめき、湿り気を帯びた鉄壁の質感を浮き彫りにする。しかし、その光が照らし出したのは、希望ではなく新たな危機の予兆だった。
天井から、音もなく透明な液体が滴り落ちてくる。ポタポタと、重みのある音が静かな通路に不気味に響いた。
クロス「うおっ!!」
クロスの額に、その冷たい液体が直撃する。彼は反射的に顔を拭ったが、その感触は水とは明らかに異なっていた。
フェルリア「なにこれ....すごいベタベタ....」
フェルリアの肩や松明を持つ手にも、粘り気のある液体が纏わりつく。彼女はその不快感に顔を顰め、指先に残る奇妙な感触を確認した。
セノ「ベタベタ?」
セノが首を傾げ、自身の黄色い袖に染み込んだ液体を鼻に近づけた瞬間。三人の真正面、暗闇の奥でゴゴゴ……と石が擦れる不吉な音が響き渡った。
暗闇の中に、二つの赤い光が灯る。それは通路を塞ぐように配置された巨大な石像の瞳だった。石像はゆっくりと、まるで獲物を嘲笑うかのようにその大きな口を開き始めた。
その奥で、バチッという火花が散る。
セノ「ぎゃあああああ!!!!この水みたいなやつオイルかあああ!!!!」
セノの絶叫が通路に木霊した。石像の口から猛烈な勢いで放射された紅蓮の炎が、通路を満たしていたオイルに引火し、一瞬にして世界を真っ赤な地獄へと変えた。
クロス「伏せろおおお!!!」
クロスは瞬時にフェルリアの頭を抑え込み、床へと伏せた。オイルの焼ける特有の臭いと、肌を焼くような熱風が頭上を通り抜けていく。フェンスに付着したオイルも激しく燃え上がり、脱出路を阻む火の檻と化した。
フェルリア「熱っ……! ちょっと、これじゃ逃げ場がないじゃない!」
セノ「熱っ、熱い! 俺の服に火が! クロス、なんとかしてくれ!」
クロス「動くなセノ! 今、大剣の風圧で火を消す! フェルリア、俺から離れるなよ!」
クロスは大剣を抜き放ち、燃え盛る炎を切り裂くようにして大きく一閃した。巻き起こる凄まじい風圧が一時的に炎を押し戻すが、天井からは依然として「燃料」が降り注いでいる。
アトラスピラミッド。ここは侵入者をただ殺すだけでなく、最も苦痛に満ちた方法で排除しようとする悪意の塊だった。炎に照らされたクロスの横顔には、伝説の戦士としての険しさが刻まれていた。
紅蓮の炎が通路を埋め尽くし、オイルを吸った衣服が容赦なく燃え上がる。アトラスピラミッドの冷徹な仕掛けは、少女の大切な宝物さえも燃料として求めていた。
フェルリア「うわああ!私の服にも火がああ!!!!」
フェルリアの叫びが、燃え盛る鉄壁に反響する。黒とピンクのフリルが特徴的なそのゴシックドレスは、彼女にとって単なる衣服ではなかった。
セノ「いいから早くそれを脱ぐんだッ!!!!」
セノが必死に叫びながら、自身の雷の魔力を一時的に防御壁に変えて熱風を遮る。だが、フェルリアの意識は、激しく燃え上がる炎の向こう側――遠い過去の記憶へと引き込まれていた。
――それは、陽だまりのような温かさに包まれた、子供の頃の記憶。
フェルリア「うわー!アルデュエル様!これ、貰っていいのー?」
幼いフェルリアが目を輝かせて見つめる先には、慈愛に満ちた表情で微笑む母、アルデュエルの姿があった。その手には、今まさに彼女が身に纏っている、あのゴシックドレスが握られている。
アルデュエル「ああ!私が編んだんだ!どうだ?サイズはずれてたりしてないか?」
フェルリア「うんうん!気に入ったよー!私の大好きな黒色とピンクのフリルだものー!!!」
一針一針、娘の笑顔を思い浮かべながら編まれた世界に一着だけのドレス。その感触、母の指先の温もり、そして部屋を満たしていた穏やかな空気。
シルク「お姉さん....ずるい。いつもいたずらばかりなのに」
少し離れた場所で、妹のシルクが羨ましそうに唇を尖らせている。平和で、何に怯えることもなかったあの頃。
フェルリア「そういうシルクこそ先に服編んでもらったじゃーん!!!」
姉妹の笑い声が響く。だが、その幸せな光景は、現代の過酷な現実に浸食され、真っ赤な炎に飲み込まれていく。
フェルリア「ああ...私の服が....消えて行く......ッ!!!!」
現代のフェルリアは、燃え落ちていくドレスの端切れを掴もうと虚空に手を伸ばした。母が編んでくれた魔法のようなドレスが、漆黒の灰へと変わっていく。それは、彼女の中に残されていた「家族の温もり」という最後の一片が、アトラスピラミッドの闇に塗り潰されていく瞬間でもあった。
クロス「フェルリア!!しっかりしろ!!!」
クロスの叫びが、走馬灯を切り裂いた。彼は燃え上がるフェンスを蹴り飛ばし、呆然とするフェルリアの肩を強く掴む。ドレスは失われても、彼女の命までを炎に捧げさせるわけにはいかない。
セノ「クロス、もう限界だ!ここは一気に駆け抜けるぞ!」
伝説の戦士クロスの瞳に、激しい怒りと決意が宿る。仲間の想い出を焼き尽くすこの迷宮を、彼は決して許さなかった。火の粉が舞う中、三人は崩れゆく過去を背に、さらなる深淵へと足を踏み出していく。
燃え盛るオイルの熱風が、狭い通路を地獄のような熱気に変えていた。フェルリアの指先から、黒とピンクのフリルが灰となって零れ落ちていく。それは彼女にとって、母アルデュエルとの絆そのものだった。
フェルリア「そんな..私の服が......」
膝をつき、虚空を掴むように震えるフェルリアの肩を、クロスの強い手が無造作に掴み上げた。彼の視線は、背後から迫る炎の波と、前方でさらなる殺意を研ぎ澄ます石像の動きだけを捉えていた。
クロス「あんなもんどうでもいいだろ」
突き放すような、冷徹とも取れるクロスの言葉が放たれた。伝説の戦士として戦場を駆け抜けてきた彼にとって、死に直結しない「モノ」への執着は、この場では命取りになるという判断だった。だが、今の彼女にその正論は、炎よりも鋭く突き刺さる。
フェルリア「...どうでもよくないでしょおお!!!」
フェルリアの絶叫が、アトラスピラミッドの鉄壁を震わせた。彼女はクロスの手を振り払い、涙と煤で汚れた顔で彼を睨みつける。
フェルリア「あの中には、お母さんが編んでくれた思い出も、妹と笑い合った時間も全部詰まってたのよ!それを、ただの『あんなもん』で片付けないでよ!!」
セノ「おい、二人とも!喧嘩してる場合じゃないって!天井からのオイルが止まらねえ、このままだとマジで全員こんがり焼けちまうぞ!」
セノが必死に杖を振り回し、雷の衝撃波で炎の進行を食い止める。だが、クロスの瞳は揺るがなかった。彼は激昂するフェルリアの視線を真っ向から受け止め、一歩も引かずに言い放つ。
クロス「思い出なら、あんたが生きてりゃまた語り合えるだろ。だが、ここで死んだらその思い出を覚えている奴さえいなくなるんだ。服はもう戻らない……なら、今はその命を死守しろ!」
クロスは無理やりフェルリアの腕を引き寄せ、自身のマントの中に彼女を囲い込んだ。背負った大剣を抜き放ち、前方の炎を切り裂くための構えを取る。
クロス「セノ、全出力で道を空けろ!フェルリア、俺にしっかり掴まってろ!絶対に死なせねえから!」
フェルリア「……ッ!!」
怒りと悲しみ、そしてクロスの放つ圧倒的な生存への執念に、フェルリアは息を呑んだ。アトラスピラミッドの悪意に満ちた炎が、再び巨大な牙を剥いて三人に襲いかかる。過去を焼き尽くす炎の中、クロスは迷うことなく未来へ向かって地を蹴った。
次回は明日の19時ごろ公開!




