閑話:楽しいショッピング
無事スラムから帰還した俺たちは、テキトーに昼食を済ませて愛玩ギルドでウル(←そういやいつの間にかこの名前になってたな)の登録も済ませると、ブラブラと街を散策することにした。
「見てくださいメリーちゃん。この服可愛いと思いません?」
「あっちの靴の方がいいなぁ」
いわゆるウィンドウショッピングというやつで、こっちの世界でも目玉となる商品を壁に飾ったりしてるようだ。
「え~っ? 絶対こっちがいいですよ~?」
「いいえ、あっちね」
「こっち!」
「あっち!」
「フフ。それなら両方試着すればいいのよ。2人とも可愛いんだし、互いに身に付けて見せ合ってみるのも楽しいわよ」
「「そう(です)ね!」」
「バウ!」
ネージュの提案に乗っかった2人が店内に突入していく。やれやれ、トレノスの街でもそうだったが、ここでも服屋で散財する気らしい。
幸い金に余裕はあるから構わねぇし、賞金が貰えたのもメリーのお陰だから強くは止められないが。
「どうしたのですか久さん。2人とも中に入りましたよ?」
「ああ、わりぃ。ちょっと前の街のことを思いだしてさ」
「前の街――あ!」
「ネージュも思い出したか? ま~たあんなトラブルは御免だと思ってさ」
「クスクス。そうですね。ちょっと楽しかったですね」
ネージュは笑ってるが、ちょいと面倒なことをやらかしてくれたんだよなぁ、あの2人は。
何が起こったのかというと……
★★★★★
時は前日の朝に巻き戻る。宿を出た俺たちは、雑貨屋での買い出しを終えてトレノスを出ようとしたのだが、偶然目に止まった服屋にフィルンが釘付けになってしまったんだ。
「どうしたフィルン、服でも欲しいのか?」
「え……あ、ご、ごめんなさい! 服が一着しか無いと不便だと思いまして。その……洗う暇がないと、何日もそのままというか……」
言われてみればそうだな。王女様だったフィルンにとっては何日も同じ服を着るなんてことはなかっただろう。
「よし、そういうことなら任せとけ。金は有るから好きな服を選ぶといい」
「いいんですか? ありがとう御座います!」
パァッと明るくなったフィルンが店内に入り、目につく服を片っ端から物色していく。侍女のネージュは苦笑いを浮かべてその様子を眺めていた。
「服ねぇ……。そういえばこっちの世界に来てから視認変化が上手く使えなくなってるのよねぇ」
フィルンを眺めていたメリーがタメ息をつく。
「なんだそのクローズ何ちゃらってのは?」
「視認変化よ。あっちの世界では視認できる服装を変えたりできたんだけど、こっちの世界だと今の服装しかできないのよ」
「瞬間的に着替えるみたいなスキルか?」
「そう思っていいわ。せっかく異世界に来たんだもの、いろんな服装してみたいじゃない」
う~ん、もしかしてだが、衣類を増やせば視認変化を使えるかもしれない。今後を考えると瞬時に変装できるスキルは有用だし、試してみる価値はあるな。
「なぁメリー。思ったんだが、霊蔵庫に衣類を入れとけば使えるようになるんじゃないか? 上手くいかなかったのは所持していないのが原因だと思うぞ」
「……なるほど、その可能性もあるか。久にしては冴えてるじゃない。さっそく試してみましょ!」
「へへ、伊達に早漏じゃねぇよ」
「……今さらだけどそれ、褒め言葉じゃないわよ?」
「…………え?」
まぁアレだ。俺のことは置いといて、メリーの服をテキトーに選んで――
「う~ん、こっちの薄いピンクはいい感じに……いやいや、こっちの黄色い上下も捨てがたいわね」
「おいメリーさんや、なんで真剣に選んでんだ?」
「はぁ? 女の子が服を選ぶんだから、真剣になるに決まってるじゃない」
「いや、試すだけならテキトーに――」
「バカ言ってんじゃないわよ。人前に出るのにテキトーですって? あんた言ってて恥ずかしくないの? そんなだから年齢=彼女いない歴なのよ、ふん!」
「バ、バカ、それは関係ないだろ」
なんでそんなこと知ってんだコイツ。周囲に聴かれていい内容じゃないし、余計なこと言って刺激しないようにしよう。
「それよりアンタはどうなのよ? 少しは見た目に気を使ったら? 只でさえモテないんだし」
「一言余計だっつ~の。まぁせっかくだし買うけどさ」
テキトーに服選んでっと。後は……あ、そうだ。
「すみませんオジサン」
「なんだい、何か探し物かい?」
「ここって靴下は無いんですか?」
「ハハハ、そんな高級なものはうちには無いよ」
え、靴下って高級品なのか?
「どうしたのよ久?」
「いや、靴下が高級品だって言われて……」
「靴下なんて、そりゃ貴族が身につけるもんだろう? うちは庶民の店だからね。そういうのが欲しいなら貴族街にいくといい」
まさか靴下が高級品とは思わな――ん? それなら……
「それじゃあさ、俺の靴下とか買い取ってくれるのか? 高級品なんだろ? ほれ」
「「くっさ!」」
いやいや、店主はともかくメリーまでそんな嫌そうな顔しなくても……
「こ、ここまで臭いがキツくちゃ売り物にゃならない。貴族に差し出したら激怒されてその場で打ち首だぞ? というか早くしまってくれ、鼻が曲がりそうだ!」
「さっさとしまいなさいよ、アホ!」
「わかったよ……」
高く売り付けることができると思ったんだが残念だ。仕方なく靴下を履き直そうとしたその時、フィルンたちのいる方から怒声が響いた。
「フィルン、どうした――」
「おおぅ、何してくれてんじゃワレィ!」
「ごめんなさい! 気付かなかったんです!」
「ごめんで済むなら衛兵いらんのじゃボケがぁ!」
何事かと駆けつけると、凄む2人組の若い男にフィルンが平謝りしてるところで、傍らのネージュは相変わらずオロオロしていた。
これはマズイと思い、俺は2人を庇うように前に出る。
「この子たちの連れだが、いったい何があったんだ?」
「このガキが俺にぶつかって来たんだよ」
「……え、それだけ?」
「それだけだぁ? それが重大なんじゃねぇか! お陰でケガしてるかもしれねぇんだぞ? どうしてくれんだゴルァ!」
「まさか謝るだけで済むとは思ってねぇだろうなぁ?」
あ~、これアレだ。当たり屋ってやつだ。どうみてもピンピンしてるし、ケガなんて皆無だろう。わざわざ服屋に来てまで演技するのは商魂逞しいが、黙って従うつもりもない。
「なんだかムカつく奴らね。私が黙らせてやろうか?」
「まぁ待て。さすがに死なれちゃマズイ」
メリーに任せたらこっちが犯罪者になりかねん。精神崩壊にしても騎士団とかに問い詰められたら面倒だしな。
「おい、何をコソコソ言ってやがる? 許してほしいなら誠意ってもんを見せてもらわねぇとなぁ」
「誠意ねぇ……。何をお望みで?」
「んなもん決まってんだろ。治療費だよ治療費。さっさと出しな!」
ま、そう来るよな。だったら俺にも考えがある。
「金は出せないが、相応の対価は差し出そう。庶民が手にする機会はとっても少ない貴重品だぞ、ほれ」
「「くっさ!」」
ま~た同じ反応かよ。そんなに臭いのかと軽くショックなんだが。
「な、何だよソレ。鼻が曲がりそうなくらいの悪臭を放ってるじゃねぇか!」
「ちょ、こっち向けんな――おぅえ!」
「何を言う。貴族なら金貨を差し出してでも購入する靴下だぞ? これが今ならタダで手に入るんだ。い入らないって言うならこの店に売っちまうぞ?」
買い取り拒否されたばかりだけどな。
「そ、そういうことなら貰っ――おぅえ! ……貰ってやる。お、おい行くぞ!」
「うっぐ……じゃ、邪魔したな!」
まるで宝物を自慢するかのように靴下を掲げて走り去って行く。せいぜい貴族街に出向いて不興を買ってこい。
「もう大丈夫だぞフィルン」
「はい、ありがとう御座います! で、でもよかったのですか? あの靴下ってお高いのでは……」
「大丈夫大丈夫。また買えばいいし」
密かに最近足が臭うなと思い始めてたのはみんなには内緒だ。
「そういえば久、最近足元から悪臭が漂ってるわよ?」
既にばれていた……。




