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放課後図書室奮闘記  作者: ササルシ
個性的な訪問者たち
8/10

とりあえず下校



青かった空が、次第にオレンジ色に変わっていく。

加山先生が帰って以降、訪問者は1人もなかった。

相変わらずうちの図書室は人気がないと思う。放課後限定で。

昼休みは司書の先生もいて、うちの学校の文学少女やら少年やらがたくさんやってくるんだけど、放課後はご覧の通り。

変人しか集まらない。

普通は自習する子が1人や2人いてもいいとは思うんだけどね。

人が来ないことの利点としては、静かで自分の時間を過ごせるっていうのがあると思うんだけど、うちの図書室はご覧の通り。

変人がやかましいから静かなんて以ての外。

今も再び三島先生が加わり、男3人、正確には2人が声を大に大いに盛り上がっている。

高山は一緒に盛り上がっているというか、おとなしく聞き手に回っていた。いつもそうだ。

何の会話かはよくわからない。聞いてもいない。

なぜなら私は今耳栓をして読書中だから。

現在読んでいるのは推理小説。

私が一番好きなジャンルでもある。

そして推理小説は静かに集中して読みたいのが私の変なこだわり。

うるさい中で読むとか、イライラして集中できない。

家で読むのもありだけど、家では家で読みかけの本があるから、図書室で読んでいる本はその場で読み終えておきたいのだ。


「(お・・・・)」


そして今はまさに謎解きが始まろうとしているシーンだった。

さすがにこのシーンになると、いつも本を持つ手に力が籠もる。

たまに自分で推理してみて当たっている小説があるけど、今回は手がかりも何もわかったから、謎解きはいつも以上に集中して読みたかった。

さあ次のページに行こうと、本をめくりかけた時ーーーー。







チャラララ~チャラ~チャララララ~







「・・・・・・・」


空気読めや。

耳栓をしているのに耳に入ってきた下校時刻を知らせる音楽。

滑稽で楽しげな音楽が、今の私には憎い。憎すぎてスピーカーをぶっ壊したいくらいだ。

いいところで帰る時間になってしまった。

さっきまではあんなに早く帰りたいと思っていたのに、今はこの本を読み終えるまでは帰りたくない。

しかしそういうわけにもいかないというのは重々承知なので、私は泣く泣く小説を元の場所に返した。

明日は絶対早く来てゆっくりと推理シーンを読んでやる。

帰り支度をしながら、そう堅く決意する。

さあ帰ると決めたらさっさと帰ろう。

図書室の戸締まりも、図書委員の大事な仕事の1つだった。

だから私は最後に図書室を出ないといけない。


「高山、丸井君、三島先生、下校時刻なんでさっさと出て?」


早く帰れと言わんばかりに音楽がしつこく流れているのにまだ帰る気配も見せなかった男3人は、私がそう声を掛けると素直に立ち上がった。


「わー、下校時刻来るの早いね。あ、僕鞄教室にあるから取ってこないと」

「俺も鞄教室に置きっぱだ」

「俺も帰る前に地理準備室寄らなー」


各自そう言って、おとなしく図書室から出ていった。

・・・・・・なんで今日に限ってそうなの?

みなさん、誤解しないでください。

今日こいつら変です。

いつもは、特に丸井君と三島先生が「えー、もうちょっとー」ってウザいくらいにゴネるんです。

これ本当です。

でも今日は何も言わずにさっさと図書室を出ていく。

しかもやけに周りをキョロキョロ見渡しながら。

何かに憑かれたの?それなら近寄らないでほしいんだけど。

どうあれ図書室から全員出たことを確認し、最後に窓がきちんと閉まっているのか、忘れ物はないかを点検して、電気を消してから私も図書室を出た。


「(あれ、何か足りないと思ったら、そういえば『あの子』、今日来てなかった気がする・・・)」


図書室の戸締まりをしながら、ふと私はそんなことを思った。

礼儀正しくて、ミステリアスで、私が図書委員になる前からずっとここにいる『あの子』。

いつも私の隣にいるのに、思えば今日は見かけていない。

これも珍しい。

でもまあ、そういう時もあるか。

いちいち考えるのが面倒くさくなり自分でそう解決させて、私は後ろで大人しく待っていた男どもの方に体ごと向けた。


「おまたせ」

「おー、じゃあ帰るか」


それからいつものように一緒に階段を降りて、降りたところにある本館への渡り廊下の手前で1回立ち止まった。

うちの学校は本館、南館、別館と分かれている。

本館と南館は渡り廊下で繋がっており、図書室は南館の4階あった。

だから、このまま渡り廊下を行けば本館へ行けるし、そのまま下に降りれば直接校舎口まで行くことができる。

職員室はこのまま降りた方が早い。

そして普通のHR教室と地理準備室は本館にあった。


「それじゃ、また明日」

「おう、じゃあな」

「じゃーねー、波原さーん」

「暗なってきてるからな。気ぃ付けて帰るんやで」


ここで3人とは別れる。

別れの言葉を交わして、私はまた階段を降りていった。

そこから職員室に向かって、鍵を返し、校舎口へと足を進める。

校舎口に着くと靴と履き替えて、足早に校門をくぐる。


「(とりあえず、帰ったら英語の課題やんないと・・・)」


今日の加山先生の顔を思い浮かべて、私は計画を立てた。

早く本読みたいから、できるだけ早く帰って早い時間に終わらせよう。

そう思うと早く家に帰らなきゃいけない気がして、私はさらに家へ帰る足を早めた。

私の放課後は、いつもこんな感じで終わる。




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