作業と女史
カーテンを閉め、暗幕を閉め、カギを閉めた貸切状態の図書室。
カナル型イヤホンで耳をふさぎ、外部の音をシャットアウトする。
安全で完全な孤立をつくり、部屋でひとり入力作業をしていた。
新しく届いた本へバーコードを張り、バーコードとともにその本の情報をパソコンへ登録するという作業だ。
本来は、ボランティアを保護者からつのってこの作業をやってもらうのだが、ボランティアが集まらなかったらしい。
ふたつの机に山積みになっていた本を、放課後からひとりで切りくずし始めた。
ダレかの手で本のバーコード張りはすでに終えてあるため、やることは本を登録するだけだった。
とくにむずかしい操作もないため頭も使わない。
ひたすらにパソコンに向かって入力をする。
作業環境のよさもあって、あっというまに本の山は消え去っていく。
時間も忘れて作業した結果、登録待ちの机にあった本は手元にある一冊を残すのみとなった。
その最後の一冊の登録を終えて『入力済み』の机へと本を移す。
背もたれに寄りかかるようにして、カラダを大きく伸ばした。
イヤホンから流れつづけているダウンテンポのテクノをとめる。
そして、耳からはずして音楽プレーヤーといっしょにポケットへと仕舞った。
軽くストレッチをしながら、登録もれを確認する。
ざっと見ているかぎりでは、問題なく登録されていると思う。
ふと、こちらへ近づいてくるゆっくりとした足音が聞こえた。
じょじょに足音は大きくなり、図書室の入口でとまる。
カギを差込み、回して、ドアを開ける。
はいってきたのは司書の女性教員だった。
「おつかれさまー」
ワキにかかえていた書類の束をカウンターに置きながら、こちらへ話しかけてくる。
図書室を利用しない生徒にはとことん縁のない先生だが、図書室生活者ともいえる生徒たちにとっては馴染みの深い存在だ。
ダレが言い出したのかわからないが、苗字の後ろに『女史』を加えた名前で呼ばれている。
万能な仕事ぶりと外見の印象だけならば敬称に似合った大人の女性だが、『他人ができるなら自分はやらない』という人任せな性格をしていた。
今日のこの作業も女史から押し付けられたものだ。
「どれぐらい終わった?」
「ほとんどです」
手前の机を指差し、
「こっちが終わったやつで――」
奥の机を指差し、
「バーコードの張り忘れや情報が足りないのがアッチです」
本が山積みで置かれたふたつの机を前に、女史はおどろきを隠さなかった。
こちらへ来て、入力済みの本を眺める。
「たしかに、ほとんどね」
つぎに、入力できなかった本をを眺める。
「じゃ、あとは私が調べながらやっておくから」
「手伝いましょうか」
「そうしてもらえれば助かるんだけど。……さすがに時間がね」
時計を見上げて時間を確認する。
いつのまにか学校の閉門時間に近い。
集中しすぎて気がつかなかった。
「これだけしかないなら、私ひとりでも今日中に終わるわ」
女史はパソコンを操作して、本の情報を流し見る。
「それじゃあ――」
女史に向かい、もったいぶるように言葉をためて、一枚のメモ用紙を差し出した。
「約束をはたしてもらいましょう」
メモには一番上に『欲しい本リスト』と大きく書かれ、たくさんの本の名前が書かれている。
『指定書籍の優先的購入』
作業を請け負うかわりに、こちらが出した交換条件だ。
メモを受け取り、女史は書かれている一覧を目でなぞる。
「この本って確か、海外エスエフのたなにあるでしょ」
「ここに置いてあるのは、翻訳が原文無視と誤訳だらけのひどいやつです」
「まともな新訳版か。じゃあこっちは」
「その本は――」
閉門時間の数分前までリストの本について語り合っていた。




