美少女のクセに腐女子で妄想癖の激しい彼女
誰も図書室に来ないもんだから、あさみと私が本の話で花を咲かせていた時だった。
バタバタと誰かが廊下を走ってくる音がして、騒がしいなクソ・・・なんて思った直後。
「せんぱーいっ!!!」
そんなやかましいほどはつらつとした声と共に、本人がチャームポイントだと言い張るツインテールを大きく揺らしながら、一人の女生徒が図書室のドアをガララッと勢いよく開けた。
昨日は来なかったけど、こいつも図書室の常連の一人。
「やった!やっぱここにいたーっ!もー、探したッスよー?」
「松崎、やかましい、うざい、黙れ」
「はうっ、一昨日ぶりの香苗先輩の毒舌・・・。ありがたいやーッス・・・」
「・・・あんた何言ってんの」
その名も松崎瑠美子。名前だけ聞けば麗しいお嬢様か何かを連想させるけど、その名前を名乗っている当の本人は麗しいと言うには程遠い人間。
顔はまあ、『美少女』だと言っても全く違和感のない顔をしてる。つまりもの凄く可愛い。
本人だってそれを自覚している。
前に私が「あんた顔だけはいっちょまえよね」って嫌みのつもりで言ったら「そりゃあ顔は誰もが認める美少女ッスから!!この学内では一番じゃないッスか?」と胸を張って言われた。
逆に私がその自信に圧倒されたわ・・・。
松崎はその容姿からやっぱりモテる。毎日誰かに告られてる。
だから私は陰で女版丸井君と呼んでいる。ほら、丸井君だって自分がモテてるって自覚してるし。
「それで、松崎。私に何の用?」
松崎は相手を自分のペースに巻き込むのが得意だ。
私は何度も巻き込まれそうになったことがあるので、早めに話を本題に戻した。
松崎は思い出したように手をポンと叩いて、急に血相を変えたかと思うと・・・。
「そう!忘れるとこだったッス!てか大ニュースなんスよぉー!!」
瞬間、松崎は真剣な顔に変わった。私の両肩をぐっと掴む。
・・・なんだろう。ただ事ではなさそうだ。
あさみも心配そうな顔で松崎の言葉を待った。
図書室の空気が張りつめている。
少しの沈黙があったあと、松崎は声を落として呟いた。
「・・・高山先輩と丸井先輩・・・・・・、付き合ってるらしいんス・・・・・・」
「・・・・・・・は?」
・・・・・・・・、ああ、その話ね・・・。
一気にその場の空気が緩んだ。松崎があまりにも真剣な顔で言ったもんだから余計に。
実は昨日の私たちの会話を聞いていたあさみも、事情を知っている分苦笑い。
一応言うけど、これは昨日筒本さんが持ってきた高山の噂だ。
高山は全否定してたし、丸井君もさすがに迷惑そうな顔をしていた。
「・・・・・・松崎、あのさ。それ間違って・・・」
「先輩・・・、何も言わなくていいッス・・・。ショックなのはあたしも一緒ッス・・・」
「いや、そうじゃなくて」
「でも・・・、でもっ!やっぱり、あたしたち、友達・・・じゃ、ないッスか?」
「おい、人の話聞けやコラ」
「二人のこと・・・、応援してあげましょ?ね?」
「・・・・・・・」
「だーっ!!先輩!!そんなこっわい顔で丸井先輩たち見ちゃダメっすからね!?あたしはまだそういう男同士の恋愛は偏見ないんで全然構わないんスけど、二人はあたしたちのことを思って必死で隠してくれてるんスから、いつも通りに・・・」
「あんたの妄想癖ほんとなんとかなんないの?」
松崎は、妄想がひどい。
一度思い込むと、そのことについていろんな方向にどんどん妄想してしまう。
そしてそれを人に言うもんだから、真実を知らない人なら信じる人は信じてしまうのだ。
今回の高山と丸井君のことも、きっとどこかで耳にした噂を真に受けたんだろう。
しかも松崎の大好物の男同士の噂だから、妄想が大暴走したに違いない。
「あっ!そうだ筒本先輩!!香苗先輩!筒本先輩は!?」
「・・・今日は委員会だって。終わったらここ来るって言ってたけど」
「じゃあ待ってるッス!!」
てか筒本さんにも言うつもりなのかあんた・・・。
あまりベラベラと人に言わない方がいい気がするけど。
あの噂が松崎の妄想とプラスされて広まったら、ほぼ100%の確率で松崎は高山の拳骨食らうことになる。
これは間違いないと思うのは私だけだろうか・・・。
「香苗さん、松崎さん止めたらどうですか?あさみは高山さんの拳骨確定しちゃうと思うんですけど・・・」
「拳骨確定?面白そうでいいんじゃない?」
「厳しいですねぇー香苗さん・・・」
やっぱりあさみも拳骨は絶対だと思った様子。
でも正直、今回のことは私は全く関係ないから。
そう言うと、あさみは「確かにそうですよねー」と苦笑いした。
「・・・あさみも、この件についてはおとなしく見守ることにします」
「ん。それが一番なんじゃない?一応私、否定したし。話を聞いてないあいつが悪い」
「残念な美少女って、松崎さんのことを言うんでしょうねー・・・」
あさみが哀れそうに松崎を見る。
視線の先の松崎は、自分の定位置に腰を下ろし、ブツブツブツブツと何かを呟いていた。
ああ、こりゃ絶賛妄想中だわ。
こうなりゃ松崎の耳には誰の声も届かない。私はこれを妄想モードと呼んでいる。
「さて、どうなるんだろうね」
「早く丸井さん達が来てくれたら弁解できるんですけど・・・」
受付のカウンターからの見物。
今日は本を読んでいる暇じゃなさそうだ。
妄想モードの松崎を眺めながら、私は奴らが来るのを今か今かと待っていた。
「ああああっ!!ダメっす!二人の愛は試練が多すぎッス!!」
「・・・でもあのやかましいのは何とかなんないの?」
「香苗さん・・・顔怖いです・・・」




