バカップルを追って
「意外と近かったなロッカの街。この様子だと王都までは4、5日で着きそうか?」
「はい。恐らくは」
もっとかかるかと思ったんだが、次の日の昼にこうしてロッカに着いちまったんだよ。早く済むならそれに越したこたぁないが、若干拍子抜けって感じだ。
「早く着いたことだし、のんびりと散策でもして――」
ぐぅ~~~!
「――の前に腹ごしらえだな、うん」
「バウ!」
「ウッフフフ♪ 久様、ウルちゃんもお腹が空いてるみたいですよ。よしよし」
「ハフハフハフ!」
そうそう、昨日からの大きな変化として、メリーが痛め付けてた野犬の1体が従僕になったんだよ。
今フィルンがナデナデしてる狼がそれなんだが、ブラックウルフっていう並の冒険者じゃ命を落としかねないヤバい部類のやつらしい。門番がギョッとしてたが、メリーのレインボーのカードを見て納得してたな。メリー有能。
「朝起きたらメリーと狼が一緒に寝てたからビックリしたぞ」
「その狼ね。あの群のリーダーみたいだったけど、一番反抗的だったから徹底的に心をへし折ってやったのよ。そうしたら妙に懐かれたから気分が削がれたのよねぇ」
――ってことらしい。襲ってこないなら放置しててもよかったんだが、何故か付いて来ちまったから従僕ってことで。
門番が言うには愛玩ギルド(そんなものまであるとは)のカードが必要があるらしく、後で登録するように言われた。
ちなみにだが、フィルンの正体がバレるのはマズイんで、門番の対応は幻要で切り抜けた。メリーまじ万能。
「……で、昼御飯にするの? さっきからギャラリーがウザいんだけど」
「門番に見せたレインボーのギルドカードが原因だな」
門番が大袈裟に驚くもんだから一気に視線が集中しちまって、街に入ってからも離れた位置からずっと観察されてる感じだ。
「ったく、こんなことなら私の時も幻要を掛けとくんだったわ」
「今さらだろ。何だったらギャラリーにも掛けたらいいんじゃね?」
「それにしたって見た事実は消えないんだから意味ないじゃない。物理的に消す方がよっぽど簡単だわ」
「それだけは止めてくれ」
「じゃあ私のご機嫌を取りなさいよ」
んなこと言ったってなぁ……。何か面白いものでも有れば――ん? あの二人は……
「さ~て。飯も食ったし、また手頃なカモを見つけて擦り付けてやっか」
「さっすがダーリン! 手強かったら退くのが鉄則だもんね」
路地裏の寂れた飲食店から出てきた男女には見覚えが有りすぎた。昨日俺のテントを破壊して狼を擦り付けた奴らだ。
ああやって無謀な戦闘を挑み、ピンチになったら擦り付けるってのを繰り返してやがんだなクソッタレめ。
【メリーのご機嫌とり=二人を生け贄】
うん、これしかないだろ。俺もマジ有能。
「クックックッ、メリーちゃん。いいものあげるぞ~」
「なによ気持ち悪いわねぇ。変なことしたらこの人痴漢ですって大声あげるからね?」
「バウバウ!」
それは社会的に死ぬからマジ勘弁。
「そんなことよりアレ見ろよ。お前が求めてた奴らだぞ」
「求めてたって――――あっ! あんなところにいたのね、ニシシシシ!」
獲物を見つけた途端、嬉しそうに駆け出すメリー。まるで蝶を追いかける少女の如くだが、追われてるのは人間だ。あ~かわいそ(棒)
「見つけたわよアンタら~!」
「んあ? って、お前は昨日の!」
「に、逃げましょダーリン!」
二人組も駆け出したので、俺たちも後を追う。狭っ苦しい路地裏をグネグネと走り回ってると、いつの間にか後ろのギャラリーはいなくなっていた。
代わりに廃屋が建ち並ぶスラムのような場所に入り込んでしまい、追いかける二人以外は浮浪者や柄の悪い如何にもな連中が目につくようになる。
「しつこい連中め。ここがどこだか分かってんのかぁ?」
「そんなことどうでもいいわ。アンタらはおとなしく首を置いてけばいいのよ! もしくは拷問させなさい!」
「ちょっとダーリン、あの子かなりヤバいわよ?」
「へっ、心配すんなよ。ここの連中の方がよっぽどヤバいって教えてやらぁ」
――等とほざきながら、突き当たりの怪しげな店に逃げ込みやがった。
「どうやら追い込んだみたいね。絶対に逃がさないわよぉ!」
バァン!
「ここに逃げ込んだ二人組はどこ!? 言わなきゃ後悔するわよ!」
店の中は酒場になっていた。但し普通の酒場とは違い、普通じゃない連中がたむろしている店だ。そう。堅気じゃないだろって連中がね。
おもいっきり浮いてる俺たちに、薄ら笑いを浮かべたマスターが告げる。
「よぉ、嬢ちゃんたち。お前さんら来る場所間違えてるぜ? ここは一般人が立ち入る場所じゃねぇ。おとなしく出ていくなら見逃してやらぁ」
マスター同様周囲の奴らもこっちを指さして下品な笑みを浮かべているが、これしきで怯むメリーじゃない。
「間違えちゃいないわよ。私はここに来た二人組に用があるの。邪魔するって言うならアンタらも同罪よ?」
「ガッハッハッハッ! 俺たちも同罪か。今さら罪を重ねようと何も変わらねぇよ。ここに居る連中は全員がそうだからなぁ」
「そうって……つまりそれは……」
「分かんねぇか小僧? ここに居んのは全員が何らかの罪を犯してんのさ。今さらガキの一人や二人、ブッ殺したところで何にも感じねぇよ――――そら!」
投げナイフがメリー目掛けて飛んでいく。普通なら対処できずに負傷するところだが、残念ながら相手が悪かったな。
スッ!
「ナ、ナイフがすり抜けただと!?」
「フフン、そっちから手を出したんだから、これは正当防衛よ――金縛り」
ビシィィィ!
「ぐぉ!? か、身体が動かねぇ!」
「後で楽しいことしてあげるから少し待ってなさい。ほら、他の連中もかかって来なさいよ。まさか子供相手に何もできないわけ?」
「んだとぉ!?」
「このガキなめやがって!」
「構わねぇ、やっちまえ!」
「はいはい、ご苦労さん。幻要!」
10人ほどの男が飛びかかってきたが、メリーに幻覚を見せられガクガクと震えたり発狂したり、はたまた殴り合いを始めたりと、その場は大混乱となった。
「な、なんなんだこれは……いったい何が起こってやがんだ!?」
わけも分からずマスターが叫ぶ。恐らくは何人も殺してきてるであろう男共が、メリーの掌で踊っているのだ。さすがにメリーが普通じゃないと気付いただろう。
――となると今度はこっちのフォローが必要だ。この楽しい拷問が行われるので、フィルンたちを外に出すことにしよう。
「は~い。良い子はお外で遊んでようね~」
「え……ええ?」
「ちょっと刺激が強い場面に遭遇しちゃうから、一旦避難しててくれ。ウルちゃん、ボディーガードを頼むぞ?」
「バウッ!」
これでよし。
さぁメリー、存分に暴れてくれ。
「ねぇオッサン。罪人を殺しても罪にはならないって知ってる?」
「……知ってはいるが、それがどうしたと言うんだ?」
「ニヒヒヒヒ! こうするのよ」
『おい腰抜けども、テメェら全員かかってきやがれぇ! それともビビってんのかぁ?』
「上等だぁ!」
「やっちまえぇ!」
「なめんじゃねぇぞぉ!?」
「ひぃ!?」
声を真似たメリーの念話に誘導され、男たちはマスターへと襲いかかる。
羽交い締めにした上で殴る蹴るを繰り返し、見るも無惨な顔に仕上がっていく。
「オラオラァ!」
「や、やめ――」
「誰が雑魚だ誰がぁ!」
「ごふ――がは――」
「よぉ~し、今日はこの辺で勘弁しといたるわ!」
あ~あ、渋くてダンディだったのに、おたふく風邪みたくなってら。
「や、やめでぐれぇ……。あのふだりはみぜのおぐだ……」
「最初からそう言えばいいのよ。ほらアンタたち――」
『店の奥にも仲間がいる。テメェら雑魚じゃ勝ち目はねぇよ』
「クソがぁぁぁ!」
「やってやるぜぇぇぇ!」
マスターへのリンチを止め、店の奥へとなだれ込む男たち。ここまで単細胞だとは思わなかったがな。
バァン!
「たたた、助けてくれぇマスター!」
「ちょっとマスター、どうなってん――」
「はぁ~い♪ マスターならおたふく風邪で寝込んでるわよ~」
「「!?」」
マスターの晴れ姿(←腫れ姿とも言う)を見た二人が恐怖のあまりへたり込む。
そこへ幻覚を見せられている男たちが戻ってくると、バカップルへの制裁が始まる。
「はい金縛り」
「うぐっ! か、身体が!?」
「ちょっと、何なのよこれ!?」
「私をコケにした罰よ。そこで死ぬまで殴られてなさい。心配しなくても、ソイツらも後を追うから寂しくはないわよ~? アヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「「ヒィィィィィィ!」」
うげぇ、さすがに気持ち悪ぃ。殴られた顔とか昼飯前に見るもんじゃねぇわ。
そういやフィルンたちは大丈夫かな? そう思って外に出てみると……
「なんだこの地面でのびてる奴らは……」
「あ、久さん。怖い人たちが襲ってきたんですが、ウルちゃんが倒してくれました」
「……え、まさか死んでんの?」
「いえ、気絶してるだけみたいです」
しかしその後。店の中を片付けたメリーが店の外で寝てる連中を見つけ、同じ流れをリピートすることに。
この日だけでロッカのスラムから20人以上のならず者が消えたという。
メリー:Lv???
発覚スキル:金縛り(パーマネント)
簡易的に相手の動きを封じるスキルで、抵抗されると解けてしまう場合もある。解けるかどうかは対象の身体状況に影響され、気が弱ってたり疲労が溜まってたりすると解けにくい。
久:Lv4




