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異世界転生? ステータスなし! 〜山奥に捨てられたニート、現実逃避のサバイバル〜  作者: あずきまんま


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第1章:〜目覚めたら山の中〜

湿った土の匂いと、頬を撫でる冷たい風。


背中に伝わるゴツゴツとした岩の感触に、山田タツヤはゆっくりと瞼を開けた。


頭上を見上げれば、木々の隙間から木漏れ日が差し込んでいる。鳥のさえずりが遠くで聞こえ、静寂が広がっていた。


自分の部屋の天井ではない。


黄ばんだ壁紙も、散らかったフィギュアも、つけっぱなしの液晶モニターもない。


タツヤはガバッと跳ね起きた。


周囲を見回す。見渡す限りの深い緑。鬱蒼と茂る原生林。足元には苔むした倒木と、見たこともない雑草が群生している。


(……待て。待て待て待て!)


タツヤは己の手のひらを凝視し、それから胸に手を当てた。


昨晩の記憶を辿る。


確かに自分は、いつものように自室でネットサーフィンをし、深夜アニメを鑑賞し、ポテトチップスを貪りながらソシャゲのスタミナを消費していたはずだ。


「いい加減に働きなさい! この穀潰し! これ以上あんたを養う余裕なんてないんだからね!」と母親が怒鳴り込んできたのを「はいはい」と受け流し、真夜中に泥のように深い睡眠についた。


それなのに、目が覚めたら見知らぬ森の中に転がっている。


実は昨晩——あまりにも働きもせず家でグウタラ過ごすタツヤに呆れ果てた両親が、重大な決断を下していた。

「もう限界だ。これ以上この穀潰しを養えない。寝ているスキに山へ捨ててこよう」

熟睡していたタツヤは、両親の手によってワンボックスカーの荷台に積み込まれ、深夜の山奥へ車で運ばれ、人里離れた草むらにポイと棄てられたのである。


しかし、当事者であるタツヤにそんな事実を知る由もない。


(これは……まさか……ッ!?)


タツヤの脳内に、電撃のような衝撃が走った。


年間数百本におよぶライトノベルを読破し、あらゆる異世界アニメを網羅してきたタツヤにとって、このシチュエーションはあまりにも馴染み深いものだった。


トラックにはねられた覚えはない。


だが、世の中には『寝て起きたら異世界』パターンも星の数ほど存在する。


ついに来たのだ。


毎日毎日、親から「働け」「穀潰し」「いい加減にしろ」と温かい暴言を浴びせられる地獄のような日常からの脱出。


選ばれし者だけに与えられる、輝かしき異世界生活の幕開けである。


タツヤは溢れ出るニヤニヤ顔を抑えきれず、立ち上がると大きく胸を張った。


右手を前に突き出し、人差し指と中指を立てて格好よくキメポーズを作る。


呼吸を整え、お腹の底から朗々と叫んだ。



「ステータス!」



静寂。


風がフッと吹き抜け、葉っぱがひらひらと舞い落ちた。


タツヤの前には、半透明のホログラム画面も、数字の羅列も、便利な鑑定スキルも表示されない。


ただただ、目の前の樹齢数百年はありそうな巨木が静かに佇んでいるだけだった。


タツヤは突き出した手の形のまま、三秒ほど硬直した。


もう一度、今度はおそるおそる言ってみる。



「ステータスオープン? ……ステータス、表示? ……ステータス画面、出てこい?」



何の反応もない。


鳥が「ピヨピヨ」とアホを見るような声で鳴いた。


タツヤは突っ立っていた腕をダラリと下げ、静かな森の中にぽつりと呟いた。



「何も起こらないんかーい!!」



完璧な一人ツッコミが木々にこだました。



「いやおかしいだろ! なんで!? 転移の初期設定はどうなってんの!? 普通はここで『ステータス:レベル1』とか『固有スキル:無限ストレージ』とか出るやつじゃん! 何も出ないってどういうこと!? バグ!? ノンオペレーションシステム!?」



タツヤは頭を抱えてその場をジタバタと駆け回った。


しかし、幾度ツッコミを入れようとも、青空にステータスウインドウが現れる気配は微塵もなかった。


しばしの乱乱ののち、タツヤはハッと息を呑み、力強くポンと手を叩いた。



「……そうか。分かったぞ」



顔に不敵な笑みが戻る。



「ここは……『ステータス画面が存在しないタイプのリアル志向ハードモード異世界』だな!?」



両親に棄てられた哀れな現実など夢にも思わず、重度のオタク脳を持つタツヤの辞書に「ここは現実の日本である」という選択肢は最初から存在しなかった。



「フッ……なるほどね。安易なチートスキルに頼らせず、己の知恵と勇気だけで生き延びろというわけか。いいだろう、神様(神様が誰かは知らんが)! その挑戦、受けて立つ!」



タツヤはフハハと高笑いを浮かべると、己の身だしなみをチェックし始めた。


服装は、昨晩着ていたヨレヨレのスウェット上下に、履き古したスリッパ。


ポケットの中身を探る。


出てきたのは、半分残ったポケットティッシュと、100円ライターが1個、そして10円玉が2枚。


スマホはない。両親が車に乗せる際、連絡手段を絶つために部屋に置いてきたのだ。


(まあ、スマホなんてこの世界じゃ電波届かないしな! 電池切れたらただの重りだし!)


タツヤはどこまでもポジティブに解釈し、スリッパの脱げやすさに若干の不安を覚えつつも、力強く一歩を踏み出した。



「まずは拠点ベースキャンプの確保と、食料の調達……つまり『採取クエスト』からスタートだな!」



親に山へ捨てられたニート歴5年の男による、大いなる(勘違い)異世界サバイバルが今、幕を開けたのだった。



お読みいただきありがとうございました!


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