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義兄妹  作者: 空と色
3/3

その後

お茶を持っていった時、兄は壁に張りつけてある私の拙いイラストを眺めていた。ラフとも下書きとも、完成したとも言えないイラストの山だった。まだまだうまくならないイラストに少し苦笑して、「あんまり見ないで。下手だから。」と言った。

「……妹だからって褒める気もないし、お世辞も言わないけど、下手だとは思わないよ?」

なんとも兄らしいセリフだった。兄は絶対にお世辞は言わない。また、悪いと思ったものも何も言わない。つまり、私の絵には、何かがかけているけど下手ではないらしいのだ。

それは、毎回私が「何かが足りない」と思うのと一緒だった。

「いきなり来るって言うから、お茶菓子作ってないんだけど、これから一時間ちょいくらいくれればクッキーくらい作ろうか?」私は話題を変えて、丸机の上に紅茶を置いた。

「御影のクッキー!」兄は少しばかり瞳を輝かせた。この兄は、甘いものが大好きなのだ。

「わかった。作ってくる。」また兄を自由にさせていたら今度は私の音楽ファイルを開いていた。その中には、私がバンドを組んでいて、ボーカルをやっていた時の曲もあれば、兄が作った曲もあった。

「お兄ちゃん。」困った人だなぁ、もぅ。と想いながら声をかけると、兄がこちらを向いた。

「もう少しでできるから。待ってて。」と言うと、兄は「部屋とか見ててもいい?」と言うので、洗濯物もしまったし、「いいよ。」と答えた。

クッキーが焼けると、まだ熱いクッキーをお皿にのっけて机に置いた。兄が戻ってこないので見てみると、人のベッドの上にダイブしていた。

私はちょっとした出来心から部屋に入ると、部屋の戸を閉め、「知らないの?お兄ちゃん。人の家のベッドに横たわってたら襲われちゃうかもしれないよ?」と言った。

すると、兄は仰向けになり、私を見ると、「襲われちゃう?御影なら大歓迎だからおいで。」と笑った。

私は兄の上にまたがると、「こうやって本当に来ちゃったら、危ないでしょ?お兄ちゃん?」と笑った。

兄はいきなり起き上がると、立場を逆転させた。

兄が私の上にまたがるような状態になった。

「危ないのは御影だよ?男の前でそんなことしちゃいけない。痛い目にあうのは御影なんだから。」

私は無表情のまま兄を見ていた。

「抵抗しないの?本気で襲うよ?」

私は口を開いた。

「信じてるから。お兄ちゃんを。」

兄は数回目をしばたかせた。

「お兄ちゃんは、そんなことしないって、信じてるから。」

すると、兄は「わからないよ。俺、悪い人だから。」と言って苦笑した。それでも動かずにいると、決まり悪くなったのだろう。兄は私から離れて「クッキーの匂いがする。焼けた?」といつもの調子で聞いてきた。私はベッドから起き上がると、「うん。」と言ってちょっと笑った。

信じてる、か……なんて重くて苦しい言葉なんだろう。私はその言葉で兄を縛り付けたのだ。いや、兄だけではない自分も縛り付けたのだ。

……お互いが男女でなく、兄妹であるために。

のんびりしているうちに夕刻となった。

「もうこんな時間か。遠いけど、どっかに食べに行く?」と私が尋ねると、兄はかすかに笑って頷いた。

電車に乗って外食というのは馬鹿馬鹿しかったが仕方ない。兄の好きそうな飲食店に入ると、そこはやたらにカップルが多くて驚いた。少したじろいでいると、兄が少し笑って「俺たちもカップルに見えるかな?」と言って私の肩に腕を回してきた。私もふっと笑って「見えるかもね。」と言ってそのまま身を任せた。

ご飯が終わると、駅まで兄を見送った。

「ありがとね、お兄ちゃん。今日は楽しかった。」

「御影……。」

「何?」

「たまには帰ってこいよ。俺が寂しいからさ。」

そういって兄はまた私を抱き締めた。

「うん、考えとく。それより、お兄ちゃん電車……。」

「いいよ、あれが行ったらもう少し御影といれるでしょ。」

「お兄ちゃん……あのさ、私、彼女とかじゃないんだけど……。」

「じゃあ彼女になる?」

「……私、もう彼氏いるもん。」

その瞬間、兄の腕に力が入り、強張ったのがわかった。

「そっか、じゃああんまり帰って来れないよな。」

声は笑ってるけど、腕に力が入り、きつくなっていく。

「……お兄ちゃん、ちょっと……苦しい。」

「絶対幸せになれよ。何かあったら俺に言ってな。相手ぶっ飛ばしてやる。」

「う、うん……。」

「御影、好きだよ。」

「私もお兄ちゃん、大好きだよ。」

すると、ようやく兄は離れて、私に手をふると、改札口へと消えていった。

この時の“好きだよ”って言うのは、どっちの意味だったのか、いまだに私にはわからない。

昔からアイスが好きと言うのと同じ感覚で好きと言いあってきた。私には聞き慣れた言葉で、兄にとってもそうであるはずの言葉だった。

それから数年。

兄にしばらくいなかった彼女ができた。

―――え?それは誰かって?それは秘密。私にも彼氏がいて、今はそれなりに幸せって事だけ伝えておく事にします。

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